小説『魔法先生ネギま ロマンのために』
作者:TomomonD()

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第三十九話 持たざるものの強さ


Side エヴァ

何だこの異様な魔力は……。

咸卦法か…?

いや、まさか……

「だが、この感じは間違いない…」

「エヴァさん? どうしました?」

「一十……どうだ?」

「……すみません、まだ」

やはりまだつかめないか。

京都での石化解除、学校での魔力暴走停止……。

どちらも魔法が無ければ手に負えない代物だ。

だが一十はその両方を魔力なしで成し遂げている。

もしやと思い一十に魔力の感覚をつかむ練習をするように言っておいたのだが……。

そんなに簡単なものじゃないか。

「エヴァさん。何か心配事でも?」

「心配事というよりも、気になってな」

「ほぇ?」

「かなり強力な使い手がいるようだ。クロラージュが無事ならいいが…」

「助けに、行かないんですか?」

……助けに行く、か。

確かにそうするべきだろう。

しかし、この感じまだ実力を隠しているのか?

底が見えない……。

今の私で倒せるか?

「……!! お姉ちゃん!!」

「どうした一十?」

「離お姉ちゃんが……危ない」

一十の勘は確実にあたる。

大方、人里とクロラージュは一緒なのだろう。

まあ、コイツのことだ“助けに行きます”と言って駆け出すに決まっている。

相手が悪い、やめておけと言うしかないか。

「エヴァさん、お姉ちゃんを……クロラージュさんと離お姉ちゃんをお願いします」

「お前が助けに行かないのか?」

「僕には……助けられる…力が無いので、お邪魔になってしまいますから…」

……正直驚いたな。

うん?

手が震えているな……。

悔しさからくるものか、悲しさから来るものか……。

今までならすぐに飛び出していくところをこらえたか。

クックック……

「成長したな、一十」

「ふぇ?」

「安心しろ、助けには行く。だが、お前もついて来い」

「でも……僕が行ってお役に立てるのでしょうか?」

「執事が主から離れて役に立つことのほうが少ない。役に立たずともついて来い!」

「は、はい!」

もしかすると、今回の戦闘で一十の本質を見極めることができるかもしれないからな。

待っていろ、クロラージュ。



Side クロラージュ

「咸卦法…だと」

「そうだ、さあ消し飛ぶ準備はできたか?」

冗談じゃない、あんなの食らったらケガじゃすまないぞ…。

まず距離をとらないと…

「一発目はサービスだ。避けやすいように撃ってやる」

ブォンと凄まじい音と共に、巨大な気と魔力の塊が向かってきた。

「あたってたまるかぁ!!」

転がるように避ける。

ズドンと俺のいたところに巨大なクレーターが出来上がっていた。

お、おいおい……。

真面目にこれは当たったらまずい……。

「これで10%だってのか! 嘘だろ…」

「そうだな、13%は出したかもしれないな。そんなに加減することなんて今までに無かったからな」

チッ……ことごとく馬鹿にしやがって!

「どうするつもりだい? 私と君の力を合わせても、勝ち目が薄い気がしてきた」

「だからってこのまま消されてたまるか!」

俺は立ち上がり、すぐさま呪文を唱える。

「食らえ! 白の炎!!」

「無詠唱か、こうか?」

俺の白の炎とよく似た魔法が緑髪の転生者から放たれた。

二つの魔法は中間地点でぶつかり合い、相殺した。

いや……相殺された、だな。

「初めてやってみたが、簡単だな」

「クッ……」

「まだだよ、キラリりゅうせいぐん!」

双方の炎が消え去る前に、俺の後ろからキラキラと凄まじい音を立てながら輝く星が転生者に向かっていった。

「何?」

魔法の射手をかなり強力にしたような感じの威力だな。

魔法を使った後の硬直のため転生者に次々と直撃していった。

これはかなりのダメージになっただろう。

「痛いな。まあわざわざ食らってみたがこんなものですんだか」

「なっ……無傷」

「何を言っているんだ? かすり傷を負ったぞ」

「クッ……そんな、程度なのか」

「まさか今ので倒れるとでも思っていたのか?」

ブンと転生者の手が動いた。

その瞬間、人里がまるで車にはねられたように吹き飛んだ。

「くはっ……」

「人里!」

「安心してくれ。こう見えても女性には優しいつもりだ。軽く触れただけだよ、クックック」

この…外道が!

「さて、君は呆然と見ているだけかい? そろそろ飽きた、消えてくれてかまわないよ」

「誰が!」

確か感情が高まると魔力って大きくなるんだったよな。

これだけ腹が立ったんだ、今ならできるだろ。

「消し炭にしてやる! 火の爆風!!」

振り下ろされた黒い杖から爆炎が渦を巻き放たれた。

できた!

無詠唱の火の爆風!

たぶん今しか出来ないだろうが、出来たことに変わりは無い。

「何!」

「もらったぁ!!」

放たれた爆炎は転生者を飲み込み燃やし尽くす…

「燃やし尽くすと思ったかい?」

「……うそ、だろ」

転生者は爆炎の中でニヤリと笑っていた。


爆炎が消え去った……。

終わりだ、完全に終わりだ。

「そうだ、その表情だ。しいて言えば君意外にその表情をしてくれないのが残念だ」

「……くそっ」

手詰まりだ。

今俺が唱えられる最強の魔法が火の爆風だ。

それを正面から受けて、無傷なんてな。

「無傷だと思わないでほしい。火傷くらいはしているぞ、ほら」

無傷ではなかった。

右手の手のひらを軽く焼いた……だけだ。

後、何発撃てばこいつは倒れるんだ?

俺が絶望し杖をおろそうとした瞬間、体に電流が走った。

事件を解決する鍵を閃いたとか、伝説の雀士の弱点を見つけたとかそういうのではなくて……。

実際に、物理的に電流が流れた。

「あきらめるつもりかいクロラージュ君? 私はまだやるつもりだが…」

「人里…」

「勝ち目が無い戦いは少し前に経験しているからね。私はこの程度ならまだ戦えるよ。君はこの程度であきらめるのかい?」

この程度……ね。

フッ、この程度か。

「そうだな、俺が馬鹿だったよ。この程度であきらめるなんてどうかしていた」

「そう、それでこそクロラージュ君だ」

俺は杖を握りなおし、転生者と向かい合う。

今までの絶望の表情が消えたためか、それともこの程度呼ばわりに腹が立ったのかは分からないが、転生者の表情は目に見えて激高していた。

「キサマら……そこまで消えたいか!!!」

青筋を浮かせて叫んだその姿には、今まであったイケメンの姿はどこにも残っていなかった。

「この程度で感情をあらわにするなんて、まあ所詮この程度の存在というわけだ」

「まったくだ。最初は美形だったから気後れしたが、こうなってみればただの野獣だな」

いつの間にか挑発できるくらい余裕が生まれてる。

人里には感謝しないとな。

さてと…

「勝てるか?」

「無理でしょう?」

「「………」」

救世主でも待つとしようか。

かなり本気で…。


「間に合った! クロラージュさん、離お姉ちゃん、大丈夫ですか!」

「クックック、来てやったぞクロラージュ」

救世主、ではないが……エヴァを連れてきたのはナイスだ一十百。

これで勝率が少し上がったぞ!



Side エヴァ

状況を見ればわかる。

圧倒的に不利な状況だ。

相手が悪い、としか言いようがない。

魔力と気が体を包むように立ち上り、桁違いの威圧感を出している。

横でぼーや達と戦っている伯爵級悪魔が可愛く見える程だ。


移動中に一十から今日の出来事を聞いた。

まったく、悪魔を家に招待し、なおかつお茶を出したと言ったときには転びそうになったが……。

まさかその悪魔がここにいるとはな。

「まさか力のない不確定要素が来るとは思わなかった」

「ふぇぇ……。グスン、力のないってはっきり言われた…」

「あたりまえだ、一十。魔力も気も無いお前を誰が強いと思うんだ?」

「エヴァさんまで……。いいです、それでも大丈夫なようにもって来ましたから」

そう言って一十はポケットの中から木箱を出した。

おい……そのしめ縄の木箱は…

「力のない僕でもいいなら、ちょっとだけ力を貸して妖刀ひな!」

木箱が内側から砕け、小太刀程度の黒い刀が現れた。



Side 一十百

妖刀ひな……月詠さんが預かってといって渡してくれた刀。

もしかしたら、役に立ってくれるかと思ってもって来ました。

頼むような形で語りかけたら……しっかりと答えてくれました。

エヴァさんには聞こえないみたいなんですけど……まあいいです。

答えてくれた言葉は一言。


≪持たざるものの強さに敬意を≫


……ちょっと、うれしいかも。

「おい、一十。お前がその妖刀の力を使えたとしても、それほどの戦力にはならないだろう。下がっていろ」

「エヴァさん。クロラージュさんから聞いたんですけど、どんな人にも必殺技とか裏技とかそういうのがあるんです」

「……お前にもあるのか?」

「あるといいなぁ…って」

「言いたいことはわかった。さがれ」

「ハイ…」

グスン。

妖刀ひなに悪いことしちゃったなぁ。

せっかく抜刀してあげたのに……。

あれ?

気のせいか、刀の長さが……長くなってる?

前はもっと短かったような……。

「エヴァさん」

「今度は何だ!」

「ひぅ、気のせいか妖刀の刃が長くなってませんか?」

「そんなわけ……ある」



Side エヴァ

一十の持っていた妖刀ひなはすでに長刀程にまで伸びていた。

確かゼロが削り切ったと言っていたから、これが本来の姿といったところか。

しかし、なぜ元に戻ったんだ?

「エヴァさん。あの……ちょっといいでしょうか?」

目の前に悪魔と悪魔以上の化け物がいるというのに、悠長な奴だ。

まあ、相手も攻撃してこないとこを見ると待っていてくれるようだな。

「なんだ一十。相手もそれほど待ってはくれないぞ」

「その、エヴァさん…。その修学旅行で誰か氷付けにしませんでしたか?」

「修学旅行……、覚えがありすぎて分からんな」

「えと、人じゃなくって、もっと偉大な……カミサマ…でしょうか?」

ああ、そういえばいたな。

永遠の力の吹雪の実験台になったやつだ。

確か名前は……

「リョウメンスクナノカミとかいうやつか?」

「そのヒトです!」

あれが人なのか?

まあ、一十からすれば人なのだろうが……。

どうもコイツの価値観はずれているな。

「それがどうしたんだ……?」

「ええと、われまなをよぶなんじのなはりょうめんすくなのかみやどりたるはからのうつわもたざるもののつよさにけいいを」

一十が片言で何かを唱えた。

いったい何を言っているんだ?

「あれ?」

「いいから下がれ。巻き込まれるぞ」

「グスン……はい」

トボトボと一十が広場の入り口のほうに戻った。

あのあたりなら被害にあわないだろう。


さてと…。

あの伯爵級悪魔はぼーや達に任せるとして、この化け物じみたやつを倒さないといけないな。

「クロラージュ、人里、まだ動けるか?」

「まあ、今のところ無傷だ」

「軽いのを一つもらったが、たいしたことは無いよ」

なるほど。

到着するのが早かったのが幸いしたな。

本来なら良くて再起不能、悪ければ死という状況だっただろう。

戦力はある、だが……戦力差が大きすぎるな。

かなり面倒なことになりそうだ。

「どうして、お前が出てくるんだ闇の福音」

この緑髪は私のことを知っているのか。

フッ、まあいい。

「私の名を知っていて退くつもりは無いか」

「力の無い状態のお前に何ができる?」


……確かにそうだ。

ここまでは来たものの、魔法はほとんど使うことはできない。

ドールマスターの繰り糸程度では動きを封じることさえ難しいだろう。

せめて、私の封印が限定的にでも解くことが出来れば……。

もう一度、京都のときのようなことが…


「我 真名を呼ぶ 汝の名は リョウメンスクナノカミ 宿りたるは 空の器 持たざるものの強さに敬意を!」


いままで片言で聞き取れなかった言葉が響いた。

私が振り返ると……

そこには青白い光を揺らめかせた一十がこちらを見ていた。

いや、見ている……わけではないな。

目から光が消え、呆然としている感じだ。

意識がないようにも見えるが……。

「それ以上は面倒だ。消えてもらおうか」

ゴウッと私の右横を巨大な気の塊…いや魔力と気の混合弾とでも言うようなものが桁違いの速度で通り過ぎていった。

威力は尋常ではない、石の床を抉りながら突き進んでいる。

狙いは一十。

避けろ、という暇も無く直撃……

「…てぁ」

気の抜けた声と共に一十が軽く右足を蹴り上げた。

ゴウッと振り返った私の左横を魔力と気の混合弾が桁違いの速度で通り過ぎていった。

「なぁ…ぐがぁあ!」

鈍い音と共に緑髪の男が吹き飛んでいった。

今のは…

「一十があの一撃を蹴り返した…?」

「…そう見えたけど、一十百には魔力も気も無いはずだろ。避けれはしても蹴り返すのは無理なんじゃ…」

「一十君には無理だけど、今の一十君には出来たんだよ」

人里にはわかるのか?

「何が起こっているのかわかるのか?」

「中身が違う、といったところかな。詳しくは本人に聞かないと分からないな」

ゆっくりと歩いてくる一十を見ながら人里が言った。

今の一十は感情が宿されてないような……、そんな感じだ。

「………?」

「キサマは何者だ。なぜ一十の体を乗っ取った」

「よばれた」

「呼ばれた? 誰にだ?」

「結び付けているものたちに」

結び付けているもの?

何のことだ?

「学園精霊のことじゃないか?」

「なるほど。それでキサマは何者だ?」

「ひととともも?」

「「「疑問系にするな! そして名前が違う!!」」」

不覚にもクロラージュと人里とかぶった。

「私が聞いているのは、外見ではなく中身のキサマのことだ!」

「わたしは、リョウメンスクナイノカミ」

「……名前間違ってるぞ」

「…わたしは、リョウメンスクウナノカミ」

「……救わないぞ」

「……わたしは、リョウメンナントカノカミだ」

とうとうわからなくなったな……。

はぁ……。

こんな間の抜けた神がいるのか。

京都での姿を見ていなければこいつが神であることすら疑いそうだ。

しかし…

「リョウメンスクナノカミ、なぜ一十の体を借りた?」

「ちょうどよかった」

丁度良かった?

体格…のことではないな。

あの巨体がこの中に入るとは思えん。

「丁度良かったとはどういう意味だ?」

「魔も気もない」

「???」

「神のちからの神力は魔力と気力とは相反する。だからこの空の器はちょうどよかった」

なるほどな、魔力も気も持たない一十だからこそか。

「スクナか…。それで何で助けてくれるんだ?」

クロラージュも不思議でしょうがないといったところか。

私も不思議に思っている。


「りゆうは……わすれた」


……転んではいない、転んではいないぞ!

体勢を崩しそうになったが、それでだけですんだ。

目の前のクロラージュのように思いっきりすべってはいない。

そう、闇の福音である私がこんなところですべるものか!

「とにかく協力する」

「戦力が増えるに越したことは無いが、その身体を壊すなよ」

「この器はこわれない。こわれないようにしている」

どうやら、その青白い光で守っているようだ。

魔力でも気でもない、神力か。

「それに」

「それに?」

「これのちからもつかってる」

一十……いやスクナが振り上げたのは妖刀ひな。

ただ、黒いはずだった妖刀は青白い光に包まれ、刀身そのものの色が青色に輝いていた。

「なるほどな。さて、これで四人か。どうにかなるかもしれないぞ」

「火の爆風でもほとんどダメージを与えられなかった、何か策があるのか?」

「かべがある。あれを砕けばいい」

ほう、スクナには見えるのか。

私には見えないが…

「そうだ。エヴァンゲリン…」

「エヴァンジェリンだ! いろいろ危なそうなのに引っかかるだろうが!」

「エヴァンジャルン、そのいましめ少しの間だけゆるくしておく」

「エヴァンジェリンだと何度言え……今なんと言った?」

振り返ったとき、スクナは片手を前に出して……

「ほどけろ、たぁ」

そういって、私の額に向けてデコピンをしていた。


力が戻ってくる感じと同時に、とても情けなく思えた気がする。

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