第三十五話 西の少女達
Side クロラージュ
ネギ君がエヴァの弟子になってから少し経った。
ネギ君の過去の話を本屋ちゃんの力を借りて見学したのは昨日の事。
その事もあってか、他のメンツがとてもネギ君に友好的になっていた。
で、今エヴァハウスにいるのは、俺、エヴァ、茶々丸、ネギ君、アスナ、木乃香、刹那、夕映、本屋ちゃん、ちうちう、佐々木まき絵、朝倉、ブルーとイエローだ。
佐々木まき絵は朝倉と一緒に勝手に入ってきた。
ブルー、イエローもその時一緒に入ってきていた。
原作をよく覚えてないからどうともいえないけど……。
「こんなにいたっけ?」
まあ、深く考えるのはよそう。
「おい……なんでこんなにいるんだ?」
「エヴァ、友達がこんなにできていたなんて……。兄として嬉…グバッ」
「誰が兄だぁ!!」
まあ、ボケつっこみはこのくらいにして…
「え〜と、まず朝倉! エヴァの家に何の用?」
「え、いきなり私? コホン、エヴァちゃんの家が改装されたって噂を聞いてね。間取りとか、内装の取材をするために来たんだよ」
「ちょっと遅くないか?」
「そ、それを言われると……辛いなあ。修学旅行とか黒い風の噂とかがあってこっちの取材が遅れたんだよ」
まあ、そうらしい……。
「で、佐々木まき絵もといバカピンクは……大方面白そうだったとかだろ?」
「うっ、鋭いね…。お兄さんがいるところって、何か面白いことが起こりやすそうだから」
俺はトラブルメーカーか!
まあ、否定できん。
「ブルーとイエローは?」
「ネギ坊主から修行をしてるような感じがひしひしと感じていたのでついてきたのでござるよ」
「私もほとんど同じ理由ネ。師として見てみたかたヨ」
ネギに期待か……。
まあ将来性はあるよな。
「それで、刹那がいるのは木乃香が呼ばれたからで、本屋ちゃんがいるのは夕映とネギ君がいるからか…」
さてと……、どうしたものか。
「エヴァ、どうする? 別荘でも案内するか?」
「はぁ〜、キサマらの相手をしてる暇などないと言うのに…」
そう言いながらも、久々のお客だったので少し上機嫌だ。
さてと…、と立ち上がろうとしたとき電話が鳴り響いた。
「エヴァ、電話。あの妖怪からじゃないのか?」
「まったく面倒だ」
そういってエヴァが電話を取る。
「なんだ? ……クロラージュか、ここにいるぞ」
そういってエヴァが電話を差し出してきた。
「俺に電話? 誰から?」
「学院長からだ。西の事らしいが…」
西の事……転回の事か?
「はい、電話変わりました」
「うむ、実はのぅ…」
「散れ妖怪」
「ヒドイ……」
「さてと……。で、西の事ってなんだ?」
「うむ。西の者たちが脱走したらしいのじゃ」
「だ、脱走! 誰が…」
「それが……首謀者であった千草という者以外らしいのじゃ…」
おいいいい!!
それほとんどじゃないか!
「まったく西は何をやってるんだよ?」
「それがのう……、気も使わずに牢を破壊していったらしいのじゃ」
「だ、誰が? 小太郎君とかいう狗族の男の子?」
「いや、月詠という神鳴流剣士らしい。知っておるか?」
いや、そりゃ知ってるけど……。
そんなに腕力高かったけ?
それに妖刀のせいで体にガタが来てたんじゃ?
「まあ、知ってるけど。それはそうとなぜにこの家に電話をしてきたんだ?」
「いや、それがのぅ……牢に“エヴァの家に行く 転回・月詠”と置き手紙が残されていたらしいのじゃ……」
ぐばぁぁ……。
転回、いつまでも待っててやるから……脱走はしないでくれ。
事が大きくなる前に何とかしないと。
「で、西の長はなんて言ってる?」
「転回君の罪は重くないので、そのままそちらで引き取ってくれて構わないそうじゃ」
「他の人は?」
「捕まえて、連絡してほしいだそうじゃ」
「わかった」
そう言って電話切った。
「何があった?」
「……西の勢力が脱獄(笑)」
「笑えないわよそれ!!」
「まあ落ち着けレッド。それほど慌てる事でもない、別に悪事を働く気は……多分ない」
「とてつもなく心配なんだけど…」
「こんにちは〜」
「帰ッタゼ」
おや、どうやら一十百とチャチャゼロが帰ってきたみたいだな。
「あれ、今日はお客さんが多いですね。せっかくなのでパイでも焼きましょうか?」
「それどころじゃない、がパイは焼いてくれ」
「? 何かあったのでしょうか」
「え〜と……≪かくか…」
「えええ! 月詠さんたちが脱走、ですか!」
おいおい、早いって!!
まだかくかくしかじかも言ってないって。
まあ伝わったからいいか…。
「まあ慌てても仕方ないですから、紅茶とパイを焼いて待っていましょうか」
そういって一十百はキッチンのほうに向かっていった。
「あんまり慌ててなかったわね…」
「まあ一十百はそういう人だから…」
少しして……
「紅茶が入りました」
執事服に着替えた一十百が紅茶のカートを押してきた。
一十百が執事服を着てるのは珍しいな。
でも……コスプレに見える。
「エヴァ、一十百に渡す服を間違えたんじゃないか?」
「この前、私のためにかなり働いてくれたからな。下僕から執事まで格上げしてやったのだ」
「いや、ほら……一十百って、こうメイド服のほうがしっくり来ないか?」
まあ、冗談で言ったんだけどね…
「…なるほど、確かに」
「ちょ、エヴァ……、本気にしないであげて。一十百が泣くと思うから」
「クックック……。おい、一十」
「はい、何ですかエヴァさん」
「ちょっとこっちに来い」
エヴァが一十百を連れて行ったな。
まあ、悪く思うな一十百。
「あれ、十百君が紅茶を入れてくれるんじゃないの?」
「まあ少し待ってれば戻ってくる」
「エ、エヴァさん……えと…その…僕は…」
「これのほうが似合う。諦めて着るといい」
「ふぇぇ、そんなぁ…」
「よし、もしもその格好が似合っていないと一人でも言ったらもとの執事服に着替えていいぞ」
なんかエヴァのやってることが手に取るようにわかるんだが……。
まあ、一十百のためにも似合わないといってや…
「グスン。あ、あの、紅茶を…」
「……え゛」
「うわ…」
「これは…」
正直に言おう。
どこからどう見ても、メイドでした。
そして、大事なことは……
「「「「「「「「「「「「「執事服より似合ってる」」」」」」」」」」」」」
エヴァ、チャチャゼロを除く全員が同時に同じセリフを言った。
「ふぇぇえ……、そ、そんなぁ〜」
「異性のはずなのに、可愛さという部分で嫉妬をしてしまうですね」
「下手すると、私たちよりも人気がありそうだな」
まあ、確かに可愛い。
そこらへんの少女よりずっと可愛い……。
それでも一十百は一十百だからな。
メイド服を着ていても、紅茶を入れる手際のよさは熟練の執事を呼び起こさせるよ。
「どうしました、クロラージュさん?」
……上目づかいはまずいって。
背丈的にそうなるのはしょうがないけど、こうお持ち帰りの衝動に駆られる。
「い、いやなんでもない。そういえば、パイは?」
「あ! そろそろ焼けるころですね」
「お待たせしました!」
一十百がパイを切り分けていく。
とてもいい香りだ。
「はい、クロラージュさん」
金色に彩られたパイからは焼き立ての象徴であるように甘い香りと湯気がふわりと立ち上っていた。
「これは美味しそうね!」
「十百さんの料理は普通のお店より美味しいですから」
「これだけのためにエヴァちゃんの家に来たくなるね」
「うわ〜、美味しい!」
俺も一口、パクッ。
おお、これは美味しい!
でも、何のパイだ?
食べたことのない果物のパイ……だよな。
「十百君、これって何のパイなの?」
「はい。僕のよく行くお店の注目の品の…え〜と、黄金色の林檎のパイです」
「へ〜、知らないリンゴだ」
「エヴァ、知ってるか?」
「いや、私も知らないな」
「えっと、楽園にあるリンゴをちょっとだけ品種改良したものらしいです」
エデンのリンゴ?
知恵の果実のことだよな……。
「よし、美味しいこと以外考えないようにしよう!」
「そうだな」
一十百の出してくれた紅茶とパイで一息ついたころにチャイムがなった。
「エヴァ、お客さんだよ」
「これ以上増えるのも面倒だというのに……、一十任せた」
「あの〜、せめて着替えさせてくれませんか?」
そういえばまだメイド服だったな。
「着替えさせてやったらどうだ?」
「仕方ないな、執事服に戻っていいぞ」
「はい」
一十百がバッとその場でメイド服を脱いだ。
うえええ、さすがにここで着替えるのか……。
と思ったときにはすでに執事服になっていた。
は、速い……
「は〜い、どなたですか〜」
「ゼイゼイ、ここにウチ……私のご主人様がいると思うんだけど」
「あ! もしかしてクロラージュさんに御用ですか? こちらにどうぞ」
一十百がつれてきたのは…
「クロ! 久しぶり!!」
「あ〜、久しぶりだな、転回」
脱走した片割れの転回巡だった。
「どうした、急に脱獄なんかして?」
「私がしようって言ったわけじゃないから…」
「月詠か? それにしても何でだ?」
「牢の中でここに行きたいってずっと言ってたから……我慢できなくなったんだと思う」
月詠がここに来たい理由??
一十百と斬り合いたい……か?
いや、それにしても無理やり過ぎないか…。
「そういえば、月詠と一緒じゃないのか?」
「途中まで一緒だったんだけど……、忘れ物〜って京都に一回戻ったよ」
おいおい、捕まったんじゃないのか?
ピンポ〜ン
おや、また誰か来たな。
月詠か?
「は〜い、どうぞ〜」
一十百が扉を開けると人里が中に入ってきた。
「あ、離お姉ちゃんお帰りなさい」
「ああ、ただいま。一十君、君に会いたいって人がいたからつれて来たよ」
「誰ですか? あっ!」
「おひさしぶりどす〜」
「月詠さん! お久しぶりです」
「人里、なんで月詠を案内してきたんだ?」
「彼女はどういう人かはわかっているが…、一十君にどうしても会いたいと言われてね」
それって一十百が危ないんじゃ…
「危害を加えるのかと聞いたんだが……、違うそうだ」
「え? だって、確か月詠は一十百を斬るために妖刀まで持ち出したはずだろ?」
これは月詠自身に聞くしかないな。
「おい、月詠。一十百に用ってなんだ?」
「あ、忘れるところでした〜。十百はん、これ」
そういって月詠はしめ縄のついた木箱を一十百に渡した。
「これって……まさか!」
「一十、何が入ってるんだ?」
「妖刀…ですか?」
「開けへんのによくわかりますなぁ〜。妖刀ひなどす」
おいおい、随分と物騒なものを……。
「でも、なんで一十百に渡すんだ? どちらかというと刹那に渡すべきじゃないのか?」
「センパイに渡しても良かったんですけど、まだ危ないと思いまして〜」
「……それは、どういう意味だ月詠!」
「まあまあ……。たしか妖刀ひなは振るう者が未熟だと乗っ取られるんじゃなかったか?」
「ウチは乗っ取られてしまいましたから〜」
「それで、なんで一十に渡す? キサマはこいつと戦っていて何か気がつかなかったのか?」
「気や魔力がないことどすか?」
ほう、さすが月詠。
気がついていたか。
「まあ、ウチやセンパイが持ってるよりも安全だと思って…」
「あれ? この刀こんなに軽かったですっけ、月読さん?」
「「「「え゛……」」」」
俺、刹那、エヴァ、月詠が一斉に振り返った。
そこには、直に妖刀ひなを持つ一十百がいた。
「おいいいいい!! 今の話聞いてたか?」
「ふぇ? あ…」
突如、妖刀ひなから黒い妖気のような物が噴出し、一十百を包み込んだ。
「まずいです! このままでは、妖刀に取り付かれた一十百さんが周りの人を無差別に斬ってしまいます」
「まさか、ウチの思っていたよりも天然さんでしたか〜」
「まったく、面倒ごとを増やしてくれたな…」
黒い妖気に包まれた一十百は、目が反転しニヤリと笑っている。
「来る!」
そう思って身構えたのだけど……。
まったく動かない。
あれ?
「刹那、乗っ取られるのにどれくらいかかる?」
「え? すぐ、のはずですが……」
「ウチは刀を抜いた瞬間でした〜」
じゃ、なんで動かないんだ。
「……ん〜、よし!」
一十百が一度伸びをした。
あれ……なんか随分緊張感のない乗っ取られ方だな。
「…たぁ!」
ヒュンと妖刀ひな一十百が振り下ろした瞬間に、周りの黒い妖気のようなものは四散していった。
「「「「えっ?」」」」
「はい、これでよしっと。あれ? 皆さんどうしました?」
いつもの一十百に戻っていました。
「十百はん、いま乗っ取られたんじゃ…」
「ふぇ? そんなことにはなりませんよ、これくらいの妖刀なら大丈夫ですよ」
「これくらいのって……その妖刀のせいで神鳴流剣士が全滅しかけたことがあったんですよ?」
「ふぇぇ、そうだったんですか?」
「一十、体は平気なのか?」
「はい。当分乗っ取ることはできませんから大丈夫です」
どうやら、妖刀ひなの呪縛のようなものを断ち切ったようだ。
オイ……!
チートだろ?
もう、チートだよね?
「一十百……。その、願わくば何で乗っ取られなかったのか教えてくれないか? なるべく、俺にもわかるように」
「は、はい。そのですね、僕の持っている二本の刀よりずっと安全だったので……」
二本の刀?
てか、それ乗っ取られない理由にならないよね。
「一十、いつの間にそんなものを?」
「エヴァさんの執事にしてもらう前から持っていました。有名……らしいんですけど……僕には刀の知識はないんで…」
「何処においてある?」
「僕のお部屋に置いてありますよ」
「確認しに行くぞ!」
て、ことで一十百の部屋の前にいます。
「ここが一十百の部屋か。そういえば、中を見たことないな」
「珍しいものはありませんよ」
そう言って扉を開ける。
中はいたって普通で、机とかタンスとかベッドとかがあるだけだった。
「で、刀は何処だ?」
「ここです、よいしょっと」
タンスの中から二本の刀が出てきた。
一つは日本刀のようなものだ。
もう一つは刀というよりも剣だな。
両方とも鞘に収まっている。
でも…
「なんか、この部屋急に寒くなってないか?」
「刀から出る瘴気……のせいだろう」
「うっ……この二つの刀、危険です」
「ウチでもわかるわ、人が振ってはならないって」
さてと、こんなおっそろしい刀の名前くらい聞いておくか。
まあ、有名じゃないらしいから、そこらの魔剣とかだろう。
「で、一十百。なんて名前なんだ? 名前くらいは知ってるだろう?」
「は、はい。え〜と右の日本刀っぽい刀は……たしか、ムラマサ?でしたっけ」
ブッ…
「おいおい……まさか妖刀村正か!」
「……本物ですよね」
「抜いてみますか?」
「「「「やめて!!」」」」
「そ、そうですか?」
なんかすでに雲行きが怪しい。
というか、すでに大嵐なんだけど……。
「エヴァ、逃げていい?」
「あきらめろ。私も覚悟を決めている、もう一つは何だ?」
「え〜と、だーうぃんすれいぶ?とかいう剣で、ほくおー神話の剣らしいです」
ダーウィンって自然科学者だよな。
北欧神話?
話が繋がらないな。
「エヴァなにか……って」
エヴァの顔が真っ青になっていた。
「大丈夫か! 顔が真っ青だぞ」
「ま、魔剣ダーインスレイヴ……か」
「あ、それです! さすがエヴァさん物知りですね」
「……エヴァ、ヤバ…いや、ヤヴァイ?」
「一度鞘から抜いたら最後、生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に戻らない……魔剣の代表格ともいえる剣だ」
「た、たしかにこの二つの剣に比べると妖刀ひなは…安全に見えますね」
「ウチ、渡す相手間違えた気がするわ〜……」
まあ確かにこれなら妖刀ひなの一本や二本くらいあっても平気か。
「クロラージュ、私はいつか一十の買い物についていくつもりだ。そのときは一緒に来てほしい」
「エヴァ……、正直言って発狂しない自信がない。やめとけ」
「この剣抜いてみますか?」
「「「「やめてぇ!!」」」」
結局、転回と月詠のことを西のほうにも学院長にも報告できずに一日が過ぎ去っていった。