第1章『百代編・一子編』
サブエピソード2「まふゆの実力」
3時限目の休み時間の事。
まふゆはすぐクラスに馴染み、生徒達と打ち解けていた。
教科書を机の中にしまっていると、クリスに声をかけられる。
「聞きたいんだが、まふゆは剣道をやっているのか?」
クリスはまふゆの荷物にあった竹刀袋が、ずっと気になっていたようだ。まふゆは答える。
「うん。昔剣道部に入ってたんだけど、色々あって今は辞めちゃったの。でも稽古はちゃんと自分で続けてる」
「そうだったのか。もし差し支えなければ、自分と手合わせを願いたい」
是非まふゆと一戦交えてみたい、とクリス。
「それって……まさか、決闘?」
「いや、単なる腕試しだ。自分は、まふゆの強さが知りたい」
決闘ではなく、純粋な勝負の申し出だった。サーシャに続いて決闘を起こせば、もう任務どころではなくなる。
それなら……と、まふゆは承諾した。
「いいけど、私あんまり強くないよ?」
「そうか?自分は、まふゆにただならぬ何かを感じるんだが」
クリスはまふゆに興味を抱いていた。
確かにまふゆは剣の生神女マリアである事や、危険な任務に関わっている事。少なくとも普通の人間とは違う。
任務とはいえ、やはり隠し事をするのは気が退ける。
「なになに?何の話?」
ワン子が話の輪に入ってくる。
「今度、まふゆと手合わせをすることになった」
「え、そうなの!?それならあたしとも勝負してほしいわ!」
目を輝かせながらまふゆに懇願するワン子。先程の心といい、この学園は好戦的な生徒達が多いなとまふゆは思った。
「何か、二人とも強そうだよね」
思わず感想を漏らすまふゆ。
「まあね。ま、クリはあたしの次ってところかしら」
強いと言われ、すっかり機嫌を良くしたワン子はえっへんと胸を張る。
「む、それは聞き捨てならないな。どちらかというと二番目はお前だろう、犬」
「違うわよ、二番目はあんたでしょ!?」
「いいや、お前だ!」
互いに火花を散らすワン子とクリス。
「ま、まあまあ二人とも……」
まふゆが二人を宥めようと声をかける。しかし二人の耳には届かない。
「クリよ!」
「お前だ!」
「ちょ、ちょっと……」
暴走する二人を前に、どうしていいかあたふたするまふゆ。
「何よ、じゃあ勝負する!?」
「望むところだ!」
「だ、だから……」
このままだと決闘になりかねない。まふゆは言う事を聞かない二人にとうとう痺れを切らし、
「だから……やめなさいって言ってるでしょうがぁ!!」
竹刀袋から竹刀を取り出し、聞く耳持たないワン子とクリスの頭に面を食らわせた。
「あうわっ!?」
「ぐっ!?」
まふゆの一撃をもらい、ワン子とクリスはようやく落ち着きを取り戻した。
「………」
「………」
キョトンとした表情でまふゆを見るワン子とクリス。クラス中の視線がまふゆに集まった。
やばっ…と、まふゆは我に返る。
「ごご、ごめん!つい……」
サーシャと接する時の感覚で、つい手が出てしまったとまふゆは謝罪した。
「……見切れなかった」
「自分もだ」
しかし、二人とも怒っている様子はなかった。むしろ逆に感心しているといった感じだ。
「驚いたわ、まふゆも結構やるじゃない!」
早く戦ってみたいわ、とワン子は闘争心を燃やす。
「只者ではないと思っていたが……自分はますます興味が湧いたぞ、まふゆ!」
手合わせをするのが楽しみだ、とクリスは笑う。
何はともあれ、喧嘩に発展しなくてよかったとまふゆは安堵した。
「口より先に手が出るのは相変わらずだな」
一部始終を見ていたサーシャに痛いコメントを貰うまふゆ。
「う、うっさいわねこのツンドラ坊主!」
図星を突かれ、まふゆは顔を赤くしながらサーシャに食ってかかる。
本当に仲がいいなぁ、とFクラスの生徒達はサーシャとまふゆを暖かく見守るのだった。