小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 ヒーローユニットの登場でイベント会場が大盛り上がりを見せているころ、エヴァンジェリン邸ではネギが出動の準備を整えていた。

 見ている方がある種でこっ恥ずかしくなるようなエヴァの膝枕付き介抱は予想以上に効果があったようだ。

 「もう大丈夫なのかネギ?」

 「はい!エヴァンジェリンさんのお陰ですっかり回復しました!全快…とは行きませんが此れなら充分です!」

 戻ってきた時の疲れ切った様子は微塵も無い。
 全快でなくとも、此れならば超と対峙するのには全く問題ないだろう。

 「其れは良かった。え〜と、それでだな、その…怒っていないか?長谷川千雨と綾瀬夕映を勝手にお前の従者にしたことを…」

 ネギの回復を喜びつつも、エヴァは千雨と夕映の2名を自分の独断で従者にしたことを怒っていないか問う。
 普段の尊台かつ不遜な態度からは想像できない様な姿だ。

 「怒るだなんて…状況打開のためですから寧ろ最上の一手だったと思います。」

 「うむ、そうか。わはははは、そうだな!悪手である筈が無いな!!」

 怒るどころか、寧ろ良かったと言われ一気に上機嫌。流石だ。

 「千雨さん、夕映さんこちらはお任せします!」

 「任しとけ。がっちり抑えてやる。先生はさっさと超の奴に一発かまして…そんで助けてやれ。」
 「其れが出来るのはネギ先生だけです。お願いします。」

 「はい!」

 「よし、行くぞネギ、茶々丸!」
 「了解しましたマスター。」

 千雨と夕映の一言が最後の起爆剤となり、ネギは一切の迷いを捨て返事をする。
 そして、エヴァの掛け声でそのまま出撃。

 「…あいつ等よぉ…もう結婚しちまえよ…」
 「ネギ先生とエヴァンジェリンさんですか?…確かにお似合いですね。」

 残された千雨と夕映の間でこんな事が言われていたのは誰も知らない。










 ネギま Story Of XX 43時間目
 『The Origin Of Mind』










 「雷の暴風!」
 「白き雷!!」

 「遅い…絶て!」

 イベント会場か離れた林の一画では、これまたイベントにも負けない位の戦いが繰り広げられていた。
 戦っているのはリインフォース&裕奈。
 相手は身体強化の秘薬で、爆発的に強化(狂化)された大学部の魔法関係者。

 飛び交う上級魔法と、息も吐かせぬインファイト。
 其れだけを見るならば、成程イベントバトルの一部に見えなくも無い。




 決定的に違う部分――こちらは命がけのガチバトルであると言うことを除けば。




 裕奈とリインフォースの2名に命を助けられた形になった、『元』暗殺メンバーの面々は目の前の光景に釘付けだ。
 あまりにも格が違う。

 自分達では防ぐことが適わなかった上級魔法を片手の防御魔法のみで防ぐリインフォース。


 「喰らえ!」


 右腕に展開された大型ブレードで、一切の攻撃が通らなかった強靭な肉体を切り裂く裕奈。
 この2人の強さはおよそ一般的な『魔法生徒』では到達できないほどの領域。

 そして彼女達と同等クラスの人間が後5人。
 更に、彼女達の契約主である『氷薙稼津斗』は此れよりも遥か上をいく強さであるのは間違いない。

 故に理解する――自分が一体誰に喧嘩を売ろうとしていたのか。
 もう、己の浅はかさと愚かしさを呪うしかなかった。


 「しっかり厄介だねリイン。さっきの一撃、結構深く切り込んだのに、即行で治ってんじゃん…」

 「身体能力強化の秘薬…どうやら生物の持つ『自然治癒力』ですら強化されているみたいだ。
  だが、それはあくまで薬による一時的なものだ。効果が切れれば其処まで、仮に大量の薬を持って居たとしても、な。」

 「な〜る。そう言うこってすか。大事なのは基礎練て事だね。」

 幾ら攻撃しようとも、瞬時に回復してしまう相手に愚痴をこぼすも、対策法は無いわけではない。
 リインフォースの言うように、効果切れまでやられなければ全く問題なし。
 普通ならば辟易してしまう持久戦だが、オリハルコンから無限のエネルギー供給を受けられる2人には全く問題なし。

 ついでに、相手には『超の計画発動まで』というタイムリミットがある。
 長引けば長引くだけ不利になるのは相手なのだ。

 「とは言ってもこいつ等を許す気など無いだろう?」

 「ったりめーでしょ!稼津君を殺すなんて…少しお話が必要な気がすんだよね…。」

 刹那、リインフォースと裕奈の魔力が弾け、2人が立っている場所を中心にクレーターが出来上がる。
 大気が震え、地が割れるほどの圧倒的な魔力。

 「小娘が…この力を得た俺達に刃向かう等笑止千万!」

 「返り討ちにしてくれる。」

 その魔力を受けながらも、秘薬の効果で能力が急上昇し一種の興奮状態の2人は、その凄まじさが通じない。
 手に入れた異常な力に疑問も抱かず、其れを揮うことに執心している。

 凶暴な力で以ってリインフォースと裕奈に再度の攻撃を仕掛けるその姿は狂獣そのもの。
 大凡『正義の魔法使い』を名乗っていた者の姿とは思えなかった。

 「力に喰われたか…憐れだな。撃ち抜けナハト、愚者に裁きを!」

 「どんな力も理性なくして揮えば只の破壊だって稼津君が言ってたよ?スクリーンディバイド!」

 其れに、軽蔑にも似た憐れみを向け迎撃の為の一撃。
 あまりの頑丈さに決定打にはならないだろうが、それでもリインフォースと裕奈の2人が負けることは無いだろう。








 ――――――








 場所は変わって、イベント会場のすぐ近く。
 エヴァ邸を出たネギ達は、先ずは世界樹広場を目指していたのだが、此処で予想外の足止めを喰らっていた。

 「「時間跳躍弾!?」」

 「成程、超が開発していたアレですか。」

 「えぇ。参加してる方は『失格弾』等と呼んでいますが、当たれば数時間先に跳ばされてしまう危険な代物です。」

 原因は会場を飛び交う『時間跳躍弾』。
 新たに現れた田中軍団が装備していた武装に装填されていたのがこの弾丸だった。

 偶然に出会ったシャークティから説明を受けながら、路面電車を盾にしながら攻撃を防いでいる。

 「厄介だな。当たらなければ良いとは言え、数キロ先ではなく数時間先に跳ばされては手出しが出来ん。
  それに、よりにもよって何と言うものを出してきてくれるのだ超の奴は…!」

 エヴァの言う様に、如何に厄介な代物であっても当たらなければ如何と言う事は無い。
 尤も、その数故に完全回避もまた困難であることに変わりは無いのだが。

 しかしこの面子なら弾丸を避けつつロボ軍団を倒すなど至極簡単なはずだ。
 ならば何故立ち止まっているのか?

 忌々しげに弾丸が飛んでくる方向を睨み付けるエヴァの視線の先にその答えがあった。

 「茶々丸と同じ姿の奴が出てくるとは…。」

 現れたのは茶々丸と全く同じ姿をしたガイノイド。
 超も狙ったわけではないだろう。
 田中を重装備の火力機とするならば、この茶々丸EX(仮)は軽装の高速戦闘型という所だろう。

 だがこの容姿――茶々丸と同じ見た目というのはネギは勿論エヴァも攻撃が躊躇われた。
 親しい人との戦いなどしたくないというのは人が持つ真理の一つだ。

 「退け、妹達よ。マスターとネギ先生の邪魔をするというのならば、例え妹といえど容赦はしない!」

 そんな状況の中で立ち上がったのは茶々丸。
 妹とも呼ぶべき存在に対し、障害となるならば排除するという意思を伝え自らに内蔵された武装を展開する。


 「茶々丸さん!?」
 「正気か茶々丸!」

 当然、ネギとエヴァは黙っては居ない。
 如何にガイノイドと言えども茶々丸には『心』がある。
 なれば、『妹達を相手にした戦い』は相当に辛いものが有る筈なのだ。
 故に容認は出来ない。

 だが、茶々丸の心は思った以上に強い。

 「大丈夫です。私は弾丸を受けなければいいだけですし、彼女達にしても破壊せずとも行動を抑えられればOKです。
  だから、ここは私に任せてください。マスターとネギ先生の進む道の邪魔は誰にもさせません!」

 そしてその意志は強固。
 たとえ『紅き翼』の面々であっても、この意思を砕くことは不可能だろう。

 「…分った。任せるぞ茶々丸!」
 「お願いします茶々丸さん!」

 だからエヴァもネギも茶々丸にこの場を託した。
 2人にとって大切な従者ではあるが、だからこそ信頼する、大事な場を任せられるのだ。


 更に、此処でうれしい援軍も現れた。


 「最大魔力集中砲!(ハイパー・バースト)」
 「爆炎鋼龍陣!」

 強大な魔力砲と、炎を纏った鎖がガイノイドの背後に居る田中達を一撃で打ち滅ぼす。
 何体かは生き残ったが、それでも凄まじい威力だ。

 「貴様等!」
 「楓さん!龍宮隊長!!」

 其れを行ったのは漆黒の忍び装束に身を包んだ楓とレザー製のライダースーツを着込んだ真名。
 大型兵鬼を相手にしていた2人だが、アーティファクトで情報収集も行っていた和美からネギ達の状況を聞き援軍として駆けつけたのだ。

 「茶々丸殿、助太刀するでござるよ。」
 「1人よりも3人の方が勝率は上がる。それとも私達では不満か?」

 「不満など…御2人ならば頼もしいくらいです。」

 突然では有るものの、戦力は有って困るものではない。
 ネギが超の元に向かうためには可能な限り障害は無い方がいいのも事実。
 其れを踏まえれば、楓と真名の援護はありがたいものだ。

 此れならば茶々丸1人への負担は相当に軽減されるだろう。

 「此処は拙者達に任せるでござるよネギ坊主、エヴァンジェリン殿。」
 「稼津斗にぃの従者の名にかけて此処は抑えて見せるさ。だから行くんだネギ先生。」
 「此れだけの戦力ならば妹達に後れを取ることはありません。」

 茶々丸1人であっても、任せることは決めていた2人にとってこの援軍は心底ありがたいものだ。
 戦力は此れで圧倒的に上、一末の不安もありはしない。

 「はい!お願いします!」
 「ふ、奴の名にかけて…か。その言葉何よりも信用に値するな。ならば決して此処を通すなよ!」

 「了解にござる!」
 「了解しました。」
 「任務、承認だ。」

 最終防衛ラインというわけではないが、抑えるための布陣は完成。
 跳躍一発、ネギとエヴァは茶々丸EX(仮)と田中を飛び越え目的地へ。

 世界樹広場に向かう必要はもう無い、欲しい情報は得られた。
 ならば向かうべきはラスボス超が待つ飛行船だ。

 当然超側の戦力は其れを阻止せんとするが、ネギとエヴァからこの場を任された茶々丸に更に楓と真名が居るのでは撃墜は不能。
 攻撃前に全て其れがつぶされてしまう。

 「マスターとネギ先生の邪魔立てはさせない!」

 「しばし拙者達が相手になるでござるよ。」

 「スクラップになりたい奴からかかってくると良いさ。」

 圧倒的な実力の3人は、既に場を完全に支配しているようだった。








 ――――――








 ――シュゥゥゥゥゥ…


 人気の無い湖畔にて、稼津斗が放った虚空穿の一撃は文字通り林を吹き飛ばしていた。

 一直線の見通しの良い道が出来、吹き飛ばされた木々は技の名残で燻っている。


 「驚くほどの威力…矢張りお前は危険だ、氷薙稼津斗!」

 「俺の力が一歩間違えれば危険な物だと言う事など百も承知だ。
  だが、だからと言ってお前達に素直に従ってやる気も更々無いがな。」

 その一撃で引きずり出される形になった、稼津斗暗殺のリーダー格の男は相変わらずだ。

 今の一撃は稼津斗的には本気などまるで出していない。
 そうであっても林に道一本作ってしまうのだから凄まじいことは間違いない。

 だが、この男にはそれですら『危険な力』と映ったのだ。
 いや、或いは『そう』思わなければ自分を保てなかったのか…

 何れにせよ、その瞳に稼津斗に対する様々な負の感情が宿っていることは間違いないだろう。
 果たして真に危険なのは一体どちらなのやら…

 「ほざくな危険人物が!貴様のような奴は細胞の一欠けらも残さずに消してやる!」

 吠え、ポケットから取り出した秘薬を一気に呷る。

 その瞬間、筋肉が皮膚を破らんばかりに肥大化し、魔力も膨れ上がる。
 そして…

 「がぁ!!」

 「!!!」

 一足飛びで間合いを詰めての強烈な一撃を稼津斗に叩き込み殴り飛ばす。


 ――…何とも凄い力だな。単純なパワーだけなら通常状態の俺を遥かに超えるか。


 だが、吹き飛ばされても稼津斗は冷静そのもの。
 殴られる瞬間に自ら後ろに飛んでダメージを軽減したのは勿論だが、そもそもにして効いていない。
 今の一撃も、『ドーピングをしてドレ位か』を計るために態と喰らったようなものだ。

 無論、攻撃した側は効いていると思ったのだろう。

 「くく、凄い力だ!此れならば負けはせん!なぎ払え、滅びの閃光!」

 笑みを浮かべ追撃の魔法を放つ。
 其れは寸分たがわず稼津斗に向かい、飲み込み爆発が起きる。

 「やった!やったぞ!!氷薙稼津斗は討ち取ったぞ!!」

 その爆発を見て、狂喜乱舞。
 確かにこの一撃を喰らってまともで済む者など居ないだろう――ただし、一般人ではという注釈がつく。

 稼津斗は一般人などではない。
 それどころか純粋な人ですらない。







 だから、今の攻撃で沈むことなどありえないのだ。







 「ふぅ…中々の威力、秘薬とやらの力も中々どうして馬鹿には出来ないな。」

 「!!貴様…無傷だと!?」

 爆煙の中から稼津斗が現れ、男は驚く。
 生きていたと言う事にではない。

 稼津斗が着ていた山吹色の胴衣は彼方此方が今の一撃で破損し、特に上着は右の肩付近が著しく損傷している。

 しかしながら稼津斗本体は全くの無傷。
 砂煙やらが付いた事による外見的な薄汚れはあるものの、身体には擦り傷一つついていない。

 「だが、薬に頼って居るようじゃ話にならないぞ?」

 「く、この小ざかしい小僧が…!」

 「小僧はお前だろう。……調子に乗るなよ糞餓鬼。」

 稼津斗の実年齢は800歳超。
 常識的に考えて、彼よりも年下のものはこの学園には存在し得ないだろう。

 だが、精神は肉体に引っ張られるのか、稼津斗の精神は19歳のままだ。
 普段も近右衛門を『爺さん』と称し、決して実年齢通りとは行かない稼津斗が目の前の存在を『糞餓鬼』扱い。
 自分を殺した事に関してではない。
 己の従者達を悲しませた事に関して怒っていた。

 「来い糞餓鬼。お前の全てを、その狂った力も今此処で全てを否定してやる。」

 空気が震えて気が爆ぜる。

 圧倒的な気が膨れ上がって更に炸裂し大地を割る。

 銀のオーラが激しく立ち上り、その強さを増す。
 加えて、蒼銀の雷が激しくスパークする。

 「な、貴様其れは…!」

 「瀬流彦が出した京都の報告書は知っているだろうが、残念ながら此れはその時とは違う…」

 外見的には今までの銀髪蒼眼とそれほどに変わらない。
 だが、発せられる力は段違い、否桁違いに強い。

 強化については京都への修学旅行時に瀬流彦が書いた報告書から誰もが知っている。
 だが、目の前の稼津斗から発せられる力は、報告書から得たものよりもずっと強く感じるのだ。

 「XX2nd……修行を積んで辿り着いた力だ。」

 声のトーンは静かだが、其処からは揺ぎ無い自信が伺えるのは気のせいではない。

 「来い。薬なんかに頼ったお前の愚かさを、その身に教え込んでやる。」

 「く、舐めるな、氷薙稼津斗ぉぉぉ!!!」


 ネギと超の直接対決よりも先に始まった『裏』最終決戦。





 ――日没まで後15分













  To Be Continued… 


 

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