小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



7話「最凶と最強」


1時限目の授業の時間に乱入し、ビッグ・マムの前に現れた百代。


ビッグ・マムの戦いを教室から眺めていた百代はとうとう闘争本能を抑えきれなくなり、授業を抜け出していた。


2−Fの生徒達も、百代の突然の登場に騒然とする。


「お……お姉さま?」


戦いでボロボロになった身体で、よろよろと百代に歩み寄るワン子。


だが、百代の目にワン子の姿は映っていなかった。百代にはもう、ビッグ・マムしか見ていない。


「ワン子、こいつはお前が勝てるような相手じゃない。下がれ」


「で、でも……」


「姉の言う事が、聞けないのか?」


「う……」


大人しく、百代の言う通り引き下がるワン子。この時の百代の目がまるで獣のように見えて、ワン子は少し恐怖を覚えた。


「ビッグ・マムとか言ったな。私は3−F所属、川神百代だ。今から貴方に決闘を申し込む!!」


ビッグ・マムと対面した百代は早速宣戦布告をする。それに対しビッグ・マムはニヤリと笑う。


「お前が川神百代かい。噂には聞いているよ……いいだろう。その決闘、受けて立とうじゃないか」


何の躊躇いもなく、百代との決闘を承諾するビッグ・マム。ビッグ・マムは2−Fの生徒達に向き直った。


「お前たち、今日の授業は自習だ。各自1時限目の授業が終わるまで、好きにするといい」


何ともむちゃくちゃな講師だと、2−Fの生徒達全員がそう思った。だが、生徒達の取る行動は一つしかない。


―――百代とビッグ・マムの対決を、見過ごす訳にはいかなかった。




「うっ……」


「ん……」


ビッグ・マムの一撃を受け、倒れていたクリスと京が意識を取り戻す。大和、キャップ、モロ、岳人が駆け寄り、二人を介抱する。


「クリス、大丈夫?」


モロと岳人がクリスに肩を貸す。クリスは立ち上がると、唇を噛み締めながら、地面を視線に落としていた。


「手も足も出なかった……あの教官、思った以上に強い」


まるで赤子扱いにされたような戦いだった。クリスは自分の未熟さを思い知らされる。


「京、しっかりしろ」


ぐったりした京に肩を貸し、大和が声をかける。京は意識が朦朧としていて、今にも倒れてしまいそうだった。


「大和……私、もう……」


「どこか痛むのか?なら、保健室に……」


「大和がキス、してくれたら……私、もう何も怖くない」


「よし、分かった。とりあえず保健室に行こう」


「もう、大和のいけず」


半分(殆どが)仮病だった。大和を引き付ける為の。


「ワン子、よく頑張ったな」


キャップがワン子の肩を叩く。ワン子はえへへと笑い、急に力が抜けて、地面に崩れてしまった。キャップはワン子を背負うと、大和達のいる方へと歩く。


(お姉さま……)


ワン子は思う。あれは百代の姿をした&quot;何か&quot;だ。自分の本能を満たしてくれる相手を、常に探し求めている。


まるで、戦いに飢えた獣のように。


ワン子の知っている百代は、もう帰ってこない……そんな気がして、ワン子は胸が締め付けられるような思いだった。




その一方で、百代はビッグ・マムという強者と対峙し、歓喜していた。


あのワン子、クリス、京ですら手も足も出ないとなれば、相手にとって不足はない。


サーシャといい、あのユーリといい……戦いに震え、鼓動が高鳴る日をどれだけ待ち望んでいたことか。百代は武者震いし、闘争心を燃やしていた。


「久方ぶりの死合いだ……楽しませてもらうぞ、ビッグ・マム!」


「いい気になるんじゃないよ小娘が。川神百代、お前のその天狗っ鼻をへし折ってやる!」


互いに火花を散らし、闘気をぶつけ合う2人。もはやこれは決闘というレベルでは収まらないだろうと、ここにいる誰もがそう思った。


百戦錬磨の武神と、ワン子達を軽くあしらう程の圧倒的な戦闘力を見せつけた戦術教官。


今、最凶と最強の戦いが始まろうとしていた。


「――――この戦い、ワシが立ち会わせてもらうぞい」


二人に向かって歩いてきたのは鉄心だった。鉄心は真剣な表情で両者を見る。


「モモ。授業を抜け出すのは感心せんが、今回だけは特別じゃ」


「やけに聞き分けがいいな、じじい。まあ、止めたとしても無駄だがな」


百代は腕を鳴らし、ニヤリと笑いながらビッグ・マムをまじまじと凝視する。今すぐにでも戦いたいと言わんばかりに。


すると、学園中から他の生徒達や教師たちも決闘を見たいがためにやってきた。校庭は、あっという間にギャラリーで覆い尽された。


ちなみに授業は中断し、決闘の見学は鉄心の学長権限により許可が降りている。


「では両者、名乗りを上げるがよい!」


「3−F、川神百代!」


「川神学園特別講師、ビッグ・マム」


両者とも名乗りを上げ、互いに顔を向き合った。校庭中にいるギャラリー全員が息を呑む。


(ビッグ・マム殿、モモを頼みましたぞい)


心の中でビッグ・マムに託した鉄心は、決闘開始の合図を告げる。両者は睨み合い、拳を構えて戦闘体制に入る。


この戦い―――真剣にならなければ勝てない。究極の対決が、今実現されようとしていた。


「いざ尋常に―――はじめぃ!!」


鉄心が合図をした次の瞬間、百代とビッグ・マムは同時に動き出して突貫する。


「――――川神流奥義・無双正拳突き!」


百代は拳を突き出し、強烈な一撃を繰り出した。ビッグ・マムもそれと同時に拳を突き出し、ストレートを打ち込む。


互いの拳と拳がぶつかり合い、その反動で凄まじい衝撃が巻き起こった。地面が揺れ、いかに強力な一撃かを物語っている。


「ふんっ!!」


ビッグ・マムは即座に反撃し、百代の左上腕に回し蹴りを打ち込んだ。百代は回避できず、打撃で骨が軋む。


(早い!?……だがこの程度!)


百代もすかさず反撃し、もう一度正拳突きを放った。ビッグ・マムも避けきれず、腹部に直撃を受ける。


「ぐっ……!?」


ビッグ・マムは後退し、体制を立て直した。腹にダメージを負ったものの、鍛え上げられた鋼の肉体で衝撃はある程度軽減されていた。もしもそれがなければ、一撃で沈黙していただろう。


(あの一撃でこの威力かい。さすがは武神と言った所か)


ビッグ・マムは心の中で感心する。今まで戦ってきた中で、百代は格段に強い。少しでも気を抜けばやられるのは自分だ。


(こいつは……久しぶりに本気を出さないといけないねぇ)


それにも関わらず、ビッグ・マムは全力ではなかった。百代の力量を測るため、様子を伺っていた。


だがもうその必要はない。百代は計り知れないスペックを持つ化物と認識したビッグ・マムは、精神を集中させて再び構える。


その様子を、百代は興味深そうに眺めていた。


(ようやく本気を出したか……なら、こちらも出し惜しみはなしだ)


百代も同じく、ビッグ・マムの力量を測っていた。百代は抑えていた闘気を身体中から放出させ、これまでとは比べ物にならない程のパワーを漲らせている。


「―――さあ、いくぞ!」


「―――来い、川神百代!」


戦闘続行。両者が接近し、体術による激しい攻防が始まった。互いに互角の戦いを繰り広げ、リードを譲らない。


2人の戦闘を見ていた多くのギャラリーは、誰も声をあげなかった。人の領域を逸脱したハイレベルな戦いを、ただ呆然と眺めている。


「すごい……あの姉さんと、互角でやりあうなんて」


大和も思わず魅入ってしまっていた。


それもそのはず。何故なら今まで百代と戦ってきた相手は、互角どころか決闘以前の問題であり、10秒も立たないうちにやられてしまうのを何度も見てきたからだ。


それが今、百代と対等に渡り合えている人間がここにいる。その光景は新鮮極まりない。


「はははははは!楽しいぞ、貴方のような強者を、待ち望んでいた!!」


「小娘にしてはやるじゃないか!ここまでアタシが本気になったのは久しぶりだよ」


強さを認め合い、拳と拳で会話を交わす二人。百代もビッグ・マムもこの戦いを心底楽しんでいた。


「だが、そろそろ決めさせてもらうぞ!!川神流奥義・星殺し――――」


「やらせないよ!!!」


百代が気を練り上げる僅かな瞬間を狙い、ビッグ・マムは百代の四肢に打撃を打ち込んだ。ダメージを負い、百代は体制を崩すが、身体の細胞を活性化させてダメージをリセットした。


瞬間回復―――百代が修行の末に獲得した能力である。


「お返しだ――――禁じ手・富士砕き!!」


百代が反撃し、強力な正拳尽きがビッグ・マムを襲う。ビッグ・マムも正拳突きで迎撃して攻撃を相殺させた。が、思った以上に衝撃が大きく、反動で身体が大きく後退する。


(身体の細胞を活性化させてダメージを無くした……随分と厄介な能力だね)


末恐ろしい小娘だ、とビッグ・マムは笑う。これではいくら攻撃をしても無意味で、体力を削られて力尽きるのを待つばかりだ。


しかし、その規格外の相手を如何に倒すかこそが、戦術教官の腕の見せ所である。


百代は強い。だからこそビッグ・マムは知りたかった。百代の中にある、戦いの真意が。


「……川神百代。お前に一つ聞きたいことがある。お前は何のために戦う?」


何故戦いに執着するのか、何故強さを求め続けるのか。百代の心を震わせ、突き動かす程の理由があるはずだ。


しかし、その質問に対し、百代は小馬鹿にするように笑う。


「愚問だな……決まってるだろう。戦いたいから、戦うんだ!」


百代の回答は単純明快な物だった。ただ、本能の赴くままに戦う。そこに理由などありはしない。ひたすら強者を求め、倒してはさらに強者を求める……果てのない、歪んだ欲望だった。


それを聞いたビッグ・マムは深く目を閉じて、考えに耽る。鉄心の依頼通り、このままの状態で百代が戦い続ければ精神が狂い、もはや人間ではなくなってしまうだろう。


それ以前に、ビッグ・マムは哀れに思った。強者の果てにあるのは、孤独しかないというのに。


「嘆かわしいねぇ。それがお前の答えか」


「そうだ、それの何が悪い?私は強い者を求め、打ち倒す。ただそれだけだ――――そしてビッグ・マム、貴方も私が倒す!!」


ビッグ・マムに突進し、正拳突きを放つ百代。しかしビッグ・マムは微動だにせず、ただ静かに目を閉じ、佇んでいた。


何かを企んでいるのか。それとも、勝てないと知り戦意を喪失したのか。どの道、百代に止まる理由などない。


どんな策があろうが、全て打ち砕くのみ―――百代に迷いはなかった。


「我が主(しゅ)よ――――」


ビッグ・マムの目が開く。右腕に力を溜め、突進する百代を迎え撃つ。


「――――愚かなる愛し子に哀れみを」


百代との距離が零になる寸前、正拳突きをしゃがんで回避し、ビッグ・マムは百代の腹部に渾身の一撃を放った。


「ごっふ――――!?」


ビッグ・マムの拳が深々と百代の腹にめり込み、衝撃で胃液が逆流する。おそらくこれが、ビッグ・マムの全力だろう。それが身体中に伝わってきた。


だが……百代はニヤリと笑っていた。こうなる事を予測していたかのように。


(……!?拳が抜けない!?)


百代の腹に減り込んだビッグ・マムの拳は、まるで接着剤か何かでくっつけたように、ビクともしなかった。百代はビッグ・マムを捕縛するため、この攻撃を意図的に受けたのである。


「これで終わりだ!!」


百代から発する膨大な気のエネルギーが、ビッグ・マムの拳を通して伝わる。エネルギー量は次第に膨れ上がり、百代の身体が異常な熱を帯び始める。そして、


「川神流奥義・人間爆弾―――――!」


百代の周囲に大爆発が起こり、ビッグ・マムもろとも巻き込んだ。爆風で砂嵐が巻き起こり、ギャラリーが砂が入らないよう目を腕で隠し、後退っていく。


やがて爆風は収まり、砂埃から二人の影が飛び出してきた。百代とビッグ・マムである。二人は距離を取って着地し、体制を立て直した。


百代は自身を爆発させた事によりダメージを受けたが、瞬間回復により完治している。


一方のビッグ・マムは爆発による傷を負っていたものの、戦闘に支障はなかった。しかし、その差は歴然。百代は無傷であり、ビッグ・マムが圧倒的に不利なのは明らかだった。


「この攻撃を受けてまだ立っていられるとはな……驚いた」


「見くびるんじゃないよ。あれくらいの爆発じゃ、アタシには響かない」


「ふっ、そうこなくてはな」


……満たされていく。ビッグ・マムは今まで百代が出会った中で、最強の戦士であろう。ここまで渡り合える人間はそうはいない。


「さあ、戦闘再開といこう―――ビッグ・マム!!」


百代は再び構えた。だが、ビッグ・マムは構えず、腕を組んで百代を見つめていた。その目に闘志は宿っていない。


そして、ビッグ・マムは静かにこう答えた。


「いや――――もう詰みだ」


詰み―――つまり、勝敗は決したという事だろう。その言葉を聞いたギャラリーがざわめき始める。


それは、ビッグ・マムが負けを認めたと解釈すべきだろうか。状況からすれば、そうとしか考えられないだろう。当然百代は納得するはずがなく、ビッグ・マムに問う。


「……それはどういう意味だ?」


「自分の身体によく聞いてみるといい」


「身体……?一体何を言って―――うぐっ!?」


突然百代は自分の腹を抑え込み、地面に崩れ落ちて膝をついた。身体中から汗を噴き出し、千切れそうなくらい強烈な痛みが襲う。


あまりの痛みに耐えきれず、とうとう地面に倒れて蹲くまってしまった。


そして身体からみるみる傷口が開き始めていた。一体何が起きたのか、百代は理解できずにいる。


百代が地に伏している……ギャラリーや大和たちは目の前で起きている事が信じられず、ただ呆然と見ている事しかできなかった。


「く……あ、どうなって……」


「決まってるだろう。お前は文字通り“自爆”したのさ」


ビッグ・マムは眈々と告げる。


「じ、ばくだと?……でも、私は」


人間爆弾を使用した際、瞬間回復で傷は完治したはずだった。自爆など、断じてあり得るはずがない。もしあるとするなら、瞬間回復が使えなくなったとしか考えられない。


だが、それこそあり得ない。瞬間回復を潰せる術など、ましてや初見の相手ができる技ではないのだから。


「何を、した……」


「お前の考えている通りだ。瞬間回復を潰したんだよ」


百代の考えている事を見透かすように、ビッグ・マムは答えた。


「なんだ、と……どうやって」


「お前の体内に流れる気のエネルギーの起点に、直接勁(けい)を打ち込んだのさ。これでしばらく瞬間回復は使えまい」


勁とは、中国武術における力の発し方の技術である。主に発勁と呼ばれ、ビッグ・マムはそれを応用した形で百代の起点に打ち込み、気の流れを一時的に止め、瞬間回復を封じたのだ。


百代が突進し、ビッグ・マムの攻撃を受けたあの瞬間である。


たった一度手を合わせただけで、ビッグ・マムは戦いの最中で百代の身体に流れる気を察知し、起点を見つけだしていた。


「瞬間回復に頼りすぎたね……それがお前の敗因だ」


純粋な力という面では、ビッグ・マムは百代より下回るだろう。しかし、知略と戦術はビッグ・マムが遥かに上回っていた。


「負ける、だと……この私が」


敗北という文字が、百代の心を苛立たせる。それは武神としてのプライドが許せなかった。百代は傷でボロボロになった身体を無理やり起こし、立ち上がる。


「ほう。その身体でまだ戦うつもりかい?」


「あ……たりまえだ。まだ、私は戦え……うぐっ!?」


身体に痛みが走り、再び地面に崩れ落ちる百代。四肢が悲鳴を上げ、もはや動かす事すらままならなくなっていた。


「人間の身体の傷は、普通は完治までに時間がかかるものだ。瞬間回復がない今、お前の身体は人並みだ。当然、他の傷口も開くってもんさね」


アタシがなんの考えもなしに攻撃をしていたと思っていたのかと、ビッグ・マムは悟る。百代との戦闘でも常に先を読み、こうなる事を予測して四肢に攻撃を入れていた。


百代は瞬間回復という絶対の能力を持つが故に、それが同時に弱点でもある事を思い知らされた。完全に、ビッグ・マムの手中であることに気づけなかった。


「……モモ、もう決着はついた。お前の負けじゃ」


戦いを見ていた鉄心が、百代に諭す。瞬間回復が封じられている今、これ以上誰がみても戦えるような身体ではない。


「まだだ……」


「何?」


「まだだ、じじぃ!!」


敗北など認めない。百代は立ち上がり、残った気力を練り上げる。身体が傷だらけになっても戦いを望む百代の姿は、痛々しかった。


そこまで突き動かしているのは、やはり本能なのか。それとも……ビッグ・マムはもう一度問う。


「もう一度聞こう。お前は何のために戦う?」


「……何度も同じ事を言わせるな!戦いたいから、戦う、ただそれだけだ!」


百代は叫び、残る力を振り絞ってビッグ・マムに攻撃を仕掛ける。だが、最初の時よりも勢いはない。スピードも格段に落ちている。言うならば、単なる悪足掻きだった。


ビッグ・マムは難なく攻撃を避け、カウンターで蹴りを百代の身体に打ち込む。


「あ……がっ!?」


吹き飛ばされ、地面を転がっていく百代。だが、それでも立ち上がろうとするそれは、もはや修羅であった。


「はっきり言わせてもらおう。川神百代、お前は武神失格だ」


「なん……だと?」


地面に這いつくばるようにしながら、百代はビッグ・マムを睨み付ける。


「戦いたいから戦うだって?笑わせるんじゃないよ小娘が。それはもはや狂気でしかない。そんなものは理由がないのと同じだ。お前は戦う時点で、既に心が負けているんだよ」


力と精神は、常に等しくなければならない。どちらかが欠ければバランスが崩れ、綻びが生まれてしまう。戦いに執着し、自分の心を制御しきれない百代はまさしくそれだった。


「心が……負けている……」


打ちひしがれ、地面に視線を落とす百代。百代の瞳から、次第に戦意が失われていく。自分の色が、敗北の色に染まるのが分かる。


ああ、自分は負けたのだとはっきりと理解した。悔しさで叫んでしまいたかった。認めたくはない、しかしそれが現実であった。


百代が戦意喪失したと認識した鉄心はゆっくりと右腕を上げ、勝者の名を高らかに宣言する。


「勝者―――ビッグ・マム!」


戦いに勝ったのは、ビッグ・マムであった。しかし校庭で見物していたギャラリーに歓声はなく、あるのはただ静寂のみ。


勝利するのは百代であろう……誰もがそう思っていたが、結果は予想だにしないものだった。


ビッグ・マムは百代に背を向けて立ち去っていく。去り際に、鉄心がビッグ・マムの元に歩み寄った。


「……世話をかけましたな、ビッグ・マム殿」


「随分と手間がかかってしまいましたがね。あの子が戦う意味を見つけられない限り、立ち直る事はないでしょう」


後は、百代次第ですとビッグ・マム。ちょうど一時限目の授業が終わるチャイムがなる頃合いになり、ビッグ・マムは2−Fの生徒達に教室に戻るよう号令をかける。


そんな中、大和たち風間ファミリーは傷ついて倒れた百代に駆け寄っていた。


「姉さん!」


「お姉さま!!」


大和やワン子たちが心配して声をかけるも、今の百代には届かない。


百代は、これまでにない敗北を味わっていた。


“自分”という名の、敗北に。


「くそ……負けた。私は……私は……くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


校庭中に、百代の悲痛な叫びが響き渡っていた。

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