小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 ――2日目夜、龍宮神社・回廊



 ――シュンッ


 「ウム、成功♪今のは中々ヤバかたネ。残りの魔力じゃ半日が限界ヨ。まさか未来へ逃げたとは思うまいネ。」

 薄暗い回廊に現われたのは超。
 ガンドルフィーニ達に囲まれたあの状況からの転移は『時間跳躍』であったらしい。
 尤も、3日目までは跳べなかったようだが。

 「さて、此処に居たら誰かに見つかてしまうネ。…まだやる事は有るからネ。」

 そのまま目的を果たさんと、闇に紛れる様に何処かへと姿を消した…










 ネギま Story Of XX 34時間目
 『2日目も盛り沢山!』










 ――2日目昼、カフェテラス


 「よっと、お待たせ…って、アレ稼津兄も着替えたの?」

 「まぁ、0被弾とは行かなかったからな。埃とかで汚れてたし、何より決勝で…」

 「あぁ、水も滴る良い男になっちゃったからね〜♪」

 武道会終了後、報道部を振り切った2人は一旦別れ、着替えてからこのカフェテラスに。

 暫くは警戒していたが如何やら追いかけてくる気配は無い様子。
 おそらくは稼津斗の優勝よりも、10歳で決勝まで来たネギの方が話題性があると考え、ターゲットをそっちに絞ったのだろう。




 さて、司会服のままで会場から離脱した和美は当然として、稼津斗も着替えている。
 大会中の着ていた服は、戦いの最中に所々裂けたり破けたりしていた上、決勝戦では全身ずぶ濡れになったのだから当然では有るが。

 「ふぅん…似合ってるじゃないか。」

 「そうかな?あんがと♪」

 和美の服装は膝下までの短いジーパンにこれまた短めの白いノースリーブのシャツ。
 足元はシンプルながらもお洒落で少し底が厚めのカジュアルなサンダル……と気合の入り方が覗える。


 対して稼津斗は何時ものジーパンとTシャツ、そしてジャケット。
 毎度の事だが本日も色は黒である。

 「やっぱ稼津兄は其の格好が一番に合うね。」

 「動きやすさ重視だからラフになりがちだけどな。」

 「いいじゃん、格好良いし♪さ、行こ?」

 デート開始とばかりに腕に抱きつき、確りと密着。

 「…お約束か?当たってるぞ。」

 「お約束♪当たってるんじゃなくて当ててんだもん。」

 『何処』に『何が』とは聞くだけ野暮だろう。
 つまりはそう言う事らしい。

 「ま、良いか。役得とも言えなくないし。さて、先ずは何処に行く?」

 「そうさね…うん、ちょ〜っと人を驚かせてみようよ?」

 「?」

 何かを思いついたように、和美はある場所に行くことを提案。
 其の顔には所謂『悪戯を思いついたときの笑顔』が浮かんでいた。

 稼津斗としても和美が何処に向かってるのか興味はあった。
 だから何も言わずに其の場所に来たのだが、


 「…パンチ力測定マシン?否ゲームか。」

 やってきたのは大学部が営業してるアミューズメントゲームコーナーのパンチ力測定ゲームの前。
 初級、中級、上級、プロ級、エキスパートまでの5段階難易度設定がされており、3回殴っての合計値が難易度毎の設定数値を超えればクリア。

 上級以上をクリアした者には賞品が出るらしく、今も沢山の客が上級以上に挑戦中。
 しかし見た所、上級はそれなりにクリアした者が居るが、プロ級は数えるほどしかクリアは無くエキスパートは0!
 まぁ確かにクリアまでの数値が2500kg(1発辺り約835kg)は流石に無理があるだろう。
 プロ級がクリア数値750kg(1発辺り250kg)である事を考えるとトンでもない難易度だ。

 「アレをやれって?」

 「そ。どうせだったらエキスパートで。」

 要するに未だ誰もクリアしてないエキスパートをクリアして度肝を抜こうという事らしい。
 無論そう言うことなら断る理由は何も無い。

 『あぁ〜〜と残念!エキスパートクリアには全然足りない!又の挑戦をお持ちしていま〜す。』

 丁度今の挑戦が終わり、司会が次の挑戦者を募る。

 『さぁ次は何方が挑戦なさいますか〜?』

 「俺がやる。難易度は勿論エキスパートでな。」

 『おぉっと、又してもエキスパートへの挑戦者!それでは張り切ってどうぞ!!』

 誰よりも早く名乗りを上げ、稼津斗はマシンの前に。
 左用のグローブを装着して準備は万端。

 マシンがエキスパートモードで起動し、ターゲットが持ち上がる。
 そして液晶モニターに『Go!』の文字が映し出され、先ずは1発目!


 ――バァン!!


 轟音炸裂!結果は『850kg』!
 ノルマ平均を行き成り上回る好スタートと余りの一撃の強さに周囲のギャラリーも吃驚。

 再度ターゲットが持ち上がり2発目!


 ――ドガァン!


 更なる轟音が鳴り響き、結果は『900kg』!
 1発目を更に上回る記録が出た。
 こうなるとギャラリーはクリアを期待し、司会はちょいと焦り気味。
 そして3発目。


 撃つ前に和美をちらりと見ると


 ――どうせなら全力で♪


 と言わんばかりの視線だ。
 其れに応える様に頷き、左の拳に力を籠める。

 「覇ぁっ!!」

 気合と共に打ち出された一撃は明らかに先の2発とは質が違う。
 拳の固め方、突きの速さ、体重の乗せ方全てが異なる。


 ――ドバガァァァァン!!


 物凄い音と共に、マシンが数メートル後退する。
 簡単には動かないように重く作り、床にボルトで固定していたマシンが動かされたのだ数メートルも!


 「「「「うそだぁぁぁぁぁ!!」」」」

 此れにはギャラリーはじめ、司会も驚く他無い。
 だが、更に驚くべきはその結果。
 驚愕の3発目、その結果は………何と『9999kg』!
 余りに強力な一撃にカンストしたらしい。

 「「「「ありえねぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」

 普通ならこんな場合はマシンの故障で無効となるだろうが、其のマシンを吹き飛ばした一撃は誰もが見ている。
 何よりマシンの故障で無い証拠として先の2発の成績は残っているし、何よりモニターが『Clear』と表示しているのだ。
 こうなってはクリアを認めるしかないだろう。

 『お、お見事…』

 こう言う事しか出来ないのは仕方ない。
 まさか『誰もクリアできない数値』を設定していたエキスパートクラスをクリアされたらこうもなるだろう。

 『こ、此方が賞品です』…本当に人間かよこの人は…」

 で、至極楽勝に賞品ゲット。
 和美の狙い通りギャラリー&運営側の度肝を抜く事も出来たので大成功と言える。

 「流石稼津兄♪」

 「本気でやれば楽勝だ。ほれ戦利品。」

 唖然とするギャラリーを余所に、引き上げてきた稼津斗は賞品の純銀製のピアスを和美に渡す。
 基より稼津斗には余り必要なものではないし、和美の方が似合うと思ったから。

 「ありがと。予想通り驚いてんね〜♪」

 「カンストする一撃を打つ奴が居るとは思わないだろうからな。…さて、次は何処に行く?」

 「ん〜…そうだね〜…」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・



 其の後、同じ場所のアミューズメントゲームで最高得点を更新したり、施設型のアトラクションを楽しんだりとデートは続いた。

 で、2人は只今超巨大な観覧車に搭乗中。
 此れも和美が希望したものだ。

 「さてと、んじゃ稼津兄への独占取材を始めようかな?」

 「其の為の観覧車か。まぁ確かに此処なら邪魔は入らないな。」

 観覧車を希望したのはこういう理由もあったようだ。

 「つっても聞きたいことは其れほど無いんだけどさ。先ずは、どうして稼津兄は格闘技をやろうと思ったの?」

 初っ端から直球な質問だ。
 まぁ、ある意味では当然の質問と言えるだろう。

 「行き成りか…そうだな、俺が居た世界は科学と魔法が発展した世界だって事は話したよな?
  学校の授業に『魔法』の時間が有る位だったんだが俺は魔法の才能がカラッキシだったんだ。
  今でこそオリハルコンのお蔭で上級魔法も使おうと思えば使えるが、昔は簡単な初期魔法と契約魔法しか使えなかった。
  だけど周りは普通に魔法が使える奴等ばっかりで俺は魔法に関しては落ちこぼれだったんだが其れを理由に負けたくなかった。
  幸い俺は『気』に関してはソコソコ才能があったから其れと様々な格闘技を覚えて魔法が使えないハンデを埋めようと思ったんだ。」

 「へ〜…」

 「勿論大変だったが辛くは無かったな。寧ろ強くなる事が楽しくて仕方なかった。」

 「そうなんだ。じゃ次、てかラストだけど稼津兄が勝てなかった人ってどんな人?」

 これまた直球だ。
 武道会の決勝で稼津斗が言った一言が気になったらしい。
 確かに今の稼津斗を知る者からしたら勝つことが出来無かった相手がどんな人なのかは気になる所だ。

 「矢張りきたか…隠す事じゃないから良いんだが、一言で言えば爺さんだ。其れも齢70近いな。」

 「えぇ!?お爺さん?」

 まさかの事実。
 てっきり野生のゴリラみたいのを想像していた和美にとって此れは衝撃だ。

 「あぁ。香港に済んでた『伝説の仕事人』と言われてた暗殺拳の使い手で全く歯が立たなかった。」

 「うそ…」

 「本当だ。其の頃は初めての武者修行の旅に出てた頃でな、各地の実力者倒して少し天狗になってたんだろうな…
  其の爺さんに挑んだ時も『こんな爺くらい楽勝だ』とか思ってて…でも結果は何も出来ずに完敗だ。
  『伝説の仕事人』て事だからそのまま殺されるんじゃないかと…初めて『死』を身近に感じたな。」

 「でも死ななかった…」

 頷き、更に話を進める。

 「殺されるとばかり思ったんだが、其の爺さんはぶっ倒れてた俺にこう言ったんだ、『老い先短い人生に新たな楽しみが出来た』ってな。」

 「それって…」

 「俺の成長を楽しみにしてくれたんだよ。正直に嬉しかった…其れからなんだ、俺が一切の慢心を捨てたのは。
  修行しては挑んで負け、又修行して…一体どれだけ挑んで負けたのか分からないくらいだ。
  でも、結局1度も勝つ事が出来ないまま俺は人ではなくなり、あの世界は滅びへの道を歩んでしまった。
  元の世界に未練は無いが、たった1つの心残りはあの爺さんに1度も勝てなかった事だな…」

 「そうだったんだ…でも、だから稼津兄は強いんだね。うん、話してくれてアリガト。」

 記事にするつもりは毛頭無かったのだろう、話を聞いた和美はそれだけで満足そうだ。

 「さっきも言ったが事情を知ってるお前達に隠すほどの事でもない、聞かれなかったから言わなかっただけでな。」

 観覧車はそろそろ一番上に到達しようとしている。

 「私が独占できる時間もこの観覧車で終わりだね。最後にお願い聞いてくれる?」

 「俺が出来る事なら。」

 此れから言う『お願い』は稼津斗に出来る事だが、少しばかり和美の顔は紅い。

 「んとさ…キスして欲しいな。丁度頂上に来たときに。」

 何とも初々しい『お願い』だった。
 観覧車を希望したのは此れが真の目的だったようだ。

 「此れは又王道とも言えるシチュエーションだが…」

 「ダメかな?」

 「まさか。断る理由の方が無い…隣失礼するぞ。」

 向かい合わせに座っていた稼津斗は和美の隣に移動し其の肩を抱く。
 頂上に近付き、和美は目を閉じる。

 そして…

 「「ん…」」

 頂上に達し、2人の唇は重なった。
 時間にしたら10秒足らず、だがそれだけで充分だ。

 「乙女の夢成就ってね…///大好きだよ稼津兄…」

 「…俺もだ。」

 下に到達するまでの間、2人は寄り添ったままで居た。





 尚、稼津斗達が降りた直ぐ後に、報道部に追われてたネギが茶々丸&千雨と共に此処に逃げ込んだ事を一応明記しておこう。








 ――――――








 「ねぇ亜子、本当に其の衣装でいいの?背中完全に隠れる半袖タイプもあるよ?」

 場所は変わって此方はライブの控え室。
 円が亜子に聞いてるのはライブで着る衣装のこと。

 亜子が選んだのは背中が大きく開いた袖なしタイプの物。
 普通なら別に良いのだが、選んだのが亜子となれば話は別。

 背中に大きな傷跡を持つ亜子がこのタイプの衣装を選ぶのは少々…いや、絶対に考えられない事だ。

 「かまへんて。実を言うとな、前ほどこの傷はコンプレックスやないんや。」

 「何でって…聞くまでも無いか。原因は稼津斗先生?」

 「……アタリや。」

 「やっぱりね。でも、何が切っ掛け?」

 亜子は一緒にライブを行うチア部の3人とも仲が良い。
 で、其の3人から見ても亜子が稼津斗にベタ惚れなのは良く分かる…本当の関係を知ったら驚くだろうが…
 だからこそ気になる。

 何故亜子が背中の傷を『己のマイナス』としなくなったのか。

 「んとな、稼津さんて顔に大きな傷跡あるやん?」

 「うん。」

 「あの傷跡、消そうと思えば消せるらしいねん。」

 「は?そうなの!?」

 円にとってこれは意外だった。
 てっきり消す事が出来ないから其のままなのだと思っていたのだ。
 おそらく3−Aの半数はそう思っているだろう。

 「うん。ウチにも背中の傷跡消す事出来る言うの教えてくれたし…でも、そうなるとおかしいと思わへん?
  何で消すこと出来んのに、態々消さずに残してんのか。しかも稼津さんの場合ウチと違って隠す事出来ない顔の傷跡なのに。」

 「言われて見ると確かに…」

 「でな、聞いてみたんや『何で消さへんのか』って。」

 「そしたら?」

 「『この傷は戦いの中で付いたモノだが、此れを消したら其の戦いを否定するような気がして消す事が出来ないんだ。
  それに、この傷も俺の一部である事に違いは無い。だったら下手に消す事も無い』って。
  其れ聞いて目から鱗やったわ。ずっと此れはコンプレックスやったけど、其処まで重荷にする事ないんやって。」

 如何やらそんなやり取りが有ったらしい。
 其れを聞いた円は一応理解は出来たものの今度は別の感情が、

 「ちょ、稼津斗先生カッコ良すぎだから!何その極上イケメン!?」

 見てくれが良いのは知っていたがまさか中身がここまで良いとは思っても居なかったらしい。
 其れと同時に、亜子が此処まで惚れたのに納得もしていた。


 「亜子、居るか?」

 そんな事は露知らず、控え室の外には稼津斗がやってきていた。
 行き成り扉を開けなかったのは常識だろう。

 「お、来たみたいだよ?」

 「やな。ほな、行って来るわ♪」

 話をしながらデート用の服に着替えていたので準備は出来ている。

 「亜子、頑張れ♪」

 「ん、アリガト釘宮!」

 意気揚々、控え室の外へ。
 ライブまでの数時間だが稼津斗とは2人きりだ。

 「じゃあ行くか?釘宮、ライブまで亜子借りるぞ?」

 「了解。亜子の事ちゃんとエスコートして下さいね?それとライブの2曲目お願いしますよ?」

 「任せておけ。」

 しっかりと円から釘を刺されるが勿論言われるまでも無い。
 加えてライブで何かやるようだが、其れはライブが始まってからのお楽しみだ。


 先ずはデートが先決。

 「ほな、行って来るわ〜♪」

 「お〜、しっかりね〜♪」


 稼津斗に引っ付いて行く亜子にちょいと苦笑いしながら送り出す円。
 しかし心の中ではデートが上手く行くように願っていた。








 ――――――








 ライブの出番は18:20なので其れほど時間が有る訳ではないがデートは楽しみたい。
 そんな訳で適当に屋台やら何やらを回った挙句に2人がやってきたのはやたらと人だかりが出来ている野外ステージの1つ『ベストカップルコンテスト』。

 まぁタイトルそのままのイベントだろうが…

 「ベストカップル、ね。いっそ出てみるか?」
 「えぇ!?いや、其れはちょっと…」

 冗談で言ったこの一言が命取りだった。


 「おぉ、君達興味が有るのカイ?」

 「「は?」」

 突如現われたムキムキの筋肉達磨2匹。
 運営側スタッフのようだが…

 「思い立ったら即実行!これぞ漢気!さぁ出よう!すぐ出よう!我等イベント出させ隊!」
 「この手のイベントは参加者が集まりにくくてね〜〜!日本人はシャイでいかん!」

 「へ?」
 「イヤァァァ!!ちょ、何やねんこのお肉〜〜!!」

 有無を言わず2人を担いで強制連行!
 余りに突然の事態に稼津斗も対処が出来なかったようだ。


 更に此れを皮切りに、

 「ハイ2名追加〜〜!」

 「ちょ、私達カップルじゃ!?」

 「そんな事は些細な問題!無問題!さぁ次行ってみよ〜〜!」
 「OK兄者!」

 強引な強制参加勧誘が…


 「…なんか凄いね。」
 「兄ちゃん連れてかれてしもた…えぇんかアレ?」
 「放っとけ。祭りだからな。其れに稼津斗先生なら多分大丈夫だ。」

 偶然この場に居合わせた年齢詐称薬で姿を変えたネギ、小太郎、千雨と着ぐるみを着込んだ茶々丸は遠巻きに其れを見ていた。





 しかし、この強制勧誘の甲斐有ってか漸くイベントは開始可能な人数が集まった様子。
 ステージ上ではイベントの説明と、上位入賞者への賞品が公開されているところ。
 ペアのブレスレットと言うこの賞品に、出なかったことを後悔する声も上がっているようだ。


 其れとは別に控え室では、参加者への説明が行われていた。

 如何やら用意された衣装の中から好きなものを選んで其れを着用し、舞台に上がって観客の好感度を投票で競うと言うモノらしい。


 「何か成り行きでえらい事になったな…」

 「あう…どないしよ…」

 「あんまり緊張するな亜子。学祭のイベントなんだ、楽しまなきゃ損だ。どうせなら俺達で優勝してしまおう。」

 緊張気味の亜子にそう言って笑いかける。
 稼津斗としては『出る以上は負けたくない』のも本音だが、亜子の緊張を解きほぐす効果は充分だった。

 「…うん、ウチ等で優勝や!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 『――次は4番、雪ちゃん&はる樹君ペア!!此れは可愛らしい!赤ずきんと狼コスプレ。』


 イベントは進み、只今初等部と思われるちびっ子2人組が登場し、会場からの受けは以外に良さそうだ。


 『さぁ続きましては、稼津斗&亜子ペア――ッ!おぉっと先ずは彼氏の方だけが登場だ!
  此れはクオリティの高いイケメン!黒いズボンとインナーに、真紅のコートの取り合わせが目を引きます!!』

 5番目で稼津斗と亜子の登場だが、先ずは稼津斗のみが登場。
 そして、手を伸ばし亜子を舞台に招く。
 此れだけでも可也会場は盛り上がっているようだが…


 『続いて彼女…って此れは又凄い!!白い肌に黒いドレスが映え強烈なコントラストが素晴らしい!!』

 現われた亜子の姿に更に大盛り上がり。
 何となく見ていたネギ達も何時もとは違う亜子の姿に驚いている。

 そして此れで終わる稼津斗ではない。

 「ふぇ、稼津さん!?」

 亜子の肩に手を置くとそのままお姫様抱っこを敢行!
 其の状態で舞台の中央まで!!

 『何と此れは伝説のお姫様抱っこ〜〜!此れは美しい!テレ気味に顔を赤らめた彼女もポイント高し!
  映画の1シーンの様なこの光景!さながら姫を救い出した騎士の如き!!』

 亜子にとっては予想外の出来事だったが、会場は大満足のご様子。
 そこかしこから歓声が上がっている。


 其れは2人が下がっても覚めず、イベントは大熱狂のまま進み最後の水着審査を経て残すは結果発表のみだ。

 因みに、水着審査では割と普通めの物を選んだ稼津斗と亜子だが其れがどう作用するのか…


 『さて、麻帆良祭ベストカップルコンテスト優勝者は……雪ちゃん&はる樹君ペア!そして同票で稼津斗&亜子ペア――ッ!
  形は違えど会場から多くの支持を集めたこの2ペアがまさかの同点ダブル優勝だ〜〜!』


 まさかまさかの展開だ。
 が、此れもまたアリだろう。

 「一応は優勝だな?」
 「まぁ、此れもアリとちゃう?」

 賞品を受け取り笑い合う。
 強引な勧誘で出たイベントだったが、結果的には出てよかったようだ。









 イベント会場を出た2人は、今は使われていない廃校舎へとやってきてた。
 もうそろそろライブが始まる。

 デートの時間は残りわずかだ。


 「…少し、緊張してるか?」

 「そらまぁ…ライブ会場の人の数はさっきのイベントの比や無いし…」

 ライブを前に緊張するのは当然と言えば当然だ。

 「まぁ仕方ないが…おまじないでもするか?」

 「おまじない?」

 「ライブが上手く行くように。亜子の緊張が取れるように。」

 「うん、お願いしよかな…♪」

 「じゃ、少し目を瞑ってくれ。」

 何をするのかはわからなくてもこの緊張が解けるのならばありがたい。
 言われたとおりに亜子は目を瞑る。


 瞬間、唇に圧力を感じた。
 何かと思って薄く目を開けると、稼津斗の顔がドアップで!

 其れで理解した、稼津斗にキスされたのだと。

 あっという間に顔が真っ赤に紅潮し心臓の鼓動が早くなる。
 が、不思議とさっきまでの緊張は逆に落ち着いてきていた。


 「どうだ、緊張は解れたか?」

 唇を離して問うと、驚きで声が出せないのか真っ赤な顔で頷くばかり。
 だが、緊張でガチガチになってると言う事は無さそうだ。

 「ライブ、頑張れよ。」

 「…うん、アリガト稼津さん…///」

 何とか声を出せた亜子だが、もう大丈夫だろう。






 ――そして、



 『次は初参加の4人組ガールズバンド!!『でこぴんロケット』!!』

 ライブが始まり亜子達『でこぴんロケット』の出番がやって来た。
 既に会場は熱気の渦が巻き起こっている。

 そんな中で、美砂の歌声、円のギターの旋律、亜子のベースのリズム、桜子のドラムのビートが見事に調和し素晴らしい演奏が披露されている。
 技術もソコソコ高く、インディーズなら可也良いレベルまで行きそうだ。

 『なかなかいいですねー!それでは2曲目の前にメンバーのトークを…』


 1曲目が終わり、2曲目の前にメンバートーク。
 皆当たり障りのない事を話し、最後に亜子にマイクが。

 此れはメンバー全員で考えた事で最強最高のサプライズ。


 「えっと…今日は来てくれてありがとうございます…そんで2曲目なんですが、スペシャルゲストがおるんです!
  ウチ等、麻帆良女子中等部3−Aの副担任!氷薙稼津斗先生!よろしく頼むで!」

 「任せろ。行くぞ2曲目!Are You Ready!?」

 「「「「Year!!」」」」

 突然のスペシャルゲスト!
 此れこそが昼間円が言っていた『2曲目のお願い』だ。

 ギターが趣味と言う稼津斗に1曲だけ出てくれるように頼んでいたのだ。


 稼津斗の加入で厚みの増した2曲目は1曲目よりも更に会場を熱くする。


 大歓声を受け、ライブは大成功!



 盛り沢山だった学園祭2日目。
 其れももうすぐ終わろうとしていた。




















 だが、この時既にシナリオは『最悪』に向けて動き出していた事は誰も知らなかった。


 そう、何かを企んでいる超でさえも…

















  To Be Continued… 

-34-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




桜風に約束を−旅立ちの歌−
新品 \140
中古 \1
(参考価格:\1200)