第十八話 初めての仮契約は…
Side クロラージュ
今日も平和な一日が…
バタバタバタバタ
? 誰の走ってる音だ?
「クロラージュさ〜ん!!」
珍しく一十百が慌ててるな。
「どうしたんだ?」
「は、はい!カモさんこっちに来てないですか?」
「いや、来てないな。何か用なのか?」
「はい!仮契約についてちょっと。それじゃ!」
バビュン!! とか言いそうなスピードだったな。
……あれ?
なぜ一十百が仮契約の事を知りたがるんだ?
まさか!!
「エヴァ!! 一十百が!」
「わかっている」
エヴァに会いに行くと大広間に、エヴァ、夕映、茶々丸、チャチャゼロ、千雨、さよ、ポチがいた。
あれ? オールキャストじゃね?
「姉さんがここにいるのが珍しいです」
「アア。イツモナラ頭ノ上ニ乗ッケテクノニ、今日ハ忘レテヤガッタカラナ」
「これはかなりの事件です」
「ああ。私もここへ来たばかりだからよくわからないが、なんだか他のメンツがあわててるからな」
「私もおんなじ理由です」
「がう」
「まあ、落ち着いて考えるか」
「そうだな。仮に一十が仮契約をするつもりなら誰とするか、だな」
「え〜と、魔法使い限定だろそれ。ってことは、クロージュかエヴァンジェリンか夕映のどれかだよな?」
そうそう、ちうちうが俺の事をクロージュと呼ぶようになりました。
理由?
う〜ん、ラージュもクロラも女の子っぽいから、クロージュだそうだ。
しかし、なぜに……まいいか。
「確かにそうなるですが、ネギ先生という可能性もあるです」
「うぇ、あの子供先生も魔法使いだったのかよ!」
あ、そういえば知らなかったんだな。
「とにかく、本人に直接聞くのが早いと思うのです」
「そうだな。とにかく戻ってくるのを待とう」
「ただいま〜」
気になるんだが、一十百の帰宅タイミングがジャストなのはどうしてなんだろうか?
「気にしてはだめです」
そうだった。つっこんだら負けらしいからな。
「ただ今戻りました……あれ? オールキャストですか?」
「まあな。で、カモミールは見つかったのか?」
「おれっちに何か用ですかい?」
お、ちゃんと連れて帰ってきたってことはやはり…
「仮契約について質問があります!」
「答えられることなら答えるっすよ」
「えと、人以外…人間以外とも仮契約はできますか?」
そのコメントで、大体誰と仮契約したいかはわかる。
と、いうかエヴァしかいないな。
「無機質、つまりモノじゃなきゃ大丈夫のはずっすね。でも、誰と仮契約…十百さん?」
「う〜あ〜、そ、そんな…」
あれ?
そこでどうして頭を抱えるんだ?
エヴァじゃないのか?
「お〜い、一十百。仮契約するつもりなんだろ、誰とだ?」
「えと、ですね…その…」
お、やはり言いづらいのか。
……ん、無機質?
ってことは…
「そのですね……。ちゃちゃ…」
やはり茶々丸か!
美人だしな。
色々と手伝ううちに仲良くなったのか?
仮契約できると…
「チャチャゼロさんと、です」
ズコ―――――!!(コケ音)
俺とエヴァが派手にこけた。
「いやいや、それはないだろ!! いくらなんでもチャチャゼロかよ!!」
「待て!! 落ち着け一十!!」
「ふぇ? あれ、どうしました?」
「いいか、仮とはいえチャチャゼロを選ぶのはどうかと思うんだが…」
「それに、チャチャゼロは一応私の従者だ。貸すとは言ったがくれてやる気はないぞ!!」
「オイ御主人。一応ッテナンダ、一応ッテ」
「「黙ってろ、人形」」
「ヒデエナ、オイ」
まあ、さすがにここまで言われれば諦めるだろ。
それにエヴァの従者だから、まあ仮契約は無理だっただろうな。
これで、一安…
「え? エヴァさん、大丈夫ですよ。僕がゼロさんの従者になるんですから!」
ズコ―――――――――!!!(コケ音大)
俺、夕映、千雨が派手にこけた。
エヴァとカモミールは斜め上向きに飛んでった。
俺はな、一応一十百の事を常識人よりちょっとずれた程度だと思ってたんだが、どうやら間違えたようだ。
確実に常識人と銀河系一つ分くらいずれた程度だったわ。
と、とにかくどうにかしないと…。
「ま、まて一十。さすがにそれは…」
「? エヴァさんはゼロさんの主ですよね。つまり、ゼロさんが僕の主になってくれるとエヴァさんにお仕えする事になるんですよね?」
「た、確かにそうだな…」
「今もエヴァさんの下で働かせてもらっていますけど、これで正式な大主ということになるん……ですよね?」
「そう、だな。うむ、よし私は構わないぞ!」
げ、エヴァが一十百の有用性を考えて仮契約を了承しやがった!!
「ま、待つです十百さん! 人形の従者になるのはどうかと思うです!!」
さすが我が弟子。
いいとこを指摘するな。
「夕映さん、それは違います。主あっての従者ですよ。主が人形とかそんなのは関係ないんです」
「で、ですけど…」
「それに、ゼロさんはお食事とかも一緒にできるんですよ? もう人形という枠からは外れてると思うんです」
「た、確かに……、言われてみればそうですね」
ガァ!!
夕映まで了解してしまった。
あとはちうちうに任せるしか……。
「あ〜十百、後悔しないんだな?」
「は、はい!」
「ならいいんじゃないか?」
あ〜、え〜、お〜。
駄目だこりゃ。
あきらめるか……。
「でも、仮契約できるかな?」
「おれっちの魔法陣じゃ無理そうっすね」
「私の使える人形用のでは主が一十になってしまうから無理だ」
おや?
なんだ、大丈夫そうじゃないか?
さすがに魔法陣なしじゃ仮契約はできないだろうからな。
「ふぅむむ、エヴァさん質問です!」
「む、なんだ」
「僕はまだよく魔法のことがわからないんですけど、魔法陣って簡単に言うと魔法の効果が発動しやすいように描く魔法回路みたいのですか?」
「まあそんなとこだ。細かいことを省けば魔法回路であっているな」
なんか、イヤな予感がする。
一十百が悩んでるときって銀河系を超えるコメントが飛び出るんだぞ。
「カモさん、エヴァさん。ちょっと魔法陣を描いてもらっていいですか?」
「いいっすけど?」
「何をするつもりだ?」
二つの魔法陣をノートに書いてもらってるが…
「よし!」
一十百がぐっと拳を握りしめたぞ。
それで、なんでシャーペンを握ってるんだ。
「あと20分ください。そうすれば、たぶん」
「「「「たぶん?」」」」
「なんとかなります!」
なんとか?
とてつもなく嫌な予感がするんだが……。
まあ、いいか。
――20分後――
「できました!!」
一十百が見せてくれたノートには、見たこともない魔法陣がかかれてた。
「おい一十、この魔法陣はなんだ?」
「あ、はい。この魔法陣にカモさん、エヴァさん、とあと二人くらいの魔力を込めるとゼロさんと仮契約できて、僕が従者になれるんです」
「…なんで魔法陣が十百さんに描けるですか?」
っは!
いけない、フリーズしてた。
「魔法陣って回路なんですよね? ならわかります。それに、コンピューターの回路の方がもっと難しいですよ」
「いや、そうじゃないだろ。私も魔法の事なんて全然だけど、パソコンとかの電気回路と比べるなよな」
「でも基本はおんなじっぽいですよ?」
「それでだな一十。仮に発動できるとして、なんで私とそこのオコジョ以外に後二人もの魔力が必要なんだ?」
「えと、ですね…ここら辺とこのあたりの魔法陣に無理があるんです。それで、そこから魔力をぶつけて無理やり動かしてもらうんです」
「安全なのか?」
「もちろんです!」
「ふむ、なら…クロラージュ、夕映、手伝え」
本気でやるのかよ…。
大丈夫だよな、たぶん。
「えと、それじゃあエヴァさん、カモさん、クロラージュさん、夕映さんお願いします」
まずエヴァとカモミールが一十百の書いた魔法陣通りに魔力を流すんだろ。
そのあとで、俺と夕映が一十百の言ったポイントに魔力を流す……。
これだけでいいらしいんだが…
「それじゃ始めるっすよ」
「はい」
一十百が描いた通りの魔法陣が床に描かれたな。
「えと、じゃあクロラージュさん、夕映さんお願いします」
それで、俺と夕映がここに立つっと。
後は魔力を流すだけだな。
「一十百、準備いいか?」
「はい」
俺と夕映の魔力が魔法陣に流れて青色に光っていた魔法陣が赤く光り始めたな。
これでいいのか?
「じゃあ、ゼロさん。お願いします」
「ケケケ、コレカラハ今以上ニコキ使ッテヤルカラ安心シロ」
「ひぁっ、えと、おてやわらかに」
仮契約は成功したらしい。
ちゃんと一十百が従者でチャチャゼロが主らしい。
…まあ、成功すると思ってたよ。
それで…
「このカードってなんですか?」
「そいつは仮契約カードっすね。アーティファクトを出したりするのに使うっすよ」
「へ〜。このカードに書かれているのは何ですか?」
そういえば、いろいろ書かれてるんだよな。
称号とか、方位とか…
「で、なんて書かれてるんだ?」
「えと、ですね…」
一十百が机の上に仮契約カードを置いてくれたな。
どれどれ…
名前表記:HITO TOMOMO
称号:QUI SUNT MINISTRI NOSTRI (人ではない者たちの従者)
色調:Viride(緑)
徳性:caritas (愛)
方位:auster (南)
星辰性:Fax (流星)
ローマ数字:CXI (111)
……?
いや、確かに一十百らしいけどさ。
確実に仕組まれてるような気がする。
特にローマ数字とか…
「そのカードがあればアーティファクトを出すことが出来るっすよ」
「え、そうなんですか! 試してみようかな〜」
「アーティファクトを出すときはカードもって“来たれ”って言うっす」
「よ〜し、来たれ!」
し〜ん…
「あれ? 来たれ!」
おや、なんでアーティファクトが発動しないんだ?
「来たれ!来たれ!来たれ〜!」
出てこないな。
「うう、なんででしょうか?」
「原因はチャチャゼロだな」
「なんでチャチャゼロが原因なんだ、エヴァ?」
「マスターであるチャチャゼロに強い魔力、もしくは強い気がないからそのアーティファクトは発動しないというわけだ」
「なるほど……」
「マア、俺ハ御主人ノ魔力デ動イテルカラナ。ソレホド、魔力ガ多イワケジャネエンダヨナ」
「って、ことはあのアーティファクトは絶対に発動できないのか?」
うわー、一十百も災難だな。
「……いや、可能かもしれないな。私がチャチャゼロに向けて過剰に魔力を流せば、もしかすると」
「オイ、御主人! ソレハ危険ジャネエノカ!」
「気にするな。大丈夫だ、たぶん」
「タブンテ……ヒデエナ」
ということで…
「よし、準備はいいか!」
「はい!」
「イツデモイイゼ」
エヴァの魔力が高まったな。
別荘以外じゃできそうにないけどな〜。
「今だ!」
「は、はい! 来たれ!」
一十百の目の前が光りだして……十個の指輪が現れた。
その瞬間、一十百が崩れ落ちるように倒れた…
「「「「え?」」」」
倒れた一十百は全く動いていなかった。
呼吸とか、そういう動きすら見えなかったんだ。
一目でわかった、これはまずい!
「おい一十百!どうした!!」
「」
目を開いたまま力なく倒れている。
「な、何があったです!」
「オ、オイオイ、アーティファクトってそんなにヤバいのかよ…」
「ちょっと待て。これが一十のアーティファクトか?」
「エヴァ、そんな事よりも…」
「操り人形の指ぬきに似ているな」
そういってエヴァが一十百のアーティファクトであろう指輪をはめると…
「!! そういうことか!」
「え? 何のことだ?」
「見ていろ!」
クイ っとエヴァが指を動かすと、一十百が跳ね起きた。
「「「うわぁ!!」」」
「ほぅぇ。びっくりしました」
「こっちがびっくりしたぞ!」
どうやら一十百は無事みたいだな。
とにかくよかったな。
「でも、なんで立てなかったんだ?」
「う〜ん、力が入らなかったんです」
力が入らなかった?
なんで?
「それで……うわぁ」
!!
いきなり一十百が3回転宙返りをした……?
「お、おいどうした?」
「え、体が勝手に?」
着地と同時に鋭い蹴りが俺の真横まで飛んできていた。
「なっ!!」
「ふぇ!」
す、寸止めか…
「てか、何するんだよ」
「で、ですから…」
「ククク、まあこういうことだ」
いつの間にかエヴァが後ろにいた。
おや?
よく見るとエヴァのはめた指輪から光の線が出てるな。
繋がった先は……一十百。
「つまり、今の一十は人間サイズの操り人形なわけだ。大方、操られ人形と言ったところだろう」
「なるほど。じゃあさっき立てなかったのは…」
「操り手がいなかったせいだ」
そうだったのか。
しかし、自分ひとりじゃ使えないアーティファクトか。
ある意味では最弱じゃないか?
「その、気になることがあるですけど…」
「なんだ、夕映?」
「その、十百さんの手首とか指に節目みたいなのがあるですけど……?」
確かに、よく見ると首とか膝とかにもあるな。
なんだろこれ?
「大体想像はつく。大方自在関節と言ったところだろう」
そう言ってエヴァが指を動かすと……一十百の腕があらぬ方にまがった。
「うぁぁ!びっくりしました!」
「い、痛くないですか?」
「大丈夫ですよ」
「ほう、ここまで曲がると……ということは」
エヴァが指をくるっと回すと、一十百の首が……180°回転した。
「「「「うぁぁ!!!」」」」
いや、実際に見てみると恐ろしいものだ。
というか夕映と千雨の顔が真っ青なんだが……。
「ちょっと部屋で休ませてもらうわ…」
「私もそうするです…」
あ〜、確かにこの光景はつらいわな。
「エヴァ、そのくらいにしておいたら?」
「そうだな。いろいろ試すのは今度にするか」
「これって、どうやったら戻るんですか?」
「去れって言えば元のカードに戻るっすよ」
「え〜と、去れ!」
ちゃんと元のカードに戻ったらしいな。
首とか腕とかも元に戻ってたから大丈夫のようだな。
「ふぇ〜、なんか変な感じがしました〜」
「ケケケ、チャント俺ニモ使ワセロヨ」
…一十百が壊れる日も遠くない気がする。
どうしろと……。
エヴァ〜
「私に言うな!!!」
だそうです。