第1章『百代編・一子編』
サブエピソード3「ファミリーズトーク」
同じく、3時限目の休み時間。
キャップ、大和、岳人、モロの4人は、サーシャと心の決闘の話で持ちきりだった。
決闘まで後数時間を切っている。当人のサーシャはというと、
「………」
席に座り、静かに読書をしていた。
「アレクサンドル君、随分余裕だね」
モロはサーシャを見て思う。余程自信があるのか、それとも読書で緊張を紛らわしているのか。
どちらかというと、前者に見えた。
「なあ、大和はどう思うよ?」
決闘でどちらが勝つか。キャップが大和に意見を求めてくる。
「う〜ん……今の時点では何とも言えないなぁ」
突然転入してきた留学生、アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル。
大和は少なからず、サーシャに興味を持っていた。
彼の事は未だ未知数。今の段階では結論は出せないが、今まで男子と女子の決闘では、男子の殆どが負けているのが現状だった。
従って、統計学的に言えば勝利するのは心という事になる。
それに心は意外にも全国区の実力を持つ程の柔道―主に関節技の使い手であり、並大抵の人間ではまず勝てないだろう。
決闘の形式は喧嘩だけでなく、スポーツ、論争等の様々なジャンルを選ぶ事が可能だ。
にも関わらず、サーシャは直接対決を選んだ。という事は、それなりに戦闘経験を積んでいると推測ができる。
「ま。考えても仕方ねぇし、決闘の時間になるまで待とうぜ」
と、岳人。
しかしサーシャは心の戦闘スキルを知らないはずだ。一応知らせておいた方がいいだろうと、大和は席から立ち上がった。
「俺、ちょっとアレクサンドル君と話してくるわ」
言って、大和はサーシャの席へと近づいた。
「決闘まで後少しだね。緊張とかしてない?」
「別に緊張などしていない」
サーシャは大和に顔を向けず、読書をしたまま答える。大和はそのまま続けた。
「アレクサンドル君の対戦相手なんだけど、あいつ―不死川心は柔道の使い手で、全国に通用する程の実力者だよ」
心について、知っている限りの情報を提供する大和。
ただ教える為ではない。これはサーシャとのコミュニケーションを取るいい切っ掛けになる。
サーシャという人物を、より良く知る為に。
するとサーシャは読書をやめ、読んでいた本を閉じて立ち上がる。余計なお世話だっただろうか…しかし、サーシャから返ってきたのは意外な言葉だった。
「спасибо(感謝する)」
ロシア語でいう、「感謝」の意味であると大和は理解する。第一印象は無愛想だが、意外に話の分かる奴かもしれないと大和は思った。
「だが、相手が誰だろうと俺には関係ない。立ちはだかる敵は―――全て倒すだけだ」
それだけ大和に言って、サーシャはまふゆのいる席へと向かっていく。
「――――口より先に手が出るのは相変わらずだな」
「――――う、うっさいわねこのツンドラ坊主!」
サーシャにはまだ謎が多い。だからこそ、大和の好奇心がそそられる。
(アレクサンドル、か……)
面白い奴がやってきた……と、大和はサーシャという人物にさらなる興味を抱くのだった。