小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode18:思春期男子の苦悩




【一夏side】


「じゃあ、これから宜しくな、シャルル」


「うん。こちらこそ宜しく、一夏」


セシリアとの訓練を終え、シャルルと合流してから夕食を済ませ、自室に戻ってきた。

基本、IS学園の寮は二人一部屋であるのだが、箒が引っ越してからは実質一人暮らしのようなものだった。男子が俺しかいなかったから当然そうなるのは仕方なかったのだが、今回シャルルが転校してきた事で俺と同室になったという事だ。

そして今は自室で食後の休憩という事で俺が入れた日本茶を飲んでいる。

やっぱり日本人なら食後のお茶は日本茶に限る。爺くさかろうがこれだけは譲れないのだ。

目の前のシャルルは日本茶は初めてなのだろう、たどたどしい手つきでお茶をその口に運ぶ。

しかし、両手を添えて、熱いお茶をふーふーしてから、飲むその様はとても男って気がしない。可憐な雰囲気を醸し出してるのだ。

何よりシャルルを初めて見た時、俺のおっぱいスカウターが反応しかけたのだ。

男を相手に......。


............


.........


......


...


違う、違うぞ。俺は女の子が大好きな至ってノーマルな男の子の筈だ。

男を愛でる趣味なんかないんだーーーっ!!


「急にどうしたの、一夏?」


「あっ、いや、なんでもないんだ。......は、ははは」


急に頭を抱えだした俺を不思議に思ったのだろう、首を傾げるシャルル。うん、だから、そういう行為が男らしくないのだ。

一度、シャルルには『男の何たるか』を教え込まねばならないようだ。そうだな、教本には古い漫画だが『魁!クロマティ―高校』......じゃなかった、『魁!男塾』がいいだろう。うん、それでシャルルにはもっと男らしくなってもらおう。間違いが起こってもいけないしな。


「でも、この日本茶って美味しいね。紅茶とはずいぶん違うみたいだし、不思議な感じ」


「へ? あぁ、気に入ってもらえたようで何よりだ。それとシャルルって、まだ日本に慣れてないだろ? 落ち着いたらさ、いろいろ案内するよ」


「本当? 嬉しいなぁ。ありがとう、一夏」


えへへ、と柔らかい笑みを浮かべるシャルルに、一瞬ドキッとしてしまう。


............


.........


......


...


おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ、俺っ! しっかりしろぉぉぉーーーっ!

俺は何だ?

おっぱい戦士、織斑一夏だろぉぉぉーーー、三度の飯よりおっぱいが好きな織斑一夏の筈だっ!


「えっと、一夏、本当に大丈夫?」


俺の様子がおかしかったのを察したのだろう、シャルルが俺を心配してくれる。


「あ、あぁ。何でもない、何でもないんだ。ただ、ちょっと自分が分からなくなってさ」


「???」


うん、意味が分からなかったんだろう。シャルルは首を傾げてしまうが。俺の混乱している原因がシャルルにある事は悟られたくない。平常心だ、平常心。織斑一夏。雑念を振り払うのだっ。


「そういえば一夏はいつも放課後にISの特訓をしてるって聞いたけど、そうなの?」


「あぁ。俺はこの学園に入学してからISに初めて触れたし、他の皆より遅れてるからな。でも、今はセシリアの特訓に付き合ってるっていう方が、合ってるかな」


「そっか、今週の金曜日だもんね。ボーデヴィッヒさんとの決闘」


「決闘の要因になったのも何故か俺だからさ、協力してやりたくて......」


そう、今週の金曜日にセシリアはラウラと決闘をする。俺が原因で決闘するような事になってしまったのだ。だから俺の為に怒ってくれたセシリアの気持ちに俺は俺の出来る事で応えてやりたい。


「その特訓に僕も加わっていいかな? 専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」


「それはありがたいな。お願いできるか?」


「うん。任せて」


シャルルはいい奴だなぁ。しかも専用機持ちという事だ、これは心強い味方が出来たな。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*




シャルルの専用機は『ラファール・リヴァイヴ・カスタム?』。第2世代型ではあるが、装備によって多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)可能な汎用型で近接戦も遠距離戦も行える万能型だ。

俺の近接オンリーな白式とは全然違う。

思考制御に苦しむセシリアに色々アドバイスしている所を見ると、シャルルは連れてきて正解だったな、と心の底から思う。

ここにいるのはISにはまだ慣れてない俺に、『ずばーっとやってから、ずだだだだ!という感じだ』という意味不明な事を言う箒に、『何となくわかるでしょ? こう来たらこう返すのよ。感覚よ感覚』と野生の勘が物を言う鈴だ。

アドバイスにもなりやしねぇ......。

シャルルのように誰にでも分かるように教える事は俺達には出来ない。

しかし、銃器か。俺も一度でいいから撃ってみたいな。白式の武器って雪片弐型しかないもんな。いくら剣術をやってたからと言っても銃器に興味がない、というわけではない。

以前、千冬姉に教わったのだが、通常、ISには後付装備(イコライザ)というものがあり、拡張領域(バススロット)が空いてれば出来る他の武装の量子変換(インストール)が出来るらしいのだが、俺の白式は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に容量を使ってる為、拡張領域(バススロット)に空きがないらしい。よって、俺の白式の武装は後にも先にも雪片弐型しかないのである。


「一夏もやってみる?」


そう言って俺に渡してきたのは、さっきまでシャルルが使っていた五五口径アサルトライフル(ヴェント)だった。


「え? 他のISの装備って使えるのか?」


「大丈夫だよ。所有者が使用許諾(アンロック)すれば、登録してある人全員が使えるんだよ。―――うん、今、一夏と白式に使用許諾を発行したから、試しに撃ってみて」


「お、おう」


生まれて初めての射撃訓練だ。銃を構える―――うん、何か映画の主人公になったかのような錯覚を覚える。

そりゃ男なら一度は銃を撃ってみたいと思うだろ。いくら剣術ばっかりやってきた俺でもそういう感覚はある。

俺が銃を構えると、シャルルが体を密着させて手取り足取り教えてくれる。


「えっと......脇を締めて。それと左腕はこっち。分かる?」


あっ、甘い匂いがする......。


............


.........


......


...


おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ、俺っ! しっかりしろぉぉぉーーーっ!

もう何度目だよ、これ......。


「一夏?」


「い、いや、何でもない。うん、何でもないんだ」


さて、銃器を扱う際に必要な機能が白式にはなかった。

高速状態での射撃なので、当然ハイパーセンサーとの連携が必要になるのだが、白式には全くもってそのような機能が見当たらなかった。


「うーん、格闘専用の機体でも普通は入ってるんだけど......」


白式はどうも普通じゃないらしい。


「仕方ないから目測でやるしかないね」


初めての射撃なのに難易度が高い。まぁ、仕方ない事だと割り切って、取り合えず撃ってみよう。

そして一発撃ってみる。

パン! と鳴り響く乾いた音に驚いてしまう。いや、初めてだからさ。仕方ないよね。


「どう?」


「いやぁ、初めての経験だからな。取り合えず『速い』っていう感想だ」


弾丸の速度はかなり速いというのは分かりきっている事なのだが、いざ自分で撃ってみるとそれがより実感できる。

俺がシャルルに銃器の扱いを聞いてると、アリーナにいた他の女子達が騒ぎ出した。


「ねぇ、ちょっとアレ......」


「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」


「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど......」


そこにいたのはもう一人の転校生で、今週の金曜日にセシリアと決闘する事になった、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。


「............」


転校してきて以来、クラスの誰ともつるもうとしない、会話さえしない孤高の存在。輝くような銀髪に儚げな雰囲気が美しいとも思えるのだが、いかんせん俺を敵視している。

セシリアに箒、それに鈴もシャルルもラウラを見る。

口を最初に開いたのは意外にもラウラからだった。


「おい、織斑一夏」


ISの開放回線(オープン・チャンネル)を使って声が飛んでくる。


「なんだ?」


「貴様も専用機持ちだそうだな。イギリスの代表候補生の次には貴様とやる。覚悟しておけよ?」


ラウラの言葉に反応したのは誰でもないセシリアだ。


「あら、もう勝ったつもりなのかしら? おめでたい頭をしているのですね、あなたは」


「ふん、古いだけが取り柄の国の代表候補生如きが私に勝てると思ってるのか?」


交錯するセシリアとラウラの視線。


「セシリアは強い。お前こそセシリアを舐め過ぎじゃないか?」


「一夏様......」


「ふん」


ラウラが俺を敵視する理由―――ドイツ、千冬姉、と来たら思い付くのは一つだけ。第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦での事だ。

俺自身、忘れたい記憶でもあるが、一生忘れられないであろう忌々しい記憶。

俺はその日、誘拐された。謎の組織に。どいう目的があったのか未だに不明なのだが、俺は拘束されて真っ暗な場所に閉じ込められた。

この時の俺はまだ前世での記憶も経験もなく、弱かった。抵抗するも空しく、誘拐されてしまったのだ。

そんな俺を救い出したのがISを装備した千冬姉だった。報せを受け、決勝戦会場から文字通り飛んできたらしい。

あの時の千冬姉の姿は今でも忘れない。

強く、凛々しく、美しく、そして俺を見付けた安堵感で表情が和らぐ千冬姉の姿を、俺は今でも忘れない。

ただ、決勝戦は千冬姉の不戦敗となり、大会二連覇を果たせなかった。

誰しもが千冬姉の優勝を確信していただけに、決勝戦棄権という事は大きな騒動を呼んだ。

俺の誘拐事件に関しては一切公表はされなかったが、事件発生時に独自の情報網から俺の監禁場所に関する情報を入手していたドイツ軍関係者は全容を大体把握している。

そして千冬姉は俺を救助する際に手助けしてくれた『借り』があったために、大会終了後に一年ちょっとドイツ軍IS部隊で教官をしていた。

ラウラはその時に千冬姉の教えを受けたのだろう。

ラウラにとって千冬姉は絶対強者の存在であるように見える。だから、そんな千冬姉の強さを穢した俺の存在が認められない―――そんなところか?


「織斑一夏。貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成し得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」


やっぱりな。まぁ、俺自身あれは黒歴史に相当する。ラウラの気持ちも分からなくはない、俺自身あの頃の無力な自分が許せないのだから。


「ラウラ・ボーデヴィッヒ。あなたが認めなくても、このセシリア・オルコットは一夏様の存在を認めていますわ。世界中が一夏様の敵になろうとも、このわたくしは未来永劫、一夏様の味方なのですから」


「セシリアだけじゃなく、この凰鈴音もね」


「私だって、そうだぞ」


「一夏の存在を僕も認めるよ」


セシリア、鈴、箒、シャルルが俺の存在を肯定してくれる。

こんなに嬉しい事はない。誰かに必要とされるこの喜び。だから俺もこいつらには頭が上がらないし、こいつらが窮地に陥った時にはその身を挺して支えるつもりだ。


「本当におめでたい奴らだな。セシリア・オルコット......といったか、先ずはお前から血祭に上げてやる。覚悟しておけよ?」


「ふん、覚悟するのはラウラ・ボーデヴィッヒ、あなたの方ですわ」


その一言を残し、ラウラはこの場を後にする。




【シャルルside】


一夏の存在を否定するドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ。

何であそこまで一夏を敵視するかは知らないけど、この時、僕の心は良心に苛まされていた。一夏に隠し事をしている自分が許せなかった。

一夏は僕を優しく受け入れてくれる。でも、それは本当の自分ではないシャルル・デュノアである自分を、だ。


「今日はもうあがろっか。もうアリーナの閉館時間だし」


凰さんの声に他の皆が賛同する。辺りを見回せば、既に陽が沈んでいる。


「そうだな。じゃあ、シャルル。戻ろっか」


「うん......じゃあ、先に着替えて戻ってて」


本当の自分を隠すためにも、一夏の前で着替えるのは死活問題だ。一夏に隠し事をしている自分に後ろめたさを感じるけど。

しかも同じ部屋だから、当然私的な時間を共有する事になるんだけど、この前も一夏はお風呂上りに上半身裸で下にバスタオル一枚羽織っただけの状態でシャワーから出てくる始末。

まぁ、そりゃ公に自分の素性をバラすわけにもいかないから、同性だと思ってる一夏からしたら何の問題もないんだろうけど、僕も一応お年頃なのだ。

裸に近い一夏の姿に見惚れ―――って、違ぁぁぁーーーうっ!

そりゃ確かに同年代の男の子からしてみても、結構引き締まった体してるし、顔も、その、好みのタイプだし、ついつい涎が―――って、何を考えてるんだ、僕はぁっ!

これじゃまるで変態じゃないかっ!

違う! 僕は決して変態なんかじゃないっ!

うん、普段誰も知らない一夏の裸に近い状態の姿を僕だけが知ってるからって、優越感に浸ったりもしないし、そんな一夏に欲情―――うわぁぁぁぁぁーーーーーー、また変な事考えてるっ!

落ち着け、落ち着くんだ、シャルロット・デュノア。

僕は父から言われた通り、一夏のデータを探らなきゃいけないんだ。

デュノア社の未来の為に、父の為に、―――例え、僕が妾の子だとしても僕を必要としてくれるなら、僕がこの世界に存在してもいいのなら、僕は―――。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*



自室に戻ると、一夏の姿はなかった。


「先に戻ってると思ったんだけど......どこか出掛けたのかな?」


キョロキョロと辺りを見回すが、一夏の姿は見えない。

でも、此処に来てから、一夏と知り合って間もないけど、一夏の事を考えてるのが多いと思う。多分、一目惚れなのかな......と思う。

自分自身でも一目惚れなんて有り得ないと思ってたし、漫画や小説だけの話だと思ってた。

でも、気が付けば、一夏の事が気になり始めてる。素性を偽って接しなければならない自分にとっては、所詮叶わぬ恋。

しかも一夏を好きな子はたくさんいる。ほんの少し一緒にいただけでも分かる位の好意を向けられてる。

篠ノ之さんにオルコットさん、一組の女子だけでも結構慕われてるみたいだし、それに二組の凰さんまでも想いを寄せてるみたいだ。


「はぁ............」


シャワーでもして気分を変えよう。今は一夏もいないし。

このちょっとした気分転換のつもりのシャワーが自分の運命を変える事にこの時の僕は知る由もなかった。




【一夏side】


いやぁ〜、遅くなっちゃったな。

更衣室で山田先生に呼ばれ、白式関連の書類を提出しなければならなかったらしく、さっきまで職員室にいたのだ。

もうシャルルも部屋に戻ってる頃だよな、とか考えながら、自室のドアノブを回し、部屋の中に入る。


「ただいまー。って、あれ?」


その場にいるであろう、シャルルが見当たらなかった。でも、シャワールームの方から響く水音でシャルルがシャワー中だという事に気付いた。

あー、そういえば、昨日でボディーソープが切れてたよな。無いと体を洗えないし、困ってるかもしれないから届けてやるか。

クローゼットから予備のボディーソープを取り出す。

脱衣所に置いて声を掛けておけば問題ないだろう、と考えて、洗面所兼脱衣所に入るためにドアを開け中へ入る。


「おーい、シャル―――」


ガチャ。


シャルルに声を掛けようとした瞬間、シャワールームへと続くドアが開いた。多分、シャルルもボディーソープがない事に気が付いて取りに出ようとしたのだろう。


「あっ、ちょうどよかった。これ、替えの―――」


「い、い、いち......か......?」


シャワールームから出てくるのはシャルルだろう、と思っていたら、シャルルによく似た『女の子』がそこにいました。

何で『女の子』って気が付いたかって?

そりゃ、男にないはずのものがあるし、男にあるはずのものがないんですもの。

ははは、当然じゃないか。


............


.........


......


...


えぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!

おぱ、おぱ、おぱーいがあるーーー!!

おぱーいだ! おぱーいだ!

そうかっ! 今夜はおぱーい祭りなのかっ!

(※現在、絶賛混乱中のため、一夏は正式な言語思考を伴っておりません)

日本人女子の生裸体もまだ見た事もないのに、初めての女性の裸が金髪碧眼のナイスプロポーションな可愛い女の子ときたら......きたら......きたらっ!!

ブブゥーーーーーーー!!

そのまま俺は自らの鼻から噴出した血が弧を描くのを見ながら、意識を手放した......。


「へ? 一夏? 一夏ぁぁぁーーー」

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