小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



サブエピソード14「手掛かり」


川神院での一件から数時間後。


サーシャはユーリの指示通り、野外道場周辺の調査を行っていた。


壁や地面にできた傷の痕跡を、念入りに調べ上げ、手掛かりになるものを探す。


武器置場が破壊され、ある武器が中から持ち出されていた。ユーリの推理が正しければ、不確定要素ではあるが犯人は特定できる。


後は本人から聞き出す他はない……話してくれればの話だが。


「………?」


ふと、サーシャは壁につけられた傷跡に目が留まる。まだ真新しく、ついたのはつい最近……いや、”ついさっき”の方が表現が正しいか。


鋭利な刃物で深く斬り込まれたような傷跡だった。このまま斬り込めば壁が真っ二つに斬られてしまっただろう。相当な斬れ味である。


それも”丹念に洗練されて手入れされて”いなけば、ここまでの斬れ味はでない。サーシャはその傷口を指でなぞった。


(この傷の形……やはりそうか)


サーシャは確信する。ユーリの調べた通りだった。この傷跡は、あの武器の形状とほぼ一致する。


「サーシャ、何か見つかった?」


院内からまふゆが戻ってくる。すると、サーシャは先程調べた傷跡をまふゆに指し示した。


「これを見ろ」


「見ろって……傷跡?」


「ああ。それもついたのは最近だ……この傷跡の形状、何の武器で傷付けられたか分かるか?」


サーシャの問いに”そんなの専門家じゃないから分かるわけないでしょー”とまふゆは頬を少し膨らませた。それに、それが一体何の関係があるというのか……サーシャは静かに答える。


「……薙刀だ」


「薙刀……?ああ、一子ちゃんがいつも使ってるやつね」


「そうだ。刃渡り、斬り込み具合……間違いない」


サーシャが言うのだから、間違いはないだろう。だが、薙刀だから一体何だと言うのか……まふゆは思案する。


「サーシャ……もしかして、一子ちゃんを疑ってるの?」


まさか、ワン子を疑っているのだろうか……幾らなんでも安易過ぎる。それに、ワン子は短い付き合いだが、こんな事をするような人間とは思えない。


その疑問に答えるように、サーシャは続ける。


「ユーリから武器置き場が破壊されたのは聞いているだろう?」


「え……うん。知ってるけど、でもだからって―――」


「武器置き場の所在は、川神院の人間と今回の一件の関係者しか知らないはずだ」


武器置き場はレプリカと本物も保管しているため、知っている人間はごく一部。仮に部外者が侵入したとしても、武器置き場まではすぐには辿り着けない。


その前に修行僧に捕まるか、もしくは何らかの形で外に異変が漏れているはずだ。それにも関わらず、外には漏れていない。修行僧達も抵抗した跡はなかった。


「修行僧達は抵抗しなかった……いや、出来なかったんだ」


サーシャは目を細める。川神院を襲った相手は修行僧達にとって馴染みのある人物であり、また同じ家族のような人物であったからだ。


そんな人間が、自分の私利私欲の為に奇襲をかけるなど夢にも思わなかっただろう。


だからこそ、彼らは”抵抗を許されなかった”のである。


「じゃあ、まさか本当に……」


まふゆは信じられず、動揺を隠せなかった。


「ああ………川神院を襲ったのは――――ワン子だ」


それが、サーシャがこれまでの推理を纏めて導き出した結論であった。


もちろん、理由はそれだけではない。島津寮以来、ワン子が突然異常に強くなったという事。そして、その時に反応したイヤリングの事。


それはつまり、ワン子自身が元素回路に関わっている可能性を意味していた。まだ推測の段階だが、今までの出来事を整理すると、全てのロジックが一致する。


しばらくしてサーシャは一通り調べ終えると、まふゆに向き直った。


「まふゆ、ワン子から目を離すな。今のあいつは何をするか分からない」


「う、うん……分かった」


まふゆは未だに納得していないような顔をしていたが、渋々と頷くのだった。



”何か”が起ころうとしている……今この川神市に潜む闇が、確かに動きだそうとしていた。

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