小説『BL漫画家の鈴木さん』
作者:ルーフウオーカー()

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 半年経った。病院には通い続けたがべつだんよくもならない。住んでる環境が悪いの
ではないのかと内心思っているが、医者に言っても助けてくれるわけではないので黙っ
ている。

 半年の間、ガレージで絵を描いていた。横幅が自分の身長ほどもある大きなキャンバ
スに、玉ねぎ畑の絵を描いていた。出荷もされずただ腐っていく玉ねぎが山積みになっ
ている畑、耕作が放棄されてただの荒地に戻っていこうとしていく畑。誰一人住むもの
もないまま老朽化していくアパートの列も描いた。構想もなしにただ心に浮かんだモチ
ーフを重ねていっただけだったが、鬱屈した心象をストレートに反映するものになった。
美しいとはとうてい言えなかったが、なにか特別な強度がある。自分の作品を見て初め
てそう思えた。
 さらに数ヶ月かけて手を加え、『終末の風景』というタイトルをつけた。札幌の、手
持ちの金で借りられるギャラリーを探してみた。その一枚のためだけに、個展を開く気
になっていた。

 喫茶店のおまけのような小さなスペースが見つかった。
 自信があったわけではない。他人が見て何と思うか、まったく予想がつかなかった。
だから、宣伝もしなかった。通りすがりの人がどんな反応をするか見てみたい、そんな
動機で開いた個展だった。
 お茶を飲みに来た客のうちの十人に一人くらいがギャラリースペースに入っていって、
ため息でもつきそうな顔をして3分ほどで戻ってくる。 田中はそれを店のカウンター
席で眺めている。

「いや、なんていうか、自分に対するケジメだから」
 聴かれもしないのに、マスターに言い訳をはじめる。
「これから、再就職に向けて資格の勉強とかね。まあ、そのまえに病気治さなきゃならな
いんだけど」
 そうですよね、よくわかりますよ、という顔でマスターが頷く。「ところで」と口を開
いた。
「あの女性、お知り合いの方じゃないんですか」
「え」

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