小説『魔法先生ネギま ロマンのために』
作者:TomomonD()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第三十八話 悪魔より厄介な力


Side クロラージュ

昨日エヴァと一十百とチャチャゼロが夜遅くまで話していたが……。

なぜか話に参加させてもらえなかった。

なぜだ―――!!!

まあ、何も分からなかったらしいけど……。


さてと、今日はとうとう悪魔襲来の日だ。

あまり介入するつもりは無いんだが、もしものために用意や心構えをしないと……。

「そう思ってたんだよ。で、どうしてこうなったんだ?」

「少し早く着きすぎてしまったんだよ。悪く思わないでくれたまえ」

今は玄関だ、確認。

朝早くからチャイムが鳴った、確認。

お客だろうと思い、俺が出た、確認。

エヴァとかは学校だ、確認。

なぜか子爵級悪魔のヘルマン卿が立っていた、確認……したくない。

どうしてこうなった、大事なことだから…

「二度言わなくても大丈夫だよ」

「そうか」

「あれ? クロラージュさん、お客様ですか?」

そうそう、一十百は今日はエヴァハウスにいる。

何でも学校の振り替え休日らしい。

「え〜と、中にどうぞ。お茶のご用意をいたしますから」

「わざわざすまないね。お言葉に甘えさせてもらうよ」

お〜い、一十百……。

この人、悪魔さんですよ〜。

人を石に変える悪い悪魔さんですよ〜……。

「クロラージュさんも、立ち話では疲れてしまうでしょう? こちらへどうぞ」

「あ、ああ……」

ええい、もうどうにでもなれ!!


ヘルマン卿と向かい合う形で座っている。

目の前には美味しそうなパイと紅茶が置かれてる。

「では、ごゆっくり」

執事服の一十百が一礼して退出していった。

「さて、話を聞こうか。なんでわざわざここに来た? エヴァはお前の計画にとって厄介な存在だろう?」

「そのとおりだ。ハイ・デイライトウォーカーは厄介な存在、本来ならここで消しておきたかったのだが……」

「どうした?」

「学園精霊が彼女を守っているようだ。手を出せばこちらが危うい、という結論に至ったのだよ」

「はい? エヴァを守っている? 封じ込めてるの間違いじゃないのか?」

「確かに封じてはいるようだが…、その上から新たな契約を結んでいる。そんな器用なまね、いったい誰がやったのか……」

それって一十百が言ってた契約の事か?

そんなことまで契約内容に入れてたのか、恐るべし…。

「それならなぜここに来た。エヴァに手を出せないならここには用が無いはずだろ」

「他の不確定要素の確認だよ」

「俺…か?」

「君のその一人だ。不確定要素は4人、特徴のみだけれどね。オレンジの髪の青年、小柄な執事服の少女、茶髪のポニーテールの少女、灰色の髪の女性だ」

俺、一十百、転回、人里か……。

でも、気になるな…

「それ、誰の情報だ? 不確定要素って言うくらいだ、ほかの事は知ってるような奴のものなんだろ?」

「今回の任務に同行してくれた者だよ。まあ、何者かは詳しく知らないがね」

「そんな奴の情報を信じていいのか?」

「信じるきるつもりは無い。けれども、彼がそこまで言うのだ、少しは気になるというものだ」

……転生者か。

それも、ネギ君の敵になるだろう。

厄介すぎる。

転回の時とは比べ物にならないほどだろう……。

「子爵級の悪魔が人間の情報に頼るなんてな」

「……没落したとはいえ伯爵なのだがね」

「あれ? 子爵、じゃなかったっけ?」

「自己紹介がまだの様だったね、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵だよ」

伯爵級だったのか。

まあ、よく分からないから、強いってことにしておこう。

「これはご丁寧にヘルマン伯爵。それで、不確定要素についてはどうするつもりだ?」

この場で消すとか、石化してもらおうとかはやめてほしい。

「まあ、即座に排除……といきたいところだが…」

「何か問題でもあるのか? 随分と平和的な悪魔だな」

「ここで拳を交えると、この紅茶とパイを食べ損なってしまうからね」

そういって、美味しそうにパイを食べていた。

この悪魔……、ほんとにネギ君の村を石化させた張本人なのか?

正直言って、悪人に見えない。

「……先ほどの少女。彼女が不確定要素の2人目だね」

「ああ」

「ぜひパイと紅茶のおかわりを頼みたいのだが」

オイィ……。

まあ、いいか。

俺が呼ぼうとすると、扉が開き紅茶の載ったカートを一十百が押してきた。

いつも通り、なんてタイミングだ…。

「おかわりはいかがですか?」

「ぜひもらおう」

「はい」

そう言ってヘルマンに紅茶を注ぐ一十百を見てると、不思議と従者と執事に見えてきた。

まあヘルマンは伯爵らしいし、一十百は執事だから…そういう雰囲気にもなるな。

「あれ? その、もしかして……悪魔さんですか?」

「え?」

なんでわかるんだ?

「ほう。どうしてそう思うのか、よかったら聞かせてくれないかい?」

「えと、ですね……。気配…でしょうか?」

「気配?」

「はい! 人とは違う気配です! たぶん……伯爵級の方では?」

そこまで読み取れるのか!!

すごい、てか……何の能力だよ!

「そのとおりだよ。さすが不確定要素と危惧するだけのことはある」

「?? よく分からないですけど…」

一十百はスッと一歩引くと、右手を胸に置き一礼。

「この館の主、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様に仕える執事、一十百というものです。悪魔伯爵殿」

見事な執事の礼を取った。

い、いつの間に……そんな作法を…

「いや、畏まらなくていい。しかし、ハイ・デイライトウォーカーもよい執事を持ったものだな」

「えへへ……そんな…。コホン、この館にいらしたのはどのようなご用件でしょうか?」

「用事は終わったから、少しのんびりしたくてね。ぜひパイをもう一切れもらえないかい?」

「はい。少しお待ちください!」

一礼して、一十百が……消えた!!

「「え?」」

「はい、お持ちしたしました。どうぞ」

いつの間にか一十百が現れていた、手にはパイの乗ったトレイを持ってる。

どうやら、目に映らない速さでパイを取ってきたようだな。

こんなに速く動けたっけ?

「一十百……、その、いつの間にそんなに速く動けるように…」

「偉大な主の執事が機敏に動けなくてどうするんですか。それに伯爵殿をお待たせするわけにはいきませんから」

「そ、そうか……」

そういって、パイを切り分けてくれた。

「では、ごゆっくりしていって下さい」

一十百は一礼すると紅茶のカートを押して退出していった。

「いい執事だが……一つ疑問がのこる」

「なんだ?」

「少女なのだから、メイドではないのかね?」

「……一十百は男だ」

「なっ……彼女が男だと…」

今までで一番驚いたって表情をしてるな。


「さて、私は一度戻るが……、一つだけ忠告させてもらおう」

「随分と優しいな」

「なに、パイと紅茶の礼とでも思ってもらおうか」

さすが伯爵。

礼儀作法は守るんだな。

「何の忠告だ?」

「先ほどの執事には、メイド服を着せるべきだ。たとえ彼が男であっても」

「……同感だ」


ヘルマンは西に傾きかけた日差しの中に消えていった。



Side ?

―ほう、彼の実力はそれほど高くないのか―

「戦いはしなかったが、それほど恐ろしくは感じなかった」

―そうか。まあ、せめて足掻いて欲しいものだよ。勝てないなりにも―

「油断をするにはまだ早い。不確定要素の残り2人については何も分からなかったのだから…」

―油断? これは余裕だよ―

「そうか。気をつけることだ、少なくとも一筋縄ではいかないだろう」

―そうでなくてはつまらない。なに、始めはかなり手加減するつもりだ―

「拳を交えるのに手加減か…」

―そうしなければ、拳を交える前に消えてしまうだろ? ハッハッハ―



Side クロラージュ

「ただいま」

「おかえり〜」

エヴァが帰ってきたようだ。

そうそう、今日は転回がネギ君のクラスに転入する日だ。

まあ体験入学という形らしいけど……。

「なあ、エヴァ。転回どうだった?」

「初日からあのクラスにあそこまで馴染める奴も珍しい」

どうやらうまく馴染めたようだ。

「一緒に帰ってこなかったのか?」

「いろいろ見たいところがあるそうだ。夕映やこのかが案内したがっていたからな」

そうか。

あれ?

「もしかして……大浴場とか見たいって言ってなかったか?」

「ああ、そんなことも言ってたな」

それって……さらわれるフラグじゃ……。

あ〜、これはまずいな…。

よし、仮契約カードを使って…

「念話! 夕映、転回、聞こえるか〜?」



Side 転回

≪夕映、転回、聞こえるか〜?≫

「えっ?」

急に頭の中にクロの声が聞こえてきた。

振り返ってもクロはいないし……。

まあ、今は大浴場でお湯につかってるからクロがいたら大変なことになるんだけど……。

「転回さん、聞こえたですか?」

「夕映さんも? じゃあ、空耳じゃなかったんだ」

「たぶん仮契約カードを使った“念話”と呼ばれるものだと思うです」

「何の話?」

朝倉さんとまき絵さんが来てしまいました。

ここはうまく誤魔化さないと…

「え〜と、クロのことをちょっと…」

ああっ、誤魔化せてない気がする。

「結局クロージュのことが気になってるんだな」

「千雨さんまで…、まあカッコいいってことは認めるよ。性格も、いいし…」

≪お〜い、反応がないんだが…ってまあいいか。聞こえてるとして話を進めるぞ〜」

あ、クロが話し始めちゃった。

≪たぶん大浴場でのんびりしてるだろ? そのときに夕映は俺があげた指輪をつけて、転回は夕映の近くにいてくれ≫

何だろう?

夕映さんは隣にいるから別に平気だけど…。

「夕映さん、指輪つけてる?」

「肌身離さずつけておいて…と言われてしまったので///」

む〜、なんだかいいなぁ。

私も何かほしい!

「でも、わざわざ連絡をするくらいです。何かあるですね」

「うん。用心しないと…」

「クロージュから何か言ってきたのか?」

「はい。何かあるかもしれないです、千雨さんもこちらに来るです」

原作だと……今はどのあたりだっけ?

それさえ分かれば何が起こるかわかるんだけど…。

え〜と、修学旅行が終わって、この前ネギ君がエヴァちゃんの弟子になったから……、次はヘルマンがやってくるんだった。

確か、アスナさんと……他の人が捕まって……。

あっ!

「ここって大浴場!」

「な、何をいまさら…」

「まずいかも…」

「「「えっ?」」」

私が振り返ったときには巨大な水の壁が私たちを包んでいた。



Side クロラージュ

う〜ん、夕映や転回からの返信がないな……。

もう捕まったのか?

たぶん危害を加えるつもりはないだろうけど…

「エヴァ、心配になったからちょっと見てくる」

「勝手にするといい」

そうか……。

「じゃ、行ってくる」

「おい」

「なんだ?」

「わ、私も後から見物くらいには行ってやる。それまでは耐えて見せろ」

「心配してくれるのか? さすがエヴァ、優しいな」

「///なっ、そういうわけじゃない!!」

「まあたぶん大丈夫だ。それじゃ!」

たとえ転生者が邪魔をしようとも、こっちにはいろいろ秘策がある。

そう簡単には負けないさ。


外はすでに大雨が降り、薄暗い空がずっと続いていた。

確か、どこかの広場のようなところだった気がするけど……。

はっきりとした場所が分からないな…

「これは、マズイか?」

「助けに行かないのかい?」

後ろから黒い傘を差した人里が声をかけてきた。

「場所が分からない…」

「やれやれ、私は今回かかわるつもりは無かったのだけれど…。しかたない、君のロマンとやらに協力しよう、ついてくるといい」

「場所を知っているのか!」

「いや……。でもね、人間じゃないからかもしれないけれど、向こうからいやな気配を感じるんだ。悪魔の気配…とでも言うものだろう」

「すごいな…」

ここは人里の勘を頼るしかないな。


「どうやら、私の勘も捨てたものでもなかったようだね」

「ああ」

大きな広場には、ネギ君、小太郎君、ヘルマン、スライムが三匹、それと捕まった人達がいた。

「クロラジュさん!? どうしてここに!」

「俺の仮契約者が捕まってるからな。さすがに見過ごせないだろう」

原作どおりに水牢に閉じ込められてるな。

「おい、ヘルマン。後ろのメンツを開放してもらおうか」

「私の任務が終わったら解放するつもりだ。安心したまえ」

「いや、すぐ開放してもらおうか。よく見えないけど、服着てないだろ? 風邪でも引かれたら厄介だ!」

「そういう訳にはいかぬのだよ」

キュン、という音と共に恐ろしい一撃がこっちに向かってきた。

「ちょっ……」

間一髪、右に飛んだため直撃は避けたけど……。

これ、あたってたらケガじゃすまないぞ。

「今のが悪魔パンチか? 恐ろしい一撃だな」

「加減をするつもりは無い、本気できたまえ」

う〜ん、ここはネギ君と小太郎君だけでどうにかできるはず……。

なら俺が手を出さなくても…


―なんだ今の無様なよけ方は? 弾く事も出来ないのか?―


上から馬鹿にしたような声が聞こえてきた。

俺が見上げると、そこには……

「誰だ?」

―こんな弱そうなのが俺の同類か。腹立たしさを通り過ぎて呆れたな―

腕組みをした緑色の髪の男がニヤリと笑って、見下ろしていた。

「お前が…協力者か」

「まあ、そうだ。俺一人でも十分だったんだがな」

タンと空を蹴るような動作をして、俺の前に降り立った。

とてつもない魔力を感じる……。

夕映より…いやエヴァよりも強い。

これが、俺と同じ転生者なのか……?

「安心しろ、10%くらいの力で相手をしてやる」

「随分と手加減をしてくれるんだな」

「分相応って言葉を知ってるか? お前らのようなのでは、俺の10%にも勝てない」

黙って聞いていれば、随分と…

「でんげき」

バリバリという音と共に緑色の髪の男に雷が落ちた。

てか不意打ち!!

「人里、いくらなんでも不意打ちはちょっと…」

「すでに戦いは始まっている。悠長に話している場合ではないよ」

「まあ、そりゃそうだけど…」

今のでやられてくれればいいんだけど……。

さすがにでんげきじゃ無理だよな。

「わざわざ受けてやったのにこの程度か。下らん」

「…っ、無傷ですか。これで倒せるとは思っていなかったが、無傷だとは…」

「もう一度だけ言ってやる。お前らのようなのでは、俺の10%にも勝てない」

この転生者、本当に強い……。

チート持ちだ…。

「さてと、魔法と気、どちらがいいか選ばせてやる」

「何?」

「分からないか? どちらで消されるのがいいと言っているんだ、選ばせてやる」

このっ……!

「両方つかって見せろ、あまり調子に乗るな!」

随分と馬鹿にされたからな……、容赦するつもりは無い!

俺の無詠唱の力を見せてやる!!

「そうか両方だな、いいだろう……」

ニヤリと緑色の髪の転生者が笑った。

「左手に魔力、右手に気…」

「えっ? それ、まさか……」

「合成、咸卦法!」


俺は初めて……、転生者として初めて心の底から恐怖を感じた。

-40-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法先生ネギま!佐々木まき絵/塗装済み完成品フィギュア
新品 \3990
中古 \1980
(参考価格:\3990)