第78話〜三国会議、それぞれの戦場へ・・〜
??side
とある大軍勢、右も左も埋め尽くす人、人、人。共通しているのが、その全てが規則正しく足並みを揃えていること。そして、その全てが奇妙な被り物をしていることだ。しかし、そのある一角だけ、その被り物を外した者達がいる・・。
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?「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ! もうすぐ漢の地だ! 派手に暴れられるぜぇ!」
長身の豪快な男が鼻息を荒く高笑いを上げる。
?「ゲラゲラうるせぇーな。黙ってらんねぇーのか?」
髪を2つに分けた女性がその笑い声に不快感を露にする。
?「あっ!? それならてめえが耳を塞ぎな!」
?「このデカブツ。何なら笑い声もあげられねぇようにしてやろうか?」
?「面白ぇ! やってみろや!」
両者の間に火花が散る。
?「やめろ」
?「あっ?」
?「姉さん?」
その間を長い髪を頭の上で器用に団子のようにまとめた髪形をした女性が入る。
?「目的を見誤るな。我らの目的は漢の国の侵略、及び統治だ。それを忘れるな」
?「忘れてねぇよ。姉さん」
?「へっ! 関係ねぇな!」
?「てめえ!」
?「うるせぇーよ! 俺は弱ぇー奴は殺す。強ぇー奴は楽しんで殺す。それだけだ!」
?「あまり驕るな。相手は貴様が思うほど甘くはない」
?「何だ? びびったのか? はん! だったら国に帰って泣きべそでも掻きな」
長身の男は鼻で笑う。
?「あと、あまりべらべらと喋らない方が良い。弱く見えるぞ?」
?「・・まずはてめえから殺してやるよ」
今度は2人の間に火花が散る。
?「お止めなさい!」
そこに好青年を思わせる男が間に入る。
?「これから私達の大願が成る大戦始まるのです。仲違いしている時ではありません」
?「・・・」
?「ちっ・・」
2人がその言葉に渋々従う。
?「まもなく我らが王が参られます。出迎えの準備をしなさい」
「「「!?」」」
その報せにここにいる全員の身が引き締まる。暫し待つとそこに1人の男が現れる。
?「おや、皆いるようだね」
?「はっ。将全員、健在であります」
?「ふふっ。頼もしい限りだね・・・・・・刹那」
刹「はっ!」
好青年が臣下の礼を取る。
?「羅鬼」
羅「応よ!」
長身の男が叫ぶ。
?「徹里吉」
徹「はっ」
髪を頭のてっぺんでまとめた女性が臣下の礼を取り、応える。
?「越吉」
越「はっ!」
髪を2つに分けた女性が同じく臣下の礼を取って応えた。
?「始めよう。大願を成すための戦を・・」
「「「「はっ! 我らの大願のために! 我らが王、刃様の命ずるままに!」」」」
呼ばれた将達が臣下の礼を取り、斉唱する。
刃「クックックッ。舞台は整ったよ、御剣昴。さあ、俺を楽しませてくれ」
新たなる驚異が刻一刻と近付いていく・・・。
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昴side
三国同盟が成り、迫り来る五胡の大勢力に立ち向かうため、新野城に曹魏、孫呉、そして蜀の重臣が集まり、軍議が行われる事になった。そして今、新野城の1番大きな一室の円卓の席に曹魏の将である華琳をはじめ、春蘭、秋蘭、桂花、茉里、風、稟、霞、季衣、流琉、凪、沙和、真桜が左から席に着き、孫呉の将である雪蓮をはじめ、冥琳、祭、蓮華、小蓮、穏、思春、楓、明命、亜莎が右から席に着き、その中央に蜀の将である俺と桃香をはじめ、愛紗、鈴々、星、朱里、雛里、白蓮、想華、恋、ねね、詠、美羽、七乃、麗羽、猪々子、斗詩、翠、蒲公英、紫苑、桔梗、焔耶(雫は不在)が席に着いた。
昴「皆すでに聞いてるだろうが、五胡大軍勢、総勢2百万が今この国に侵略に来ている。奴らを退けるために軍議を始めようと思う」
俺が状況説明を始めようとすると華琳が手を上げる。
昴「華琳、どうした?」
華「まず始めに決めなければならないことがあるわ。この魏、呉、蜀の連合軍の盟主を誰がするかをね」
昴「それに関してはそれぞれの代表である華琳、雪蓮、桃香の3人が盟主で良いだろ」
華「あなたらしくないわね。戦において頂点が3人もいたらいざというときに統制が取れなくなってしまう。それは分かりきっていることでしょう?」
昴「それは分かっている。だが、今まで理想の違いで戦い合ってたんだ、誰が盟主になっても不満が残っちまうだろ?」
心を1つにしなきゃならない今、無理に盟主を決めて不満を残すような事はしたくない。
華「あら? 1人いるじゃない。この中でもっとも盟主に相応しい者が・・」
その後を雪蓮が・・。
雪「誰よりも強く。誰よりも知に長けて、誰よりも強い意志を持ち・・」
桃「そして誰よりも優しくて皆に愛されて人物が♪」
桃香が最後に続いた。
昴「おいおい、まさか・・」
皆が一同に俺を向いた。
昴「ちょっ、待てって! 俺だって蜀の将だぞ? 実質的な蜀の代表だって桃香だし・・」
俺は蜀の代表扱いされているが、実際は象徴みたいなものだ。
華「あなたが1番適任なのよ。あなたが盟主なら誰も文句は出ないわ。あなたはこの中で唯一ここにいる全員から真名を預かっているようだしね。それに・・、私自身あなた以外を盟主とは認めたくないわ」
雪「私も昴以外はごめんだわ。桃香は向いてないし、曹操の事はまだ良く知らないしね〜」
桃「私はご主人様の事をずっと傍で見てたから。ご主人様ならきっと皆を導けると思う」
昴「雪蓮・・桃香・・。皆は良いのか?」
俺は皆に問いかける。
愛「蜀将一同、ご主人様が盟主に異論はありません」
蜀の将全員が一同に頷く。
冥「私も異論はない。昴の能力は良く理解している。不満がある者はいるか?」
祭「儂に異論はない」
穏「私も賛成です〜」
楓「俺も賛成だ!」
思「貴様ならば良いだろう」
明「私も賛成です!」
亜「私も、昴様なら・・」
次々と賛成の声が上がる。
雪「蓮華とシャオはどう?」
小「シャオは良いよ♪」
蓮「私も賛成です。昴なら私を導いてくれたように、この国を導いてくれると思うから」
呉の将全員が賛成の意思を示した。
華「あなた達の中に不満がある者はいるかしら?」
華琳が魏の将に問いかける。
秋「私に異論はありません」
茉「賛成・・です」
季「ボクも賛成だよ♪」
流「私も、異論はありません!」
霞「ウチも賛成や!」
凪「師匠ならば賛成です!」
沙「隊長なら賛成なの〜」
真「ウチにも異論はあらへんで」
風「風も賛成なのですよ〜」
稟「私も賛成です」
華「春蘭、桂花。あなた達は?」
桂「・・異論は、ありません。御剣昴が優れているのは事実ですから」
春「・・華琳様が認めたなら・・」
2人は渋々という感じで賛同する。
秋「おや? 昴と別れてから姉者の口から昴の名前が出なかった日はなかったのだが・・」
春「しゅ、秋蘭〜//」
風「そういえば桂花ちゃんは以前にお兄さんから貰ったぼーるぺんなる物でお兄さんの名を呟きながら・・」
桂「わーわー! それ以上口にしたら殺すわよ//」
昴「?」
2人が慌てだす。
春・桂「賛成です」
2人が口を揃えて賛成の意を示す。
華「どう? ここにいる全ての将があなたが盟主になることを望んでいるわ」
昴「皆・・」
俺は一度目を瞑る。
昴「・・分かった。三国同盟の盟主、俺が引き受けよう」
雪「なら決まりね♪」
桃「なら改めて、ご主人様。私達の命、あなたに預けます」
華「盟主。あなたに私と私の曹魏の将兵の命を預けるわ」
雪「私も孫呉並びにこの国の命運をあなたに託すわ」
昴「ああ。俺も持てる力とこの命を賭ける。皆も俺に力を貸してくれ」
「「「「御意!」」」」
皆が一斉に俺の言葉に応えてくれた。
俺も応えよう皆の期待に、俺の大切なものを守るために・・。
昴「それじゃ、本題に戻すぞ。今この国に五胡の大軍勢が侵略してきている。皆は五胡についてどこまで知っている?」
稟「五胡はもとは匈奴・鮮卑・羯・邸・羌という5つの部族の総称。その5つの部族の蛮族達が国を作り、西方を支配している。国は劉豹という王に統べられ、獣の仮面を被り、周囲の者に自らの本質を伝える。こんなところでしょうか?」
昴「まあ、概ね当たっているな」
華「概ね?」
昴「一部、付け足しと訂正がある。五胡には大王を別名一の将と呼ばれている。一を頂点に、それから軍団を束ね、総轄する将が後4人いて、二の将、三の将、四の将、五の将と呼ばれている。ちなみに将と呼ばれる者は仮面を外す習わしになっているらしい」
冥「なるほどな。・・それで、訂正点は何だ?」
昴「それはな、今五胡の大王をしているのは劉豹じゃない」
穏「それはつまり、王が変わったということですか〜?」
昴「違う。前王劉豹は殺されたらしい」
雪「殺された?」
昴「五胡の大王になる条件ってのは至極単純で、1番強い奴が大王になるんだ。ある時、とある来訪者が五胡にやってきて、劉豹に大王の座を賭けて決闘を申し込んだ。その結果、劉豹は死に、その来訪者が大王になった。その名は・・刃」
春「刃・・何者か分かっているのか?」
昴「刃だけなら分かる。刃は俺に近しい存在だ」
秋「? ・・どういう事だ?」
昴「刃は俺と同じで、この世界の人間ではなく、ここには存在しない、こことは別の世界から来た」
季「? ・・要するに、兄ちゃんみたいに天の国から来たってこと?」
昴「まぁ、分かるように説明出来ないからその解釈で構わないよ」
愛「ならば、その刃とか言う者も天の御遣いだとでも言うのですか?」
昴「違う、むしろその対極にあたる存在だ」
桃「対極?」
昴「俺がもともとこの国にやってきた理由は2つ。1つはこの国の乱世を治めること。もう1つはその刃を討伐することなんだ。刃はあまりに非道な行いをし続けていた。だから討伐の命が俺に出た。刃とは反董卓連合の折りに出会い、戦いを挑んだ。結果は俺の完全な敗北だ」
「「「「「!?」」」」」
皆が驚愕した。
星「主よりも強いと?」
霞「んなアホな・・」
昴「当時の俺とはあまりにも差がありすぎた。益州を平定してすぐに再び死合ったが差を縮めるには至らなかった」
「「「「「・・・」」」」」
場を沈黙が支配する。
楓「旦那より・・強い」
凪「師匠以上とは・・」
桔「だからお館様はあのような無茶をしてまで強くなろうと・・」
昴「心配はいらない。敗北したのはあくまで昔の俺だ。次は必ず俺が奴を討つ」
必ず討つ・・。俺の命に代えても。
桃「ご主人様・・」
華「分かったわ。その刃はあなたに任せるわ。他に分かっていることは?」
昴「五胡の国は作物が育ちづらく、民はかなり貧困に喘いでいるらしい。それをどうにか解決するために五胡内では2つの派閥が存在している。漢の国と友好を結び、外交を行う事を考える穏健派と、漢に侵略、支配し、他国の領土を得ることで貧困の危機の脱出を図ろうとする急進派だ。前王が穏健派だったことがあって今までは急進派の一部暴走した者がこの国と小競り合いする程度しか起こらなかったが、刃が劉豹を殺し、急進派を先導し、穏健派を取り込んだことで五胡はこの国に本格的に侵略を始めたということだな」
桃「そんな事情が・・」
桂「それで、五胡が今どこまで進軍しているかは分かっているの?」
昴「密偵の報告から、五胡は今益州、成都の制圧に向かっているらしい」
鈴「にゃにゃー! 成都なのかー!?」
桔「で、あるなら、急ぎ成都へ全軍を集結させ、防衛戦を・・」
昴「・・いや、成都は放棄する」
「「「「「!?」」」」」
桃「ご主人様! 何言ってるの!?」
愛「そうです! 成都を放棄したら民はどうなるのですか!?」
昴「落ち着け桃香、愛紗。俺は成都を放棄するとは言ったが民を見捨てるとは言ってないぞ」
愛「ではいったいどういうことなのですか?」
昴「成都を放棄する理由は、1つは時間。今から防衛戦を張っても展開が間に合わない。後手後手に回ることが目に見えてる。もう1つは相手の最大の弱点を突くためだ」
愛「弱点、ですか?」
昴「俺は以前に五胡の来襲事を知った時、成都に住む民及びその周辺に住む民に、五胡の勢力が侵攻の兆しが見えたら、ただちに益州から一時期に退去してもらうように指示を出しておいた」
星「退去ですか?」
昴「ああ。その際には手荷物と、食料を持てるだけ持ち、残りは全て燃やすようにともな」
朱「!? そういうことですか・・」
桃「朱里ちゃん、分かったの?」
朱「はい。ご主人様が成都の住民の退去と同時に食料を燃やすようにしたのは、民の安全のためと、五胡の勢力を兵站を伸ばさせるためです」
雛「ご主人様のお話通りなら、五胡は貧困に喘いでいます。成都を制圧してもそこに食料が無ければ士気は大幅に下がり、食料もかなり消費するでしょう。」
焔「なるほど・・」
蒲「でもでも、もし成都を根城にされたらどうするの?」
朱「その可能性はありませんし、そうなったらむしろ好都合です」
蒲「どういうこと?」
朱「成都を根城にされても援軍も無ければ食料もありません。こちらは時間をかけて兵糧攻めをすればおのずとこちらの勝利ですし、成都は私達の本拠地でもあります。地理はもちろんですが、どこを攻めたらいいかは全て把握しています。そういった意味でもこちらに有利に働きます」
昴「そういう事だ。華琳、雪蓮、事後報告で悪いが成都の民を一時的に預かってほしいんだが・・」
華「事情が事情だから受け入れるわ」
雪「こちらも構わないわ。五胡を退けるまでの間なら大丈夫よ」
昴「すまない。恩に着る。成都に関しては一時的に五胡に預ける。多少荒らされるだろうが、それは後に立て直せばいい。・・まぁ利子はきっちり戴くがな」
俺が周りを見渡すと皆が頷く。
昴「この後の相手の動きだが・・。俺の予想では五胡は兵を3つに分けて魏領、呉領、そして都の洛陽の制圧に向かうだろう」
冥「その根拠は?」
昴「領土拡大と食料確保のためだ。あれだけの大軍勢なら3つに分けてもまだ相当な兵力だ。一気呵成に攻勢を仕掛けるだろう。だから曹魏には魏領に、孫呉には呉領のそれぞれの接的地点で敵を迎え撃ってほしい。俺達蜀は洛陽にて敵を迎え撃つ。曹魏、及び孫呉は五胡の勢力を撃破した後は洛陽の救援に向かってほしい。恐らく敵本隊は洛陽に来るだろうからな。俺達はそれまで時間を可能な限り稼ぐ」
間違いなく来ると確信がある、刃は直接俺の所に来るだろう。
昴「万が一あてが外れて、一ヶ所に兵力を集中させられても救援が来るまで防衛すれば自ずとこちらに勝機が見えてくる」
華「分かったわ。ならそれを基本方針にしましょう」
雪「こっちもそうするわ」
昴「兵力差はこちらの倍だ。向こうは強行軍に加えて少ない食料の事を考えて力攻めが主になることを差し引いてもこちらがかなり不利だ。戦力差を埋めるための切り札をこちらで用意した。これは後で説明するが・・。後は相手をただの蛮賊と思わない方がいい。以前に俺達の領土に侵攻があったときに、うちの軍師の1人である賈駆が油断があったとはいえ手玉に取られた」
詠「っ・・」
詠が悔しそうに顔を歪ませる。
昴「五胡の中には頭が切れる者も中にはいる。そっちも警戒してくれ」
雪「了解♪」
昴「大まかな方針はこんなものだな。・・なら最後に・・」
俺は円卓の席に座る三国の将を見渡す。
昴「皆、この国は好きか?」
俺は皆に訪ねる。
昴「俺はこの国に産まれた訳でもないし、この国に来てから月日も浅い。・・でも、俺はこの国が好きだ。大切な仲間がたくさんいるこの国が。皆も俺と同じ・・いや、それ以上にこの国を愛していると思う」
俺は一度目を瞑る。
昴「次の戦。今まで潜り抜けて以上の戦になる。皆にはそれこそ死力を尽くしてもらうことになる。・・・これが三国連合の盟主として出す最優先の命令事項だ」
俺は目を開ける。
昴「皆死ぬな! 生きる事を諦めるな! 死ぬことを誉れと思うな! これが最優先に守ってほしい命令だ! この国に住む民達のために! この国の未来のために! そして、自分達の大切なものを守るために! この戦、必ず勝つぞ! 以上だ! 再び皆で会おう!!」
「「「「「御意!」」」」」
行くぞ! これがこの国の・・・そして、この外史での最後の戦いだ・・。
続く