小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 天気は雨、其の中を傘を差して帰宅の路に付く女生徒が2人。
 片やそばかすが可愛いショートカットの少女『村上夏美』
 もう1人はウェーブの掛かったロングヘアーが印象的な落ち着いた雰囲気の少女『那波千鶴』

 寮で同室の彼女達は一緒に行動することも多い。
 そんな中…

 「アレ?犬?」
 「まぁ、怪我をしているわね…」

 道の片隅に倒れ伏している1匹の黒い犬を見つける。

 「ちょ、ちづ姉汚いよ!?」
 「でも、放ってはおけないでしょう?」

 其の犬を保護する千鶴。
 それに夏美が反抗する事など出来ない訳で…


 だが、この時は予想すらしていなかっただろう。

 この黒犬を拾った事で、自分達の身に危険が迫るであろうと言う事には…









 ネギま Story Of XX 19時間目
 『嵐の前は既に雨!』









 今日も今日とて慌しい1日を過ごした稼津斗とネギ。

 で、此処は稼津斗の自宅の一室。

 「……降りが強くなってきたな。」
 「大雨…雷雨かな?酷ければ嵐になりそうな感じだね。」

 何とは無しに漏れた呟きに、真名が銃の手入れをしながら応える。
 本日この場には稼津斗の従者が全員集合している。

 「嵐ね、只の雨で終わってくれるといいんだが…時に今日は泊まるつもりなのか?」

 全員頷く。
 最近、1週間のうち3日は稼津斗の家に泊まる事が多いクスハ以外の6人。
 まぁ、彼女達が泊まる日は出来合いの惣菜&弁当以外の物が食べられるので稼津斗としても不満は無い。
 と、言うかある意味相思相愛な状態の稼津斗達故不満などあるはずも無い。


 「アコ〜ご飯まだ〜」
 「もうちょっと待っててや。クスハにはちゃ〜んとお揚げ用意しとるから。」
 「わ〜い♪」



 「だからさ、此処はこの公式を代入して…」
 「成程、和美殿の教え方は巧いでござるなぁ。」



 「広域超射程の攻撃魔砲で『星光の破砕者(スターライト・ブレイカー)』ってのは如何かな?」
 「流石に色々と問題がある気がします。主に技名が。」


 皆、思い思いに過ごす。
 …裕奈よ少し自重しようか?








 ――――――








 ――うっひゃ〜良く食べるな〜。


 目の前の光景に夏美は呆れていた。

 出された料理を次々とたいらげているのは自分と千鶴が保護した黒犬…だった少年。
 連れ帰ってすぐに今の姿に変身し、其の直後にはちょいと一悶着あったのだが、千鶴のおかげで其れは沈静。

 直後に気を失った少年は目覚めて、今に至る。

 「美味いわ〜。ほんとサンキュな。」

 「すっごい回復力。もう熱下がってるよ?」
 「よかった。ドンドン食べてね?」

 「うん!おかわり。」

 「はいどうぞ。それで名前以外のことは思い出せた、小太郎君?」

 「あ〜…スマン。なんか頭が霧かかったみたいになっとって…アカン、全く思い出せん。」

 そう、この少年――小太郎は記憶喪失と言うか、一時的な記憶障害を起こしており自分の名前以外は分らない状態。
 何か大事な用事が有った事は覚えているようなのだが、其れもはっきりとしない。

 「ふふ、良いのよ。何か思い出すまで此処でゆっくりしていけば良いわ。訳ありみたいだから誰にも連絡しないし。」
 「…おおきに。お言葉に甘えて、そうさせてもらうわ…」

 小太郎はしばしこの部屋に滞在する事となる。








 ――――――








 「ねぇ、アイツ少し頑張りすぎじゃない?」
 「そやなぁ…このままだと何時か倒れてまうで?」

 エヴァの『別荘』で修行を終えた明日菜達は寮に戻るなり、足早に部屋へ向かったネギを見て洩らす。

 「修行量と成長値が比例してるとは言え、ちとやりすぎアルかな…」
 「教師としての仕事に、自身の修行…年齢を考えたらちょっとどころか、明らかにオーバーワークです。」

 「ネギ君、少し頑張りすぎる性格やからな〜…」
 「其の性格もネギ先生の過去を知った後でしたら、納得してしまいますわ…」

 どうにも最近のネギは頑張りすぎる部分がある。
 どれ位かと言えば『アノ』エヴァが見かねて戦闘訓練を中止し、当分は『魔力を上げる為の精神修行(要するに禅)』を言い渡したほどだ。

 「考えてみれば、あいつって近所のワルガキ、てか同い年の子供とやんちゃしたり遊んだりしてて良い歳なのよね…」
 「そうですね…稼津斗先生が『良いお兄さん』といった感じですが、他は年上の異性ばかりですからね…」
 「同い年の友人でも居れば良いのですが…此ればかりは如何にも成りませんわ。」

 結局の所、現状ではネギが『やり過ぎない』様に周りがフォローしていくしかないのだろう。


 「ま、私達で出来ることしてくしかないか。…でさ、いいんちょ、頼みがあるんだけど…」

 「?何ですの?」

 「べ、勉強教えてくんない?」
 「はぁ…仕方ないですわね…」


 この時、このやり取りを見ていた者が天井裏に潜んでいる事には誰も気付いていなかった。








 ――――――








 ――同刻・稼津斗の家



 夕食も終わって、一息入れていた時其れは来た。


 ――…!この気配は…上級の悪魔か!?それ以外にも…


 突如現れた強大な気配を察知する。
 無論其れは皆が感じ取ったわけで、


 「稼津君!」
 「稼津兄!」
 「稼津さん!」
 「稼津斗にぃ!」
 「稼津斗殿!」
 「稼津斗さん!」
 「カヅト!」


 「あぁ、侵入者だ。其れもかなり強い上に複数だ。」

 それだけ分れば十分だ。
 即座に指示を出す。

 「上級の悪魔は結構居るが所謂『伯爵級』は1体だ、そっちは俺が行く。残りは寮の方に召喚されてる。
  のどか、瞬間移動…無影・月詠は使えるな?」

 「はい。覚えてます!」

 「なら話は早い。皆はのどかの瞬間移動で寮の方を頼む。クスハ、お前もそっちに行ってくれ。」

 「「「「「「了解!」」」」」」
 「任せて!」

 「じゃあ行きます!『無影・月詠』!」

 一瞬にしてのどか達はその場から消える。
 今は既に寮に着いているだろう。

 「さてと……見つけた。」

 気を探り、相手を見つけた稼津斗もその場から消えた。








 ――――――








 「どうかね?」

 ――見つけたぜ。学園の近くで返り討ちにした奴だ。
 ――一時的な記憶喪失ですね。今なら苦戦する事はないです。

 「よろしい。君達は作戦通りに。くれぐれもハイデイライトウォーカーに気付かれんようにな。」

 ――ラジャ


 降りしきる雨の中、傘も差さずに何者かと交信しているコートを纏った白髪白髭の男。
 一見すると老紳士といった感じだが明らかに雰囲気が普通ではない。

 「やれやれ…では始めるか…」
 「出来れば『何』を始めるのか教えてもらえないか?」

 「!?」
 「如何やらお前が頭のようだな。其の力、隠しきれて居ないぞ?」

 突然目の前に現れた稼津斗に老紳士は驚く。
 全く気配を感じさせず、文字通り『突然』現れたのだから無理も無いが。

 「自分では抑えていたつもりなのだがね…」

 「否、実際抑えられていた。だが、俺には無意味だ。最近の修行の甲斐があって索敵範囲が半径3kmまでに拡大したんでな。
  其の範囲に入った者は、例え気や魔力を抑えていようとまるで無意味だ。」

 「恐るべき能力だな其れは。……成程、君が噂に聞く『漆黒の格闘士』氷薙稼津斗君か。」

 老紳士は合点がいったように納得し、そして稼津斗を見やる。
 闘気の中に僅かばかりの殺気を込めた目で。

 「そんな二つ名があったのか?あまり目立った事はしていないと思うんだがな…」

 「無自覚かね?君が赴任して以来、この地に侵入して戻ってきた妖魔の類は居ないと聞いているのだが?」

 「降りかかる火の粉を払っただけだ。…だが、其れを知って尚俺に挑むのか?」

 老紳士からの僅かな闘気を感じ取り、少しばかり挑発気味に言ってみる。

 「才能の有る若者は好きでね。それに強者を目の前にして血が踊るのは君とて同じだろう?」

 「ふ…否定はしないさ。」

 「そう言えば申し遅れた。私の名はヘルマン。ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵だ。
  尤も伯爵などとは言っても、今は雇われの身の没落貴族だがね。まぁ、覚えておいてくれたまえ。」

 「御叮嚀にどうも…矢張り伯爵級だったか。既にご存知だろうが氷薙稼津斗だ、覚えておいてくれ。」

 瞬間、臨戦態勢。
 ヘルマンはスタンスをやや広めに取り、胸の前で拳を構えた拳闘の構え。
 逆に稼津斗は、構えらしい構えは取らず、無駄な力を抜いた自然体。

 「……」
 「……」

 しばしの静寂。
 互いに相手を見たまま動かない。
 そして、

 「………!」
 「―――!」

 同時に地を蹴り、一気に距離をつめる。

 「ムン!」
 「覇!!」

 ヘルマンの拳に対して繰り出された稼津斗の肘打ちが激突する。
 其れを皮切りに凄まじい応酬が始まる。

 「ムン、せい!フアァァ!」
 「フッ、でぁ、覇ぁぁぁ!!」

 無数に繰り出される拳と蹴り。
 だが、互いに攻防一体、1発たりとも直撃を許さない。


 約1分ほど打ち合った所で一旦距離を取る。
 ヘルマンは構えを崩さず、稼津斗も自然体のまま。
 激しい攻防を行っていたにも拘らず2人とも息は乱れていない。


 「ふ…」
 ――一発一発が速くて重い…成程、流石は伯爵級と言ったところか。


 「フム…」
 ――気や魔力を使わずとも此れ程の力とは…大層な二つ名は伊達ではないようだね。


 再び睨み合う両者。
 高められた気と魔力がぶつかり、それだけで大気が震えている。

 だが其処までだった。


 ――伯爵殿、かの少年を誘き出すための準備、すべて整った。


 ヘルマンの仲間の悪魔から通信が入る。


 ――ふむ…ならば予定通り事を進めたまえ。私もすぐにそちらへ向かおう。
 ――…了解。


 「実に残念だがね、本来の目的の方が準備できたのでね、失礼させてもらうよ。」
 「本来の目的……ネギか?それとも魔力完全無効能力をもった神楽坂か?」
 「さて…?だが私の配下によってネギ少年を誘き出す手段は整った。
  彼の仲間の他、何人かの一般人を巻き込んでしまったようだが、其れはいた仕方あるまい。」

 其の言葉に稼津斗の表情が凍る。

 「関係の無い一般人に…只の女子中学生に手を出したのか…?」
 「そうなるかな?だが安心したまえ。彼女達はあくまでネギ少年を誘き出すための、言わば餌。
  僅かに拘束はしても、決して手荒な真似はしないと約束しよう。尤もカグラザカアスナ嬢だけはそうは行かんがね。
  ふむ…納得が行かないかね?ならば世界樹前の舞台まで来たまえ。」

 「良いだろう。頭数を揃えておけ。雑魚ばかりでは話にならん。」

 あえて挑発に乗る。
 この場で無理に叩くよりも、寧ろ用意された場所に出向く方が一気にカタをつけるのなら都合が良い。

 「そうするとしよう。ふふふ、楽しみにしているよ…」

 転移魔法でヘルマンはその場から消える。
 同時に稼津斗は念話で寮の方へ転移した裕奈達に連絡を取る。


 ――状況は如何だ…?

 ――スマナイでござる。僅かばかり遅かった。
 ――私達が着いたと同時に、転移したみたいです。

 ――起きてしまった事は仕方が無い。…被害は?

 ――寮に居たネギ君の従者は全滅。あとゆえ吉とアキラと千雨ちゃんが攫われた。
 ――其れに加えて那波と村上もだな。

 ――5人もか…お前達はまだ寮か?

 ――いや、他にも召喚された悪魔がおる見たいやからそっちに。
 ――好き勝手はさせないよ!

 ――分った。魔法先生や魔法生徒は?

 ――高畑先生と葛葉先生。あとはシスター・シャークティと管理人の巫女さんに高音先輩と愛衣ちゃん。

 ――戦力的には充分か…そっちは任せる。此処に襲撃してきたことを、精々後悔させてやれ。

 ――ふふ、了解だ稼津斗にぃ。


 其処で念話通信を切り、再び気を探る。


 「指定の場所に偽りは無いか。其れとこの気…ネギと一緒居るのは修学旅行の時の…確か小太郎といったか?
  あの時よりも気の絶対量が増えているな…この2人なら、伯爵級が相手でも或いは勝てるかもしれないな。
  だが…………」

 瞬間其の身を銀のオーラが包み込む。
 強化状態『銀閃華』が発動したのだ。


 「無関係な一般人に手を出したことを後悔すると良い。」

 圧倒的な闘気を残し、稼津斗はその場から姿を消した。





















  To Be Continued… 

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桜風に約束を−旅立ちの歌−
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