小説『Short Stories』
作者:しゃる()

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【恋文】

――――――――――

その日はよく晴れた日で、珍しく早起きして学校に向かった。すごく爽やかな朝だった。

下駄箱でアレを見つけるまでは。

そう、ラブレターである。携帯電話が普及していて、告白もメールですんでしまうこの時代に、文通なんて見なくなったこの時代に、ラブレターである。


ラブレター。
当然おれも、本物を見たことはなかったし、最早都市伝説だと思っていた。
それがおれの下駄箱に入っていたのだ。

内容はこうだ、『あなたのことが以前から気になっていました。大事な話があるので放課後屋上に来て下さい』

漫画とかでよく見る文章の様な気がするが、ラブレターなんてどれもこういうものだろう。

誰かの悪戯だと感じていたが、もしかしたらという考えを捨てられなかったおれは、放課後になったら屋上に行ってみることにした。

放課後、屋上への扉を開けると――そこには、おれの彼女がいた。

おかしいな、今は付き合ってる人がいるからと断りに来たのに……今付き合ってる彼女がいる。

「なんで君が屋上にいるの?」

とりあえず思ったことをそのまま聞いてみた。てっきり、悪戯で誰もいないか、ラブレターを出した女の子がいると思ってたのに、そこには彼女ただ一人しかいなかったのだから当然の疑問である。

「それは、ラブレター出したの私だから……」

予想外の返答が返ってきた。
あれ?そもそもラブレターって恋人になったら出さないんじゃないの?付き合ってるのにラブレター?
おれはわけもわからずに首を傾げていた。

「書いてみたかったんだもん。嫌……だった?」

顔を真っ赤に染めながらそんなことを言われた。むしろこっちが照れるじゃないか。

「そっか、書きたかったんならしょうがないね。で、書いてみてどうだった?」

照れ隠しに少し意地悪な質問をしてみた。彼女の顔が更に赤くなっていく……そろそろ爆発するんじゃないだろうか。

「え、と……何を書いていいのかわからなかった。“好きです”なんて書いたら興味がない人は会ってくれないかもしれないし、告白は直接言うものでしょ?だったら場所を指定して来てもらうのが普通だと思って……気がついたら漫画とかでよく見る文章になってた。」

うん、相当悩んだらしい。

「貰ってみてどうだった?」

とか考えてたら直球ストレートな質問がきた。
そりゃあ、ラブレターなんてもらったことないし、恥ずかしがってる彼女を見れてすごいうれしいけど……そのまま言ったらおれが爆発する。
だからおれは、

「そうだな、このラブレターは永久保存しておくね」

逃げることにした。

「……なっ!?」

彼女を爆発させて。

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