小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode17:ランチ・パニック





【清香side】


脱!! モブキャラ宣言!!

私の名前は相川清香。出席番号一番、ハンドボール部所属、趣味はスポーツ観戦とジョギング、絶賛処女の相川清香でーーーっす!

午前のIS実習で、遂に......遂に......一夏君と名前で呼び合う仲にっ!

まぁ、未だに『さん』付けなのが納得できないでいるんだけど......でもでも、篠ノ之さんやセシリア、後、のほほんさんに次いで、一夏君を名前で呼べるまでにまで仲を進展させられたの。

私的観測で言わせてもらえば、篠ノ之さんやセシリア、それに二組の凰さんには一歩リードされてる感はあるけど、他のクラスメイト達よりは一歩先に進んでる......筈っ!

今はお昼休み......そう、ランチタイムである。

ここで学食に誘って、二人仲良くランチを楽しむ。

そしてそしてっ! 徐々に二人の関係は、唯のクラスメイトから、気になる存在へ。

そのまま彼氏彼女の関係にまで発展させる事が目標なのだっ!

ふふふ......そんな事を考えてると、ついつい顔がニヤついてしまう。

彼氏彼女の関係になったら、織斑先生がお義姉さんになるわけかぁ〜。

世界最強のブリュンヒルデの称号を持つお義姉さんに、世界でただ一人だけの男性IS操縦者である一夏君が彼氏に、なんてなったら......うふふふふふ。

さて、今までは篠ノ之さんやセシリア、凰さんが常に一夏君に張り付いているような状況だったから、即行動に映らなきゃ先を越されちゃう!

思い立ったら即行動っ!

それが私、相川清香のモットーなのだ。

さてさて、一夏君はどこかなぁ〜、とキョロキョロと辺りを見回すが、見当たらない。

あれれ?

ちょっと待って......。

嫌な予感がするんだけど......。


「きよっちー。 誰か探してるの?」


声を掛けてきたのは布仏本音。我が一組のマスコット的存在であり、ダボダボの袖付き制服の下には凶器なおっぱいを隠す、通称のほほんさんだ。


「あっ、のほほんさん」


「で、さっきからキョロキョロしてたけど、誰か探してたの?」


「うん、織む―――、一夏君を、ね......」


此処で恋敵(ライバル)になりそうな子に、私の優位性を主張すべく、名前で目的の人物を口にしてた。

何気にこののほほんさん、ニコニコ笑顔だけど、常に一夏君の事を視線で追ってるのは調査済みっ!

篠ノ之さんやセシリアに凰さんも侮れないけど、何気に目の前ののほほんさんも侮れなかったりする。

その独特な雰囲気で、いつの間にか他人を自分の世界へと引き込んでいるのだ。会話していると、のほほんさんのペースにさせられてる事なんてあるくらいだ。

油断できない存在―――それが布仏本音だ。

私はこの瞬間、篠ノ之さん、セシリア、凰さんも強敵ではあるが、私の最後の敵になるでろう存在は布仏本音である事を本能で理解したっ!

無敵の龍である私、相川清香と最強の虎、布仏本音、相対す―――

我が生涯の恋敵(ライバル)として不足無しっ!

でも、最後に一夏君の傍に立つのは無敵の龍、相川清香なのだ。


「きよっちー?」


はっ! ついつい、トリップしちゃった。今はそんな事よりも一夏君の行方を知る事が重要だ。


「あはは。それで一夏君って、さっきまで教室にいたよね?」


「おりむー? うん、いたけど―――もう出て行っちゃったよ」


「―――え?」


お、お、遅かったぁぁぁーーー!!

ずーん! といった感じでしゃがみこむ私に他のクラスメイト達から追い打ちがかかる。


「あぁ、織斑君ならシャルル君を連れて、ご飯行っちゃったみたいだよ」


「シャルル君と一緒にご飯食べたかったぁー」


「ねぇー。でも今日がダメでも明日があるし」


シャルル・デュノア、本日転校してきたばかりの二人目の男性IS操縦者。

まさか、思わぬ伏兵に一夏君を持って行かれるとは思わなかった......。




【箒side】


ど う し て こ う な っ た !?


お昼休み、学園の屋上には私と一夏だけの筈が、今日転校してきたばかりのシャルル・デュノアにセシリア、鈴までもがいた。

私は今日ひっそりと作っておいた一夏用と自分のお弁当二つを持って、意気揚々と屋上へと足を向けた。

屋上の階段を一段ずつ上がるたび、二人きりの昼食の時間に想いを馳せ、幸せを噛み締めていた。

そして屋上へと続く扉を開いた瞬間―――待っていたのは一夏だけでなく、申し訳なさそうに佇むシャルル・デュノアがいたのだ。


「いやな、シャルルは転校してきたばっかだし、右も左も分からないだろう? んで、転校初日に異性に囲まれて食事するのも気を遣うだろうし......何より千冬姉にも頼まれてるしな」


「う、むぅ、確かにそれはそうだが......」


「は、ははは......何かごめんね」


確かにシャルルは転校してきたばっかりだし、同性である一夏が気を遣うのも当然だ。そこまでは納得......まぁ、しかねるが、無理矢理にでも納得しよう......だがっ!


「どうして、こいつらまでいるっ!?」


「まぁ。こいつらとは随分失礼な物言いではなくて?」


「そうよそうよ」


私が指を指す方向―――そう、何故か呼んでもいないセシリアに鈴までいるのだ!


「いやぁ......なんでだろ......ははは......」


いーちーかぁーーー!


怨みを込めた視線を一夏に向ける。すると、一夏は青い顔をしながら何度も何度も謝ってきた。


「そ、それよりもさ、あんまりノンビリしてたら、お昼休み終わっちゃうよ?」


シャルルがたどたどしくも雰囲気を変えようと進言してくる。

まぁ、確かに。時間は無限ではない。ここで話だけしていては埒が明かない。


「一夏。はい、これ」


鈴が二重になっている弁当箱を一夏に渡す。

しまったっ! 出遅れたっ!


「時間なかったから急いで作ったものだけどさ」


「そっか、鈴。ありがとな」


「べ、べ、別にあたしのを作るついでに作ったものだから。あくまでつ・い・で・なんだから」


鈴は自分の弁当を作るついでに作った事を強調しているが、顔を赤くしながら言われても説得力がない。


「へぇ〜、さすが鈴。酢豚だけじゃないんだな」


受け取った弁当を開いた一夏が鈴の料理の出来を褒める。


「あ、当たり前でしょ! ......約束の事もあったし、その為に料理の特訓を毎日してたしね......」


一夏には最後の鈴の声が聞こえてないみたいで鈴の弁当の出来に感心しているようだ。

鈴の弁当は一段目が区分けされており、酢豚を始め、海老のチリソース、焼売といった感じに敷き詰められており、二段目が白飯だ。いわゆる中華弁当というやつだ。

くっ、確か鈴の実家は定食屋だったな。思わぬ強敵の登場に戦慄を覚える。


「本当に美味しそうだね」


シャルルも鈴の弁当の出来に驚いているようだ。だが、しかし、味はどうなのだ?

いくら見た目が良くても大事なのは味なのだ。


「じゃあ、さっそく」


両手を合わせ「いただきます」と一礼してから、一夏は酢豚を口に運ぶ。

鈴は鈴で一夏の感想が気になるのだろう、じっと一夏を凝視している。

もぐもぐもぐ......


「美味いっ! さすが鈴。これならいつ嫁にいっても大丈夫だな」


「は、はぁ!? と、と、と、当然でしょ!」


鈴は動揺しているらしく、その口調もはっきりとしない。

むぅーーーーーー。

いかん、いかんぞ。この状況は。


「ほら、シャルルも食べてみろよ」


一夏は酢豚を箸でつまんで、そのままシャルルの口へ運ぼうとしていた。


「ふぇ? い、一夏っ!?」


一夏は鈴の料理の美味しさを純粋にシャルルにも教えたかったのだろう。しかし、シャルルは顔を赤くして、しどろもどろになっている。


「ほら」


「あ、あーん」


ぱく。もぐもぐもぐ......。


「う、うん。美味しいね」


「だろ?」


なんだ? この状況は?

相手はシャルル。一夏と同じ男の筈なのに本能がヤバいと告げてくる。

しかもシャルルはシャルルで顔を赤くしているし。


「うぬぬぬぬ」


「むぐぅーーー」


セシリアや鈴も私と同じような事を感じているのだろう、目の前の珍事に何故か嫉妬を覚える。男同士の筈なのに、そう男同士の筈なのに、女の直感が危機感を告げてきているのだっ。


「コホンコホン。一夏様、本妻である、このわたくしも、このようなものを用意してみましたの。よろしければお一つどうぞ」


「本妻って何よ?! セシリアッ!!」


一夏の本妻である事を強調してくるセシリアに食って掛かる鈴。ここで負けるわけにはいかないっ!


「何度も言うが、一夏のお嫁さんは、この私だっ!」


女の戦いに後退の二文字はないのだっ。


「お、落ち着けって......と、取り合えず、次はセシリアのサンドイッチをもらおうかな」


「はいっ! どうぞ」


セシリアのバスケットの中には色とりどりのサンドイッチがきれいに並んでいた。

その内の一つを手に取って、一夏は口に運ぶ。

ぱくっ。もぐもぐもぐ............。


「ゴォッ! グェッ! キ......! グッ......! グェッ! ......」


ひっ! 一夏がセシリアのサンドイッチを口にした瞬間、奇声を上げた。

しかも脂汗をダラダラ流しながら......。

あれはサンドイッチという名の化学兵器なのだろうか......何とか吐き出す事もなくブツを飲み込んだ一夏。しかし脂汗は止まる事無くダラダラ流れていたが。


「如何でしたでしょうか? 一夏様」


こいつにはさっきの一夏の奇声が聞こえなかったのだろうか?


「い......いや、まぁ、独特な味がして、いいと、思うぞ......」


一夏め、正直に言えばいいようなものの。

一夏の感想がよほど嬉しかったのか、セシリアは、ぱあっと顔を綻ばせ、「それではこちらもどうぞ」と新しいサンドイッチを一夏の口へと運ぼうとしていた。

いかん、このまま静観していては一夏がセシリアの毒料理に殺されてしまう。

それだけは阻止せねばっ!


「待つのだ、セシリア。まだ私の弁当を食べてもらってない」


私の言葉に一夏は心の底から安堵しているような表情を向けてくる。

ふふふ、私の助け舟が相当嬉しかったのだろう。うむうむ。

そして一夏に私の手作りの弁当を手渡す。


「箒、ありがとな」


「今度は自信作だ」


「へぇ〜、これは凄いな。どれも手が込んでそうだ」


一夏に渡した弁当には、栄養バランスも考えた献立にしてある。出来た嫁というのは夫の体調管理に気を配る事は当然だからな。

そして一夏は私の今日一番の自信作である唐揚げを頬張る。

もぐもぐもぐ......。


「おぉ、美味い!」


よしっ! 私は平静を装いながらも心の中でガッツポーズをする。

前回のチャーハンで失敗している前例があるから、味見を怠らなかった。それにこの唐揚げは篠ノ之家直伝の味付けだ。

本当は二人きりの昼食を楽しみたかったが、今日はこれで良しとしよう。

一夏に「美味い」って言ってもらえたし、これで私が出来たお嫁さんに見える作戦は一応の成功を見た......そう思いたい。

そんな感じで楽しい昼食の時間は過ぎていった。

まぁ、付け加えて言うと、セシリアのサンドイッチは一夏が頑張って胃の中へと処分していた。

その日は放課後まで脂汗が止まらなかったみたいだが。

全く無理をするからだ、馬鹿者め。




【一夏side】


―――放課後。第三アリーナ。

シャルルは寮の手続きがあるとかで別行動になったのだが、俺と箒に鈴はラウラ戦に向けて、セシリアとの特訓に付き合っていた。

ラウラは代表候補生としてだけではなく、軍人という環境での訓練経験もあり、かなりの強敵でもある。

セシリアへの課題としてはBT兵器使用時に思考制御に意識が集中してしまい、ライフル射撃が行えない事だ。

他にもブルー・ティアーズには操縦者の適正がA以上で、BT兵器稼働率が最高状態にある時に使用可能な能力、BT偏光制御射撃(フレキシブル)という事も出来るみたいなのだが、こちらはまだコツも掴めていないらしく現時点では無理という事だ。

そうなると、BT兵器使用時でもライフル射撃が行えるようにするための思考制御の向上だ。


「元々、ブルー・ティアーズは一対多数の戦闘を視野に入れて開発されたものなんでしょ?」


「えぇ、そうですわ」


鈴の言葉を肯定するセシリア。


「それじゃあ、あたしと一夏を相手に模擬戦ね」


今日の箒は訓練機がなく、見学だ。


「そ、そんなの無茶ですわ」


「でも、ちまちま一対一の模擬戦やったって意味がないでしょ? この模擬戦はBT兵器使用時でもライフル射撃を行うための思考制御ができるようにするための訓練なの」


まぁ、鈴の言う事は理解できる。

一対一ではなく一対二。一人だけに集中してしまうと、もう一人から攻撃を受けてしまう。それを避けるためにはBT兵器もライフル射撃も同時に行う必要がある。

しかし、時間がないとはいえ、荒療治といえば、荒療治なんだが、まぁ現状ではこの訓練方法しかない。


「じゃあ、一夏。前衛はあんたに任せるから」


「了解」


「よし、三人とも準備できたな? では、始め!―――」


訓練機の無い箒の声を合図に模擬戦を開始する。

鈴は間合いを離す。そして甲龍の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、目に見えない衝撃―――〈龍砲〉を連続でセシリアに向けて放つ。

しかし、セシリアもイギリスの代表候補生だけあって、簡単には当たらない。


「へぇ? なかなかやるわね、セシリア」


「当たり前ですわ、わたくしはイギリス代表候補生なん―――」


「よそ見している暇はないぞ」


セシリアの死角から横薙ぎの一閃を放つ。


「―――くぅっ! いつの間に!?」


何とか体勢を変え、俺の斬撃を躱すも、既に距離を詰めていた鈴の斬撃にセシリアは吹き飛ばされる。


「どうしたの? セシリア。まさか、これでお終いじゃないでしょうね?」


セシリアが吹き飛ばされた方角に視線を向けながらも鈴はセシリアを挑発する。


「―――まだまだ、ですわ」


吹き飛ばされた衝撃に立ち込める煙の中からセシリアはその姿を現す。


「わたくしとブルー・ティアーズの本領はこれからですわっ!」


サイド・バインダーに装備している4基の射撃ビットを展開、そして俺と鈴に向け、射撃を行うが、やはり思考制御に気を取られているのだろう、ライフル射撃は来ない。


「セシリアッ! ビットだけじゃ俺達を捉える事は出来ないぞ」


そしてビット射撃を躱し、セシリアに攻撃をする。


............


.........


......


...


さすがに一日目でできるようにはならないよな。BT兵器の思考制御に気を取られるあまり、セシリアはライフル射撃は出来なかった。

しかし、金曜日の対ラウラ戦まで、まだ少しだけ時間はある。残された時間はセシリアの訓練に付き合うつもりだ。

俺を慕ってくれるセシリアが、俺の為にラウラに決闘を申し込んだんだ。

協力しないわけがない。

そして俺達はアリーナ使用時間限界までセシリアの訓練に付き合ったのだった。

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