小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第77話〜飛来する報、三国同盟〜
















赤壁の戦いから1週間程が経ち、大敗した華琳は、制圧していた江陵を放棄し、魏領への撤退を開始した。俺達と孫呉で連携し、曹魏の軍勢の逃走経路に伏兵を敷き、間断なく奇襲を仕掛けた。その効果は絶大で、確実に曹魏の兵は逃散していった。

昴「順調、か・・」

俺達は急ぎ態勢を整え、出陣をした。























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昴「状況は?」

朱「現在、敵軍は新野城へと入城し、防御態勢を整えています」

雛「しかし新野城は大軍を容れておくには狭すぎる城です。最後はやはり野外での決戦となるでしょう」

昴「だな」

愛「赤壁の戦いと、その後の伏兵奇襲のお陰で、曹魏の軍勢は大幅に縮小しています」

星「現在の兵力で言えば、ほぼ互角。勝てるか分からんが、負ける要素も無いな」

翠「あとはあたし達の活躍次第か。ふふんっ、腕が鳴るってもんだ」

鈴「鈴々の強さを見せつけてやるのだ!」

皆がそれぞれ意気込んでいる。しかしその中で・・。

桃「・・・」

昴「・・どうかしたか、桃香?」

桃香だけが浮かない顔をしていた。

桃「うん・・。これ以上、曹操さんと戦う意味、あるのかなって思って・・」

昴「戦う意味、か・・」

今や、三国の兵数はほぼ互角。天下三分の計の為の要素は揃っている。

昴「・・まだ何とも言えないな。桃香には桃香の理想があるように、曹操には曹操の理想がある」

華琳が突き進む覇道・・。

俺達が突き進む王道・・。

桃「私は早く戦争を終わらせたい。だから天下三分の計を成すために、曹操さんの覇道を止めたい」

覇道を、か。

昴「覇道が決して間違っている訳ではない・・」

桃「えっ?」

昴「俺が天下三分の計を話した時の事、覚えているか?」

桃「? ・・うん、覚えてるけど・・」


昴「俺はあのとき、こう言っただろ? 天下三分の計を実行するにあたって問題点が2つあるって」

鈴「そう言えば言ってたのだ。」

昴「もう1つの問題点。それは天下三分の計はとても脆く、崩れやすい平和なんだ」

桃「!? ・・どういう、こと?」

昴「天下三分の計が成って、最初のうちは良い。だが、やがて世代が変わり、王が変わった時、その時の王が今の俺達と同じ考えでいるとは限らない」

愛「そん・・な」

昴「さらに言えば、王が考えを変えなくとも、臣下の1人が野心を抱いてしまえば、呆気なく崩れ落ちる可能性がある」

桃「そんな! わざわざ戦乱を巻き起こそうとするなんて、そんな事・・!」

昴「桃香。君の理想はとても尊く、立派なものだ。だけどな、君の想う理想を苦痛に思う者だって中にはいるんだ」

桃「そんな・・」

戦乱で泣く者がいれば喜ぶ者がいる。賊、野心家、武器商人、挙げればキリがない。どんなに非道で理不尽な事があっても、乱世だからの一言で済まされる。こういった奴らには実に都合が良い。

昴「率直に言って曹操が進む覇道。それは最も長く平和を維持することが可能な道だ」

愛「では、ご主人様は曹操が正しいと言うのですか!? ・・いえ、そもそも何故天下三分の計を成そうとお考えに・・」

昴「乱世に正解は無い。間違いはあるだろうがな。覇道はその長き平和のために多くの血が流れる。たとえそれが長き平和のためであっても、俺はそれを肯定はしたくない」

愛「・・・」

昴「天下三分。それは流す血を少なくこの大陸を平和へ導ける。たとえ脆くとも、な」

翠「ご主人様・・」

昴「俺にはかつて、主と仰ぐ者がいた。その王は曹操のように誇り高く、孫策のように自由で、そして、桃香のように優しい王だった。その王は桃香のように戦を嫌い、必ず自分の手で皆が笑って暮らせる世界を創ると言った。そんな王だから俺は力を貸すことが出来た。・・だが、そんな王も道半ばで亡くなって、後を継いだのが俺だった。俺は2度と大切な人を失わない世界を創るために、歩んだのが・・覇道」

桃「!?」

昴「俺にはその王のように振る舞えなかったから、王とは違う覇道を歩んだ。曹操は覇王としての誇りを保つ為に勝ち方にまでこだわっていたが、俺は勝つことだけにこだわった。人々が目を覆いたくなるような策も躊躇わずに使った。覇道を邪魔する者、反対する者は斬り捨てていった。その結果、乱世は終わり、戦は無くなった。・・だけどその代償はあまりにも大きかった。多くの者が死に、多くの者が大切な者を失った。俺のせいで・・」

鈴「お兄ちゃん・・」

昴「俺はもう後悔したくないんだ。たとえ脆くとも、俺は人の心を信じたい。桃香やその王のように。天下三分の計。俺はこれに賭けたい。この大陸とそこに住む人々とその未来に・・」

桃「ご主人様・・。うん。私もご主人様と同じ気持ち。・・ごめんね。少し弱気になってた。あと少し、あと少しだから私も頑張るよ」

昴「ああ。頼むよ。皆もよろしく頼む」

愛「はっ! この大陸の未来のために・・」

星「ふっ。改めて問われるまでもありませんよ」

鈴「鈴々も頑張るのだ!」

翠「任せとけってんだ!」

朱「お任せ下さい♪」

雛「頑張ります♪」

昴「ありがとう・・皆・・」

俺には心強い仲間がいる。

華琳・・君は今何を想っている? 形は違えど同じ場所を目指している君は・・。





















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華琳side

秋「華琳様。各部隊の出陣準備、整いました」

華「ありがとう。・・ふぅ」

ふとため息が漏れる。

秋「お疲れのようですね」

華「ん。・・少し、自分の歩いてきた道を振り返ってしまってね」

秋「・・後悔しておいでなのですか?」

後悔・・。

華「後悔などするはずが無いわ。・・だけど、目指す頂に靄がかかったような、そんな状態になっているのも否めない事実・・。我が行いは果たして天命にかなっているのか。・・私はこのまま、突き進むべきなのか・・。それとも歩みを止めるのか・・とね」

我ながら、弱くなったものね・・。

秋「・・華琳様」

華「何?」

秋「私はいつもこう思っております。天命は天より至るものでは無く、曹孟徳の行いによって曹孟徳に至るものだ、と。あなたはあなたの信じる道を、ただ真っ直ぐ進めば良いのです。それこそ、我らが愛しい主の姿」

華「・・・。」

秋「あなたが死ぬのなら、私達も死にましょう。・・あなたが生きるのならば、私達はそれを支えましょう。何が正しいのか、何が間違っているのかでは無い。・・曹孟徳の選んだ道が、すべからく正義なのです。我らにとっては」

華「秋蘭・・」

秋「出過ぎたことを言いました。しかし・・そろそろ他者の心に現出する曹孟徳では無い。華琳様の心のままに動くのも、良いのではありませんかな?」

華「・・そう出来れば良いわね」

秋「いつか・・出来るときが来るでしょう。時は進み、世は変わる。・・常に一所に止まっている事象など、ありはしないのですから」

華「・・ありがとう。その言葉、肝に銘じておきましょう。・・だけど、今の私は曹孟徳の衣を必要としている。・・その衣と共に出陣しましょう。最後の戦いに向かって」

秋「御意。・・どこまでもお供致しましょう」

華「ふふっ・・。では秋蘭。軍議を始めましょう。各将を招集しなさい」

秋「はっ!」

秋蘭が私の指示を受け駆けていった。

華「私の・・道・・」

私は1人呟く。

昴『覇道か・・。華琳・・その道は冷たくて、孤独で、誰も横に並び立てない寂しい道だぜ』

昴はそう言った。赤壁の戦いの折、昴からの言葉が聞こえた気がした。

華琳・・これが覇道の先にあるものだ・・と。

華「昴。あなたが覇道の先に見たものはこれなのね」

私はこんなにも弱かった。・・でもあなたが居たなら私は・・。




















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昴side

俺達は一度天幕に戻り、この後の戦の対策を立てながら雪蓮達を待っている。暫し待っていると・・。

「失礼致します。孫策様が到着なされました」

桃「分かりました。すぐに向かいますね。・・ご主人様、後は雪蓮さん達と話し合おう」

昴「そうだな。雪蓮の下へ・・・!?」

桃「? ・・どうしたの?」

昴「・・悪い桃香。先に雪蓮の所に行っててくれないか?」

桃「えっ? 何かあったの?」

昴「すぐ行くから。先に行っててくれ」

桃「・・うん。分かったよ。早く来てね」

昴「ああ」

桃香が天幕を出ていった。

昴「・・いいよ。入ってくれ」

ファサ・・。

天幕の入り口から1人入ってくる。

昴「久しぶりだな・・雫」

雫「お久しぶりですわ。昴様」

雫と会うのは久しぶりだ。理由は、雫にはある任務を頼んだため、しばらく蜀の地を離れていたからだ。

昴「雫がここに来たってことは、つまり・・そういうことで良いんだな?」

雫「はい。昴様の仰った通りになりました・・」

昴「そうか・・」

ついに・・始まるのか・・。




















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桃「あっ、ご主人様遅いよー」

雪「もう、なにやってたのよ」

昴「悪いな」

雪蓮達の下へ行くと、蜀と孫呉の重臣が勢揃いしていた。

朱「ご主人様。基本作戦として、私達は左翼を。孫策さん達は右翼を担当することになりました」

昴「そうか・・」

雛「? ・・どうか致しましたか?」

昴「・・皆に聞いてもらいたい事がある」

俺はここに集まる将にこれから起こる重大な事を話した。


















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俺達は予想戦場に進軍した。そこには華琳の軍勢が整然とした様子で陣を構築していた。

昴「・・・」

今この地を双方の大軍勢がひしめき合っている。にもかかわらず今この地はとても静まり返っている。聞こえるのは時折吹く風にたなびく軍旗の音のみ。

昴「・・(コクッ)」

桃「・・(コクッ)」

俺が桃香に頷くと、桃香も同じように頷き返す。

昴「・・(コクッ)」

雪「・・(コクッ)」

同じように雪蓮に頷くと、雪蓮も頷き返す。それを確認し、俺は自陣から前に歩み出た。



















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華琳side

私達の軍と蜀呉の連合軍がひしめき合う戦場に今私はいる。今この地は小気味良いほど静寂に包まれている。僅かの間睨み合っていると、1人の将が前に歩み出た。

桂「華琳様。連合軍から1人突出したようです。あれは、昴です」

華「そのようね」

その後ろ。昴に続いて2人の将がついてきている。あれは劉備と孫策・・。

舌戦を仕掛けるつもりかしら。・・望む所ね。

私は昴に習い、自陣から歩み出た。



















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昴side

俺が曹魏の軍勢へと歩み寄って行くと、華琳が1人、自陣からこちらへと向かってきた。やがて双方の軍勢が睨み合うちょうど真ん中で俺達は止まった。

華「久しぶりね、昴」

昴「ああ」

最後に会い、言葉を交わしたのは徐州を追われ、長坂橋で殿をしたとき以来だ。

昴「華琳、俺の話を聞いてほしい」

華「・・聞きましょう」

俺は一度だけ大きく深呼吸をし・・。そして言った。

昴「華琳―――」

















昴「――緊急事態だ。今この大陸に五胡の大軍勢が侵略に来ている。その数は2百万以上だ」

華「!? 何ですって!?」

昴「本当の話だ。つい先程、五胡に放っていた斥候が戻った。そしてこの訃報が届いた」

華「・・・」

昴「この大陸の危機だ。俺達はいがみ合ってる場合じゃ無くなった。華琳。力を貸してほしい」

華「・・いくつか尋ねても良いかしら?」

昴「なんだ?」

華「あなたは、五胡がこの地に侵略することをあなたは知っていたの?」

昴「ああ。以前に俺達の地に五胡の軍勢が侵略に来た。その時に五胡の将が言った。『五胡はこの地を狙っている』と。だから俺は常に五胡の地には目を光らせていた」

華「そう・・。それが分かっていたなら何故赤壁での戦の前に言わなかったの? あの時ならば・・」

昴「言いたいことはわかる」

あの時ならば曹魏の大軍勢が健在だ。五胡相手でもかなり有利に戦えるだろう。

昴「あの時点では五胡侵略の明確な証が無かった。数的不利な俺達がそれを言った所で、ただの戯れ言にしかならないだろ?」

華「・・・」

昴「仮に信用させる事が出来ても、覇道を歩んでいた時の君では、蜀呉の連合軍が曹魏への無条件降伏以外では認めなかっただろ?」

華「・・・その口振り、まるで今の私が覇道を捨てたみたいな言い方ね」

昴「・・今の俺の目には君は覇道ではなく、自分の道を歩み出したように見える」

華「・・・」

昴「華琳。雪蓮。桃香・・。黄巾の乱から始まったこの大陸の争乱。君達は王として生きる道を選んだ。それぞれが違う道を歩いてきた。だけど、目指したものは皆一緒のはずだ」

形は違えど皆乱世を治めるために戦ってきた。

昴「今皆はその目指した先に立っていると俺は思う。そして今、俺達が守ろうとしたものが壊されようとしている。だから俺は皆に願う。この国を守るため、目指したものを守るため、大切なものを守るため、今ここに皆の誇りを1つにしてくれ!」

俺はここに集まる3人の王に懇願した。

暫し沈黙がこの場を支配する。最初に口を開いたのは・・。

桃「私はご主人様に賛成です。私はこの国を守りたいから」

昴「桃香・・」

雪「私も昴の意見に賛成ね。呉と私の家族と・・、私の友人を守るためにね」

雪蓮が俺にウインクをしながら言った。

昴「雪蓮・・」

2人は俺の言葉に賛同した。後は・・。

華「・・・」

華琳だけが沈黙している。

桃「曹操さん! こんな戦い、やってる場合ではありません! 今、私達の国は危機に瀕してる! 戦いを止め、今は一丸となって外敵からこの国を守らなくちゃいけないです! それこそ、上に立つ人間・・ううん、この国に住み、この国を愛してる者全ての役目だと思うんです! だから、力を貸して下さい!」

桃香が心からの言葉を華琳にぶつける。

華「・・この国を守る。王として当然の事よ。私はあなた達と力を結集し、この国を守るわ。昴。私はあなたの言葉に賛同するわ」

昴「決まりだ。・・では、現時刻をもって三国同盟の締結を宣言する」

桃「はい!」

雪「応っ!」

華「ええ」

















こうして、魏、呉、そして蜀の同盟が締結した。新たなる驚異からこの国を守るために・・・。











続く

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