小説『魔法先生ネギま ロマンのために』
作者:TomomonD()

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第四十五話 麻帆良祭の準備


Side クロラージュ

もうすぐ麻帆良祭があるらしい。

この世界の中での一大イベントだ。

ここで仮契約と実力上昇を狙っている。


「そこ! ぼぉ〜としてないで手を動かす!!」

「……だから、なぜに俺がお化け屋敷を作る手伝いをしなくちゃいけないんだよ!」

「使えるものは他人の主でも使うってことわざが…」

「ねえよ!!」

なぜか3−Aのクラスでお化け屋敷作りを手伝うことになっていた。

エヴァとか夕映とかの話では作業が思うように上手くいかず、間に合うかどうかギリギリになりそうだといっていたけど……。

だからって、まったく関係の無い俺を使うなよな…。

「これ本当に終わるの?」

「終わらせるしかないでしょ!!」

まったく……、ネギ君もこんなクラスを担当してるんだから大変だよな。

「クロロさん、わざわざすまないです」

「いや、まあ…弟子の頼みを断るわけにもいかないし、妹からも頼まれて、さらに従者からもお願いされれば断れないって」

「エヴァさんと、転回さんですね。二人ともクロロさんに期待してるんですよ」

そうなのだろうか?

まあ、悪い気はしない。

「はぁ、クロージュも随分お人好しだよな」

「そうか? 俺は俺なりに楽しんでるからさ、別にわざわざってわけじゃないんだよ」

ちうちうも栄養ドリンクを飲みながら頑張っている。

インドア派のちうちうに肉体労働はちょっと辛そうだな。

「そういえば気になったんだが……、一十百に声はかけなかったのか?」

「かけたです。材料がどうとか、霊質発光があったほうがいいとか、うめき声がなんとかとか言って材料を取りに言ったみたいです」

「……それ、恐ろしいものを持ってきそうで怖いんだが」

「確かさよさんと、エヴァさんが一緒に行ったみたいですね」

おう、人外二名を連れて行ったか。

まあ、最悪エヴァが一十百の暴走を止めるだろ。


「お兄さ〜ん、こっち手伝って〜」

「わかった」

バカピンク、もとい佐々木まき絵が天井付近の装飾をやっていたんだが、どうやら背が届かないようだ。

脚立を使えばいいのに……てか、このクラスに脚立が無い!!

「何で、脚立が無いんだ?」

「ネギ君が“倒れると危ないですから”って言って持ってっちゃった」

ネギ君、それはそうだけど……、間違ってるだろ。

「で、何を手伝えばいいんだ?」

「あのあたりに打ち付けたいんだけど、届かなくて」

そういって天井の一角を指差した。

う〜ん、あれは俺でも届かないな……。

机に乗って…でも無理か。

「俺でも届かないな、どうしたものか…」

「お兄さん肩車して! たぶん届きそうだから」

「え゛、スカートでそれはダメだろ」

「上を見なければいいんだよ!」

そ、そうなのか?

何か違う気がするけど…。

まあ、いいか。

たぶん上を見たら、後で夕映に雷落とされるからな…。

「肩車というか俺の肩の上に立つんだろ? 危なくないのか?」

「こう見えてもバランス感覚はいいんだよ。新体操部はだてではないよ」

なるほど。

「よいしょっ」

あれ?

思ったより軽い?

てか、やっぱりこれはまずいとおもう。

「届いたか?」

「届いたよ〜、もう少し…できた! えっ…」

佐々木まき絵の足が一瞬肩から離れた。

これは、バランスを崩したんだ!!

たぶん前向きに落ちる、だから…

「きゃぁー」

「よっと!」

急いで手を前に出す。

そして、キャッチ。

エヴァとの訓練で反射神経が上がってたから、このくらいは造作も無いぜ!

「「「「おぉ〜!!」」」」

なぜか歓声がわいた。

「あ、ありがと〜」

「新体操部のバランス感覚はどうしたよ? まったく、ケガしたら大変だろ?」

そういってゆっくりおろす。

ついでに頭を撫でておこう、よしよし。

「えへへ……」

「まき絵大丈夫?」

「うん、ちょっとビックリした。お兄さんがキャッチしてくれなかったらケガしてたよ」

「へ〜、見た目以上に力あるんだね」

「見た目だけで判断するのはよくないぞ……え〜と、明石裕奈だっけ?」

「そう、ゆーなって呼んでくれて構わないよ」


「ただいま戻りました〜」

おお、一十百が材料……

「「「「「え゛」」」」」

「ど、どうしました?」

一十百は桁違いの量の木材と、石のようなものを担いでいた。

どう見ても材料のほうが多いだろ。

一十百の五倍くらいはありそうだ……。

「よいしょっと」

ズウンと音を立てて材料が置かれた。

「……み、見た目だけで判断できないね」

「いやいやいや、どう見たっておかしいだろ!!」

一十百の後ろから疲れきった表情をしたエヴァといつもどおりのさよが出来てきた。

「お、お疲れエヴァ」

「……二度と、一十と買い物はしないと決めた。あれは、夢だったのだろう」

エヴァが遠い目をし始めちゃった。

「エヴァ、正気に戻れ〜、とう」

しょうがないのでエヴァの額に手刀を落とすことにした。

「あう…。ハッ、私は…、いつの間に学校に戻ってきてたんだ…」

「正気に戻ったか? まあいろいろと無事で何より」

「私にはまだ早かった。一十の買い物と同行するのは私には早すぎたんだ」

「お、おう。そうか」

なんだかエヴァが悔しがっているので撫でておこう。

よしよし。

「なぜ撫でる?」

「いや、可愛い妹が悔しがっ…げふぅ」

「誰が妹だ!!」


一十百が戻ってきたおかげでかなり作業がはかどりだした。

「一十百くん、こっちのパーツできた?」

「そこに積んであります」

「こっちの墓石って…」

「少し斜めに立ててください、支えがそこにあります」

「一十君、喉が渇いたよ〜」

「あとで、紅茶をお出ししますからもう少し頑張ってください」

「おなか減った〜」

「今さっきパイを焼きましたから、紅茶と一緒にお出ししますよ」

「十百君、このクラスに入ってみない?」

「僕…一応、男なのでそういうわけには…」

「疲れたから休憩していい?」

「皆さんが頑張っているのでもう少し頑張りましょう」

……うん、すごいな。

「エヴァ、一十百の適応能力というか多様能力がすごいと思う」

「仮にも私の執事だ……と言いたいところだが、アレはもう天性の才能だな」

なんだか一十百が速く動きすぎて何人にも見えるけど、まあいいか。

気にしたら負けだ。

「一十殿は分身ができるのでござろうか? 何人にも見えるでござるよ」

「ブルー、気にしたらダメだ。まず一十百に気が無いから分身は出来ないはずだ」

「けれど、ざっと四人に見えるでござるな…」

どれどれ…、まず看板と墓石作りのところに一人、壁とか窓のところに一人、紅茶とパイの用意をしてるのが一人、カードを手に持ってるのが一人……。

「本当だ、四人いる……、ってなにあのカード?」

「仮契約のものとは違うみたいだが……。おい、一十」

「ほぇ? 何ですかエヴァさん」

カードを持った一十百がきてくれたようだ。

「そのカードは何だ?」

「これですか? 使いきり専用のスペ…」

「ストーップ!! ソレの名前って……」

「禁忌『フォーオ……」

「STOP!!! どこで手に入れたかは聞かないが…、あんまり使わないでくれ」

「ふぇえ? わ、分かりました…」

一十百は首をひねりながら戻っていった。

「オイ、今のはなんだったんだ?」

「エヴァ、尋ねてはいけないこともある。今回のがそうだ」

「そ、そうか……」


何だかんだいって作業が進み始めた。

今は休憩タイムのようだが、段々とお化け屋敷っぽくなってきた。

看板や扉などはほぼ完成してきているようだし、内装も4割がた完成してきている。

麻帆良祭まであと10日くらいのはずだからたぶん間に合うだろ。

「それにしても、この紅茶美味しいな」

「高そうな味だよね〜」

「一十、どれくらいだ?」

「ふぇ? えと、一杯で16円くらいでしょうか?」

「「「「「「「「「「安っ!!!」」」」」」」」」」

「茶葉は現地で採ってきていますから無料に近いんですよ」

現地調達か、しかし……紅茶の茶葉って確か発酵させて作るんじゃなかったっけ?

まあいいや、美味しければ問題ない。

「現地ってどのあたり? 紅茶だからイギリス?」

「いえいえ、さすがにイギリスは遠いですから…」

「そういえばそうだね」

「冥界近くの平原に生えているんですよ。人の恨みを栄養にして真っ赤な茶葉を作ってくれるんです」

「「「「「………え゛」」」」」

うぁぁぁ……、いきなりこの紅茶が絶望の味になった気がする。

聞かなければよかったぁ。

「え、えっ? 今のって、本当?」

「ふぇ? えと、お、お化け屋敷っぽい紅茶の出し方ですよ、えへへ……」

「なぁ〜んだ、ビックリした」

「確かに今のは雰囲気出てたよね」

なるほど、一十百なりの雰囲気作りか。

確かに一瞬信じこんでしまった。

「おいクロラージュ」

「何だエヴァ?」

エヴァがそっと何かを伝えたいようだな。

「たぶんだが、今のは本当のことだ…と思うぞ」

「……え゛」

「一十にしてみれば普通のことなんだろうが、他の人の反応を見てとっさに切り替えたのだろう」

本当のことなのかよ……。

「昔に比べれば一十も周りの雰囲気を読めるようになった、少し安心だ」

「確かに…」

そういってエヴァは紅茶を飲んだ。

「砂糖もミルクも入れていないのにほんのりと甘いな」

「そうだな、この甘さがなんとも」

「他人の不幸は蜜の味…といったところか、クックック」

「おいおい……」



Side ?

ナギと呼ばれた方と巨大な剣をなげた方が少し遠くで戦っています。

私はというと、夕飯のためにうどんを作っているところです。

うどん粉はなくとも、それに似たものはあるようなのでそれを調達してきてもらいました。

「見事な手付きですね…」

「いえ、それほどでも。かすかに、昔作った記憶があるだけですから」

「これを先ほどの鍋に入れるのじゃな」

「はい、鍋の醍醐味ともいえるものですから、とてもおいしいですよ」


……どうやら、こちらに何か向かってくるようですね。

「アルビレオさん……でしたか、私の後方三時の方向から何かが飛来するみたいです。撃ち落していただけますか?」

「わかりました。どうやら、あれのようですね」

「少し大きいようじゃな。ワシも手伝うか」

お二人がなにやら呪文のようなものを唱え飛来してくる岩を受け止めてくれました。

「………」

「どうかしましたか?」

「いえ、向こうにいる二人に少し話をしてきます」

「あの戦火の中に向かうつもりですか? 危険です!」

「詠春さん、うどんをお願いします」

この方はうどんのことも知っていましたから、任せても大丈夫でしょう。

私はあの二人のところに向かうことにしましょう。


「ヘッ、どこ狙ってやがる!」

「その言葉そのまま返すぜ!!」

やっと到着できました。

思った以上に離れて戦っていたようですが、それでもこちらに被害が出ていることを考えると、この二人が人間離れしているのがよくわかります。

「お二人とも、少し話が…」

「オラァ!!」

「ウリャァ!!」

爆音と彼らの声でどうやら私の声が届いていないようですね。

もう少し、近くに行かないとダメのようですね。

そう思い私は二人の中央に立ちました。

「お二人とも、話があります」

「「のうぁあぁ!!」」

どうやら二人とも私がいたことを本当に気が付いていなかったようです。

私のいる地点で二人の拳がぶつかる予定だったようですね。

私が飛び出したために二人の考えが少し外れてしまったようです。

ナギと呼ばれた方は拳を私に当たる直前で真上にずらし、刀を投げた方は真下に拳を打ち付ける形となっていました。

「いきなり出てくるんじゃねえよ!」

「当たったらどうするつもりだ!」

「お二人とも話があります、よろしいですか」

「「オ、オウ」」

なぜだか、姿勢を正したみたいですけれど……。

「あなた方は自分の力量をわきまえて戦ってください。先ほどもこちらに向けて岩が飛んできました」

「そりゃ、まあアレだ。流れ弾ってやつだ」

「それに無事ならいいじゃねえか。こっちは一応仕事…」

「お二人とも、よろしいですね」

「「オ、オウ……」」

わかっていただけたようなので私はうどん作りに戻ります。

「夕食が出来たら呼びに来ます。それまでは、こちらに被害がないようお願いします」


「ご無事でしたか!」

「はい。これで夕食作りに集中できます」

「フフッ、彼らに何を言ってきたのですか? あれほど凄まじかった戦闘音がとても静かになっていますよ」

「こちらに被害がないようにと念を押してきただけです」


夕日が沈み始めました。

うどんもかなりの量を作ることが出来ましたね。

「これだけあれば足りるでしょう。そろそろ二人を呼んできます」

「素直に来てくれるといいのですが…、ナギもあれで捻くれてますから」

「夕食ですから来てくれるでしょう」

そういって二人のところへ向かいます。


二人ともまだ戦っているみたいですね。

あれから5時間はたっているでしょうに……

「お二人とも、夕食の用意が出来ました」

「後で食べる!! オラァ!!」

「どこ狙ってやが……」

「どうした?」

「後ろ…」

「後ろって……」


「夕食です」


「「ハイ」」


「まさか本当に戻ってくるとは思っていませんでしたよ、ナギ」

「なんだか、逆らえない雰囲気だった、なぁ」

「おう。あれはドラゴンなんかよりよっぽど恐ろしいぞ」

「なぜか意気投合していますね」

「あの者の力じゃな」

何か私について話しているみたいですけれど、気にしなくてもいいでしょう。

鍋はよく煮えていますね。

これならおいしいうどん鍋が食べられそうです。

「そういえば、お前なんて名前なんだ?」

「私…ですか。私の名前は……、名前は…」

「どうした?」

「…名前も忘れてしまったみたいです。この程度の記憶すら…ないのですね、今の私は」

名前すら、思い出せないのですね。

それほど深刻な状態だったようです。

……名前が思い出せないだけで、これほど心に重石がかかるとは思っていませんでした。

「な、なんか聞いちゃいけないことを聞いちまったみたいだな。その、すまん」

「ナギさん、別にあなたが謝る必要はありませんよ。ただ、名前以上に……忘れてはいけない“何か”を忘れてしまった、そんな気がしてならないのです」

「で、でもよ、呼ぶとき困るだろ。だから今だけでも名乗っておけばいいじゃねえか」

「そうですね…、僅かばかりの記憶の中から思いつく名前を名乗ることにします」


私は…何者なのでしょうか?

深く思い出そうとしても靄がかかったように思い出せません。

ただ、私の中にある一つの言葉……。

これが、私なら…今の私は……。

「……センマ…いえ、セマと名乗ることにします」

「セマ? 聖魔か、ずいぶんと強そうな名前にしたな」

「そうでしょうか? 私の数少ない記憶の中で……いえ、セマと名乗るのが今の私が出来るただ一つのことですから」


「そういえば、あなた方の名前をまだ伺っていなかったですね」

この方々と行動を共にするかはわかりませんが、名前くらい知っておかなければ失礼ですから。

「そうだったな。俺はナギ、ナギ・スプリングフィールドだ。よろしくなセマ」

「私は近衛詠春。旧世界の流派、神鳴流の使い手です」

「ワシはゼクト。ナギの師をしておる」

「アルビレオ・イマです。気軽にアルと呼んでくれてかまいませんよ」

「俺はジャック・ラカン。帝国のほうじゃちょっとした有名…」

「お前の自己紹介なんか聞いてねえだろ!」

「何だとこの鳥頭」

またこの二人が面倒ごとを起こしそうですね。

それなのになんだか……暖かく、楽しいような。

昔にもこのようなことがあったのでしょうね。

「ナギさん、詠春さん、アルビレオさん、ゼクトさん、ラカンさんですね」

今度は忘れません、絶対に。

おや? そろそろうどんが食べごろみたいですね。

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