小説『BL漫画家の鈴木さん』
作者:ルーフウオーカー()

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「あなたの十センチ後ろに立ってます」
「わあっ」
「どうも、お久しぶりです」
「声かけてよ、鈴木さん」
「今かけたじゃないですか」
「いや、もうちょっと早く」
「どこかで見た名前の人が、個展やってると聞いたもので」
「ありがとう。でもあれ、会社は。なんで休みなの」
「ああ、辞めちゃいました。田中さんがいないとつまらないんで」
「え」
「冗談です。真に受けないでください」
「あ、はい」
「副業のほうが忙しくなって、両立できなくなったから、っていうのが理由です」
「え、じゃあ、会社辞めたのは本当なの」
「じゃなきゃ平日の昼間にここにいません」
「でもそうか、じゃあ、いよいよプロ漫画家としてやってくわけだ」
「親は泣いてますけどね」
「うーん、不安定な仕事だからねえ」
「そうじゃなくて、ホモセックス専門だからです」
「ああ、そうね」
「でも、好きな仕事なんで、後悔はしてません」
「いいな、羨ましいよ」
「そう言ってくれるの田中さんだけです。まだ誰にも話してないから当然ですけど」
「え、あ、はい」
「田中さん、こういうの描くんですね。漫画の絵って、結局記号じゃないですか。だから、
こんなふうに色や形そのものが語りかけてくるようなものって、憧れます。言葉がないの
に、メッセージがある。ステキだと思います」
「無理して褒めなくてもいいんだよ」
「私がいいと言ってるんだから、私にとっては良いものなんです。それ否定するつもりですか」
 卑屈なことを言うな、という顔で睨まれた

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