エニエス・ロビーにて麦わらの一味とCP9達が戦い始めた頃、マリンフォードにある海軍本部は混乱していた。
本部にいた将校らは事態の収拾の為に各方面に可能な限りの人員を配置していた。
今回の麦わらの一味によるエニエス・ロビーの襲撃の情報も混乱の原因の一つだが、現在はそれより優先すべき
事項があった。
「新世界の通信と各支部への通達はすんだか!?」
「急ぎ行っております!」
「白ひげを最大限警戒しておけ!情報が伝わり次第攻め込んで来るやもしれぬ」
誰もが焦り、指示されていた業務を後回しにして対応いる。そんな中を慌てずに歩く三人の男達。
海軍大将青雉ことクザン、赤犬ことサカズキ、黄猿ことボルサリーノ。この三人の大将が肩を並べて歩くのは
海軍内でも珍しい光景である。
しかし周りの海兵はそんな事を考える余裕はない。それが今どれ程逼迫した状況であるかを物語っているだろう。すれ違う海兵は敬礼も立ち止まってしない。そして三人もそれを当然として考えている。
「何だか大変な事になったねぇ〜」
言葉とは裏腹に態度は飄々としているボルサリーノ。それを聞いている二人も特に焦った様子は無さそうだ。
「まァ事態が事態だからな。仕方ないだろ」
クザンも面倒そうに頭を掻きながら話している。
「たかが一人捕まえただけでこれじゃからのう」
サカズキもいつもの態度を崩さない。
そんな話をしている内に目的の部屋の前まで着いた。前を歩いていたボルサリーノがドアをノックする。
「センゴクさ〜ん、入りますよ〜」
言いながら海軍元帥の部屋に入る三人。ドアを開けた先にはセンゴクが電伝虫で誰かと話している様だ。
「……判断はお前に任せる。また何かあったら報告してくれ」
どうやら会話は終わった様だ。センゴクは椅子に座り直し三人の方へと視線を向けた。
「さて、話はおおよそ理解しているな?」
センゴクの視線が鋭くなる。海軍の元帥ですらこの事態を重く受け止めているのだろう。まずはクザンが口を開いた。
「えェ。「火拳」のポートガス・D・エースの捕縛。これによる白ひげ海賊団との一大戦争って所ですかね」
口調は軽いが言ってる事は全世界をも巻き込みかねない騒動である。サカズキとボルサリーノも表情を変えない所から
その意見に相違は無い様だ。センゴクも軽く頷く。
「しかし今回の事は気になる事があるんじゃが」
次に口を開いたのはサカズキ。
「誰が「火拳」を仕留めたか……か?」
センゴクが答える。サカズキが特に返事をしない所を見ると、間違ってないみたいだ。
「「こっち」の海で「火拳」を倒す程の人間なんていたかねぇ〜?」
言いながらボルサリーノは考える。以前のクザンからの報告ではエース程の実力者とまともに戦える可能性が
ありそうなのは現在新しく七武海に加入したラーズ位しか思いつかない。彼の能力なら可能だが、ラーズは先日任務で九蛇海賊団の元へ行った為それはない。
また、ラーズとエースは繋がった可能性もある。よって他にエースを倒しうる人物が見つからないのだ。
他の七武海も迂闊に白ひげに手を出す事はしない。
クザンとサカズキも同意見の様で、センゴクの元へ来るまでも誰も思い浮かばなかったのだ。
「億超えの賞金首達でも自然系相手には不可能じゃろうしな」
偉大なる航路の前半の海では覇気を扱える者がほとんどいない。よって自然系はほぼ無敵と言って差し支えない。
例外は幾つかあるが、それがこの海での常識なのだ。それに例え覇気が使えるとしても、エースは若くして
白ひげ海賊団の二番隊隊長を務める程の実力者。簡単に負けるとは考えられない。
「それについてだが……先程その人物が近くにいる可能性があるとの報告があった」
センゴクの口から出た答えに僅かに表情が変わる三人。そのままセンゴクから続くであろう言葉を待つ。
「そいつの名は『マーシャル・D・ティーチ』」
その名前を聞いた三人の表情はそれぞれ。ボルサリーノは忘れたのか良く分かっていない。サカズキはまた新しい海賊が出たかと顔を顰めている。そしてクザンは
「その名前……ラーズと一緒に七武海の候補に挙がってた奴ですか?」
それを聞いて思い出したかの様な顔をするサカズキとボルサリーノ。どうやら以前聞いた事はある様だ。
「それで間違いない。以前は白ひげの所にいたらしいが今は黒ひげ海賊団の船長としてやっているらしい」
ティーチについて更に詳しく説明するセンゴク。しかし白ひげの元を去って黒ひげを名乗るとはジョークの
つもりだろうか?
センゴクはそのまま話を続ける。
「現在の懸賞金はゼロ……の為、海軍としてはそこまで害は無いと思っていた」
その言葉にサカズキが目を少し開き反応する。
「なら今は違うとでも?確かに「火拳」を倒したのは大した事じゃが、警戒する必要がありますかのう?」
確かにサカズキの意見は納得する。実際に相手も見ておらず、また能力者だとしても実力が不明なので判断するには材料が乏しいと。
だがセンゴクの表情は変わらない。それを見たサカズキはセンゴクの言葉を待つ。
「報告ではその能力……”ヤミヤミの実”によるものらしい。系統としては自然系。分かっているのは掌から出す闇の引力により
相手を引き寄せ悪魔の実の能力を無効化し、自然系の実体を掴む事が可能。「火拳」が討ち取られたのもその能力が要因だろう」
「また面倒そうな能力ですねぇ〜」
ティーチの能力を聞いても余り態度の変わらないボルサリーノ。彼にとっては相手が誰だろうがどんな能力だろうが関係ないのかもしれない。
するとクザンが再び口を開く。
「そのティーチの事はある程度分かりましたが、その詳細な情報はどこからきたんですか?」
それは他の二人も気になっていた。今まで殆ど戦闘もせず、謎に包まれていたティーチの能力を全てではないだろうが
解析しているのだ。
この海で能力を知られる事は自分にとって不利にしかならない。誰がそこまで調べたのか?
どうやって調べたのか?疑問は尽きない。
「その報告をした者は現在ティーチとの接触を試みようとしている」
センゴクの言葉に再び三人は疑問を抱く。何故接触を?目的は?それに答える様にセンゴクが続ける。
「どうも嫌な予感もしておるしの。情報提供者でもあるラーズに調査に行ってもらった」
それを聞いてサカズキの眉が動く。一度海軍を抜け賞金首になったラーズを相変わらず快く思っていないのだろう。
「……お言葉ですが、奴一人の証言では信憑性に欠けるとおもいますがのう」
「そう思ってガープにも話は伝えておいた。丁度近くにいる様だからな。真偽の程はガープからの報告があってからでも構わん」
センゴクもラーズからの情報を鵜呑みにしてはいない。自分達ですら知りえないティーチの能力の詳細を何故知っていたのかラーズは語らなかった。
だからこそガープにも話をしたのだ。
「ひとまずそのティーチに関しては報告待ちって事ですかね」
やれやれ、と頭を掻きながら話すクザン。
「あぁ。次は「火拳」の処遇についてだが……」
こうして海軍のトップ達の会議は進んでいく。
〜〜ラーズside〜〜
モモンガさんと別れてから数日。ようやく目的の島が見えてきたか。移動している間に怪我もほぼ治ったし、問題なさそうだな。
センゴクさんには一応ティーチの事は報告したが、全部は話していない。能力についても軽くしか説明してないしな。
そもそも答え様がないし。まぁ細かい事は後でもいいか。
「ガープさんも近くにいるらしいけど……探してる時間はないかもな」
やはり俺の記憶とは流れが変わってきている。大まかなとこは変化してないかもしれないが、今回のティーチの動きが怪しい。今は俺が七武海に新たに加入して空席は無いのに、何故エースを倒す必要があった?
アイツの目的はインペルダウンの囚人だったはずだ。ならば今回の事はどう説明する?一応入ってきた情報を元に
仮説は立てたが穴が大き過ぎる。やはり早い内に確かめるのが一番だろう。
「……考えてる内に着いたか。まずは港の確認からだな」
ひとまず船を泊めて辺りを見回す。見る限りそれらしいのは見当たらない。虱潰しに探すしかないか。ここにきて
もしかしたらルフィ達に会うかもしれないと思っていたが、さっきセンゴクさんから聞いた話ではルフィ達は
エニエス・ロビーに乗り込んできたらしい。
アイツ等何やってんだ?一味は俺以外全員いるらしいし。とにかく今はアイツ等に直接干渉は出来ないから
まぁ置いておこう。今の一味のみんなならどうにかなると信じるしかない。
しばらく海岸沿いに走っていると……船の残骸が沢山ある場所で目的の船を見つけた。本当にありやがった。
しかしますます分からなくなった。何故この島に来た?ティーチの狙いは何なんだ?
そんな事を考えながら離れた場所から監視していると、話し声が聞こえてきた。
「どうやら行き違いになったみたいだな。どうもすれ違いになっていけねェ。ゼハハハハ!」
「すれ違い、それもまた”巡り合い”の一つ」
船に向かって歩いてくるのは二人か。他にも仲間がいた気がするが、多分船の中で待機してるか町に行ってるかだろう。
行くなら今だな。「剃刀」で一度上空に上がり二人の近くに降り立った。そのまま隙っ歯でビール腹の
男の方に話しかける。
「お前がマーシャル・D・ティーチで合ってるか?」
二人は俺に気付くと警戒した様子でこちらを窺っている。しかしティーチは俺の顔を見た途端笑い始めた。
「ゼハハハハ!これはこれは新しい七武海の「白狐」様じゃねェか。おれみたいな懸賞金のかかってない海賊に何の用だ?」
「聞きたい事は一つ。何故この島にいる?」
ティーチの軽口を流して会話を進める。ティーチは俺がここにいる理由を何となく察したのだろう。ニヤついていた顔が真剣になる。
「まァ目的は大体分かっている。あくまで推測だがな」
そう言うとティーチは再び顔をニヤつかせる。
「へェ。ならその推測ってのを教えてくれよ」
「そうだな……目的は麦わらの一味の首―――
―――を助けに来るであろう俺か」
そう、今回ティーチがウォーターセブンに来ているのはこれが目的なんだろう。アイツの目的は七武海に入り、
インペルダウンまで行っても怪しまれない様にする事のはずだ。ならば七武海に加入したばかりで一味から
抜ける事となった俺を狙ってきても可笑しくない。だがそれでも疑問は残る。エースの事だ。
ティーチを見るとニヤついた顔は変わっていない。隣の銃を持ってる男も表情にさほど変化は見られない。ただ
ティーチの言葉を待っている。少しの静寂の後、ティーチが答えた。
「テメェのおかげでおれの”計画”が狂っちまったからなァ。手近な海賊を仕留めて名を挙げる予定だったんだよ。
エースも麦わらもまとめて倒せば一気におれの名が売れるだろうからなァ!」
俺は無言でティーチの話を聞いている。この目の前の男は本当の事を言ってるのか?あれだけ周到な計画をしていた
この男が素直に話すだろうか?
「それに麦わらを狙えば「白狐」が出てくるって事位は予想してたからなァ!案の定のこのこ出て来てくれて助かったぜ」
「それで俺を倒して新しく七武海にでも自薦するのか?”ヤミヤミの実”の能力者さんよ」
このまま放してても尻尾が掴めないと判断し一枚カードを切る。ティーチは少し驚いた顔で俺を見ている。
「……へェ、おれの能力を知ってるのか。面白いぜ」
「ある意味似た様な能力だからな。俺の能力も最近知られてきたしお互い様だ」
とは言ってもティーチが俺の能力を知ってるかどうかは分からんが。横を見ると自分のとこの船長の能力を知っている
俺に対して警戒を強めている銃の男。するとその男をティーチが手で制した。
「待てオーガー。お前は船に戻ってろ」
ティーチがそう言うと銃の男はそのまま船に戻って行った。
銃の男が離れるにつれお互いの間の空気が緊張してくる。
「戦闘準備はオッケー、ってか?」
「ゼハハハハ!おれの能力を知ってて尚戦おうと考えるとはな。エースの敵討ちのつもりか?」
それを聞いた俺は思わず感情のままティーチを睨みつける。
「俺もエースも海賊だ。アイツが負けたのはお前より弱かったからだ。この海では言い訳なんて通用しねェ」
話しながらも拳に力が入る。
「良く分かってるじゃねェか。この海では強いか弱いか、それしかねェってなァ!」
「……だがなァ」
「あん?」
「俺は親友がやられたまんま黙って見過ごす様な腐った人間でもねェんだよ!」
そう言って体から白い炎を噴出す。どうやら俺の怒りの沸点はかなり低かったみたいだ。
「ゼハハハハ!いいじゃねェか!テメェかおれか!白か黒!思う存分やり合おうじゃねェか!!!」
ティーチも体から黒い瘴気の様なものを噴出す。
「エースが捕まっちまったが、お前も一緒にインペルダウンに送ってやるよ。行きたかったんだろ?」
「!!……テメェ……」
今までで一番ティーチの表情が歪んだ。やはり図星か。
「テメェはここで仕留めておかねェと面倒な事になりそうだ」
「そりゃお互い様だろ」
そうして意識を戦闘レベルに引き上げる。
待ってろよエース。結果的にだが、お前の仇ぐらい取ってやるよ。目の前の黒ひげ野郎を倒してな。
そしてウォーターセブンにて、二人がぶつかる。
白と黒。二色は決して重ならない。後に残るのは、濁った灰のみ―――
あとがき
まずは読者の皆様、およそ四ヶ月もの間報告なしで申し訳ありませんでした。私情で多々ありまして、正直報告や更新する余裕の
欠片もありませんでした。最近になってようやく少しは落ち着いて来た為再投稿していこうと思います。
まだ読んで下さる読者様がおられるかもしれませんので、少しずつですが更新して行こうと思います。以前に比べると
格段にペースは落ちるかもしれませんが御了承下さい。
そして今回空いた期間で考えていたのが今後の書き方です。現在は〜〜side〜〜をメインキャラのほぼ全員を使う形で
書いているのですが、作者が(今更ですが)オリ主以外には余り〜side〜を使わなくてもいいかなとも考えました。
今回は三人称視点とオリ主の視点で書きましたが、三人称視点を多くした方が読者の皆様に伝わりやすいのかもと
試しに書いてみました。
そこで今後を皆様にアンケートを取りたいのですが、
1・書き方は今まで通りでほとんど誰かsideを使って物語進行。
2・今回の様な形で基本sideはオリ主のみでなるべく三人称視点を多くする。
どちらが読んで楽しいか皆様の意見を取り入れ考えて行きたいと思います。期限は三日ほどを考えています。
参考にしますので宜しければお願いします。