小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



18話「宣戦布告」


川神学園、夏休み登校日。


2−Fのクラスでも夏休みの話題で盛り上がっていた。


「あたい、この夏休みでぜってーイケメンゲットする!」


「あはは、無理よ無理ー!」


千花と黒子は相変わらず恋バナに話を咲かせている。


「スグル。8月の夏コミ、◯◯のキャラの抱き枕が出るよね」


「即買いだ。早急に並ばないと完売確実だからな。殺してでも奪い取るぞ」


「あはは、気合入ってるね」


モロとスグルは、8月に開催される夏コミの話に夢中だった。


そんな夏休みを満喫している話の中で、サーシャ、まふゆ、華は三人で集まり、クラスメイトと話しているワン子を観察していた。


ワン子は以前として、特に変わった様子はない。普通に、楽しそうにいつものメンバーと会話をしている。


「特にいつもと変わんねぇな」


華は腕を組み、ワン子の様子を伺っている。華から見れば、別段異変は感じない。いつも通り、ワン子は活き活きとしていた。


「……ううん、変だよ」


そんな華に対し、まふゆは変だと言う。まふゆはワン子にある違和感を感じていた。


確かに、ワン子は元気そのものである。変わらずに明るく話をしていた。


そう、”いつもと変わらず”に。


鉄心やルー達が襲われてから数日が経つ。それにも関わらず、ワン子は暗い表情を全く見せていない。まるで何事もなかったかのようにけろっとしている。


もっと悲しみ、落ち込んでもいいはずなのに……あまりにも明るすぎる。


空元気にしたっておかしい。ワン子は”素”で笑っていた。それも気味が悪い程に。


「――――やっぱり織部さん達もそう思うか」


サーシャ達の前にやってきたのは大和とキャップだった。大和とキャップも、ワン子の異変に気付いたらしい。


「ワン子のヤツ、どうもおかしいんだよな。元気すぎるっつーか……」


キャップは頭をボリボリと描きながら、ワン子の様子を懸念する。


もちろん、大和とキャップだけではない。クリスや京、モロとガクトもクラスメイトと話しつつ、ワン子の様子を気にしている。


長い付き合いだ……仲間の事は大和達が一番よく分かっていた。


「………」


すると、ずっと黙っていたサーシャが席から立ち上がる。


「サーシャ?」


急にどうしたのだろうか。まふゆはサーシャを見る。


「面倒だ。直接聞く」


「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ――――」


まふゆの制止も虚しく、サーシャはワン子の前へと進んでいく。大和、キャップ、まふゆ、華も続いて後を追った。


「――――――へえ、そうなんだ!」


「でね、アタシは……」


「おい、ワン子」


サーシャは、クラスメイトと話しているワン子に声をかける。


「え、何?サーシャ」


「お前に聞きたい事がある」


サーシャは冷たく、鋭く光る碧色の瞳でワン子を睨み付けた。ワン子の表情が思わず強張る。


「あ……えっと、アタシ何か悪い事した?」


サーシャに何かをした覚えはない。何故あんな怖い顔をしているのだろう……ワン子には分からなかった。サーシャは静かに答える。


「俺と来い。話はそれか――――」


「――――いつもいつも、ぎゃーぎゃーと五月蝿いのじゃ!」


怒鳴り声と共に教室の扉が開かれる。やってきたのは心だった。こんな時に何てタイミングの悪い……サーシャはため息をつく。


突然の心の乱入に、クラス中からブーイングの嵐が吹き荒れるとともに、心の制服姿に誰もがツッコミをいれた。だが、心には関係ない。教室の中を進み、その怒りを向ける。


「お前たちが騒ぐと、迷惑なのじゃ!隣にいるこっちの身にもならぬか山猿ども!」


自分の不運を嘆き、それを不満とともにぶちまける心。ワン子はそれをアタシに言われてもなぁと困った表情を浮かべる。


Fクラスのブーイングがさらに大きくなっていく。すると、心はクラスの生徒全員を睨みつけ、


「ええい、五月蠅い黙らぬか!!!」


声が潰れるくらい全力で叫んだ。Fクラスの生徒達からブーイングが消え、一気に静まり返る。


「身の程を弁えよ愚か者ども!此方は不死川家の息女。此方が一声かければ、お前たちを退学にさせる事ぐらいわけないのじゃ!」


不死川家という権力を使い、生徒達を黙らせる心。自分は不死川家の人間。これこそ、本来あるべき自分の姿なのだと体感する。


Fクラスの生徒達は反発はしないものの、敵意の視線を送っていた。


(……ほっほっほ、此方が本気を出せばざっとこんなものじゃ)


今まで溜め込んでいた鬱憤が晴れていく。Fクラスの生徒達が黙っているのを見て心は気を良くしたのか、嫌味にさらに拍車がかかる。


「此方とお前たちと何が違うか分かるか?それは”格”じゃ。所詮は無能の集まり。無能は無能らしく、大人しくしていれば良いのじゃ」


心は言うだけいって、すかっとした表情で教室から立ち去ろうと踵を返す。これだけ言えば、しばらくはおとなしくなるだろう。


そもそも、これは殆ど八つ当たりのようなものなのだが。


「―――――待ちなさいよ」


ふと、静かな怒りを込めた低い声が心を呼び止める。心はやれやれまだやるか……と不憫に思いながら、背後を振り返った。


「なんじゃ、まだやる気か?懲りないやつじ――――」


振り返った瞬間、まるで突き刺さるようなその視線が、心の身体を凍てつかせ、震わせる。


視線はワン子からだった。ワン子の鋭く冷たい視線を敵意とともに向けている。


こいつもこんな目をするのか……心はワン子の豹変に驚いていた。


もちろん、心だけではない。ワン子の周囲にいた生徒達も、まるで別人ではないかと思う程に驚きを隠せないでいる。


ワン子は詰め寄るように心に一歩近づき、口を開く。


「”無能”って、言ったわね?」


「……そ、それがどうしたというのじゃ?無能を無能と言って、何が悪いのじゃ!!」


心の反論に対しワン子は睨みつけたまま、何も言い返さない。すると、ワン子はポケットからバッジを取り出し、心の前に突き付けた。


―――――決闘。心に対する挑戦状である。


「決闘よ、不死川心。今すぐアタシと勝負しなさい」


ワン子は表情を変えないまま、心に決闘を申し込んだ。だが心は、何を言い出すかと思えばと扇子を広げ、口元を覆いながら笑う。


「ふん、此方と決闘?やめておけ。お前が恥をかいて、惨めな思いをするだけじゃ」


勝てるわけがないと、心は声高らかに笑い出す。しかしワン子は挑発に眉一つ動かさず、まるで心を小馬鹿にするようにくすりと笑う。


「何よ、怖いの?世間知らずの箱入りお嬢様」


「な……!?」


挑発をするはずが、逆に挑発を受け、激情してワン子を睨み付ける心。こうなっては心も黙ってはいられず、ポケットからバッジを出し机に叩きつけた。


「……そんなに恥をかきたいのなら、望み通りにしてやるのじゃ!」


心は決闘を受諾した。ワン子もバッジを心のバッジに重ねる。


ワン子と心の決闘……周囲が騒然となった。


「すぐに始めるわ。校庭へ来なさい」


ワン子と心はそのまま、教室を出て校庭へと向かう。


「ワン子、急にどうしちゃったんだろう……」


「あんな一子さん始めて見たよ」


「ちょっと怖いかも……」


皆ワン子の変わり様に戸惑いながらも、決闘見たさに一斉に教室を出た。決闘の情報はあっという間に広まり、全学年の生徒達が校庭に集まっている。


「俺たちも行くぞ」


サーシャ達も校庭へ向かう。何かが起こるという、胸騒ぎを抱えながら。

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