小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 其れは突然の事だった。

 「な、ちょっとアレ!!」
 「え?嘘!!」

 湖から轟音と共に現れた巨大な物体。
 まるで怪獣映画か、ロボットアニメにでも出てきそうなその姿。

 「ナニアレ、でかい!」
 「ガン○ム!?ねぇ、ガン○ム!!?」

 かる〜く、混乱が起こるくらいには衝撃的な存在の其れ。
 見た目だけなら都市一つ位楽に破壊できそうな感じすらする。


 ――キィィィン…バシュィィィィ!!


 「「え?きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 「極太脱げビームだ〜〜〜!!」

 だが、攻撃そのものは見た目の派手さとは裏腹に割りと平和的であった。

 ……女子には大きな精神的ダメージが与えられるであろうが――其れは言うだけ無駄だろう。










 ネギま Story Of XX 42時間目
 『In The Shine or Dark』










 『こっ、此れは凄まじい光景だ!流石の魔帆良生も、この巨大火星ロボ軍団には動揺が走ったか!?
  反対側の岸にも3体が上陸した模様、ピンチです!このピンチを如何戦う、学園防衛魔法騎士団!!』

 「ピンチじゃねーよ!」
 「やったるぜ〜〜〜〜!!」

 ピンチだと言う事を煽る和美の司会は、逆に魔帆良生に火を点ける。
 自分もその一員ゆえ、如何言えばやる気を煽ることができるかは理解している様子だ。

 「にしても大騒ぎだねこりゃ…」

 その騒ぎの中『ヒーローユニット』として(半ば強制的に)参加してる美空はこの光景に冷や汗。
 思った以上の大騒動に発展しつつあるこのイベントに、少々引き気味である。

 「お?」

 が、騒動の中、高めの塔の屋根に誰かが降り立つのを見つけた。

 「たまには僕も良いとこ見せなきゃ。」

 降り立ったのは瀬流彦。
 杖を片手に、細い目を開き眼前の巨大兵鬼を見据える。
 真剣なその表情からは、いつもの大人しめの好青年の気配は感じられない。

 「はぁ!!」

 気合を入れ、捕縛魔法で兵鬼の進行を止める。
 この質量を押さえつけている辺り、腕前は中々のものだ。

 「く…大きすぎる!僕1人じゃ…!」

 だが、如何せん相手は巨大すぎる。
 1人の力では限界もある。

 「いや、上出来だ瀬流彦!撃ち抜け、羅刹葬爪!」

 其処に無数の鎌状の気弾が降り注ぎ、兵鬼の表面装甲を吹き飛ばす。

 「追撃の…蒼月・連弾!」

 更に無数の鎌鼬が追撃し、兵鬼は爆散。
 スクラップが一丁あがりだ。

 「稼津斗君!いや、助かったよ。」

 「流石に此れは参加者には辛いだろうからな。でも、中々良い捕縛魔法だった。」

 「君が来てくれなかったから危なかったけどね。」

 攻撃したのは稼津斗。
 瀬流彦が1人で抑えているところを見つけて助太刀と言うところだろう。
 結果はスクラップの出来上がりだ。

 「京都のときよりも力が増した…よね?」

 「結構修行を積んだからな。それにしても、やはり学園結界は落とされたか。
  予想はしていたが――思った以上に早いな。」

 眼下では、他のヒーローユニットによって動きを封じられたロボ軍団と兵鬼が参加者からの一斉掃射を受けて倒されている。
 後数体居る兵鬼も、タカミチやら楓やらが居る以上は其れほど大暴れする事無く鎮圧されるだろう。

 「どうもそうみたいだね。この学園の結界を落とすなんて、ホント凄いよ彼女は。」

 ヤレヤレと言った感じであるが、瀬流彦も瀬流彦でこのトンでも騒ぎを何処か楽しんでいる様子。
 普段教師として真面目にやっている分、気兼ね無しに動くことが出来ると言うのは案外良い発散なのかもしれない。

 「結界が元に戻れば何とかだろうが、そっちは長谷川と絡繰に任せるほか無いな。
  学園コンピュータは超に掌握されてるだろうし。時に、此処任せても良いか?」

 「え?いや、さっきほどのはもう居ないみたいだし、他の人も居るから大丈夫だと思うけど…稼津斗君は別の場所に?」

 「あぁ、俺を殺そうと企んでいる輩を誘き出して直々に叩こうかと思っている。」

 「成程。」

 稼津斗は先程の会合には居なかったのだが、近右衛門が直接伝えたのだろうと瀬流彦は考え、さらに思案する。


 ――学園長からそれとなく殺害の阻止を言い渡されたわけだけど、実際彼が直接動くとなったら僕達は必要かな?
   いや、遠巻きに狙う狙撃者とかが居ないとも限らないからそっちを潰す役目があるか…
   でも、直接戦闘だったら稼津斗君なら問題ない筈、リョウメンスクナを1人で倒すような人だからなぁ…
 「分かった。僕達はロボット軍団や巨大兵鬼のほうを抑えるよ。…くれぐれも気をつけてね?」

 「了解だ。お前も無理だけはするなよ?全部無事に終わったら新田のおやっさんも誘って飲みに行こう。」

 「良いね。最近良い店を見つけたんだ、楽しみにしてるよ。」

 一足飛びで飛び出し、稼津斗は既に視界の遥か先。
 その力に改めて驚きつつ、瀬流彦は気を引き締めロボ軍団の制圧に乗り出していった。








 ――――――








 「クソ、学園結界が落ちたか…!」

 エヴァ邸では、千雨が悪態をつきながらも如何にか事態を収拾せんと茶々丸と共に電脳戦を繰り広げていた。
 しかし、PCの性能差の問題で超側の電脳攻撃に対処できては居ない。
 茶々丸のサポートがあってもだ。

 「このスピード…恐らくは私の妹達の何人かが電脳攻撃を行っていますね。」

 「やっぱりアンタと同程度の連中かよ。クソ、こんなB6サブノートと11bの無線LANじゃ話にならねぇ!」

 圧倒的な機能差。
 超側の装備と千雨では核兵器と竹槍ほどの差があるのは否めない。
 此れではいくら茶々丸のサポートがあるにせよ到底太刀打ちは不可能だ。

 「ふむ…では長谷川千雨、もっと性能がいいものがあれば如何にかなるのだな?」

 「あぁ?まぁ、せめて私が普段使ってるデスクトップくらいの性能があれば茶々丸のサポート付で何とかなる。」

 「成程な。」

 其れを見ていたエヴァは状況を打開せんと考えを巡らせる。
 勿論その間も膝枕したネギを撫でてやる事は忘れていない。

 「ならば簡単だ、ネギと仮契約しろ。貴様ならば電脳系の高性能なアーティファクトが出るはずだ。」

 「はぁ!?何言ってんだテメェは!!?」

 「不満か?ん?もしかして私か稼津斗の方が良かったか?」

 「そうじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 で、全く予想していなかった核爆弾の投下に思わず突っ込む。
 いや、まさか仮契約しろと言われるとは思って居なかったのだからある意味で当然だが。

 「どうせだ、オイ綾瀬夕映、貴様も仮契約してしまえ。戦力はあって困るものではない。」

 「わ、私もですか!?」

 「マジかオイ!!!」

 突っ込み手が足りない。
 と言うか、エヴァに対しては強烈な最終防衛ラインストッパーになるアスナが居ないのは正直きつい。
 ぶっちゃけこの場にエヴァを止められるものは居ないのだ。

 だが、エヴァとて戯れや思い付きで言っているわけではない。

 「あくまで仮契約だよ長谷川千雨。仮契約は後日解除することも可能だ。
  正直に言おう、今この場に於いては裏方の戦力は全く持って足らん。
  学園コンピューターは使い物にならんだろうからな。
  だからこそ貴様らの力が必要になるのだ。稼津斗と超の死は如何有っても回避せねばならん!」

 何としても喰い止めなければならない2人の人間の死。
 其れを言われて千雨と夕映も考える。

 あの歪んだ未来で初めて目の前で人の死と言うものを見た。
 大切な人を喪ったクラスメイトの悲しみと怒りを見た。

 「わーった。あんな光景は二度と見たくねぇかんな。仮契約させてもらうぜ。アンタも良いな綾瀬?」

 「勿論です。」

 2人の心は決まった。
 其れを見て満足そうに笑い、エヴァは無言で2人の足元に魔法陣を発生させる。
 同様の魔法陣がエヴァの足元――正確にはネギの元にも展開される。

 「「!?」」

 「なに、仮契約のための魔法陣だ害は無い。さてと如何するか?
  仮契約の文言など如何言っても契約自体は可能だが…ふむ。
  長谷川千雨、綾瀬夕映、この2名を此れよりネギ・スプリングフィールドの従者とする。
  小さな勇者の従者に、死の運命を断ち切るための力を与えろ!仮契約(パクティオー)!!」

 強烈な光が室内を満たし、契約が成立していく。
 全くの第3者が他の誰か同士を契約させるなど、エヴァクラスの魔法使いだから出来ることだ。

 しばらくして、光は収まり契約が完了。
 千雨と夕映の2人には仮契約カードが。

 「さてと、使い方は分かるだろう?どうだ、行けそうか?」

 「…!!!行けるどころかまるで問題ねぇ!此れなら私1人でも渡り合えるぜ!」
 「私もです。此れならばまほネットのもっと深いとこまでアクセスできそうです!」

 エヴァのおまけだろう、仮契約と同時に自身のアーティファクトの機能と使い方を理解。
 使い方が分かれば、即戦力として期待が出来る。

 「ならば反撃開始だ。
  特に長谷川千雨、学園結界の復帰だけでなく、超の奴にもクラッキングとやらを喰らわせてやるがいい!」

 「上等だ!やってやるぜ!!」

 新たに2名の従者が出来たことでバックアップ組の戦力が大幅に強化され反撃開始。
 学園結界が復帰すれば巨大兵鬼は止まる。少なくとも今よりは弱体化するのだから。

 「まぁ、其れは其れとしてだ…ネギが起きた時の為に仮契約の言い訳くらいは考えておくか…」








 ――――――








 場所は再びイベント会場。
 その一画に建てられた臨時の救護室テント。

 「意外と暇やな〜?折角治癒魔法使えるから張り切ってたのに〜。まぁ、怪我人でないんは安心やけど。」

 「この手のゲームやと擦り傷程度じゃ治療には来ないて。」

 「でも、いつ怪我人が来るかは分かりませんから準備しておかないと。」

 「だね〜〜。」

 救護班メンバーとしてこっちに回っていた亜子、のどか、木乃香、クスハは思った以上に暇だった。
 怪我人が来ることは殆ど無いのだ。

 勿論のどかが言ったように、いつ大怪我した人が来るか分からない以上は持ち場を離れるわけにもいかない。
 なので、外の喧騒とは裏腹に、此のテント内はなんとも和やか。
 毎度のことだが、クスハは子狐モードで亜子の頭に張り付いている。

 「せやけど、ヒーローユニットの皆は大丈夫やろうか?さっき巨大ロボが出たとか言うとったえ?」

 「大丈夫ですよ。だって稼津斗さん居ますし。」

 「……其れもそうやな。」

 激しく納得。
 心配など無用であった。

 「稼津さんはきっとパワーアップしとるし、ネギ君も直に回復するやろ。
  超はネギ君が、大学部は稼津さんが何とかする。
  外のロボットも参加者と裕奈達が何とかする。せやからウチ等はウチ等のすべきことをしよ?」

 そして自分達の役割を理解しても居た。








 ――――――








 で、その外。
 これまたイベント会場の一画にて、

 「超…」
 「超鈴音…!」

 「まさか私の罠を破って此処に来るとは驚きだヨ。」

 ヒーローユニットのアスナと刹那は超と対峙していた。


 一切の魔法的防御を無効化するアスナの一撃の後で、刹那の神鳴流が炸裂すると言うある種最強のコンビネーションで戦って居たところに現れた超。

 計画遂行の為には今出てくるのは得策ではない。
 もっとありったけの戦力を盛り込んで、自分は最後の最後まで動かない方が良い筈だ。

 「加えてこの大胆な作戦には驚いた。立案したのはネギ坊主カ?ネギ坊主は何処かナ?」

 意図は読めないが、その態度は余裕綽々。
 賞賛はすれど、ネギ以外は眼中に無い様子だ。

 だが、此処で超の誤算があった。
 今のような挑発めいた一言、嘗ての『明日菜』であったならば即座に沸騰し戦いになっただろう。
 しかしだ、今居るのは『明日菜』ではなく常に冷静さを保っている黄昏の姫巫女『アスナ』なのだ。
 安い挑発に引っかかるようなことが無いのだ。

 「ネギは居ないわ。今は回復中。…最後にアンタを倒すためにね。」

 「ほう?其れは楽しみだヨ。」
 ――むぅ…挑発に乗ってこないとは。本当の人格だとここまで違うのカ?全くイレギュラーの連続ネ。


 「私はアンタとは戦わない。アンタを倒すのはネギの役目。だけど……」

 内心で驚いている超に構わず、ゆっくりと近づき距離を縮める。
 そして、


 ――バキィ!


 思い切り殴りつけた。

 「アスナさん!?」
 「アスナ君!?」

 此れには刹那も、一緒に居たタカミチもびっくりだ。
 何よりも殴られた超本人が一番驚いているだろう。

 「!!?」

 「一つだけ言っておくわ。アンタの計画は結果的に成功しない。そして多くの人が不幸になる。」

 「そ、そんな事はn「有るのよ。」何だト?」

 否定しようとしても逆に止められる。

 「そうでなかったら私達は此処に居ない。詳しいことはネギに聞くといいわ。」

 嘗て戦場にその身を置いていたアスナの視線と言葉は重い。
 超がその身を固まらせるほど。

 「唯もう一つだけ。…アンタの計画が原因で2人だけ人が死んでしまった…それだけは伝えておく。
  行こう、刹那、タカミチ!まだ兵鬼は健在な奴らが居るから。」

 「は、はい!」
 「あぁ、そうだね。」

 言うことは言ったとばかりにその場を離脱するアスナを追いかける形で刹那とタカミチも離脱。



 そして残された超はアスナの言った事を何度も頭の中で繰り返していた。


 ――私の計画が原因で2人も死者が出た?馬鹿な、ありえないヨ。少なくとも使っている攻撃は人体には害の無いもの。
    切り札として用意した弾丸だって、殺傷力の無い『時間跳躍弾』だ、人死にが出るはずは無いヨ。


 必死で否定をしてみるが、アスナの言葉と表情の凄みが頭から離れない。

 「く…だとしても止まれないヨ!私は…!……ネギ坊主ならば何か知っている筈だ…早く来いネギ坊主…!」

 己の計画に不備はないと自分に言い聞かせ、何とか立ち上がる。
 だが、その瞳には、変わらず決意と覚悟が宿っているものの、僅かばかりの迷いが新たに浮かんでいた。








 ――――――








 「ごふぁ!な、何故…!!」

 「決まっているだろう…裏切り者は稼津斗共々抹殺だ。」

 イベント会場から離れた雑木林にて、一方的な戦い、否蹂躙が行われていた。

 其れを行っているのは大学部の2人の人物。
 稼津斗殺害計画を企てた初期メンバー3人の内の2人だ。

 リーダーたる男から渡された身体強化の秘薬を使っているのだろう。
 その身体は筋肉がありえないほど肥大化し、更に放たれる魔法の威力も半端ではない。

 現に今放った魔法で、半径100mの木々が灰になったくらいだ。
 攻撃された側がとっさに防壁を張っていなかったら、全員仲良くあの世行きだっただろう。

 「臆病風に吹かれた裏切り者など必要ない。」

 「私たちの力でせめて楽に逝かしてやろう。抵抗はしないほうが身のためだ。」

 本気で殺すつもりなのだろう。
 集中する魔力には一切の手加減が無い。

 「「「「「!!!!」」」」」

 攻撃されていた連中も息を呑む。
 喰らったら間違いなく命はないと、嫌でも理解できたのだ。

 攻撃する側も冷静であったなら気づいただろう――己がどれ程愚かな事をしているのか。
 だが、身体強化薬の影響で、一種の興奮状態であるこの2人には冷静な思考回路は残っていない。
 有るのは目的達成と、其れの障害になるものの排除のみ。
 既に人としての思考は崩壊しつつあった。

 「いい加減にしろっての!撃ち抜け銀風、レインストーム!!」
 「集え刃、ブルーティガードルヒ!」

 降り注いだ魔力弾と紅い短剣が攻撃を止めた。
 裕奈とリインフォースだ。

 異常な魔力を感じ取り、イベント会場のほうは真名と楓に任せこっちに来ていたのだ。

 「大概にしろ。人の命を奪うと言う行為がドレだけ業が深いか理解しているか?」

 「してねーでしょ?してたらこんな事はしないって!ま、後ろの連中も私等からすれば同罪なんだけど…」

 「事を起こす前に抜けたから酌量の余地は有る、か。沙汰は学園長しだいだが…」

 目の前の2人を見据え、睨み付ける。

 「この2人はやってしまっても良いんだろう?」

 「構わないでしょ?人の心なくした奴に容赦は要らないよ。」

 アーティファクトを向け、事実上の死刑宣告を下す。
 2人から発せられる魔力が空気中でスパークし、更にその勢いで地面に皹が入ったのは恐らく見間違いではなかった。










 そして同刻、人気の無い湖畔。


 「…居るなら出て来い。俺相手に持久戦は意味が無いぞ?大体超の計画終了までがタイムリミットだろう?」

 稼津斗は背後の林に向かって話しかける。返事は無い。

 「来ないのならば引きずり出すまでだがな。」

 そう言い、気を集中する。
 一応の手加減はしているのか、先程兵鬼を破壊したのに比べれば幾分弱い。
 だが、それでも林に一本道を形成するのは容易いだろう。

 「見えてるだろうから大丈夫だと思うが…一応避けてくれ。覇あぁぁ……虚空穿!!」

 放たれた一撃。
 その激しい勢いで吹き飛ぶ木々。

 其れが宛ら一つの旋律の如き音を立てている――そう、其れはまるで最終決戦(ラグナロク)を告げるギャラルホルンの音の如く鳴り響いていた。












  To Be Continued… 

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桜風に約束を−旅立ちの歌−
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