小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 激戦極まるイベント会場。
 参加者の予想以上の頑張りで、田中や各種中型兵器は、その略全てが掃討されていた。

 無論『防衛隊』の方も無被害ではない。
 既に5箇所の防衛拠点は落ち、残るはこの『世界樹広場』のみ。
 更に結構な数の防衛隊員が『時間跳躍弾』を喰らって『失格』になっている。
 ヒーローユニットも約半数が失格状態であった。

 そして戦況はある種最終局面を迎えている。
 そう、超巨大兵鬼を相手にした大決戦だ。

 「「「「敵を撃て!」」」」
 「漢魂!!」
 「烈空掌!」

 大勢で攻撃を仕掛けるが、如何せん堅い。
 武道大会の予選に参加していた連中は、最早支給される武器ではなく己の技で戦っていたりもする。
 攻撃の手数も威力も相当なはずだがまるっきり効き目無し。

 「此れだけ攻撃しても…!ダメか…?」

 一切合切攻撃が通らない相手に、現在ぶっちぎりのランキング1位のアキラも流石に諦め感が漂う。
 現にこの大型兵鬼、防衛隊の攻撃を腕一振りで掻き消し、加えて極大ビーム発射直前。
 この一撃が放たれたら最終拠点である此処も落ちることは間違い無いだろう。

 司会の和美が手を出すにしても被害甚大は確実だ。


 エネルギーチャージが済んだのか、兵鬼の口元が眩いばかりに光る。
 最大の攻撃が――


 ――ドガァァァァァァァァァン
 ――ガキィィィィィン


 放たれるよりも早く、防衛隊員の其れとは全く違う攻撃が兵鬼を吹き飛ばした。










 ネギま Story Of XX 44時間目
 『BRIGHT STREAM』










 謎の攻撃によって兵鬼は上半身と下半身がさようなら状態に。
 そしてその周囲は、まるで冬が訪れた極点地の様に凍りつき氷山まで出来ている。

 「な、此れは…!」
 「真っ二つ!?」

 「此れはまさか…!ネギ君!!」
 「と、エバちゃん!?」

 その攻撃を行ったのはネギとエヴァンジェリン。
 杖に跨るネギと、その後ろに立つエヴァ。

 「間に合いましたね。」

 「ギリギリだが、ラスボスを倒す主役の登場としては悪く無かろうよ。」

 言いながら、自らの攻撃で出来上がった氷山の一番高いところに着地。
 眼下では、参加者が突然の事態に殆どが『ぽか〜ん』と、謎の援軍を見上げている。

 其れに『上手く行った』とばかりに僅かに口角を上げると、

 「何を呆けて居るか二等兵共!大会準チャンプのネギと、闇の福音たる私が折角作ってやった好機を逃す心算か!
  動けぬ今のうちにさっさと攻撃をしろ!一切の手加減などするなよ!!」

 軍隊の鬼軍曹よろしく突撃命令!
 かな〜りぶっちゃけた事も言っているが、この大騒ぎの中では誰も気にしてないだろう。

 「ネギ君!エヴァちゃん!良いタイミングだよ全く!
  超は世界樹直上の4000m上空の飛行船!やっぱし最終決戦場は其処みたいだ。」

 その最中に和美がアーティファクトを展開して探し出した超の居場所をネギに伝える。
 最終決戦場は、『アノ』未来で超から聞かされた場所で間違い無いようだ。

 「分りました朝倉さん!!」

 「ネギ君…『私等』の方は大丈夫だから思い切りやってきな!超の事は、君に全部任せる!」

 「…はいっ!!加速(アクケレレット)!!」

 一切の迷いも淀みも無くネギは答え、急加速で上空へ。
 有るのは『超と止め、誰も死なせない』という決意のみだ。

 エヴァも一度だけ満足そうに其れを見て、再び視線を眼下に。

 「ふ…本当に良い成長をする。時に朝倉和美、貴様は戦闘に参加せんのか?」

 「冗談。私が出ちゃったら、誰がイベント盛り上げるための司会とか、ネギ君の活躍伝えたりすんの?
 『さぁ、生き残っていた数少ないヒーローユニット!噂の子供先生、ネギ・スプリングフィールド(10)!
  ラスボス、超鈴音の待つ魔帆良学園上空4000mの飛行船へと向かいます!!
  しかし、ラスボス超も負ける気などサラサラ無い!寧ろ返り討ちにしてやる!!との事!
  このまま行けば、本年度まほら武道会準優勝ネギ選手と、
  主催者にして自らも北派少林拳の使い手である超鈴音のガチバトル!!
  更に大部隊を殲滅したといえどもロボ軍団も未だ健在!皆さん最後まで気を抜かぬように!!』
  と、こんな風にさ?」

 会場が再び盛り上がる。
 今の和美の司会は面白い程に効果は抜群だった。

 「成程見事だ。…お前、記者よりも司会業の方が向いてるんじゃないか?」

 「如何だろね?」

 少なくとも向いてない訳ではなさそうだ。








 ――――――








 その上空4000mの飛行船上では、超が計画の最終段階に入っていた。
 世界12箇所の聖地及び月と、学園6箇所の魔法陣の同期は既に完了している。
 後は世界樹広場が陥落すれば計画発動し、間違いなく成功するだろう。

 「超さん、本当に良いんですか?この計画を完遂して―――」

 故に葉加瀬は問う。
 この計画が発動し、完遂すれば超とて只では済まない事は明白だ。
 幾ら時間跳躍を繰り返して追っ手を撒くと言っても、其れはこの最終日の0:00までが限界。
 其れを過ぎれば世界樹の魔力は利用不可能となり、魔法先生に捕縛されるは確実。
 そうなれば、二度と日の光の下を歩く事が出来なくなる事くらいは関係者なら想像に難くない。

 「勿論だヨ…と、言いたいが――どうやらその可否を決めるのは私ではなく、彼ネ。」

 その問いに『当然』と答えようとした超だが、言い切らず、ある一点を見る。
 飛行船の先、高度4000mの上空、雲すら眼下にあるこの場所に――ネギは到達していた。

 杖に足を掛けての略直立。
 超達を見据える瞳には一切の迷いは無く、決意のみが浮かんでいるのは葉加瀬にも分るほど。

 そしてひときわ目を引くのは纏った魔法使いのローブ。
 それだけならば何もおかしくは無い。
 ネギは武道大会でもローブを纏って試合に臨んでいたのだから。

 だが、今ネギが纏っているのは其れとは形を同じだがその色は漆黒。
 2日目のスタイルとは真逆のスタイルなのだ。

 その余りの違いに超も思わず目を開いてネギを見入る。

 「…これはこれは、どういう心境の変化かなネギ坊主?そのローブ、お世辞にも『正義の魔法使い』には見えないヨ?」

 「其れはそうですよ。此れはエヴァンジェリンさんが用意してくれたものですから。」

 「エヴァンジェリンが…?」

 予想外…とは言わないが、超が知る限りエヴァは其処までネギに入れ込んでいるということは無かったはずだ。
 其れがこの漆黒のローブをネギの為に用意すると言うのは少し信じられなかった。

 「僕はもう、『大衆が掲げる正義の魔法使い』にはなりません!僕は僕が信じる道を、僕が信じる正義を貫きます!
  例え其れが多くの人の目に『悪』と映ろうとも、僕は最後まで其れを貫き通す!!」

 決して強がりや大口ではない。
 あの『歪んだ未来』で見せ付けられた大多数を占めるであろう『正義の魔法使い』の本質。
 それがネギに『大衆的な正義』との決別を決意させていたのだ。

 黒いローブはその決意の現れだ。


 ――まさか此処までとは…たった1人のイレギュラーで此処まで過去は変わるのか?
 「成程な。だが、其れでいて尚、私の計画に加担する気は無いのカ?」

 最早、超の心は乱れまくりだ。
 アスナから告げられた事と、ネギの予想外の大成長――此れだけでも自分の知る過去とは大きく異なっているのだから。

 しかし、それでも動揺を悟らせないのは流石と言うべきだろう。
 あくまでもネギを引き込む姿勢を変えようとはしない。


 尤も其れは全く無駄なのだが…

 「ありません。貴女を止めてこの計画を終わらせる!此れもまた『僕が信じる正しい道』ですから!」

 そう言うが否や、『これ以上語ることは無い』とばかりにネギは杖の上で構え魔力が膨れ上がる。
 同時に超も理解する、『既に自分の知る過去とは決定的に違うのだ』と。
 なればするべき事は一つしかいないのは道理。

 「全くホントにイレギュラー続きダ。だが、非常にらしくないが、ネギ坊主!『今の君なら』と言う期待をしてしまうヨ!
  君の決意は良く分っタ!ならば私も全力を持って、この力を揮うとするネ!!」

 今はアスナの言った事を頭の片隅に追いやり、ネギと全力で対峙するが礼儀。
 羽織っていた外套を捨て去り、超もまた構える。

 ネギも超も共に『カシオペア』を所持した『時間超越者』だ。


 ――シュン!


 共にその力を発動させ、人には到達できない次元での戦いが幕を開けた。








 ――――――








 ネギと超の戦闘が始まった頃、この湖畔での戦闘も激しさを増していた。

 XXの第2形態に覚醒した稼津斗と、強化秘薬を使ってパワーアップした大学部の魔法教師。
 人外レベルの戦いは、しかし終始稼津斗が優位を保っていた。

 「ふぬあぁ!!」

 「遅い。まるで速さが足りないな。」

 凄まじい力で以って拳を揮い、また強烈な魔法を放つも其れが稼津斗を捕らえる事はない。
 全てが『放つのを見てから』回避されている。

 其れはつまり、放つのを確認してからでも回避が間に合うと言う事。
 要するに圧倒的にスピードが足りていない事を意味していた。

 「何故だ!何故当たらない!このパワーを持ってすれば貴様などぉぉお!!」

 「気付いてないのか?お前は力にばかり固執して全体バランスを考えていなかったんだ。
  一撃で直径数メートルのクレーターを造る力も、相手に当たらなければ何の意味も無い。」

 無論、稼津斗とて無傷ではない。
 だが、身体の擦り傷や胴衣の破損は全て相手の攻撃の余波によるもの。
 攻撃そのものは回避したものの、そのパワーゆえの凄まじい余波で付いたものなのだ。

 「黙れ、異端が!貴様は此処で死すべき存在なのだ!我等『正義の魔法使い』の裁きを受けて!!」

 にも拘らず、相手は未だに独善的な持論をかざし攻撃を仕掛けてくる。
 もう、呆れかえって反論する気にもならなかった。

 「…誰が『正義の魔法使い』なんだろうな。」

 つぶやいた瞬間、鋭い蹴りが突き刺さった。

 「ごふぁ!!」

 「何時まで勘違いしてる心算だ?正義=善ではないんだぞ?」

 攻撃の手を緩めずに肘撃ち→裏拳のコンビネーション。
 その一撃の何と重い事か。

 合計で3発。
 たった3発で、大学部教師の強化された身体には耐え切れないほどのダメージが叩き込まれたのだ。

 だが、稼津斗の猛攻は止まらない。

 「正義と言うのは、己の中にあるもの!決して他の誰かが掲げたものに同調するものじゃない!」

 体勢を崩した相手に、容赦の無いボディブローにショートアッパー、そして後ろ回し蹴りを応用した回転踵落とし。

 「にも拘らず、己の正義を見失い、大衆的な正義に乗せられるのが本当の正義だと思っているのか?」

 息もつかせず、一瞬で背後に回って掌打で吹き飛ばし、其れを追うようにしての追撃の跳び蹴り。
 数千倍に強化した状態であっても、本気稼津斗には全く敵ではなかった。

 攻撃は全て読まれ、一切無力。
 反対に此方は殆どサンドバック状態、どちらに分が有るかなど言うまでもない。

 「一度、良く考えてみろ!!」

 蹴り上げ、自らも飛び上がり、ハンドルパンチで叩き落す。
 相手が落下した地点にはクレータが出来ている辺り相当な力で撃ったのは間違いないだろう。

 「……此処までか。」

 土煙を前に稼津斗は呟く。
 確かに此れだけの攻撃を喰らったら一般人はその時点で再起不能確定だ。
 だが相手は曲りなりにも一応は現役の魔法教師だ。

 しかも強化秘薬でパワーアップしている。

 「ぐぅぅ…オノレェ…!」

 其れを示すかのように、クレーターから這い上がってきた。
 その光景だけ見ると殆どホラー映画だ。



 だが、稼津斗は這い上がって来た相手には何もしないし何も言わなかった。
 ただ一言、

 「…終わりだ。」

 其れだけを言って背を向けてしまった。
 当然相手は我慢できない。

 稼津斗の今の行動は暗に『相手にならない』と言われたようなものだ。
 傲慢とも言えるそのプライドが黙っていられるはずも無かった。

 「貴様!終わりとは如何言う事だ!まさか、勝った気でいるのか!?」

 誰が見ても稼津斗の勝ちは動かない状況だ。
 それでも未だ戦えると吹くあたり、秘薬の強化による副作用は恐ろしいと言わざるを得ないだろう。

 「終わりだ。お前気付いていないのか?お前の身体――既にスクラップだぞ?
  身体能力を数千倍、其れは確かに馬鹿に出来ない効果だ。
  だが――お前、その強化に付いて行ける身体を作っていたのか?」

 だが、この一言、其れが全てだった。








 ――――――








 一方で裕奈とリインフォースが戦っている相手にもそろそろ『終わり』が近づいてきていた。


 ――そろそろかな?

 ――そろそろだな。


 2人とも相手の『限界』が近い事は何となく感じ取っている。
 と言うのも、攻撃で付いた傷の再生速度が少しずつだが遅くなってきているのだ。

 秘薬の効果が切れ始めているのは明らかだった。

 「裕奈。」

 「OK!Y&R超広域殲滅コンビネーション!」

 裕奈のブレードに、リインフォースがペンデュラムのワイヤーを絡ませ、互いに魔力を集中する。
 その魔力の大きさで、ブレードが巨大な光の剣になったかのようだ。

 「超魔導裂波斬!」

 「吹っ飛べ!ファイヤー!!!」

 集中した魔力を一気に放ち、周囲に有るものを纏めて吹き飛ばしていく。
 其れは正に『超広域殲滅』と言うに相応しい、回避行動が意味を成さない無差別攻撃。

 余りにも強い。
 まかり間違っても、『魔法教師』程度が相手に出来る者達ではなかった。


 「…ヤベ、自然破壊しちゃった。」

 「治癒効果のある魔力を流し込んでおけばすぐに再生するから問題ない。」

 攻撃が終わり、裕奈が言うように、2人を中心に周囲はまるで絨毯爆撃を受けたかのように焼け野原。
 此処に林があったと言っても恐らくは誰も信じないだろう。

 其れはさておきだ、攻撃を喰らった側の2人は殆どボロ雑巾状態だった。
 既に幾多の攻撃を受け、衣服はボロボロでは有ったのだが、今は身体も傷だらけの満身創痍。


 秘薬の効果が切れ、強化されていた自然治癒力が元に戻ったのだ。

 「ぐが、何故…?」
 「何故傷が治らない…!」

 が、2人は其れに気付かない。
 肥大化した筋肉も元に戻っているのにだ。

 「秘薬の効果切れ、タイムオーバーよ。アンタ達はもう普通の人と変わらない。」

 「秘薬で強化された超回復を当てにし過ぎたな。あの再生速度は脅威だが、生物の細胞には分裂限界がある。
  お前達は、この短時間で其れを略使い切ってしまった。指1本動かすのだって辛いはずだ。」

 「「!!!」」

 衝撃だ。
 つまり、この2人はもう人として普通の生活は殆ど送れないという事だ。
 かすり傷程度ならばいざ知らず、もしも大怪我をしたら永遠に完治しない可能性すらある。

 力の代償をまるで考えていない者の末路、自業自得の極みだった。

 「力に溺れた者の末路だ。朽ち果てるまで大人しくしていると良い。囲え、鋼の軛!」

 終わりとばかりに、リインフォースが展開した魔法。
 無数の杭が現れ、牢獄の様に2人を囲い閉じ込める。
 ろくすっぽ動けないのでは脱出は無理だろう。

 「流石リイン、お見事。」

 「お褒めに預かり光栄だ。…イベント会場に戻るか?」

 「だね。まだ終わってないっぽいし!」

 誰が如何見ても裕奈とリインフォースの完全勝利だった。








 ――――――








 場所は再び湖畔。


 「何…?如何言う事だ…?」

 何とか起き上がった大学部の教師は『分らない』とばかりに稼津斗に聞き返す。
 此方は服用量が半端ではなく多かったせいか未だ効果は切れていない。(戦闘中も何度も再服用していた)

 其れに溜息を吐きながらも向き直り、どう言う事かを一応の説明をしてやるようだ。

 「数千倍の力…確かにその倍加『だけ』を見たら相当なものだ。
  だが、その巨大な力の受け皿になる身体の方は其れを受け入れられるだけの耐久力が備わっていたのか?」

 「な…!」

 「つまりはそう言う事さ。貴様は数千倍という力を自らの体の事を考えずに使い過ぎたんだ。
  そのせいで肉体が限界をむかえて壊れ始め、どんどん力が弱くなってきている…これ以上戦っても何の意味も無い。」

 再び背を向け告げる。
 其れはつまり、この戦闘の終了宣言。

 そして、止めとばかりに稼津斗は告げる。
 侮蔑を最大限に込めた一言を。

 「既にお前のプライドなど塵芥同然だろう、こんな下らない力に頼ってしまったのだからな。
  其れにも拘らず、いざ戦ってみたら数千倍にしたはずの力はまるで通じずに、殆ど返り討ち。
  しかもその相手は……フッ、高々異端の若造だった。」

 侮蔑と皮肉を最大限に込め、見下すように言い放つ。
 それだけで充分に相手のプライドは引き裂かれているだろう。

 「今の貴様には殺す価値も無い。敗北のショックを抱え、滅び行く肉体に怯えながら余生を生きると良い、惨めにな。
  俺はネギの所に行く、あっちもそろそろ決着が付く頃だ。
  ……二度と俺の、俺達の前に現れるな。もし現れたら、価値が無くともその身を屍に変えてやる。」

 冷たい、いっそ『冷酷』とも言えるほどの視線を向けて告げ、その身を気で浮き上がらせる。
 時間移動を繰り返して戦っているネギと超の元には、瞬間移動よりも飛んで言った方が確実なのだろう。

 「…もし、少しでも頭が冷えたなら己の正義の原点は一体なんだったのかを考えてみろ。」

 最後にポツリと其れだけを言い、高速でネギの居る高度4000m上空を目指して急上昇。


 稼津斗にはこの戦いに、もう思うところは何も無いだろう。
 だが残された魔法教師は違う。

 圧倒的な力の差を見せ付けられ、己の失敗を指摘され、あまつさえ見逃された。
 とても、耐えられる恥辱ではない。

 「ふ、ふざけるな…!貴様等の様な危険な異端分子は、我等『正義の魔法使い』に…滅ばされねばならんのだーー!」

 だからだろう、肉体の悲鳴を無視し限界突破の極大魔法で稼津斗を狙い打つ。
 その一撃は、寸分違わず稼津斗に向かう。

 だが、

 「最後の最後まで。この…大馬鹿野郎!!!」

 その一撃も稼津斗の怒声一発で掻き消されてしまう。
 気功波でも何でもない、只の怒声、言うならば気合だけでだ。

 「なっ…!そんな、馬鹿な…」

 余りにも馬鹿げた力の差。
 最後の最後で決定的な其れを見せ付けられ、魔法教師は茫然自失。
 もう、攻撃を仕掛ける力は残されていなかった。

 「…阿呆が。」

 其れを一瞥し、稼津斗は今度こそネギの元へと飛んで行った。








 ――――――








 稼津斗が言った様に、4000m上空での戦いも大詰めを迎えていた。

 互いにカシオペアを最大利用した時間跳躍の超次元戦闘は、実はネギの方が優位に進めていた。
 状況と切れるカードに関してはネギの方が圧倒的に不利ではあった。

 如何に2つのカシオペアを有しているとは言え、その2つは1週間という長時間遡行を行った影響で殆ど壊れていた。
 使用限界があるのは明白だった。

 だが、ネギは其れを持ち前の頭脳と、厳しい修行で培った戦闘技術で補い、先に超の持つカシオペアを破壊したのだ。
 勿論直後に、稼動限界をむかえた自身のカシオペア2機も壊れてしまったが。

 普通ならカシオペアが使用不能になった時点で、魔法が使えない超の敗北は確定してただろう。

 事実ネギもそう思っていた。
 が、超は更なる切り札を隠し持っていた。



 言うまでもない『魔法』だ。



 ネギ以上の威力と質を持った魔法を使っての反撃をしてきたのだ。



 勿論其れは普通の魔法ではない。
 科学的な様式を取り込んで無理やり体に術式を施し、限界以上の力を術者から引きずり出す狂気の策だ。
 下手をすれば後数発、否一発魔法を撃っただけで超の体はスクラップ同然になるほどの負担が掛かっている。


 以前のネギならば其れを見た瞬間に超を止めていただろう。
 しかし、そうはしなかった。

 初撃を障壁で防ぎ、追撃を相殺して間合いを整えたネギは、杖を足場に超を見据えていた。


 「はぁ、はぁ…い、意外だゾ、ネギ坊主。君なら流石に此れを見たら止めようとすると思ったガ?」

 「止めますよ。でも其れは言葉じゃない。貴女の其れは決意の現れでしょう?
  だったら最大限の力で応え、その上で止めるのが礼儀です!」

 「…成程。本当に君は良い成長をしたんだナ…。ならば手加減はしないヨ!」

 互いに構え、魔力を集中。
 恐らくは極大魔法同士のぶつかり合いになるだろう。

 其れを撃つ前に、ネギは一つだけ超に聞いた。
 聞かねばならない事だったから。

 「この一撃を放つ前に一つだけ答えて下さい超さん。
  この計画が、貴女にとって全てだという事も、その為だけに今に来たという事も分りました。
  でも、葉加瀬さんやくーふぇさん、引いては3−Aの皆さんと過ごした2年間は――貴女にとって何だったんですか?」

 「3−Aの皆…か。唯一、私の唯一の計算違いは稼津斗老師の存在以上にクラスの皆だったヨ、ネギ坊主。
  この2年間は、そう、まるで夢のように楽しい時間だったヨ。」

 驚くほど穏やかな笑顔で超は答える。
 其処には何の打算も計算も無いだろう。



 だからこそネギの心は決まった、改めて決意した。

 「其れを聞いて安心しました。此れで僕は、この一撃を迷わず放つ事ができる!」
 ――貴女を救う為の一撃を!!


 「其れは良かったヨ!…お喋りは終わりネ。」


 一瞬の静寂。
 風すら止んだように一切の音は無い。


 そして、

 「ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル!契約に従い我に従え炎の覇王(ト・シュンボライオン・ディアコネート・モイ・ホ・テュラネ・フロゴス)!!」

 「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル!来たれ雷精、風の精(ウィニアント・スピリティウス アエリアーテス・フルグリエンテース)!!」

 詠唱開始!
 逆巻く魔力が2人を包み、その姿を明るく照らし出す。

 「来たれ浄化の炎、燃え盛る大剣(エペゲネート・フロクス・カタルオークス フロギネーロンファイア)!
  ほとばしれソドムを焼きし(レイサントーン・ピュールカイテイオン)…」

 「雷を纏いて、吹きすさべ南洋の嵐(クム・フラグラテイオーネ フレット・テンペスターズ アウストリーナ)!!」

 だが、魔法に於いてはネギの方が格段に上。
 詠唱スピードも当然ながら速い。

 「火と硫黄(ハ・エペグラゴン・ソドマ)!罪ありし者を死の塵に(ハマルトートゥスエイス・クーン・タナトゥ)!」

 「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 既に魔力は臨海突破。
 超の両手には灼熱の炎が猛り、ネギの両手には眩い稲妻が迸る。

 「燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)!!」

 「雷の暴風(ヨウイス・テンペスターズ・フルグリエンス)!!」

 放たれた極大魔法。
 ぶつかり合う炎熱と雷光がスパークし、夜空を昼間のように明るく照らす。

 「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ぬぅぅぅぅ…!」

 どちらも一歩も引かず、押し切ろうと魔力を注ぎ込む。




 だが、限界は矢張り超に先に訪れた。


 ――パキィィィン


 全身に施された魔法術式が一部完全に壊れ、其れを皮切りに全身の其れが壊れていく。
 この術式が無ければ超は魔法の行使が出来ない。

 となれば、当然超の放った魔法は、自然消滅。


 急速に勢いを無くした炎は、猛る雷に飲み込まれ…


 「!!」


 勢いを殺さずに超の姿そのものを飲み込んだのだった…














  To Be Continued… 

-44-
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