三章
交差点は当然のように大渋滞だった。
波打つように揺れる摩天楼を駆け抜けながら、横目で眺める。
暴れだす人や泣き出す少女。祈りだした神父に赤ん坊をほったらかしする母
親。もはや、老若男女という言葉の影すら見当たらない状況だった。
『あと12分だよ』
ヘッドホンの奥から聞きなれた声が響く。
「大丈夫、まだ間に合う」
丘までそう遠くはなかった。何事もなければ10分で着けそうな距離までき
ていた。
無言のまま、走り続ける。
耳の中を、怒号やら赤ん坊の泣き声が埋め尽くして、一つの歌にでもなりそ
うだった。
涙目になりながら、頬を汗がかすめる。
『駆け抜けろ!!もう残り一分だ!』
そんな言葉はもう耳には入ってはいなかった。
なぜなら
「いけええええええ!!」
目指していた丘は、すぐ目の前だったから。