小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 麻帆良学園都市周辺の山林の一角。
 其処で朝も早くから、戦っている稼津斗と楓。

 「はっ!」

 「甘い!」

 「むぅ…此れも駄目でござるか…」

 「そうでもない。俺じゃなかったら今のでゲーム・オーバーだ。」

 会話から察するに如何やらトレーニングのようだ。









 ネギま Story Of XX 2時間目
 『教師って…マジ?』









 何でこの2人がこんな事をしているのか?
 其れは実に単純。

 簡単な朝食(飯盒炊飯の飯と焚き火で焼いた魚)中に一宿一飯の礼に何かすることは無いかと稼津斗が言った事に始まる。
 此れに楓は少し考え、『稽古をつけて欲しい』と頼んだのだ。

 稼津斗もそんなもので良いのかとは思ったが自分で『何か』と言った手前断ると言う選択肢は無い。
 と言う訳で、10分間の食休みを入れた後、今の状況に成っているのだ。


 「ならば…此れは如何でござる!」

 瞬間、楓の姿が6体に分裂した。
 其れは一見、高速移動による残像とも思えるが…

 『如何でござる?』
 『本物はドレでござろう?』
 『卑怯ともいえない技であるが…』
 『余りに腕が立つゆえ、』
 『使わせてもらうでござるよ。』
 「ニンニン♪」

 6体が其々言葉を発し、自由に動いている。
 残像ではこんなこと不可能だ。

 「ほう…」
 ――気を練って作った分身か…コイツは凄いな。


 稼津斗はその技量に感心する。
 そして、


 「『『『『『覚悟!!』』』』』」


 6人の楓が一斉に攻撃を開始する。
 其れを見て稼津斗は不適に笑い…

 「大したモンだが、それが『気』である以上…覇ぁぁぁ…爆閃衝!」

 膨大な『気』を自身の周りに放出する。
 其れは昨日、異形との戦いで使ったのと同じ。

 放たれた気は分身の楓を巻き込み粉塵を上げる。
 楓は何とか気配を探る物の、

 「!!」

 「チェック・メイトだ。」

 首筋に手刀を当てられ沈黙する。

 「こ、降参でござる。」

 両手を軽く挙げ降参の意を示す。
 本日のトレーニング、此れにて終了。

 「はぁ…拙者もまだまだでござるな。アレは自身有ったんでござるが…」

 「いや、実際大したもんだ。だが『気』で出来ている以上、其れを上回る強さの『気』をぶつけられたら消滅するのは道理だろ?
  尤も、アレだけの密度が有る気の分身を消滅させる事はそうそう出来るもんじゃないけどな…そう思うだろ?」

 言いながら林の中に向かって声を掛ける。
 戦いながらも、周囲に気を張り巡らせていたらしい。

 「バレていたとはね。気配は…」

 「消していても稼津斗殿には無駄でござるよ真名。」

 現れた少女――龍宮真名に楓は返す。

 「無駄?」

 「気配を消していても稼津斗殿は自分の半径1km以内に入ったものは感知できるらしいでござる。」

 「そ、其れは凄いな。…又会ったね。昨日は助かったよ…え〜と…」

 「そう言えば名乗ってなかったな。俺は稼津斗。氷薙稼津斗だ。」

 「私の方こそ名乗っていなかったな。龍宮真名だ。」

 「真名か、いい名前だな。時に…「真名はここで何をしてるでござる?」

 稼津斗が問う前に楓が真名に問う。
 実に狙ったようなタイミングで。

 「彼を連れて来て欲しいと学園長に依頼された。」

 「学園長が?」

 「…学園長って、昨日のあそこは学校の敷地内だってのか?」

 稼津斗は流石に驚く。

 「その通り。もっと厳密に言えばこの山林だって『麻帆良学園都市』の敷地内だ。」

 「ドンだけ広いんだ…」

 己の記憶のと照らし合わせても此れだけ広い敷地面積を誇る学園都市は存在しなかった。
 改めて異世界なのだと痛感させられる。

 「で、その学園長さんが俺に何の用?」

 「其れは私にも知らされてないんだ。出来れば一緒に来てくれないかな、稼津斗さん。」

 「稼津斗さん…ね。」

 「?」
 「如何したでござる?」

 呟く稼津斗に真名も楓も、何事かと思う。

 「いや、『さん』付けで呼ばれる事が無かったんでな。」

 「ならばなんて呼べば…」
 「今まで如何呼ばれていたでござるか?」

 この問いかけに、

 「普通に『稼津斗』他には『カヅ君』『カッちゃん』『カヅ』『ナギ』『アニキ』『ボス』。さぁ、どれにする?」

 記憶に残ってる己の呼称を全て挙げる。
 真名は僅かに考え笑みを浮かべる。
 それは、いたずらっ子が悪戯を考えたときの様な笑顔。

 「なら『稼津斗にぃ』と呼んでも良いかい?」

 其れは勿論冗談で、否定すると思って言ったのだが…

 「新鮮だな…じゃあ其れで。」

 あっさり容認。
 此れに入った真名ばかりでなく楓も唖然。
 よもやこうもあっさり受け入れるとは思わなかったのだろう。

 「さてと、俺の呼び方も決まった所で学園長さんのところへ案内してもらおうか?」

 「あ、あぁ…」

 よっぽど衝撃だったのだろう、真名はそのまま案内を始めてしまう。
 ちゃっかり楓が付いて来ている事には全く気付かぬままに。








 ――――――








 ――麻帆良学園・学園長室



 「うぅむ…君らしからぬミスじゃのう…」

 「弁解のしようもありません…」

 近衛近右衛門は頭を悩ませていた。
 原因は目の前の3人の内の1人。
 真名は自らが『裏』の仕事を依頼しているから問題ない。
 真名が連れてきた青年に関しても問題ない。
 これから仕事を頼むのだから。

 問題はニコニコしている楓。
 近右衛門の知る以上、楓は甲賀の中忍ではあっても『こちら側』ではない。
 故に頭を悩ませているのだが…

 「爺さん、どうせなら楓も俺と同様にしちまえば良いんじゃ無いか?」

 「うむ?」

 「詳しい事は知らないが、昨日の化け物のお仲間達の駆除を俺にさせるつもりなんだろ?
  なら彼女も加えるべきだ。実力は相当な物だぜ?こと、気の扱いに関しては俺以上だ。」

 稼津斗が其れを吹き飛ばす。
 至って単純。
 ばれたなら相応の実力が有る以上、自分と一緒に引き込めと言っているのだ。

 「其れにだ、記憶抹消の魔法は確実じゃないんだぜ?」

 其処にいた誰もが驚く。
 近右衛門も、真名も、居合わせた魔法教師も。
 稼津斗は完全に近右衛門達の行動を読んでいたのだ。
 そんな事は気にもかけずに稼津斗は続ける。

 「『記憶抹消』とは言いながらも本質は『記憶の封印』に近い。完全な抹消じゃない、蓋をするだけだ。強烈にな。
  だからこそ何かの拍子に思い出す事がある。そんなリスクがある術を施すよりもこちら側に引き込んだほうが安全と思うが?」

 此処まで言われては近右衛門としても居は唱える事は出来ない。

 「そうじゃのう。君の言う通りじゃな。すまぬが楓君、此れより君に学園の警備員を頼みたいのじゃが良いかのう?」

 「あいあい、了解でござる。」

 即答する楓に近右衛門と魔法教師は苦笑いを浮かべ溜息を零す。

 「楓君のほうは此れで問題ないかの。さて…悪いが龍宮君と楓君は席を外してくれるかの、彼には別件で話が有るでの。」

 「あいあい。では失礼するでござる。」
 「はい…失礼します。」

 其々一礼し、学園長室から退室した。
 2人が退室したのを確認すると近右衛門は改めて稼津斗に向き直った。

 「それでの…」








 ――――――








 「楓がこっち側に来るとはね。」

 「おや、迷惑でござるか?」

 学園長室を後にした真名と楓はそんな会話をしながら廊下を歩いている。
 この2人、同系統の趣向と悩みを持つ為結構仲が良い。

 「まさか。楓の実力なら問題ないさ。私が気になってるのは…」

 「稼津斗殿の実力でござるな?」

 頷き、肯定の意を示す。

 「正直に言うと楓があそこまで手玉に取られるとは思ってなかった。」

 「上には上が居ると言う事でござるよ。其れに、稼津斗殿はあれでも実力の1割も出していないでござるよ。」

 「何だって!?」

 此れには真名も驚かずには居られない。
 あれほどの力で1割も出していないなど信じろと言うのが無理な話ではあるが。

 「間違いないでござる。稼津斗殿なら1割程度の力で拙者を戦闘不能に出来るでござるよ。」

 「楓が其処まで言うとはね…」

 「ともあれ中々気さくな御仁である故、危険人物には成り得ないと思うでござる。」

 「そうである事を願うよ…ともあれこれからよろしく頼む。」

 「あいあい♪」








 ――――――








 「氷薙稼津斗君と言ったかのう。実は君には警備員以外に頼みたい仕事があるんじゃよ。」

 真名と楓が退室した後近右衛門はこう切り出した。

 「何?」

 それに対して極めて冷静かつ普通に返す稼津斗。

 「うむ、警備員とは別に君には4月から女子中等部で教師をしてもらいたいんじゃよ。」

 「「「「……は?」」」」

 全く予想だにしていなかったのだろう、稼津斗はおろかその場の魔法教師、高畑・T・タカミチ、葛葉刀子、ガンドルフィーニも目が点になる。

 「だから教師じゃよ。来年度の3−Aで副担任をして欲しいんじゃ。ある先生のサポートも含めての。」

 「「「!!!」」」

 「ある先生?」

 学園長の言葉に魔法先生3人は目を見開き、稼津斗はその教師が何者か問い返す。

 「うむネギ君といっての、若干10歳の魔法使いじゃよ。」

 「魔法使い…其れは兎も角、爺さん『労働基準法』って知ってる?」

 「勿論じゃ。」

 「思いっきり違反してるだろ…」

 「とある魔法学校の最終試験の課題なんじゃよ。」

 「其れ、絶対に色々間違ってる。」

 「ほっほっほ。」

 「『ほっほっほ』じゃねぇだろ、この妖怪爺。」

 沈黙。

 「ま、良いけどさ。当ても無いしな。だが、分かってるんだろうが俺は戸籍その他はないぜ?」

 「其れに関しては大丈夫じゃよ。住む場所と戸籍はこちらで用意するでの。他に居る物はあるかの?」

 「取りあえずは教師が出来る位の服或いは其れを買う為の金。後可能なら上等なウォッカか焼酎を所望するね。」

 「うむ、了解じゃ。住む場所は用意できておる。高畑君、案内を頼む。」

 「分かりました。それじゃあ付いて来てくれるかな稼津斗君。」

 「了解だ。」

 意外なほどあっさりと近右衛門の提案を受け入れ稼津斗は新しい住まいに高畑と共に向かっていった。
 そして2人が去った学園長室では…


 「「学園長!!」」

 刀子とガンドルフィーニが近右衛門に詰め寄っていた。

 「如何言う事ですかあんな怪しい男を3−Aの副担任になんて!」

 「ましてやネギ先生に近づけるなど!!」

 「問題あるかの?」

 全く怯む事無く近右衛門は眼光で2人を制する。
 先程までの好々爺の其れとは全く違う『学園長・近衛近右衛門』が其処にいた。

 「彼の実力は真名君のお墨付きじゃよ。其れに彼が邪悪な存在なら、真名君を助けたりましてや楓君に稽古をつけたりする筈が無かろう。」

 「「う…」」

 正論過ぎる言葉に2人はそれ以上の追求が出来なくなる。

 「其れにの…彼はきっとネギ君にとってもプラスになる存在だと思うのじゃよ。」

 視線を窓の外に向け、何処か期待のこもった目で近右衛門は呟いた。








 ――――――








 「俺が教師…ね。」

 高畑に案内されている途中、稼津斗は誰にでもなく呟いた。

 「不安かい?」

 「否。自分で言うのも何だが俺が受け持つのは女子中学生なんだろ?怖がるんじゃないかと思ってさ。」

 指で自分の顔を指差しながら言う。
 指差した部分は、稼津斗の顔で一際目立つ大きな切り傷跡。
 顔の左半分にある其れは、額から目を通って頬にまで達している。
 眼球に損傷が無いのが不思議と言える。
 教師をやることに不安も不満もないが、この傷跡が生徒を怖がらせるんじゃないかと心配しているのだ。

 「それなら大丈夫。僕は今年の3学期まで彼女達の担任をしてたけどね、その傷跡に怯むような子達じゃないよ。」

 「なら良いけどな…」

 「ただ、其れについて色々聞かれる事だけは覚悟しておいた方が良い。」

 「うへぇ…でもま、楽しくなりそうではあるな。」

 視界に捕らえた新たな自分の住処を見据えながら、呟く稼津斗には僅かな笑みが浮かんでいた。
 宇宙最強の教師が誕生した瞬間だった…















  To Be Continued… 

-2-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法先生ネギま!(37) (講談社コミックス)
新品 \440
中古 \1
(参考価格:\440)