小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 稼津斗とネギが闇の魔法の試練に捕らわれて、あっという間に丸一日。

 「ちぃ…!オイおっさん、もっとこの薬草ねーのかよ!ネギ先生の手当てには全然足りねぇ!!」

 「アルテミシアの葉か?それだったらここいらに幾らでも原生してるぜ?」

 「ならさっさととって来い!私と椎名はネギ先生の手当てと看病で手が放せねぇんだよ!」

 稼津斗は兎も角として、ネギの方は目に見えて『ヤバイ』状況になっていた。
 高熱のみならず、突然血を吐き身体からも血が噴出したのだ。

 ラカンが言うには精神世界でのダメージが肉体に繁栄されるのは相性が良い証との事だが、無視できるレベルのダメージではない。
 幸いにもラカンが傷に良く効く薬草を持っていたので手当てが出来るが、傷は次々増えていくので足りない。
 千雨と桜子は包帯の巻き替えや濡れタオルの交換などがあるので手が放せず薬草を取りに行ってる暇などは無い。

 「あいよ。嬢ちゃん達にだけ任せるのも格好がつかねぇし…坊主がどうにかなっちまったら大事だ。
  序でに簡単に食える果物でも一緒に採って来てやるよ。」

 「お願いね〜。」

 ラカンも何もしないわけではない。
 折角見つけた逸材をみすみすおじゃんにする気はさらさら無いのだ。

 「と、後は此れだ。どうしてもダメだと判断したらコイツで巻物を貫きな。そうすりゃ坊主も兄ちゃんも目を覚ます。」

 なので試練の強制解除が出来る短剣を千雨に渡す。
 千雨に渡したのは、彼女の責任感の強さを思っての事だろう。

 「私が?……たく、わーったよ。過ぎた無茶を止めんのは私の役割らしーからな。」

 ぶっきらぼうに返しながらも、千雨にも迷いは無い。
 『蒼き翼』での自分の役割は確り分っているようだ。

 「んじゃ、行ってくるわ。」

 ラカンも薬草採りに。


 ――坊主は兎も角、兄ちゃんの方は一体何と戦ってんだ?…ったく楽しそうな顔してるぜ。


 出掛けに稼津斗を一瞥し、そんな事を考えていた。











 ネギま Story Of XX 69時間目
 『戦え!兎に角戦え!』










 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!」

 「むぅぅぅぅぅぅん!!」

 飛び散るコンクリート片、鳴り響く打撃音、空を割く気功波。
 精神世界での稼津斗と老人の戦いは人知のレベルを遥かに超えていた。

 この2人には地面も壁面も中空も関係ない。
 上下左右、空間の360度が戦闘空間に成り代わっている。

 「波導掌!」

 「滅葬!」

 気を篭めた掌打と、気を篭めた貫手がかち合いスパークする。
 そのまま押し合う事はせずに、互いに点をずらして体を入れ替え次なる攻防に移る。


 一流を超えた超一流同士の戦いに、何よりも驚いているのはコピーエヴァだった。

 稼津斗の力は取り込んだ時に把握した。
 如何見積もっても自身のオリジナルよりも格段にその力は強い。

 それだけでも驚きだったのに、更なる驚きは相手の老人。
 その稼津斗と互角以上に戦っているのだ。
 体格差で圧倒的に劣るにも拘らずだ。

 「あの爺…何者だ?」

 思わずこぼれた呟きは、この場に他の人物が居たら同じ事を思ったであろう一言。
 この老人には底知れぬ強さが見て取れるのだ。





 ――矢張り強いな……いや、俺の精神世界であるというのなら当然か…


 稼津斗も稼津斗で、目の前の老人の強さの秘密が何となく分っていた。


 稼津斗は強い。
 それこそエヴァが『絶対に敵わない』と言うくらいに。

 だが、此処は精神世界。
 稼津斗の記憶を元に構成された世界なのだ。

 その世界に於いて、この老人は稼津斗が知る限りの『最強』。
 人であった頃に一度も勝てなかった相手ゆえ、此処でも『唯一稼津斗を超える存在』として現れているのだ。

 常に自分よりも強かったこの老人は、正に最強なのだ。


 ――だが…負けられない。XXに変身すれば或いは押し切れるかもしれないが、それじゃあ意味が無い。
    俺はXXに変身せずに、爺さんに勝たないとな。
 「矢張り強いな龍(ロン)爺さん。俺も結構修行したんだがな…」

 「ふ、お前も見事だ小僧。よもや此処まで強くなっているとは思わなかったぞ。」

 「俺の成長が楽しみなんだろ?なら、期待は裏切れないからな。」

 「ふ…吠えたな?ならばもっともっと撃って来い!」

 「言われるまでもない!」

 長近距離での蹴り上げはギリギリで避けられるが、その蹴り上げた足をそのまま打ち下ろしての踵落し。
 その足を取り、逆に勢いを利用して投げ飛ばす老人――龍。

 「今のを取るか…!…だが…せい!!」

 投げられた稼津斗も空中で受身を取り、今度は2連続の回し蹴りコンビネーション。
 此れは取る事ができなかったが、龍も有効打にならないようにガッチリガード。
 しかも真正面からガードするのではなく、点をずらして威力を受け流すおまけつき――正に達人だ。

 だが、ガードすると言う事は如何に威力を受け流そうとも攻撃を防いだ事による一瞬の隙が生じる。
 その隙を逃す稼津斗ではない。

 着地と同時に肘を繰り出し、此れを皮切りに猛ラッシュを仕掛ける。

 「おぉぉぉぉぉ…!」

 「むぅぅ…!?」

 肘、膝、拳、蹴り、掌打……間合いを離さず、龍に反撃の機会すら与えないほどの超高速ラッシュ。
 コピーエヴァも目で追うのがやっとの猛攻だが、龍もそれを略完璧に防ぎきっている。
 だが防がれようとも止まらない。

 例えガードの上からでも攻撃を続けていれば少しずつだがダメージが蓄積するのは道理。
 ならば決定的な一撃を入れられるまで攻撃を続けていた方が流れもつかめるのだ。


 ――無変身とは言え、全力の攻撃を防ぎきるか。俺の精神世界である事を抜いても矢張り爺さんは強いな…!


 ――むぅ……素晴らしいまでの強さよ。こやつならば、或いはワシの『奥義』を継げるやもしれぬ…!


 その激しい攻防の中で互いに互いの強さを再認識し、評価する。
 其れを示すように、2人の顔には笑みが浮かんでいる。


 楽しいのだ。
 真の強者との全力を賭した戦いが。

 楽しいからこそドンドン激しさは増す。
 闘う者でなければ大凡理解できない至高の楽しみなのだ。



 「捕らえた!」

 そして、激しい攻防の中、遂に稼津斗が龍を掴んだ。
 腕力では稼津斗の方が元々ずっと強く、其れに掴まれては龍も簡単には抜け出せない。

 「でぁ!」

 「むご!?」

 その状態から繰り出されたのは…何と頭突き。
 引き寄せるようにして引っ張り、更に自分の頭を打ち下ろす。
 1発のみならず、2発、3発、4発………

 「らぁ!」

 「ぐぅ……」

 計8発もの頭突きを炸裂させ、尚離さない。

 「爆ぜろ!!」

 更には掴んだ手元で気を炸裂させ直に気を叩き込む。

 「むぉ…!」

 この衝撃には流石に手を離すが、龍の体勢は大きく崩れる。

 「波導掌!」

 其処に間髪入れずに気を篭めた掌打を叩きこんで吹き飛ばす。
 勿論此れでは終わらない。

 「金剛裂爪斬!」

 止めとばかりに拳を地面に打ちつけて発生させた衝撃波での追撃。
 無変身とは言え、稼津斗の本気の攻撃を此れだけ受けたら普通は終わりだろう。


 だが相手は稼津斗の記憶にある『最強の存在』だ、そう簡単には終わらない。


 「…見事。実に見事な攻撃だ小僧。初めてワシに挑んできた時のヒヨッコとは比べ物にならぬわ。」

 粉塵が晴れ、瓦礫の中から龍が現れる。
 勿論無傷ではないし、その胴衣も損傷している。
 だが、この猛攻を受けてまだ戦う事が出来るのは驚愕に値する。


 「馬鹿な…!如何に精神世界におけるイメージの再生とは言え此処までなのか…アイツの中でのあの爺の強さは…!」

 コピーエヴァももう何処から驚けば良いのかだ。
 稼津斗を取り込んだとき、もし抵抗されていれば取り込むことは出来なかった。

 無抵抗だったからこそこの精神世界に引きずり込む事が出来た。
 つまりは自分よりもずっと力が強い存在……

 にも拘らず龍は、その稼津斗と互角以上。
 稼津斗の中の『最強』がどれほどなのか――最早想像すらつかない。



 その稼津斗は驚くコピーエヴァとは反対に…

 「くくく……ははは……はっはっはっはっは!!」

 堪え切れなかったかのように笑い出した。

 「小僧?」

 「いや、悪いな爺さん…つい嬉しくてな。」

 笑い出した稼津斗に龍も訝しげな顔をするが、其れには嬉しいと答える。

 「爺さん、やっぱり強いな……嬉しいよ、俺が目標にしてた『最強』そのままだ。
  有頂天になってた俺を叩きのめし、でも成長を願ってくれて、何度挑んでも嫌な顔一つせずに相手になってくれた。
  爺さんが居なかったら、俺はきっと何処かで潰れてただろうな…改めてそう思う。」

 「小僧…」

 「…分ると思うが、此処は俺の精神世界で、景色も爺さんも俺の記憶が再生されてるものだ。」

 「矢張りか…」

 龍もこの世界が現実ではないと薄々感じていたらしい。


 当然だ、今この世界には稼津斗と龍、そしてコピーエヴァの3人しか居ないのだ。
 幾らなんでも、此れだけの派手で激しい戦いをしていた人が1人も見物に来ないのはおかしすぎる。

 「俺はな爺さん…アンタに負けてから、ずっとずっとアンタに勝ちたいが為に自分を苛め抜いてきた。
  1度も勝つ事は出来なかったが、挑む度に自分が前よりも強くなってる事が認識できたんだ。
  記憶の中のこの世界はもう無いし、今更あの世界に戻ろうとは思わない。
  けど…あの世界での唯一の心残りはな……爺さん、アンタに勝つことが出来なかった事だ。
  俺の成長を楽しみにしてくれた爺さんへの最大の恩返し――アンタを超える事が出来なかった。
  精神世界の爺さんは勿論本物じゃないし、コイツは自己満足の自慰好意なのかもしれない。
  けど此処でなら、どんな形であれ俺は心残りを晴らすことが出来る。」

 精神世界だということが理解されようとも、稼津斗のやる事に変わりはない。
 ただ眼前の『最強の存在』を超えるだけだ。

 「ふ…小僧、ワシはうぬが理想とした相手なのだろう?なればワシは本物よ。
  うぬの魂の篭った一撃は必ずや涅槃に渡ったワシの魂に届く……いや、届いておる。
  超えてみろ小僧!うぬが『最強』と思い描いたこのワシを!!」

 「言われなくても…俺は今こそアンタを超える!」

 此れを合図に、両者は再び戦いを始める。
 休む事も、死ぬ事も許されない精神世界ゆえに時間はある意味での無制限。
 人知を超えた超バトルは、まだ決着には時間が掛かりそうだ。








 ――――――








 一方でネギはと言うと…


 ――ドガァァァン!!


 「うわぁぁぁ!!!」

 「う〜む…惜しい。又失敗か。」

 闇の魔法を実演して見せたラカン状態に成っていた。


 「う〜〜〜ん…」

 「基礎理論は理解し、更に闇の魔法の根幹も理解して尚失敗するとは…何故だ?」

 実はネギはこの精神世界において禄に戦闘は行っていない。
 既に基礎理論は独学で身につけていたし、学園祭の一件で正邪、清濁全てが必要な事だとも学んでいた。

 だから『闇の魔法』の本質には直ぐに気が付いた。
 にも拘らず、いざ其れを使おうとすると、術式装填までは上手く行くものの、装填後に暴発。
 因みに今の暴発で目出度く80発目。

 もしも精神世界でなかったらとっくにお陀仏だろう。
 現実に跳ね返っているダメージと高熱は、実は全部この暴発の反射ダメージなのだ。
 おかげで千雨と桜子が大変なわけなのだが…

 「しかし何だなぁ…この休む事も死ぬ事も出来ない世界で此れだけの暴発ダメージ受けながらも諦めないとは凄い事だな。
  力を欲したタダの馬鹿者かと思ったが…中々骨があるじゃないかぼーや。」

 コピーエヴァは感心するように言うが、その瞬間ネギが物凄い勢いで起き上がった。
 暴発ダメージで身体の彼方此方から血が出ているのに、其れすら気にしない様子で。

 「ネギです…」

 「は?」

 「ぼーやじゃなくてネギって呼んで下さい!!本物のエヴァンジェリンさんは僕の事を名前で呼んでくれます!!」

 「は〜〜〜!?」

 ネギが反応したのは自分の呼び方に対してだ。
 確かに本物のエヴァはネギの事を名前で呼ぶし、ネギもエヴァの事を名前で呼んでいる。

 序でに、千雨曰が『さっさと結婚しちまえ』と言うほどのラブッぷり。
 ネギは普段は余り自覚が無いが、エヴァの事が好きである。

 そのエヴァと同じ容姿のコピーエヴァに『ぼーや』呼ばわりされるのは納得行かない。行くはず無い。

 「何でぼーやなんですか!一度も上手く行かないからですか!?」

 「いや、少し落ち着け!と言うかダメージが回復してる!?どうなっているんだぼーや?」

 「ネギです!!」

 テンションが上がったせいか、反射ダメージが即回復しコピーエヴァに詰め寄る。
 なんと言うかすごい…

 「いや、そんな事よりもだなぁ…此処まで来てるんだから良いかげんに成功させては如何だ?」

 「成功したら名前で呼んでくれますか!?」

 …微妙にネギの目的が入れ替わっているような気がしなくも無い。

 「…お前の目標は、フェイトとか言うガキに勝つことではないのか?」

 「勿論其れも目標です。けど、それ以上にエヴァンジェリンさんには名前で呼んで欲しいんです!!」

 目的を忘れた訳ではないが、エヴァには名前で呼んで欲しいらしい。
 此処までかっちり言われてはコピーエヴァとて折れるしかない。


 「分ったよ…マッタク我が本体は中々難儀な奴に惚れたものだな…。
  良いだろう、どれだけ掛かろうとも成功したら名前で呼んでやる…だからがっかりさせるなよぼーや?」

 「勿論です!エヴァンジェリンさんの禁呪『闇の魔法』は必ず会得して見せます!」

 再び魔力を迸らせ、術式を固定する。


 この精神世界でもネギは着実にレベルアップしているようだ。








 ――――――








 因みに…


 「らあ!狗音爆砕拳!!」

 「終りネ!虎掌襲!」




 「魔天葬送華!」

 「闇に沈め…デアボリックエミッション!」

 闘技場に残ったメンバーは順調に連勝記録更新中。


 代理メンバーとして出場している超と和美の活躍も見事。
 現在欠場中の稼津斗とネギとは又違ったファンも出来ている。

 この分ならばオスティアでの大会参加の切符は問題ないだろう。







 遠からず、稼津斗とネギも精神世界から戻ってくるだろう。
 そしてその時には2人とも更に強くなっているはずだ。



 事は順調に進んでいるようである。
















  To Be Continued… 


 

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