小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



1話「川神学園、潜入」


川神学園、応接室。


サーシャ、まふゆ、華はHRの時間が来るまで待機していた。


一方カーチャは別行動のため、まだ合流していない。


アトス本部でユーリから任務を受けた数日後、サーシャ達は川神市へ移動し、現在に至る。


任務の間は川神院へ滞在し、表向きは学園で通常の生活を送り、裏で元素回路の捜索にあたる。それが任務内容だった。


「うちの制服もいいけど、ここの制服も結構可愛いわね」


白で統一されたデザインの川神学園の制服に、まふゆはすっかり気に入っていた。


「市を代表するってくらいだから凝ったもん想像してたけど、割とシンプルだよなー」


華の満更ではない様子。


「はしゃぐのは勝手だが、忘れるなよ。俺たちは遊びに来ているわけじゃない」


まふゆと華に忠告するサーシャ。サーシャはいつも通り私服姿でソファに座り、読書に耽っていた。


「そんな事分かってるわよ……それよりサーシャ。どう、似合う?」


まふゆが制服の感想を求めてくる。


いつもとは違う、まふゆの制服姿。妙に意識してしまい、サーシャの顔が僅かに赤く染まった。


「……し、知るかそんな事」


照れ隠しなのか、サーシャはまふゆから目を逸らし、ボソッと呟くのだった。可愛くないんだから〜と、思わず苦笑いするまふゆと華。


「しっかし、よかったよな〜サーシャ。ここが“女子高”じゃなくてさ」


華がソファに寄り掛かりながら、嫌味ったらしく、そして“女子高”を強調しつつサーシャに言った。読書をしていたサーシャの身体がビクッと震える。


私立翠玲学園。1年前、サーシャが女装して任務を遂行していた自分を思い出してしまい、とうとう顔を真っ赤にしながら華を睨み付けた。


「華、お前……嫌な事を思い出させるな!」


「まあまあそう怒るなよ。アレはアレで結構似合ってたんだぜ?」


華に太鼓判を押されて、サーシャは更に顔を真っ赤にさせるのだった。


ちなみに任務の前日――――。




『そう言えば、言い忘れていました。サーシャ君』


本部を立ち去る時、ユーリに呼び止められる。


『何だ?』


『潜入先の川神学園についてですが……』


『ああ』


『男女共学です』


『それがどうした?』


『翠玲学園の時と同様、女装しても構いませんよ?』


『……ふざけるな』


『私としては、是非ともそちらを希望したいのですが――』


『するかっ!!!!!!!!』




こんなやり取りがあった。サーシャは全力で拒否した。ユーリ曰く「非常に残念です。」との事。


(サーシャが女装ねぇ……)


まふゆは女子制服姿のサーシャを思い浮かべてみる。


銀色に輝く、サラサラとした長髪。碧色の瞳。川神学園の制服に身を包み、凛としていて、それでいて優雅で美しい。


『初めまして。私、聖ミハイロフ学園から転入してきました、アレクサンドル=ヘルといいます。宜しくお願いしますわ。皆さま』


まふゆ達が女性としての自信を失くしそうな程、恐ろしく似合っていた。


「……結構、アリかも」


ぽか〜んとした表情で、まふゆは思わず声を漏らす。


「だろ?ほら、織部もああ言ってる事だし、今からでも遅くねーから、女子制服に着替えてこいって。メイクは任せとけ!」


華はノリノリでサーシャに絡んでくる。


「誰がするか!考えただけでも身の毛がよだつ!!」


サーシャは本気で嫌がっていた。翠玲学園の一件から、もう二度と女装はごめんだと心に決めている。


と、二人がそんなやり取りをしている内に、ようやく応接室に教師が一人やってきた。


2−Fの教師こと、小島梅子。


梅子も今回の一件を知っている数少ない人間の一人である。


サーシャ達はソファに座り、梅子と向き合った。


「待たせてすまないな、君たち。話は学長とユーリ殿から聞いている。それと、学長なんだが…生憎と立て込んでいてな。また後程挨拶に来られるそうだ」


話を進めながら、資料をサーシャ達に配る梅子。資料の内容はユーリから説明を受けているので、大方サーシャ達は把握している。


「学園の校則・行事についてはその資料に全て記載されている。目を通しておいてくれ」


梅子は一通り話を終えると、間を置いて話題を切り換えた。任務についてだ。


「早速本題なんだが……元素回路、だったか。残念ながら報告の通り進展はない」


申し訳なさそうに、梅子は話を切り出した。


元素回路は麻薬のように販売目的で出回っているわけではないようだった。そのため、実際に物自体を見たという目撃情報はなく、被害者、または加害者が気絶した状態で発見されるケースが殆どだった。


さらに被害者および加害者はその時の記憶を一切失っていて、手掛かりが全く掴めずにいるのが現状だと、調査にあたった関係者は全員手を焼いているという。


「私たちだけでは解決できない状態にある。もはや君たちだけが頼りだ。私たちも出来る限り助力を尽くそう」


力を貸してほしいと、梅子はサーシャ達に頭を下げる。解決の糸口が見つからない今、皆縋る思いだった。


「無論だ。必ず見つけ出す」


「私たちも全力で解決致します」


「任せてください」


必ず解決する……そう受け答えるサーシャ、まふゆ、華。梅子は3人を見て安堵したように笑うが、すぐに表情を引き締めた。


「しかし任務とはいえ、この学園に転入した以上はしっかりと勉学に励んでもらうからな。特別扱いはしないと思え。もし怠けようものなら……」


ジャケットの懐から鞭を取り出し、強烈な鞭裁きを披露する梅子。


「教育的指導だ」


威圧的な態度で、梅子は宣告した。思わず、サーシャとまふゆの腰が退ける。


(む、鞭……あれで叩かれたら、はぁ……はぁ)


華は逆に興奮していた。気まずい空気になってしまったので、鞭をしまい、コホンと咳払いをする梅子。


「それで君たちのクラスなんだが……」


ユーリ経由で、聖ミハイロフ学園からサーシャ達の成績データを受け取っていた。


梅子はそれぞれのクラスをサーシャ達に言い渡す。


「まずは、桂木華。君はFクラスだ。ミハイロフ学園での成績はあまり宜しくないようだな。ちなみにFクラスの担任は私だ。みっちり扱いてやるから覚悟しておけよ」


ニヤリと笑いながら、梅子は華に言った。


「は、はいぃ……!」


華は非常に悦んでいた。


「この変態が」


サーシャが侮蔑の意味を込めて呟く。


「次、アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル。織部まふゆ」


次にサーシャ、まふゆのクラスが言い渡される。


「アレクサンドル。君は飛び級しただけあって、成績は申し分ないな。素晴らしい」


思わず梅子が賞賛する程、サーシャの成績が良かったらしい。


「当然だ。どこかの馬鹿とは違う」


サーシャは華に対して言うように吐き捨てた。


「う、うるせーよ」


と、華。否定はしない分、馬鹿である事は自覚しているらしい。


「織部、君の成績もアレクサンドルに劣らず優秀だな。君たちは二人ともSクラスに入る権利がある」


Sクラスは中でも特別なクラスであり、優秀な生徒、また名声ある家柄の生徒がいると梅子は話す。ただし編入は任意であり、優秀かつ志願した者だけしか入れないという特進クラスだった。


「もちろん希望するのは君たちの自由だ。どうする、志願してみるか?」


特進クラスを進める梅子だったが、サーシャは迷うことなく、


「いや、俺は華と同じクラスでいい」


華と同じFクラスを志願したのだった。


「特進クラスだとかえって目立つ。できるなら、問題児の多いクラスに紛れたほうが動きやすい」


サーシャはあくまで任務を優先した。Fクラスは問題の多いクラスだと、学園の生徒が話していた事を耳にしている。


Fクラスの担任の梅子にとっては、耳の痛い話なのだが。


「私もサーシャの意見に賛成です。折角のご厚意ですが……今回は辞退させていただきます」


まふゆも同意見だった。


梅子は少し考え込んだが、サーシャ達がFクラスに入る事で、生徒たちにとって良い刺激になるかもしれない。そう思った。


「ふむ、そうか。君たちがそう言うのなら、是非とも私のクラスに歓迎しよう。それに、君たちのような生徒を受け持つ私としても鼻が高い」


これで、サーシャ達のクラスは梅子が担当する2−Fに決定した。後はHRの時間が来るのを待つばかりだった。

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