小説『魔法先生ネギま ロマンのために』
作者:TomomonD()

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第三十二話 あこがれ


Side クロラージュ

転生者にもいろいろあるんだな。

しかし、人のために自分を消滅させるか……。

なんだかかわいそうだな。

「エヴァ、戦ってやったらどうだ?」

「……いいだろう。全力までとはいかないが今出せる全力で相手をしてやる」

そういってエヴァと新たに来た転生者が別荘に向かおうとすると…

「あの〜、少しいいですか? お姉さんってなんで人に害をもたらしてしまうんですか?」

と、なんだか心配そうな顔をした一十百が尋ねた。

そういえば消滅どうのこうの言ってた時からすごい心配そうな顔をしてたな。

「私は災いを引き寄せてしまう。そうだな、病気・事故とか言えばわかりやすいか。そして引き寄せた災いを近くにいる人間に渡してしまうんだ。無意識のうちに、な」

それはつらいな。

運が悪いとかの強力なタイプを渡してしまうタイプか。

それも無意識じゃどうしようもないか…。

「う〜ん、もしかしてお姉さんはそれのせいで困ってるんですか? 消えてしまおうとしてるのもそのためですか?」

「そうだ。多くの不幸を見続けた、これ以上災いを振りまきたくない」

「…もしかしたら、う〜ん……でも、できるかなぁ?」

げ、一十百が悩んでる。

やべ、銀河を超える提案がぁ…

「わかりました。エヴァさん、僕ちょっと出かけてきます。お姉さん、戦いが終わっても勝手に消えないでくださいね」

「どこへ行くつもりだ?」

「川に行ってきます」

そう言って一十百は夜の闇に溶けて行った。

「「「川?」」」


「コホン、いくぞ」

「そうだな。私の長かった旅もこれで終わる」

「俺もついていくが、別にかまわないだろう」

「ああ、少しでも私のことを覚えていてくれる者が増えるのはありがたい」

よくある記憶の中に生きる的なのか……。

アニメとかで見てた時はバカらしいと思ってたんだが、実際この言葉を聞くとその重みが分かるよ。

助けてあげたいな、同じ転生者として。

この真っ直ぐな感じ刹那と息が合いそうだ。

こういう転生者も悪くない、だから助けてあげたい。

まあ、一十百が動いたしもしかしたらうまく助けられるかもな。


「さて、戦う前に貴様の名前を聞いておこう」

「…名前か。それは、無くしてしまった」

「なくした? なんだそれ、記憶喪失か?」

「人間と距離を置くようになって、名を名乗る機会を失ってしまった。その時に名は消えた…」

「おい、せめて名前くらい覚えとけよ。俺もエヴァも名前のない存在をいつまでも覚えてられないぞ」

「そうだな、クロラージュの言うことにも一理ある。邪霊人というだけでは覚えてられなくなる」

「名前か……。そうだな、これからは人里離(にさと はなれ)と名乗ることにする。次に誰かに名乗ることはないだろうが、な」

名前を名乗れた喜びと消えてしまう悲しさが入り混じったような表情をしているな。

名乗ることはないか…。

うん? あれ、一十百には名乗るんじゃないのか?

いや、大事なシーンだ。つっこみは止めよう。

「そろそろ始めるぞ。覚悟はいいか人里」

「ああ、私の今生最後の戦いだ。悔いの残らないように全力でいかせてもらう」



Side エヴァ

「いくぞ! リク・ラク ラ・ラック ライラック 魔法の射手 氷の72矢!」

私の放った氷の矢は人里を包み込むように飛んで行った。

もしヤツが魔法を使うのなら少し間に合わない、避けるにも包み込むようにして放たれた氷の矢は避けきれまい。

「この程度なら ほのおのかべ!!」

その瞬間、巨大な炎が流れるかのように現れた。

馬鹿な、あれほどの炎を一瞬で作り出したのか!

魔法とは違う、別の力。

「なるほど。私に挑むと言っただけのことはあるな」

「この程度で驚かれては困る。くらえ! ライトニングボール」

人里の手の平から放たれてたのは青白い雷球だった。

飛ぶ速さもなかなかのものだが……。

それでも遅い。

私がお前の懐にたどり着けるだけの余裕が出来たぞ。

「なっ、いつの間に!」

「遅い!」

クロラージュがゼロ距離で魔法を撃つを見て私も少し試してみたくなった。

ただ私の場合は魔法だけではないがな!

「かはっ…」

容赦なく私の右手は人里の腹部に打ち込まれた。

そう、ここで魔法の射手を放つ。

「吹き飛べ」

斜め上向きに吹き飛ばし、そして…

「リク・ラク ラ・ラック ライラック 氷神の戦鎚!」

「え? ぐぁ…」

巨大な氷の塊で押しつぶす。

拳打、魔法の射手、氷神の戦鎚につなげる簡単な戦略だが、効果的だな。

「この程度か……。少し期待しすぎたようだな」

「けほ……待て、その発言これを受けてからにしてもらおうか。 ちんこんのひびき」

カラーンと寂しげな鐘の音が響き渡った。

だからなんなのだ?

「少しは期待したのだが…。まあいい、これで終わりだ! リク・ラク ラ・ラック ライラック 来たれ氷精 闇の精 闇に従え 吹雪け 常闇の氷雪 闇の吹雪!」

「それを待っていた! でんげき」

小さな稲妻が私に降り注いだが、この程度で私の魔法が……。

魔法が…、出ていないだと!!

「そんなはずは…」

「エヴァンジェリン、貴女と私の実力には大きな差があった。それはその魔法、魔力の差。それを埋めないと勝つことはできない」

「だが、どうやって……!!! そうか、鐘の音か!」

「…覚悟! ほうでんげんしょう」

先ほどの稲妻が壁になったようなものが私の眼前に広がった。

「クッ…」

バシュン、とすさまじい音と量の割には思った割にはダメージはないな。

少し焦げたようなにおいがするが…たいしたことはない。

「やはり貴女にはこの程度の力では勝てないのか」

「魔法を封じたことは褒めてやれるが貴様の魔法は決定打に欠けるようだな」

「まだ、私のレベルが届かなかった。少し早かったのかもしれない…いや、今の私が戦っているんだ。これが私の今生の全力!」

人里がバッと両手を広げたな。

「かはっ……レベルを超える力がここまでの負担だなんて… ダイアモンドカッター」

血を吐きながら放たれた二つの氷の結晶のようなものは私とは全く違う方向へ飛んで行った。

「限界だな。諦めろ」

「けほっ…私の意志の強さを知れ!」

ザクッ・・・

「がはっ、バカな…」

私の体を氷の結晶が貫いていくのが見えた。

まさか、これは今さっきの氷の……そうか。

死角からの一撃と魔力ではない力の分気が付くのが遅れた。

まさか、この状態から片膝をつかされるとは思わなかった。

「私が吸血鬼でなかったのならこの一撃で決まっていたな」

私には再生能力があるからこの程度の一撃なら無傷に等しい。

とはいえ…

「見事だと言っておこう」

「げほっ…、やはり勝てなかったかったか。私にはもう立ち上がる気力も残っていない」

「貴様は私に片膝をつかせたんだ。それなりに誇れ」

「そうだな。これで少しは覚えていてもらえるか……。悪くない気分だ」



Side クロラージュ

エヴァが貫かれたときはかなり腹がったが、彼女の意思の強さに負けた気がする。

怒りの前によく頑張ったと思ってしまったよ。


「しかし、その力って…」

「知っているのかクロラージュ?」

「まあ……一応は」

確かめるために倒れている人里のそばに行く。

「なあ、その力って…」

「けほっ……」

いや聞く前に休ましてやらないとな。

「立てるか?」

「…放っておいてほしい。敗者としての誇りがある」

「おいおい」

「いや、言い方が悪かったな。この戦いの喜びのようなものをもう少し感じていたい。結果は敗北だったがとても気分がいい」

「そっか」

ほんとにすがすがしい顔をしてるな。

これなら放っておいてもよさそうだ。


「エヴァ、大丈夫か?」

「あの程度ならな」

「…彼女、もし消滅をあきらめて修行でもしたら強くなると思うか?」

「なる。あれだけ真っ直ぐな目は……久しぶりに見た」

「そうだよな」

「少しばかり失うには惜しい存在だ」

エヴァがそこまで言うか。

本当に真っ直ぐな女性なんだな。

「貴様もたまにあの目をする」

「そうなのか?」

「気が付いてないのか。一十とは別の意志の強さを感じさせる目だ」

「一十百はそういう目はしないのか?」

「…アレの目には滅多に映らないな」

「滅多に? 1回くらいあったのか?」

エヴァがなんだかふっと笑ってこっちを見た。

「ここにキサマが来た時だ。一十がキサマをかばって前に立った時あの目をした」

「へ〜。てことは、俺も一十百も強くなるってことか」

「そうだな。もっとつらい実戦を積めば強くなるだろう」

「アハハ……。あれはもうやだ」



「……そろそろ、私は行くことにする」

少しの間倒れていた人里離立ち上がるとそう言った。

「ちょっと待った。一十百が帰ってくるまで待ってた方がいい」

「あの少年か……。いや、あの少年にどうにかできる問題でもない。これは私の宿命のようなものだ」

「確かにそうなのかもしれないけどな……。でも一つだけ訂正させてもらうぞ」

「なんだ?」

「“あの少年にどうにかできる問題でもない”と決め付けるのはまだ早い」

「確かにそうだな。一十は私たちの考えの外にいる奴だ。無理なんて言葉は奴にとっては紙屑同然だろう」

「……それほど彼の実力は高いのか?」

「「……ある意味で高い」」

エヴァと同じ意見を言ってしまった。


少しして……

「ただいま戻りました〜」

別荘に一十百が戻ってきたようだな。

なんか、見慣れない小さな板を持ってるけど……

「あ! よかった〜、まだいてくれましたね」

「一十百、その板は何だ?」

「はい! お姉さんの体質をどうにかするのは無理と言われてしまいましたけど、周りに厄を振りまくのを抑えることはできるらしいです」

トントンと板を叩きながら一十百が説明してるな。

「この板には災いを呼び込むことができるんですよ」

「「「呼び込んでどうするんだ!!!」」」

とうとう人里離までつっこみにまわってしまったか……。

「ほぁうぅ、声をそろえて言わなくても…。そ、それでです、お姉さんがこの板を持っていることで周りの災いを引き付け続けてくれるんです」

「しかし、それでは今まで以上に周りに被害が出てしまうのではないのか?」

「違います、一度引き付けられたら二度と外には出て行けませんから“振りまく”事は出来なくなるんです!」


つ、つまり一度呼び寄せられた厄はこの板と人里離の力によってずっと人里離の周りに渦巻き続けるのか!

「それって、人里離にとって辛くないのか?」

「私自身がこの厄で傷を負ったりする事はない。 ……なるほど、今まで考えていた方法とまったく逆か」

「引き寄せ振りまいてしまうなら、いっそ引き寄せ続ければいいか……。どうしてその発想に至ったのかは分からないが、見事な考えだ一十」

「えへへ…。では、はいどうぞ」

そういって一十百は持っていた板を人里離に渡した。

これといって大きな変化はないようだけど……。

「これでお姉さんは消えないですみますよね?」

「ああ。私の宿命が今変わったような気がするよ……ありがとう」

「えへへ……どういたしまして」


「これからどうするんだ?」

「……私はここで消えるつもりだったからな。この先のことはまったく考えていなかった」

なんだか、俺みたいに楽観的に生きてないみたいなんだよね〜。

せっかく転生したんだし、もっと楽しみを見出す生き方を考えればよかったのに。

なにかいい案があればいいんだけど…

「あの、お姉さんってエヴァさんを超えるためにここに来たんですよね。なら、エヴァさんに勝てるまでここで修行してみてはどうですか?」

「!! ……そうだな。エヴァンジェリン、いいだろうか?」

「まあ、部屋は余っているからな、好きにするがいい。私に勝てるまで……か」

「問題でもあるのか?」

「クックック、いや、貴様の寿命が尽きる前に叶うといいな」

「…余裕だな。少し待っているといい、すぐに並んでみせる」

なんだか、エヴァハウスにまた一人住むことになるみたいだな。

まあ悪いやつじゃないし文句はないな。


「その、少し気になっていたんだが……」

「なんだ?」

「この家の構成はどうなっているんだ? 家の主はエヴァンジェリン貴女に間違いはないのだが……、クロラージュ君と一十百君はどのような立ち位置にいることになっているんだ?」

そういや考えたこともなかったな。

「どうなってるんだエヴァ?」

「……まず一十はゼロの従者ということになっているからな、そういう意味では私の従者でもある。つまり力関係では、私>茶々丸・ゼロ>一十、ということになる」

まあ、確かにそうなるよな。

でも実際はこの家の家事全般やその他雑用をやってる一十百ってかなり必要な存在だよね。

多分いなかったら、本格的に苦労することになりそうだ。

「それで、クロラージュ。貴様は居候だ」

「まあ、間違ってないが……せめて義理の兄とでも言ってほしかった」

「なるほど、概ね理解できた。私の立ち位置も居候といったところだろう」

「まあそうなるな」

力関係とかはあまり気にしなくてもいいと思うんだけどな。

エヴァって、そういうことはあんまり気にしないし……。


「あの〜……」

「なんだい?」

「お姉さんって、人里離さんって言うんですか?」

「ああ、そうか。まだ名乗っていなかったね、邪霊人の人里離だ」

「その……よかったらでいいんですけど……」

どうしたんだろうか?

一十百が俯いてごにょごにょ言ってるな。

何か言い難いことでもあるのか?

「そのっ! 離お姉ちゃんって…呼んでもいいですか?」

ブッ!!

何をいきなり言い出してるんだ??

「お姉ちゃん!! な、なぜそうなるのか理由を聞いてもいいだろうか?」

「はい! 前から思っていたんですけど、エヴァさんにはクロラージュさんって言う兄がいていいなぁ〜と考えてたんです。それで、お姉さんが欲しくなったんです。離さんはなんとなく兄弟がいないみたいだったので、ぜひ僕のお姉さんになって欲しいなぁと思いました」

「まて! いつからクロラージュが私の兄になったんだ!!」

「ふぇ? だってエヴァさん、この前寝言で“クロラージュお兄ちゃん……”って言ってたので…」


がはぁっ!!

も、もしそれを直に聞いてしまったら間違いなく倒れるところだった。

あ、危ない……。


「ダ、ダダダ誰がそんな寝言言うかぁ―――――――!!!!!!!」

「エヴァ、安心しろ。立派な兄を目指すつもり…ゲフゥ」

エヴァの肩に手を置いてにっこり笑いながらそう言ったら、問答無用の鉄拳が鳩尾にめり込んだ。

「はぁはぁ……。一十、今のこと誰にも言うな。わかっているな」

「ひぅ、は、はい…」


「…つまり、君の義理の姉になって欲しいと」

「はい! ダメでしょうか…」

「べ、別にかまわないが……私でいいのか? もっと、他にいるんじゃないのだろうか?」

「茶々丸さん、でもよかったんですけど……。ゼロさんの従者なので複雑な関係になってしまうんじゃないかなぁと思って」

確かに。

まあ、一十百の姉って大変だと思うが…、それだけの見返りはありそうだな。

「…わかった。君の姉、引き受けよう」

「えへへ、やったぁ」


一十百は別荘の掃除をしている。

エヴァは、部屋に引きこもってしまった。

なんでも“自分自身が許せない……”とか言って顔を真っ赤にしてたもんな。

それで、俺は人里の力について話している。

「その力……、配管工のおじさんRPGの技だろ?」

「やはり気づいていたか……。そのとおりだ、まあ敵の技限定だが……」

「随分とマイナーなところを選んだな。同じRPGならDCとかFFとかあっただろうに」

「…私が選んだわけではないからな。君も転生者ならわかるだろう、神の存在を」

「……つまり、ケチな神だったから有名なチートはもらえなかったと」

「ああ。いや、本当ならもらえるはずだった。少し賭けに負けてね…」

「賭け?」

神様相手に賭けって、すごいな。

「どんな賭けだったんだ?」

「私の転生したときの能力を決めるときに“私が死ぬ前までに持っていたゲームの中から選ばせて欲しい”と言ったんだ」

「……OKされなかったんだな」

「そうだ。だから私は神にこういったんだ。“その中からランダムに一つ選び、そのゲームの敵の技だけでいい”と。私は生前、有名どころ…それこそDCやFFのようなものしか持っていなかったからね。確実に強力な力が手に入る予定だった」

「で、引いたのが……コレか」

「死ぬ一週間前に友達から借りていたのを忘れてたんだ。不覚だったよ」

な、なんだかすごい賭けに負けてしまった人がいる……。

「賭けの代償は、さっき言った邪霊人としての転生だ」

「なるほど……」

「まあレベルアップというシステムはあるようで、私が強くなるにつれて強力な技も使えるようになるみたいだ。多少の無理をすれば強力なものも使えるのだけどね」

多少の無理ね……。

さっきはダイヤモンドカッターを使って血を吐いていたな。

「大体今どれくらいまで使えるんだ?」

「そうだな……。さぶざむ くらいまでは使えたはずだ」

「星のかけら3つよりちょっと先くらいまでか……」


「あ、クロラージュさんと、えと、離お姉ちゃん。お掃除終わりましたよ」

一十百が戻ってきたな。

この別荘、いつ見てもピカピカだ。

「おつかれ一十百」

「いえいえ、僕のお仕事ですから。あ、そういえば、これどうぞ」

一十百のポケットから和紙で包まれたものが出てきた。

「これはなんだい?」

「『こんぺいとう』です。離お姉ちゃんも一緒にどうぞ。僕はお茶を持ってきます」

そういって一十百は走っていった。

「……彼は私の力のことを知っているのでは?」

「いや、そういうわけじゃないだろう…。うん、多分」

包み紙を開いてみると……色とりどりの金平糖が……。

こんぺいとうが……。

「………これでも彼は私の力を知らないと思うのかい?」

「あはは……」

一十百の持ってきた『こんぺいとう』は、きらきらとした星のようなものだった。

いや、食べ物ではあると思うんだけど……。

なんだか200ダメージくらいそうだ。

「まあ一つ食べてみるか」

「私も食べてみよう」


味は普通の金平糖でした。

「私の中の何かが目覚めた……気がする」

人里の頭の上にLvUPと出ているのは……見なかったことにしよう。

「キラリりゅうせいぐん が使えるようになったみたいだ」

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