小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 正直に言うと何が起きたのか僕にはまるで分らなかった。
 稼津斗君の力が異常に高まっていったところまでは理解が出来た。
 その場に現われた時点で稼津斗君は既に姿が変わっていたようにも思う。

 でも次の瞬間…轟音が辺りに鳴り響き強大な力が弾けた。

 落雷かとも思ったが空には雲一つ無い。
 雷属性の魔法かとも考えたが其れも違う。

 発生源は稼津斗君が居た場所。

 でもその場に居たのは僕の知っている稼津斗君じゃなかった。

 銀の稲妻と闘気を纏った『闘いの神』が夜空に威風堂々と浮かんでいた…





 ――麻帆良学園魔法教師・瀬流彦の報告書より抜粋









 ネギま Story Of XX 15時間目
 『決着、京都大決戦!』









 落雷の如き轟音と圧倒的な闘気に誰もが闘いの手を止めて其の発生源を見つめていた。


 「これ、決まったんと違う?」
 「あぁ…決まったな。」
 「てか何すかアレ?XXより凄くない?」
 「私達も初めて見るよ。」
 「『XX銀装』だそうです。」
 「本気の本気…稼津兄、京都壊さないでよ?」

 妖魔の殲滅に当たっていた裕奈達は勿論、

 「なぁ、ワシ等もう駄目なんと違うか?」
 「せやなぁ…こんなおぼこい嬢ちゃん達に敵わんのやったら…」
 「あの兄ちゃんに勝てるはず無いがな。」

 召喚された鬼達ですらである。






 又別の場所では、

 「な、何やあの兄ちゃん!?ありえへんぞあの『気』のでかさは!!」
 「天下無敵の最強戦士、その全力モードにござる。」
 ――何れは拙者もあの高みに!!


 小太郎が驚き、楓は更なる修練を誓い、


 「な、なんですかあの非常識極まりない存在は?」

 ちょっと離れていた場所で見ていた夕映は己の目を疑っていた。
 因みにアレは貴女の副担任です。








 ――――――








 そして此方は祭壇へと通じる桟橋。
 合流後、エヴァの指示で此の場所までネギ達は後退していた。
 木之香を奪還した刹那も勿論一緒である。

 「稼津斗め、此処までの力を秘めていたとはな。茶々丸、奴の攻撃力はどれくらいか分るか?」

 「計測不能です。ですが暫定数値で通常時の150倍まで攻撃力が跳ね上がっていると思われます。
  少々スピードが落ちているようですが、あの巨体が相手ならば問題ないレベルです。」

 茶々丸の口から発せられた数値に誰もが耳を疑う。
 出鱈目にも程が有る。

 「「「「ひゃ、150倍!?」」」」
 「はぁ〜カッちゃん凄いなぁ…」

 約1名ずれていたが…

 「私の出番は無さそうだな。其れは兎も角としてだ…ぼーや、このかと仮契約(パクティオー)をしろ。」

 「え?」
 「ぱくてぃお〜って何?」

 唐突である。

 「このかは間違い無く治癒系統の力を有している。アーティファクトも其れ系が出るだろう。其れで腕を治して貰え。
  大量出血だけでなく、筋肉と神経が逝かれて指1本碌に動かせないだろう?早くしないと手遅れになるぞ?」

 「そ、其れヤバイやん!ネギ君ウチとぱくてぃお〜しよ?其れで直るんやろ!?」
 「で、でも…」
 「護られてるだけなんて嫌や!!ウチも護りたい!!」

 強い木乃香の意志。
 此処まで言われてはネギとて断れない。

 「…刹那さん。」
 「お嬢様…このちゃんが決めたことならば私がとやかく言うことはありませんよ。」

 木乃香がネギの従者になるのはこれでほぼ確定。
 で、其れを推進したエヴァは…

 「それにしても…」

 スクナを見やり…

 「運が無かったなぁ女?貴様は触れてしまったのだ…天下無敵の絶対強者の逆鱗にな!!」

 そう言い放った顔には偶に浮かべる悪役の笑みとは違う純粋な笑みが浮かんでいた。








 ――――――








 ――な、何なんや此れは!!?


 スクナの肩に乗りながらしずるは恐怖を感じていた。


 自分は封印されていた『リョウメンスクナ』を解放した。
 奪還された木乃香もスクナの力を使えば簡単に取り戻せると思っていた。

 だが…だが、目の前の存在は一体何だ?
 銀の稲妻と炎を纏い、冷たい氷の海を思わせる鋭い蒼の双眸が此方を睨み付けている。

 それから発せられる圧倒的な威圧感の前にはスクナが矮小な存在と感じてしまう。

 理性ではない。
 もっと動物的な本能が告げている…『逃げろ』と、『アレと戦ってはいけない』…と。

 だが、復讐に取り付かれているしずるに本能の警告は届かない。
 何とか恐怖を振り払うと…

 「そ、それが如何したと言うんや!!幾ら何でもスクナに敵うはずあらへん!!」

 同時にスクナが殴りにかかる。
 本来ならば木乃香を失ったことでスクナはしずるの制御下から離れている筈である。
 しかし、しずるの復讐心は思いの他強く、結果として其の強い『憎悪』の念にスクナは突き動かされた形となる。

 「阿呆が…蒼月!!」

 迫る巨大な拳に対して、稼津斗は其の腕から真空波――蒼月を放つ。
 更に着弾を待たずに

 「蒼月・連弾!!」

 連続発射!
 両腕のみならず足からも繰り出された無数の蒼月がスクナに襲い掛かり着弾と同時に粉塵が上がる。
 其の衝撃だけで相当な物だ。

 「以外に頑丈だな。流石は飛騨の大鬼神と言ったところか…。」

 粉塵が治まり、現れたスクナを見やり、呟く。
 此れだけを聞くとスクナの防御力に感心しているように聴こえるが実際はそうではない。

 無数の蒼月を喰らったスクナは酷い有様だ。
 繰り出した拳は吹き飛び、蒼月が着弾した場所は大きな裂傷が出来ている。
 スクナの巨体に『大きな』裂傷を刻んだ蒼月の威力は押して知るべきだろう。

 「俄ァァァァァァァァ!!」

 それでも咆哮を上げ巨体は再び殴りかかってくる。
 今度は迎撃こそされ無かったが、稼津斗の姿が消えた。

 「其の巨体…相手の力量の方が上の場合は唯の的と知れ。」

 死角からの蹴りに巨体が揺らぐ。
 そして次の瞬間には丁度スクナの腹部の辺りへと移動し…

 「波導掌!」

 必殺の掌底に、今度はスクナの巨体が僅かに浮き上がる。
 其れを皮切りに一気にラッシュが始まる。

 「セァ!!覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 繰り出される無数の拳打と掌打と蹴りの嵐。
 波導掌で持ち上げられた巨体がドンドン宙に浮いていく。
 60mを超える巨体が宙に浮いていくというのは何とも凄まじい光景だ。

 「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 それでもラッシュは止まらない。
 スクナの身体は完全に宙に浮き稼津斗がラッシュを止め離脱したならば地面に落下するだろう。
 此の時点で既にしずるはスクナから振り落とされている。



 「…稼津さん何処まで行くんやろうか?」
 「このままだと成層圏まで達しそうな勢いさね…」

 ネギ達に合流した亜子達の意見はまぁ尤もだろう。
 尚木乃香とネギの仮契約は完了し、右腕の治癒は終わりのどかの展開した治癒結界『無限の慈愛』内で回復中。

 「せやけど、アノ巨体はパンチや蹴りだけじゃ倒せへんぞ?如何するつもりやねん?」

 「いやいやアノ猛攻は布石に過ぎぬでござる。」
 「だろうね…となると止めの一撃は…」
 「アレっすね♪」

 流石は従者、其の決着は既に予想していたり。



 彼女達の予想は勿論現実になる。



 「そろそろ終わりだ。」

 決着宣言。
 稼津斗がこう言った以上、其れは絶対。
 例え相手が大鬼神であろうと其れは例外ではない。

 「落ちろ!!」

 ラッシュの〆は一瞬で背後に回っての一撃。
 両手を確りと組んだ所謂『アックスパンチ』『ハンドルパンチ』と呼ばれる攻撃で浮き上がったスクナの巨体は今度は逆に地面目掛けて一直線。




 「ちょ、何でこっちに飛ばすの〜〜!?」
 「に、逃げないと潰されてしまいますわ!!」

 巨体の落下地点には明日菜達が!
 だが、矢張り此の御方は慌てない。

 「慌てるな馬鹿者!奴が何も考えずに此方に落とす筈無かろうが!!」

 それに呼応する様に上空で気を集中させていた稼津斗の姿が掻き消え、一瞬でネギ達の目の前に現れる。

 「完全に消えてしまえリョウメンスクナ!虚空…裂風穿!!」

 放たれた銀色の閃光。
 其れは一筋の光(と言うには余りにも巨大だが)を京都の夜空に描き出し落下中のスクナを直撃する。

 最早抗う術など無い。
 一瞬でスクナの巨体は閃光に飲まれ消滅する。
 封印を解かれた大鬼神は、有ろう事か立った1人の男の手でこの世から完全に姿を消したのだった。

 「鬼は鬼らしく地獄で眠っているんだな…さて、お前達は如何する?」

 スクナを消し去り、気を少しばかり抑え通常のXXの状態に戻りながら周囲に集まってきた妖魔達に声を掛ける。
 もし戦うというのなら相手にするつもりでは有るのだが…

 「いやいや止めとこ。」
 「アレが倒されたんじゃワシ等じゃ勝てんがな。」
 「ちゅーよりも元々が雇われ兵みたいなもんやからの〜。」
 「雇い主居なけりゃ其処までよ。」

 「そうか…」

 「ケケケ其処の嬢ちゃん達もえぇ女子になるで。」
 「今度会うたら一杯やろうや。」

 妖魔達は其の姿を徐々に消して行く。
 木乃香からの魔力提供が無くなり、スクナが消え召喚主であるしずるからの命令も無い。
 ならば彼等にすることは無い、再び召喚されるまで(妖魔にとっては)愉快な地獄で過ごすだけだ。

 「ほな、何れ又会おうや。」

 最後の1体がそう言って其の姿を消す。

 「地獄の銘酒でも持ってくるつもりでござるかな?」
 「一応まだ未成年なんだがな。」

 「敵意が無く現れたら付き合ってやれば良い。さてと…」

 妖魔の消滅を確認した稼津斗はネギの居る方に目を向ける。
 其の視線に絶対零度の殺気を込めながら…!

 「出て来い…居るのは分っている。」

 見つめた先から返事は無い、代わりにネギとのどかに向かって石の槍が!

 「!!」
 「ぜ、絶気障!!」

 一瞬の事だがのどかは防御壁を張って槍を防ぐ。
 其れと同時に稼津斗は槍を放った人物を捕まえる。

 「矢張りお前か…」

 腕を掴まれているのはアノ白髪の少年。
 死角からの一撃で奇襲を狙ったらしい。

 「気付いていたの?」

 「分らないと思ったのか?お前の薄汚い闘気と殺気はずっと感じていた…其れに致命傷レベルの一撃をのどかとネギに放ったな?
  貴様…覚悟は出来ているな?…尤も出来て無くても関係無いがな!」

 少年の腕を掴んでいる手に更に力を込め逃げられないようにしながら空いている左手に有りっ丈の気を集中させる。
 其の力で左手の周りに火花放電が発生している。

 「一度死に至る程のダメージを受けてみろ。生きている事の素晴らしさを実感させてくれるぞ?」

 そのまま一歩踏み込み…

 「無闇神楽!!!」

 波導掌に酷似した、しかし比べ物にならない威力を持った一撃が炸裂する。
 高められた気とともに撃ちつけられた掌打からは火花放電と発火が起こり夜の闇を照らす程の閃光を発生させる。

 「!!?」

 逃げることも出来ず少年の身体は紅蓮の炎に包まれ水面をバウンドしながら吹き飛んでいった。

 「尤も人形じゃ命の重みなど分らないだろうがな…」

 腕を振り、纏わり付いていた炎を払い??状態を解除する。

 「後始末は必要だろうが取りあえずは此れで良しか…皆ご苦労様、ネギも良く頑張ったな。」

 身体を屈め視線の高さをネギと合わせ其の頭を撫でる。

 「カヅト…でも僕は…」

 「スクナを止められなかったか?…いや、お前は良くやった。アノ巨体を前にして引かずに立ち向かった、右腕を犠牲にしてもな。
  確かにスクナを止めるのは至らなかったがお前は諦めなかった…それだけで充分だ。」

 静かに語る其の眼差しは優しい。
 だからこそ響く。

 「如何に才能があろうともお前は未だ10歳、子供なんだ。全て己の手でケリを付ける事等不可能だ。
  其れをフォローする為に神楽坂や雪広、桜咲に近衛嬢と言った従者が居るんだ…そして最高の師匠もな。」

 「カヅト…」

 「才能に甘んじることなく努力を続けてるんだ…何時か其れは実を結ぶ。努力のみで此処まで来た俺が言うんだ間違い無いさ。
  其れに、最高の好敵手も出来たみたいだからな。」

 そう言って小太郎を見やる。

 「そうやでネギ!此の前は負けたけど今度は勝つからな!覚悟しとけや!!」

 「小太郎君…ぼ、僕だって負けないよ!!」

 小太郎の宣言にネギも応える。
 其処にさっきまでの悩んだ表情は無い…稼津斗の思惑通りといったところだろう。

 「ネギはこれで良し。和美、あいつの…天ヶ崎しずるの行方は分るか?」

 「そう来ると思って既にアーティファクトで追跡済みさ。此処から約1.5km離れた林の中を逃走中さね。」

 「流石に仕事が早い…クスハ、真名、楓『後始末』だ。付いてきてくれ。」

 「了解だ。」
 「オッケー♪」
 「御意でござる。」

 更に

 「私も行こう。其方の方が雰囲気が出るだろう?」

 エヴァも同行…しずるに逃げ道は完全に絶たれた。

 「えっと稼津斗先生とキティは何を?」
 「今回の黒幕に確保っすね。」
 「…あのお兄さんなら簡単やろ。合掌やで叔母はん…」








 ――――――








 少し離れた高台の一角で…


 「…分身を通して此処までのダメージとはね…」

 白髪の少年が呟いていた。

 「あらまぁフェイトはん…結構やられましたなぁ?」

 「月詠さんか…うん、彼の氷薙稼津斗の強さは僕の予想以上だ。ネギ君も意外に出来るようだし…」

 「其れは又…」

 「さて、もう行こう。これ以上此処に居るのは得策じゃないしね。」

 「そうですな〜。」

 次の瞬間2人の姿は闇へ消える。
 後には木々の静寂が残るのみだった…








 ――――――








 さて、スクナが倒されたしずるはと言うと…


 ――予想外や!氷薙稼津斗…スクナ以上の化け物やないか!せやけど未だ終わりやない。一時身を隠して必ず…!


 林の中を逃げつつ、全く懲りていなかった。
 ほとぼりが冷めたら又何かしらの事を起こすつもりなのだろう。


 だが、そうは行かない。


 「一つ問おう…貴様は『悪』か?」

 「!!?」

 唐突に聞こえてきた声。
 姿は見えない。

 「だ、誰や!?」

 「相手の事を考えず、己の欲望を満たす…其れが悪だ。
  だがしかし超一流の悪ならば何れ更なる力に倒される覚悟をしているもの…貴様に其れが有るか?」

 同時に氷塊が当たるか当たらないかの場所に降り注ぐ。

 「のわぁぁぁ!」

 吹き飛ばされそれでも態勢を立て直して逃走を続けようとするが声は更に続く

 「尤も己の力ではなく他者の力を利用した時点で三流だと思うけどね。」
 「いやいや…ただの三流以下。己の力を過信した愚者に過ぎぬでござる。」
 「其れで此の大騒ぎ。眠ってた大鬼まで目覚めさせて…許さないよ?」

 今度は又別の声。
 降り注ぐ無数の黒い炎と魔力弾、そして苦無。
 何れも直撃しない程度に放たれている。

 姿なき声と何処から来るか分らない攻撃に恐怖は高まる。

 「総本山への反逆…失敗したらどうなるか分っていた筈だろ?」

 「此の声は…!?」

 最後までは言えなかった。
 何故なら背後から首を掴まれて宙吊りにされてしまったのだから。

 「う、ウチを殺すんか?せ、正義の魔法使いがそない「勘違いするなよ女。」…ひぃ!?」

 暗闇から現れたエヴァ…実に雰囲気たっぷりである。

 「少なくとも私は正義の魔法使いなんかじゃない…最強最大の悪の魔法使いさ。」

 「半魔族の私も正義とは言いがたいな。」
 「忍者もどちらかと言えば裏家業にござるからなぁ?」
 「妖狐って結構悪名高い妖怪みたいだし?」

 真名、楓、クスハもその姿を現す。
 逃げ場無し。

 「地獄で反省すると良い…」

 「あ、あ、た、助け…」

 其処で意識が切れた。
 稼津斗が首を掴んでいた手に力を込めて絞めたのだ。

 「殺ったのかい稼津斗にぃ?」

 「いや、頚動脈を絞めて落しただけだ。」

 「殺す価値も無い、か。」

 「で、クスハ殿は何をしてるでござる?」

 「折角だから『最高の夢』でも見てもらおうかと思ってね〜幻術って妖狐の十八番だし。」

 要するに落ちたしずるに『悪夢』を見せると言うことなのだろう。

 「此れで少なくとも今回の騒動は終了…事後の処理は総本山の人間に任せるか。」

 「石化の解除は?」

 「のどかと亜子、近衛嬢が居れば出来る。さて、戻ろう。」
 「だな。」


 スクナを倒ししずるは確保。
 京都の一件は此れにて終了。


 翌日、石化を解除された呪術協会の人間が発見した際、天ヶ崎しずるは簀巻き状態で木に吊るされなにやらうなされていたらしい。





















  To Be Continued… 

-15-
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