小説『魔法先生ネギま ロマンのために』
作者:TomomonD()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第四十九話 全力で挑んだ結果


Side クロラージュ

いや、しかしタカミチは強かったなぁ。

相手の、中村達也だっけ? あれも遠当てをつかえてたからなかなかの実力者だっただろうに。

それをあっさりと一撃で倒すとはなぁ。

う〜ん、原作でよくネギ君勝てたな……。

「お、お帰りエヴァ」

エヴァが戻ってきたな。

そういえば、暗示がどうとか言ってたけど……。

「暗示ってなんだったんだ?」

「まあ、気休め程度だ。見てみればわかる」

一十百がそこまで強くなるような暗示なんてあるんだろうか?

相手は一応赤い翼の一員だし……。

「では、二回戦を始めます! 選手の二人、入場してください!!」

大きな歓声が巻き起こる。

その中を一十百とクウネルが並んで歩いてくる。

「さて、右側の一十百選手はこの小柄な体格で百キロ級の巨漢と次々とリングアウトさせた強者だー!! はたしてそれが全力なのか、少女の姿の実力は如何に! 対するクウネル選手、不敵な笑みをローブで隠し実力者の気配を漂わせるー!! これは面白い組み合わせだ―――!!!」

朝倉の実況すごいな……。

てか、一つだけいいか。

一十百は男だからな、それだけは覚えておいてやろうな。

「エヴァ、どうだ? 暗示ってかかってる?」

「わからん」

「わからないのかよ…」

「だから気休め程度といっただろう、それほどの効力を出せるわけないだろうが」

「そうか……。う〜ん、一十百に勝ってほしいな。クウネルが勝ち残ると厄介だからな」

「奴はあれが実態じゃないからな、ほとんどの攻撃は効果がないだろう」

「それって絶対勝てないよな……」

「いや、一十だから勝てる可能性はあるぞ。判定勝ち、がある」

「つまり、十五分間逃げ切るのか?」

「逃げるだけじゃない、多少は攻撃もして逃げ切る。これが一十が唯一勝つ方法だ」

ずいぶん難しいな……。

てか、一十百って攻撃できるのか?

突き飛ばしたりはできるらしいけど……。

「それでは、二回戦……始めっ!!!」

オオォ!! と歓声が沸く。

しかし、その瞬間、ズドンと音がした。

「えっ……」

俺が気が付いたときには、一十百が少し地面から少しふわりと浮き、降りてくるところだった。

クウネルの姿はどこにもなく、残ったのは砂煙だけだった。

「な、何があったんだー! 一瞬にしてクウネル選手の姿が消えました! これが一十百選手の実力か!!」

「エヴァ、今何があった? 俺、見逃した、てか見えなかった」

「私もほとんど見えなかったが……、クウネルならあそこだ」

エヴァが指差したところは、リングの周りに張り巡らされた水の上。

そこにかかった橋にクウネルが叩きつけられていた。

「……一十が突き飛ばした…のだろう」

「え…、そんなに一十百って強いのか?」

「わからんが……、まさか暗示がそこまで効いたのか?」

「おいおい、暗示って何をしたんだ?」

「いや、勝って私と戦うように命令しただけだ」

「それだけ?」

「そうだ」

それで一十百が強くなるとは到底思えないんだけどなぁ…。

「ナンダ、御主人ソンナコトヲ十百ニ言ッタノカ」

いつの間にかチャチャゼロがエヴァの横まで来ていた。

服装がいつもと違ってシルクハットにスーツのようなものを着ている。

「ソレジャ、十百ガアレダケ本気ナノモワカルナ」

「どういう意味だゼロ?」

「ナンダ、ワカッテネエノカ? 十百ノコトヲ知ッテソウデ知ラナインダナ御主人ハ」

「ほぅ、いつからキサマのほうが一十に詳しくなったんだ?」

なんだか、従者のことをより知ってるかで勝負が始まりそうなんだけど……。

「マア、ワカッテネエナラ教エテヤル。十百ハ、主ヲ一番ニ考エルンダ。俺モソウダガ、俺ノ主デアル御主人モ同ジクライ、イヤ……ソレ以上ニ強ク慕ッテル」

「そ、それがなんだというんだ?」

「マダワカラネエノカ? 十百ニトッテ、御主人ノ命令ハ絶対ダ。モシ、御主人ガサッキ言ッタ通リニ命令シタナラ、十百ハソノ命令通リニ動クゼ」

「……どういう意味だ?」

「タトエ、右手ガ吹キ飛ボウトモ、両足ガ砕ケヨウトモ、身体ガ粉々ニナロウトモ、戦イ続ケ、御主人ノ元マデ行クダロウナ」

「そんな…ばかな……」

「エヴァ、顔色が……、大丈夫か?」

なんだかエヴァが深刻そうな表情をしてる。

顔色も真っ青に近い。

「私は……間違った命令を、一十に」

「マア、ソンナ深刻ナ問題デモナイケドナ」

「何を言っているんだ! ゼロ、お前が言った通りなら…」

「ソレハ、十百ニ攻撃ヲ当テラレタラダゼ。当タルノカ? ソレヨリモ、攻撃デキル暇ガデキルノカ?」

「は?」

「マア、見テレバワカル」


話しているうちにクウネルがリングに戻ってきたな。

さすがに無傷か、まあ分身みたいなものだしダメージはないよな。

「クウネル選手、リングに無事戻って…」

朝倉が実況してる途中で、クウネルが地面にたたきつけられた。

それもかなり強い威力で。

一十百は……動いてない?

「あれ? クウネル選手? どうしました?」

「いえいえ、まさかここまでの実力者だったとは…」

ゆっくりクウネルが起き上がろうとした瞬間、ズドンと音がしてまた地面にたたきつけられる。

またも一十百は動いてない。

「えっと、か、カウントを取ります。1,2,3…」

「これは、まずいですね…」

その瞬間、一十百が腰を落とした。

よく見るとクウネルの片手に黒い球体が作られている。

「あれは、アルの重力魔法か!」

「直撃してるのに、倒れるどころか膝もつかないのか!」

確か、原作だと小太郎君が立てないくらいのはずなのに。

「クロバカ、知ラネエノカ? 従者ハ主以外ニ膝ハツカネエンダ」

「それと、これは違うだろ?」

「今ノ十百ニハ同ジダ。ダカラコソ、絶対ナンダヨ主ノ命令ハ」

すごいな、一十百。

とはいえ、一十百が動けないのは変わらないか。

どうするんだろうか。

「形勢逆転ですね」

「………」

クウネルが一十百の動きを止めている間に、距離を取った。

「さすがにここで負けるわけにわけにはいきませんから」

「………せん」

「? なにか?」

「ここで、負けるわけにいきません」

一十百の右目に強い青色の光灯った。

あの光は……たしか。

「エヴァ、一十百の目が、青く光ってる!」

「わかってる。あれは確かリョウメンスクナノカミに体を貸したときの名残の光だな」

「アノ光、学校デノ魔力暴走ヲ止メタ時ニモデテイタナ」

「なにっ! そんなこと話していなかっただろ! なぜ私に言わなかった!」

「イヤ、ソコマデ詳シク覚エテネエヨ。今、思イ出シタンダゼ」

はぁ〜、とエヴァが溜息を吐く。

「ということは、あの光はリョウメンスクナノカミと全く関係ないのか?」

「そうかもしれないな。もしや…」

エヴァが一十百のほうを見る。

一十百がゆっくりと姿勢を正す。

気が付けば、クウネルの重力魔法が消えていた。

「なっ…」

「……あなたは、ここで終わりです」

誰が気が付くよりも早く、一十百がクウネルの目の前に来ていた。

俺が気が付いたときにはすでに一十百の拳打がクウネルの体に突き刺さっていた。

音も、衝撃もなく、一十百の拳打が突き刺さっていたためまったく気が付かなった。

ゆっくりと、クウネルが崩れ落ちる。

「あれ、クウネルって分身だからダメージが入らないんじゃなかったっけ?」

「……魔力で編みこまれ、世界樹の発光の魔力を受けて存在する分身だ。それ相応の気か魔力で吹き飛ばさない限り、ダメージを与えることはできないものだ」

「じゃ、なんで崩れ落ちたんだ?」

「忘れたのか? あの青い光を宿した時の一十にはすべての魔法の魔方陣が見えるんだぞ」

「! そうだった! じゃ、まさか今の一撃って…」

俺が気が付いてクウネルと見たとき、クウネルの体が塵になって消えていくところだった。

「………はっ。え〜と、これは…リングアウトでしょうか? とにかく、リングアウトということでカウントを取ります!」

結局10カウントしてもクウネルは戻ってこなかった。

「クウネル選手、リングアウト! よって、勝者は一十百選手です!!」

声援を受けながら一十百が戻っていった。

「一十が言うには、どんな魔法でも魔方陣は使ってるらしい。つまりその魔方陣を壊すか、機能させなくすれば魔法を止められるらしい。今の一撃でアルの分身を形作る魔方陣のを破壊したのだろう」

「すごいな……」

「マア、今回ダケダロウケドナ」

「今回だけ?」

「同ジヨウナ命令ヲスレバイイダケダケドナ。ケド、御主人ハタブンソウイウ命令ヲモウシナイダロウカラナ」

そういってチャチャゼロはエヴァを見た。

「安心しろ。今になって、十分すぎるほど主としての責任の重さがわかった。同じ過ちは繰り返さない。さて、次は私か……」

「エヴァ、頑張れよ」

「フン、負けるわけにはいかないからな。私がここで負けたら従者との約束を破ることになる」

エヴァはどことなく満足そうな表情で去って行った。

「なあチャチャゼロ。お前が命令すれば一十百は今回みたいに従うのか?」

「タブンナ」

なんだよ、だったら今回だけとは限らないじゃないか。

ゼロだったら適当に命令しそうだし。

エヴァがしなくても……。

「オイ、俺ガ十百ニ命令スルト思ッテナカッタカ?」

「するだろ? お前なら」

「………」

その瞬間、チャチャゼロのナイフが俺の首元に突き付けられた。

「ちょ、待った、待った!」

「……適当ニ判断スルンジャネエ」

なんだか、めっちゃチャチャゼロが怖い。

これは、地雷を踏んだっぽい……。

「いや、悪かったって。だからナイフを引っ込めてくれないか?」

「……マアイイ。俺ハ十百ヲ見テクルゼ」

そういってチャチャゼロは選手控え室の方に行った。

う〜ん、あの目……結構マジだったな。

チャチャゼロって本当は一十百のことを一番よくわかってるんじゃないのか?



Side エヴァ

まさかゼロに諭されるとは思わなかったな。

一十と行動している間に、随分と成長したのだな。

「あ、エヴァさん…」

「一十、その……よくやった。命令をしてしまった以上、私も相応の覚悟で挑む。確実に上って来い」

「はい」

一十と廊下で出会ったが、どことなく夢現の状態だったな。

あまり無茶をしなければいいのだが。

一十の次の相手は……ほう。

「タカミチ、貴様が次の相手か」

「? 僕じゃないだろう? 確かネギ君…」

「私のことではない。一十のことだ」

「ああ。そうだね」

タカミチの表情に少し焦りが浮かんでるな。

まあ、あの状態のアルをあっさりと倒したのだからな。

……とはいえ、一十は一十だ。

「おい、タカミチ。わかっていると思うが、手加減くらいはしろ。一十があれほど強くなっても、所詮は気も魔力も持たぬ人間だ。下手をすれば、一撃で消し飛ぶ」

「それはわかっているよ。問題は、僕が打ち返す暇があるかどうかだけどね」

「は? なにを言っているんだ? 貴様の無音拳より速い拳打があるのか?」

「…やっぱり見えていなかったか」

「何の話だ?」

「カウントを途中とられていただろう?」

カウント?

ああ、アルが勝手に転んだようなやつか。

「ああ、あれか? アルが分身を操り損ねたんだろ?」

「いや、違う。僕にもほんの少ししか見えなかったけど、あれは十百君が思いっきり叩きつけていたんだ」

「バカな! 動いていなかっただろう、一十は」

「そうにしか見えないくらい速かった。だからこそ、手加減できるか正直不安だ」

……私の目に映らない速さだと。

ク、ククク………。

「どうしたんだい、なんだか随分と楽しそうだが」

「いや、これは面白いと思ってな。タカミチ、骨の一本や二本くらいなら折ってもかまわん。できる限り本気で相手をしてやれ」

「ええっ、いいのかい? 今さっきまで手加減がどうとか言っていたじゃないか」

「手加減すればあっさりと負けるだけだ。初めから力を込めておけ」

もし、これで一十がタカミチを倒すようなら、本格的に別荘で色々仕込んでやるか。

そうすれば、私の前衛はゼロと一十という速度・小回り・そして力の揃ったものになる。

後衛に茶々丸がいるから、私はそのどちらにも対応できればいい。

楽しみが増えてきたな。

「……エヴァ。あまり言いたくないが、黒い笑みはやめた方がいい」

「フン、黙っていろ。私なりの楽しみがまた一つ見つかった。ぼーやとクロラージュの訓練もかなりいい暇つぶしになるが、同じくらい面白そうだ」

「……そろそろ行かなくていいのかい? 選手入場だよ」

「そうか」


「さあ、波乱の二回戦を越え、三回戦が始まろうとしています! どちらの選手も小柄で到底ここまでくることが出来ないと思われましたが、見た目で判断するのは既に遅い!! この武道会では、小柄な選手でも実力が反則級なのは皆様もわかっているかと思われます!! では、選手入場です!!」

ほう、朝倉の奴、随分といってくれるじゃないか。

好きで小柄な体系をしているわけではない!

どこぞのバカが呪いをかけっぱなしにしているのが悪い!

「まず右側の少年。いわずと知れた我らが担任のネギ・スプリングフィールド!! その小柄な姿の中には、知識と実力が備わっています! 予選では、大柄な巨漢を一撃の下に沈めた実力者!! 対する左手の少女は、そのクラスの一員。エヴァンジェリン……え〜と、長いからカット。ある意味師弟の対決になるのか! 微笑ましくも、緊張する一戦です!!」

……朝倉、貴様……後で覚悟しておけ。

まあ、師弟の対決というのはその通りなのだがな。

なんだか観客の目が可愛いものを見るような好奇心に包まれているな……。

だからこの呪いは嫌なんだ!!

「エヴァさん、覚悟はいいですか。いつもの訓練の成果、ここで見せます」

そもそもナギのせいでこうなってるんだ、まったく。

考えたら腹が立ってきた。

まあ、アルが負けたのは見ていて気分がよかったがな。

「それでは三回戦目、始め!!!」

クロラージュもこの後戦うはずだな。

それで、今度からの訓練の方針を考えるか。

ついでに、一十の訓練も考えれば……なかなか有意義な時間がすごせるか。

あとは、ぼーやの訓練をどうするかだが……

「エヴァさん? いきますよ?」

ぼーやもこの頃いい動きをするようになってきたな。

もう少し、魔法と体術が合わさるような技を考えれば伸びそうなんだが……。

何かしら思いつけばいいが……。

私が何から何まで教えてはあまりいい成果は出ないからな。

自力で思いついてこそ……

「いきます!」

「うるさいぞ、ぼーや」

一撃入れれば黙るだろう。

こっちは少し考え事をだな……。

ふん!

ごすっ……

「え゛……」

どさっとぼーやが崩れ落ちる。

まったく、なんだというんだ。

「え〜、容赦のない一撃でネギ選手ダウンです。カウントを取ります」

カウント?

あ、そうだった。

今はぼーやとの一回戦目だったな。

気合を入れなおさないと……うん?

「……9,10! 勝者はエヴァちゃん!! てか、ネギ先生大丈夫?」

「なにっ? 私はまだ何も……あ」

よく見たら、ぼーやが私の足元にぼーやが倒れている。

そういえば、思いっきり打ち込んだような……。

………あ。

「ぼーや、しっかりしろ! まだ傷は浅い! 私が面倒だから手加減せずに打ったが、たぶん大丈夫のはずだ!」

なんだかぼーやの口から白い煙みたいのが出ているが……。

「それ、ネギ君の魂だよ! 救護隊、出動!!」



「あ〜あ、やっちゃったよ」

「容赦ノネエ御主人ダゼ」

-51-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法先生ネギま!(37) (講談社コミックス)
新品 \440
中古 \1
(参考価格:\440)