第79話水関防衛戦、数の暴力〜
五胡side
五胡の国から進軍し、まず最初に狙いを定めたのは蜀国の本拠地である成都。敵国の激しい抵抗があるものと予想していたが、いざ進軍すると・・。
刹「妙ですね」
徹「だな」
越「? ・・どうしたんだよ姉さん?」
徹「成都近くまで来たのに何も起こらない」
越「・・籠城でもするんじゃないのか?」
刹「向こうがそのような愚策を取るとは思えませんね。それに、仮にそうでもここまで何も動きが無いのはおかしいです」
羅「グダグダうるせぇーな。セイトに行けば分かるだけのことだろうよ!」
越「ちっ!」
刹「・・一理あります。警戒しながら進軍しましょう」
徹「そうだな・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
やがて成都に到着すると・・。
越「兵どころか人っ子1人いやしねぇ」
徹「どういうことだ?」
刹「・・なるほど、そういうことですか」
越「あ?」
刹「どうやら向こうは成都を放棄したようですね」
越「はぁ!? ここは蜀の本拠地なんだろ? 何でそんなこと・・」
刹「理由は恐らく我々の兵站を伸ばさせるためでしょう。・・現に、この国の民と一緒に食料の類いもありません」
徹「・・大胆な策を打ったものだな」
越「成都の食料をあてにしてたんだけどな」
羅「ちくしょう!」
ドゴーン!!!
羅鬼が傍の岩壁を蹴り飛ばす。
羅「暴れられねぇじゃねぇか!」
越「あーうるせぇうるせぇ・・。」
徹「何にせよ、こちらの狙いが外されたのは事実だ。・・どうする?」
それぞれが思案する。そこへ・・。
?「大胆な策を取ったものだね」
刹「刃様・・」
刃「何も無いなら長居は無用だね。早々に動こうか・・刹那、羅鬼」
刹「はっ!」
羅「あん?」
刃「君達にそれぞれ兵60万ずつ預ける。刹那は呉領を、羅鬼は魏領を制圧に向かえ」
刹「はっ!」
羅「おっしゃあ! 楽しませてもらうぜ!」
刃「徹里吉、越吉はこのまま本隊を率いて都洛陽の制圧に向かう。今後は本隊の指揮は徹里吉に任せる。越吉は補佐をしろ」
徹「はっ」
越「応っ!」
刃「さあ、始めよう・・終わりを・・」
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昴side
三国会議から2週間後・・。
「五胡は部隊を3つに分け、それぞれ魏領、呉領、そして都洛陽に進軍した模様です」
昴「目論見通りだな」
俺の読み通り、五胡は部隊を3つに分けて短期での国の侵略に向かった。既に華琳と雪蓮達は自領に戻り、迎撃体勢を整えているだろう。俺達蜀軍は現在洛陽に駐屯している。
桃「雪蓮さんに曹操さん、大丈夫かな?」
昴「心配はいらない。両軍共に良将精兵揃いだ。必ず勝つさ」
桃「うん、そうだよね・・」
桃香が不安そうな顔を浮かべる。
昴「あまり他の心配もしていられないぞ。向こうが倍近くの敵を相手にするならこっちは倍以上の敵を相手にするんだ」
こちらに向かっている敵総数は約80万。対して俺達は約40万だ。
桃「うん。そうだよね。雪蓮さんや曹操さんが来るまで頑張らないと・・」
昴「もちろんだ」
我ながら無茶を要求したものだ。自軍以上の敵を撃破して援軍に来いだなんて。・・しかし今回はその無茶を通してもらわないと困る。そうでなければ勝てないからだ。
桃「星ちゃん達の所はもう戦いが始まってるのかな・・」
昴「時間的にもうそろそろだろ」
俺達の取った作戦。それは敵が洛陽に来るまで、その途中の水関と虎牢関でとにかく疲弊と消耗させること。援軍が来るまで時間稼ぎをする。要は反董卓連合の折りに董卓軍がやろうとしたことだ。今水関には星、想華、紫苑、桔梗、詠と兵4万を。虎牢関には白蓮、麗羽、猪々子、斗詩に兵2万を向かわせ、それぞれ防衛に当たってもらっている。
昴「頼むぜ・・。それと無事に戻ってきてくれ」
俺は皆の無事を祈った。
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星side
星「むっ? 来たか・・」
主の命によりシ水関の防衛にやってきた。防衛の準備を整え、五胡の軍勢を待つこと数日。ついに奴らがやってきた。
星「改めて、物凄い数だな・・」
紫「敵の総数は約80万ですものね」
敵の軍勢は決して狭くはない道筋にぎっしりと埋めつくされている。
星「反董卓連合において、董卓軍はこのような光景を見ていたのか・・」
想「それ以上だ。あの時はここまでの兵力ではなかったからな」
桔「何にせよ、我らはあやつらを少しでも長く足止めし、疲弊させるだけじゃ」
詠「その通りよ。洛陽での決戦までに少しでも敵を削るわよ」
星「無論だ」
想「当然だな」
詠「・・あと想華。分かっているとは思うけど・・」
想「案ずるな。少なくとも、お前の指示無しではここ(水関)を離れん」
詠「ふふっ、愚問だったわね。・・来るわ。皆行くわよ!」
星・想・紫・桔「応っ!」
五胡との戦いが始まった。
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星「ふっ!」
私は自身の槍で敵を突き落とす。
星「良いか! 1兵たりとも敵を上げるな!」
敵が水関に梯子をかけ、次々と這い上がってくる。
紫「弓隊、放て!」
紫苑の弓隊が一斉に矢を放つ。射られた敵は次々落ちていく。
星「くっ!」
再び這い上がってきた敵を突き落とす。
想「こいつら、まるで死兵だ」
想華の言う通り、こやつらはまるで死を恐れず、ただがむしゃらによじ登ってくる。
ドーン!!!
星「っ!?」
突如大きな号音が鳴り響く。下に視線を移すと・・。
桔「くっ! 破城鎚か!」
詠「あいつらを止めなさい!」
紫「弓隊! 破城鎚に火矢を放ちなさい!」
弓隊が火矢を構える。
紫「放てー!」
一斉に火矢が放たれる。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
火矢が敵兵と破城鎚に突き刺さった。すると破城鎚がメラメラと燃えはじめた。
詠「ふぅ・・。とりあえずこれで・・」
星「そう気も抜けんぞ」
既に第2陣がこちらへと向かって来ている。
桔「とにかく、敵を近づけさせぬようにするぞ」
星「そうだな」
次々に這い上がる兵に引き換え、破城鎚にまで何度も来られたらここはもたない。
星「ふっ、これも泣き言か。やるだけか・・」
私は再び槍を構え、こちらへと向かってくる敵兵に備えた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
五胡の攻撃が始まってから数日が過ぎた。依然として敵の攻撃は続いている。・・いや、むしろ敵の攻撃はよりいっそう激しくなっている。
桔「くっ! 昼夜問わずに攻撃を仕掛けられてはかなわんぞ!」
敵兵は今や昼も夜も休みなく攻め続けている。
想「奴らは疲れを知らんのか・・」
星「何にせよ、このままではまずい」
こうも激しく責められてはこちらの士気はみるみる下がっていく。
想「このままではジリ貧だ。一度夜襲を仕掛けるなりして敵の足を止めた方が良いのではないか?」
詠「無理よ」
想「何故だ?」
詠「敵は今、大軍を生かして水関を攻める者、周囲を警戒する者、休む者に分担しているわ。仮に夜襲を仕掛けても警戒網に引っ掛かるわ」
星「なるほど、だから奴らは休みなく攻められるのか・・」
詠「現状はこのまま敵を防ぎ続けるしかないわね」
星「やむを得んか・・」
想「むぅ・・」
この戦、かなり辛いものとなってきたな。
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詠side
まずいわね、敵の攻撃が激しくすぎるわ・・。もうもたない。
さらに数日が過ぎて、敵は勢いを止めずに一気呵成に攻撃を続けている。こちらも何とか防衛し続けているけどそろそろ限界だわ。・・・決断しなくてはいけないわね。
詠「皆聞いて」
皆が耳だけをこちらに傾ける。
詠「ボク達は水関を放棄して虎牢関まで退くわ」
想「っ!?」
紫「やむを得ないわね」
桔「潮時か・・」
詠「敵の攻撃が切り替わる時期を見計らって退くわよ」
星「了解した」
紫「ええ」
桔「うむ。分かった」
想「・・・」
詠「想華?」
想華が押し黙っている。
想「分かった。・・ならば我ら華雄隊は殿を兼ねて暫し敵の足止めに努めよう」
詠「っ!? 駄目よ。いくら想華の隊でも無茶だわ!」
想「無茶は承知。だが此度の戦。ある程度の無茶を通さねば勝利は出来ぬ。・・それに詠よ。この水関ではお主の想定より足止めが出来ておらぬのだろ?」
詠「それは・・」
想華の言う通り、敵の攻撃が激しすぎて思ってた以上に足止めが出来ていない。
想「案ずるな。お前達が撤退し、ある程度足止めをしたら我らも退く。先に虎牢関で待っていてくれ」
想華はそう言った。
駄目・・。想華に行かせたら駄目だわ。今の想華の目。あの時の月と・・。連合が組まれた時の、全ての責任を背負い込んで死のうとした時の月と同じ目をしている。だから想華を残したら駄目だわ。どうしよう・・。ボクでは想華は説得出来ない。昴が・・、昴が居てくれれば・・。
?「駄目です、想華さん」
想「っ!?」
星「お主・・」
桔「何故お主が・・」
そこにいたのは・・。
詠「月!」
月がそこにいた。
月「想華さん。あなたをここに残す訳にはいきません。皆で一緒に下がりましょう」
想「ですが・・」
月「ご主人様の言葉を忘れたのですか? 生きろと言ったあの言葉を」
想「っ!?」
月「想華さんの言う通り、無茶をしなければ勝てないかもしれません。ですが、それはこの場ではないと思います」
想「・・・」
月「どうしても想華さんが一緒に下がらないなら、私もここから離れません」
詠「!? 月!?」
月「ですから想華さん・・」
想「・・そのように申されては一緒に退かざるを得ませんな」
月「ありがとうございます、想華さん!」
詠「良かった・・」
思い直してくれて良かった。
詠「それにしてもどうして月がここに?」
月「ご主人様に一緒に行くように言われました。その・・人一倍責任感が強い想華さんが無茶をしたら引き留めるようにと・・」
月が申し訳なさそうに言った。
詠「あいつ・・」
どこまで先の展開を読んでるのよ。
星「ふふっ、愛されているな、想華」
想「嫉妬か?」
星「少々な」
何やら不敵な笑みを浮かべながら星と想華が話している。
紫「ならば早々に退きましょう。機を誤れば退くことも出来なくなるわよ」
詠「そうね。ボク達は虎牢関に下がるわ。皆準備しなさい!」
星「うむ!」
桔「で、あるなら、奴らに置き土産をくれてやろうかの」
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五胡side
徹「むっ・・。向こうの防戦の勢いが弱まってきたか?」
越「ていうか、兵の姿がほとんど見えねぇな」
徹「退いたか・・」
越「でもよー、早すぎねぇか? まだ余裕がありそうな気がするけどよ」
徹「余裕が無くなってからでは撤退は出来んだろ」
越「しゃあ! なら一気にぶち抜くぞ! 野郎共、かかれ!」
「「「「応っ!」」」」
徹「罠には充分に用心しろ。破城鎚を前に出せ」
破城鎚を持った兵が門へと向かって行く。
ドーン!!! ドーン!!! ドゴーン!!!
門が破られ、兵達がシ水関に雪崩れ込む。それと同時に・・。
ドガァァァァァァン!!!
徹「っ!?」
越「何だ!?」
突如、兵達がシ水関に雪崩れ込んだ瞬間、大爆発と共に水関が粉々吹き飛んだ。
越「奴ら・・何しやがったんだよ!」
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桔梗side
桔「よし! この隙に撤退するぞ!」
「「「「了解!」」」」
ふむ、お館様が赤壁での大戦で使用したという火薬は大した威力じゃ。五胡兵が雪崩れ込んだと同時に火薬に火を付けるために火矢を放ったら、堅牢の水関が跡形もなく崩れてしまった。
桔「じゃが、これでかなりの兵力を削り、さらには時間も稼げるじゃろう」
我らは大混乱をしている五胡軍を尻目に悠々と虎牢関へと撤退をした。
初戦、想定よりも時間が稼げなかったものの、敵兵力を削る事に成功した・・。
続く