第80話〜虎牢関防衛戦、五胡の将の力〜
五胡side
水関を爆破され、かなりの被害を強いられたが、まだまだ大勢力を保つ五胡軍。崩壊した水関の瓦礫をどかし、ようやく進軍を開始した。
越「ったくよ、進軍すんのにえらい時間かかっちまったな」
徹「まったくだな」
越「にしてもあの爆発は何だったんだ?」
徹「刃様曰く、カヤクという物らしい」
越「カヤク?」
徹「あのような爆発を起こす事ができる物のようだ」
越「マジかよ・・。下手したらまたアレ(爆発)が来るのか?」
徹「用心して進めば大丈夫だろう。カヤクは誰かが火を付けなければ爆発しないらしいからな」
越「しゃーねぇな、なら慎重に進むか・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
罠を警戒しながら進む五胡の軍勢。
徹「(ん?)」
突如ある異変に気付く。
徹「(風向きが変わったか・・)」
突如風向きが追い風から向かい風になった。その直後、五胡軍に異変が起こる。
「ゴホッゴホッ・・」
「うぐっ・・」
前方の兵が咳き込み、ある者は胸を押さえ始めた。
徹「これは・・! 皆急いで口を布で覆うんだ、急げ!」
越「姉さん! これは・・!」
徹「奴ら、風に乗せて毒の煙を流している!」
越「なっ!? だから急に兵達が・・。」
徹「先の爆発といい、とんでもない策を・・」
ヒュンヒュンヒュン・・・。
風切り音が響く。
「ぐふっ!」
「がはっ!」
突如、矢の雨が襲う。
越「ちっ! 敵襲か!?」
徹「やはり、この機は逃さんか・・。狼狽えるな! 即座に迎え撃つぞ!」
指示を飛ばすと兵達は即座に態勢を整える。
徹「どうやら、一筋縄ではいかないようだな・・」
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紫苑side
紫「ふぅ・・」
奇襲が成功し、一息付く。
桔「・・・」
紫「あら桔梗・・。どうかしたの?」
桔「むっ? ・・いやなに、風向きが変わった所で毒草を燃やし、毒の煙を風に流し、不調を訴えた所で奇襲をかける。有効なのは理解出来るが・・」
紫「あまり気が乗らない?」
桔「儂とて、正々堂々と戦う事が戦だとは言わぬが、やはり儂には性に合わぬな」
紫「気持ちは分かるけど、これは作戦の1つよ。・・それに、ご主人様もおっしゃっていたでしょ? 乱世に正義無しって」
桔「・・・」
紫「剣や槍で殺めようが、毒で殺めようが人殺しには変わりない。乱世に身を投じている限り、皆悪。・・私はその通りだと思うわ」
桔「紫苑。お主はお館様や桃香様が悪だと?」
紫「・・分からないわ。でも、悪であろうと聖人であろうと、乱世を治めてくれるならそれで構わないし、ご主人様や桃香様がその存在であると信じているわ」
桔「そうか・・うむ、そうじゃな。ふぅ、いささか儂は潔癖が過ぎたようじゃな」
紫「それで良いのよ。非道の策に疑問を持たなくなったら、本当に非道に落ちるわ。・・頃合いね、退きましょう」
桔「うむ! ・・皆退くぞ!」
「「「「応っ!」」」」
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麗羽side
水関を防衛に当たっていた詠さん達が戻ってきた。成果はあまり芳しくなかったようですが・・。
水関防衛の皆様と合流してしばらく待つと、遂にやって来ましたわ。五胡の大軍勢が・・。
麗「あれが五胡の軍勢・・」
ある程度は削れたと聞いていましたが、まだあれだけの数が・・。
猪「どしたの麗羽様? もしかして怖い?」
麗「・・それも少しありますわ。けど・・」
猪「けど?」
麗「以前、わたくしはあちら側でしたのね」
斗「麗羽様・・」
以前、自身の欲と嫉妬にかられて月さんを陥れた時、わたくしはあちら側だった。
麗「わたくしが言えた義理ではありませんが、腹立だしいですわ。わたくし達の大切なものを奪おうとするあの方達が・・」
想「・・・」
星「無論、気持ちは皆同じだ」
詠「その通りよ。・・守るわよ。ボク達の大切なものを」
麗「ええ。もちろんですわ!」
守りますわ。わたくしのため、何より皆さんのために・・。
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詠side
詠「くっ! やっぱり水関と同じ展開になったわね」
水関の時と同じく、敵は一気呵成に攻撃を仕掛けて来てる。全く、爆発であれだけ被害を出したっていうのに向こうに恐怖というものがないのかしら?
想「どうする? これでは水関同様、あまり時が稼げぬぞ?」
・・確かにね。こうなったら仕方ない・・、危険だけど・・。
詠「星、次の攻撃が止んだら隊を率いて敵に一当てしてきて」
星「出撃は無駄なのではなかったのか?」
詠「被害を与える意味ではね。このままでは時間が稼げないわ。危険だけど、こちらが一度打ってでれば少しは向こうの足を止められるかもしれないわ」
星「承知した。ならばすぐに準備をしよう」
詠「・・分かってるとは思うけど、変な色気を出さないでね。状況が状況だから深入りし過ぎたらこちらも救援には向かえないわ」
星「分かっている。ならば行くぞ」
星が関を降りていった。
詠「頼むわよ・・」
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星side
星「皆行くぞ! 我に続けー!」
「「「「応っー!」」」」
私は騎馬隊を率いて関を飛び出し、敵へと突進した。
星「邪魔だ!」
私は槍を振るい、敵兵を薙ぎ倒す。
ふむ、敵はこちらの行動が予想外だったと見える。かなり浮き足立っている。
星「よし! このまま押しきるぞ!」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
私の隊は勢いそのままに敵を切り裂いていく。
頃合いか・・。
星「このまま転進、虎牢関に帰還するぞ!」
指示を飛ばし、方向転換すると、一目散に虎牢関へと向かう。
星「これで少しは相手の動きが鈍れば良いが・・・っ!?」
突如私の身体に寒気が襲う。
?「おらぁぁっ!」
ふと見上げると、なにやら人影が目に写った。
星「くっ!」
ブォン!!!
馬上の回避は間に合わないと判断し、咄嗟に馬から飛び降りた。鋭い斬撃が私の髪を数本落とす。
?「よく避けたな」
振り返ると、髪を2つ結い、短槍と大きな盾を携えた女性が立っていた。
こやつ、周りの兵達とは違い仮面を付けていない・・。確か主は五胡の将と呼ばれる者は仮面を外すと言っていたな。ならばこやつが・・。
星「我が名は趙子龍。貴公の名を伺おう」
越「俺は五の将、越吉だ!」
やはりか・・。
星「将自らお出迎えとは恐れ入る」
私は槍を構える。
越「やっと大物と会えたぜ。・・さあ、殺ろうぜ!」
星「しからば、参る!」
私は龍牙を越吉に振るった。
ガキン!!!
手に持った盾で阻まれる。
星「ちっ! まだまだ! はいはい、はいーっ!」
再び龍牙を振るう。今度は手数を増やし、連続の突きの嵐を見舞う。
ガキン! ガキン! ガキン! ガキン! ガキン!
が、しかし、その全てを盾に阻まれてしまう。
越「無駄無駄無駄ーっ!」
私の龍牙を盾で払い、短槍の斬撃を私に浴びせる。
星「くっ・・そ・・」
私は上体を後ろに反らし、間一髪短槍を避けると、後ろへ飛ぶ。
星「ふぅ・・」
今のは危なかった。それにしても、あの盾は厄介だな。私の一撃が全て阻まれてしまう。大振りをすれば払われ、そこを狙われる。・・全く、良くできている。
越「おいおい、この国の将はこの程度か!?」
星「ちっ!」
言ってくれるな。が、しかし、私と相性が悪いのも事実だ。はてさて、どうしたものか・・。
越「来ないならこっちから行くぜーっ!」
越吉が私に遅いかかった。
星「舐めるな!」
私も龍牙を構えて迎え撃つ。
ガキン! ガキン!
やはり盾に龍牙が阻まれる。
越「無駄だって言ってるだろうーっ!」
私の一撃を払い除け、短槍を突き入れる。
ま、ずい・・。
今度は体勢が悪い。短槍は確実に私の胸目掛けて襲いかかってくる。私が身構えると・・。
ドコーン!!!
私と越吉の間に号音が鳴り響く。
?「間一髪だな。」
星「想華か!? 何故ここに・・」
そこには想華の姿があった。
想「救援に来た。と言っても少数で、だがな」
星「すまない、世話をかけた」
越「んだよ、邪魔しやがって」
想「こやつは?」
星「五胡の将だ」
想「やはりか。・・が、今は退くぞ」
星「・・そうだな」
やむを得ん、このままでは孤立してしまう。
越「おいおい、勝手に話決めんな・・」
想「ふん!」
想華が越吉に戦斧を振るった。
ガキン!!!
越「へっ! 無駄だ・・っ!?」
想「おぉぉぉぉーーーっ!」
想華は盾で防がれるのもお構い無しに力任せに戦斧を振り抜いた。
ガギィン!!!
越「ぐおっ!」
越吉は後方に弾き飛ばされる。
想「今のうちに退くぞ」
星「う、うむ」
でたらめな力だな。だが助かった。今のうちに撤退しよう。
越「おい! 待ちやが・・うおっ!」
越吉が体勢を整え、再度突撃しようとした瞬間に想華の隊が矢を一斉掃射した。私達はその間に撤退した。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
無事に撤退を果たした私と想華と趙雲隊。
星「あれが五胡の将か・・」
想「かなりの手練れだったな」
星「ああ。あの気当たり、恋と遜色なかった」
想「私も不意を付いたから何とか・・」
星「五の将。あれより強いのがあと4人。そしてその頂点にいる刃は主以上。・・全く、厳しいものだな」
想「それでも我らは勝たねばならぬ。この国を守るためにな」
星「無論だ」
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詠side
星達は無事に帰ってきた。さっきの出撃の効果があったのか、僅かの間だけど敵の勢いが弱まった。けどそれも本当に僅かな間だけ。依然として敵は数にものを言わせて攻め立てて来る。以前の連合の時の麗羽と違って相手は質も数も違うし、昼夜問わずに攻めて来るからこっちの士気はどんどん落ちてくる。
詠「限界ね・・。皆、撤退するわ」
星「潮時か・・」
想「だがどう退く? 火薬はもう無いのだろう?」
詠「大丈夫よ。火薬はもう無いけど、向こうは水関で火薬の恐ろしさを目の当たりにしてる。前と同じように退いてみせれば強引には来れないはずよ」
白「それもそうか。なら私が準備を進めておく」
詠「お願い。本隊に伝令を出すのも忘れないで」
白「分かってるよ」
予定より足止めは出来なかったけど、後は洛陽での決戦で決着をつけるしかないわね。
ボク達は敵の攻撃が入れ替わる合間を縫って蜀本隊のいる洛陽へと撤退した。
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昴side
昴「虎牢関を撤退したか」
先ほど伝令が戻り、水関と虎牢関の防衛を終えて撤退するとの伝令が来た。当初の予定より早いが、一応は想定内だ。防衛に当たっていた将も特に負傷した者はいないらしい。
昴「ここからか・・」
本番はここからだ。この後の戦で全てが決まる。何としても勝たなければ・・。
昴「こっちは予定通り。華琳、雪蓮そっちはどうなってる?」
俺は同じく戦っている盟友に身を案じながら決戦の日を待った。
続く