小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode23:それぞれの大事な存在





【千冬side】


今回のセシリアとラウラとの戦闘で起きた異常事態。

『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッテング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』のどちらでもない形状変化をしたラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。

解析した結果、その原因となったシステムが見付かった。―――ヴァルキリー・トランス・システム。聞いた事もないシステムだ。

直ぐにシュヴァルツェア・レーゲンを開発したドイツの研究機関を問い詰めたが、向こうはそのようなシステムを組み込んだ覚えがないという。勿論、嘘を付いてるのかもしれないと探りも入れてみたが、どうやら向こうは本当に知らないとの事であった。

ここで考えられるのは、前回の無人機襲撃の件も含め、アイツしか思い浮かばない。

1人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った自他共に認める「天才」科学者。ISを開発したことから政府の監視下に置かれていたが、3年前に突如行方をくらませるものの、アイツの連絡手段は知っている。

連絡を取ろうと思えば、取れるのだが......アイツのペースには基本的についていけない。話すのも億劫なのだが、今はそうも言っていられないか......。

携帯端末からアイツの番号を検索し、通話ボタンを押す。

ぱらりろぱらりらぺろ〜♪ ゴッド・ファーザーのテーマが暫く鳴り響いた後、アイツの声が聞こえてきた。


『も、もすもす? 終日(ひねもす)?』


「............」


ぷつっ。どうやら電話する相手を間違えたようだ。

通話を切った直後、慌てたかのようにアイツから着信が来る。


「ふざけるのも大概にしろ」


『もう! つれないよ、ちーちゃん!』


「その名で呼ぶな」


『おっけぃ、ちーちゃん!』


コイツには日本語が通じないのか、会話が成立しない。やれやれ頭が痛くなってきた......。

私と篠ノ之束、その出会いは小学生の頃から始まる。以来ずっと同じ学校同じクラスだった。もちろん束がそう仕組んでいたのだが。

そして高校生の時に束はISを発表し、以降数年間はIS開発に操縦者として私も協力してきた。誰よりも早い時期からISに慣れ親しんだおかげで他の操縦者に比べ、ISに対する理解力は束に次いで深い。だからこそ、第一回IS世界大会『モンド・グロッソ』で優勝するのも必然であったと言える。


「......はぁ。まぁいい。今日は聞きたいことがある」


『ヴァルキリー・トランス・システムのことかな〜?』


「っ!? お前、何故それを......?」


『ふふふ、ちーちゃん。私を舐めないでほしいな〜。私は全てのISのコアを造った完璧にして十全な篠ノ之束だよ? もちろん、事態は把握してるよ』


どうやら、ISに関わるものに関して、何処かでモニターしてるのかもしれない、束は既に事態を把握していた。


「......お前は今回の件に一枚噛んでるのか?」


『うふふ、あんな不細工なシロモノ、この束さんが作ると思う?―――ちーちゃんも気付いてるんじゃないかな?』


「奴らか?」


奴ら。―――亡国企業(ファントム・タスク)。裏の世界で暗躍する秘密結社であり、組織の目的や存在理由、規模などの詳細が一切不明の謎が多い組織。一夏の誘拐事件に関わっていた事も既に調べがついている。私にとって忌むべき存在である。


『最近、私の近辺を嗅ぎ回ってるみたいなんだよねぇ』


「......奴らの狙いはやはり......」


『うん、いっくんだろうねぇ〜』


奴らが何故、一夏を狙うのか未だに理由は分からないが、一夏を狙うというのなら、この私が全力を持って斬り伏せるっ!


『もちろん、この束さんも奴らにいっくんを渡すつもりはないから』


篠ノ之束が心を開く相手は少ない。妹の箒と私、そして一夏だけだ。束にとっても一夏は大事な存在である。たまに一夏を見る目が獲物を狙う獣の目に見えるから、あの姉妹は私にとって敵でもあるのだがな。ふふふ、私の目が黒い内は一夏は誰にも渡さん。


「まぁいい。何か分かったら直ぐに教えろ」


「了解だよ、ちーちゃん!」




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*




【一夏side】


時間はラウラとの決闘から既に二時間以上は経過していた。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯を巻いたセシリアがおり、その周りには箒、鈴、シャルロットがいた。

ラウラとは別々にという配慮からか、セシリアは保健室にいた。

保健室のドアを開けた俺に突き刺さるのは四人の視線。世間一般的に言うとジト目というやつだ。


「......どこにいってましたの?」


「え? えっと、ラウラの様子を見に......」


セシリアはむすっと頬を膨らませ、そっぽ向く。まぁ、何というか......怪我人である自分を放っておいたのが気に障ったのか?

でも、先程の戦闘でラウラを医務室に運んで、すぐにセシリアのもとに駆け付けた時は凄くうれしそうな顔をしてたのに。ちょっと席を外したら、この状況だ。


「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。妻であるわたくしをほったらかしにして余所の女に手を出すのですね」


「えっと〜......、セシリアさん?」


「これが俗にいう倦怠期というやつですね......」


よよよと泣き真似をするセシリア。いや、そもそもまだ付き合ってもないし......。でも、その言葉を発すれば、余計に事態が混乱するのが分かるので黙っておこう。


「この女誑しめ」


箒さん、誑し込んだ記憶はないよ?


「浮気? ねぇ、浮気?」


俺の裾を掴んで、レイプ目で浮気かどうかを問いただす鈴さん。浮気も何もまだ俺達の関係は幼馴染の筈だが?


「......ふふふ、一夏。今後、浮気しないように調教しなきゃね。一夏は僕の物だって証明しなきゃ......ふふふ」


シャルロットさんの表情には陰が差しており、ぶつぶつ何かを言ってる。うん、聞こえない聞こえない。


ドドドドドドッ......!


何だ? 何の音だ?

地鳴りのように聞こえる音が廊下から響いてきている。しかもだんだんと近付いてきているように思えるのは気のせいだろうか?

バァーーーン! と豪快に保健室のドアが吹き飛ぶ。


「織斑君!」


「デュノア君!」


豪快に保健室のドアを吹き飛ばし、雪崩れ込んできたのは、清香さん他数十名の女子生徒達。しかもその視線は獲物を狩るハンターのように鋭い。

そんなハンター達は俺とシャルロットを逃がさないとばかりに回り込んでくる。


「な、な、なんだなんだ!?」


「ど、どうしたの、みんな......ちょ、ちょっと落ち着いて」


状況が飲み込めない俺達を逃がさないとばかりに距離を詰めてくる。そして困惑してる俺とシャルロットに全員がある一枚の紙を差し出してくる。


「「「「これ!」」」」


差し出された紙を一枚手に取り、見てみる。


「えっと......『今月開催される学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦を行うため、二人一組での参加を必須とする。ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする―――』」


「あぁ、そこまででいいから! とにかくっ! 一夏君は私と組んでっ!」


そう言って、俺に手を差し伸べてきたのは清香さんだ。つい最近、名前で呼び合う事になったんだが。いつも俺を見る視線に殺気めいたものを感じるんだよな、何故か......ははは。


「ずーるーいー。織斑君は私と組むの!」


そんな清香さんの行動に触発されたのか他の女子数名も俺に手を差し伸べてくる。


「じゃあ、デュノア君は私が―――」


「何でよ! デュノア君は私と組むんだよっ」


ふと視線を横に向けるとシャルロットもどう対応していいのか分からず、困惑してる。実際、シャルロットはまだ男装をしてるわけで、女の子だというのは俺しか知らない。

だから事情を知らない女子達はこの機会に、より親密になろうとしてるのか、シャルロットにペアを組むように言い寄っている。


「え、えっと......」


シャルロットは困ったような視線を俺に向けてくる。ふむ、確かに事情を知らない俺以外とペアを組むのはマズイよな。何かの拍子で女の子だという事がバレてしまうかもしれないし。


「みんな、ごめん。俺はシャルロッ......、じゃなくて、シャルルと組むから諦めてくれ!」


やっぱり、シャルロットの事情を考えると、シャルロットとペアを組むのは俺の方がいいだろう。皆にも聞こえるように出来るだけ大きな声で宣言した。


しーーーん......。


一瞬の静寂。


「まぁ、そういう事なら......」


「他の女子と組まれるよりはいいし......」


「......くっ! 密かに二人っきりの練習の後.....アリーナ備え付けのシャワールームで汗を流す一夏君に、偶然を装って突撃する作戦がぁぁぁ......」


おいおい。最後の台詞は誰だ?

取り合えず事態は収拾する事ができたようで、落ち着きを取り戻した女子達は退散していく。最後まで俺に対して視線を送る清香さんの雰囲気は鬼気迫るものがあったが......。


「あ、あの、一夏―――」


「「「一夏(様)っ!」」」


他の女子達が皆いなくなったところでシャルロットが声を掛けようとしたところで、箒にセシリア、鈴が俺に詰め寄ってくる。


「一夏っ! 何故、私と組まないのだ!?」


「あ、あたしと組みなさいよ! 幼馴染でしょうが!」


「妻であるわたくしを差し置いて、どういう事ですか!?」


ちなみにセシリアは怪我人のはずじゃないのか? それにISの損傷もひどそうだし、そもそも学年別トーナメントに出れるとは思えないんだが?


「そもそもセシリアは無理なんじゃ......?」


「大丈夫ですよ」


俺の疑問に答えたのはセシリアではなく、山田先生だった。いつの間に保健室に来たんだ?


「織斑君も言ってたように、セシリアさんのISの状態はひどかったのですが、トーナメントまでには修復も完了するでしょうから参加できますよ。だから―――」


「それなら何も問題はありませんわよね? 一夏様」


山田先生の言葉を遮るかのようにずいっと顔を近付けてくるセシリアの甘い香りに一瞬、トリップしそうになる......。


「ちょっと待ちなさいよ、あんた! 一夏はあたしと組むの!」


「ふん、馬鹿も休み休み言え。一夏と組むのは一番最初の幼馴染でもある、この私だっ!」


むぅーーー! といった感じで三人は視線で互いを威嚇し合う。

こんな混沌とした状況を収めるのは教師である山田先生しかいない!

山田先生、ヘルプッ!


「シクシク......。いいんですよ、いいんですよ、どうせ誰も私の話を聞いてくれないんだ......」


ちょっとぉぉぉぉぉぉーーー!

唯一、この場を収めなきゃいけない教師が床にへたり込んで、のの字を書いてるんですかぁぁぁーーーっ!

確かに山田先生は守ってあげたくなるような存在だけども!

今は俺を守ってェェェェェェーーー!


「セシリアも箒も鈴も落ち着け、な。ここは男同士、シャルルと......」


「「「あ?」」」


ひぃ! な、な、なんなんだ、あの人を視線だけでも殺せるような目付きは!?


「一夏は僕と組むんだよ!」


シャルロットも参戦。いやいや、少しは落ち着け。っていうか落ち着いてください。頼むから。

そこから全員を落ち着かせるのに一時間以上もかかり、結局同性同士なら仕方ないという事でシャルロットとペアを組む事になった。まぁ、他の三人もまさかシャルロットが女の子っていうのは知らないからな。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*




【シャルロットside】


あれから四人で夕食を取った後、一夏と僕は自室に戻って、くつろいでいた。

結局、一夏のペアは僕という事で決まった。揉めに揉めたけど......。一応、同性という事で納得してもらったのだ。実際は女の子なんだけどさ......。

あの三人を騙してるような気がして、心が苦しかった。


「はぁ......」


「どうした? シャルロット」


つい、溜息が口から洩れてしまった。一夏が僕を心配してくれる。


「うん、あのね。篠ノ之さんやオルコットさんに凰さんを騙してるような気がして......さ。でも、一夏が保健室で助けてくれたのは本当に嬉しかった。ありがとう」


あの三人を思うと、心苦しいのも確かだけど、一夏とペアになれたのは本当に嬉しかった。だから笑顔を浮かべ、一夏に感謝の意を告げる。


「おう。まぁ気にするな。事情を知ってるのは今のところ、俺だけだし、サポートするのは当然だろ」


そう、僕が女の子であるという事はまだ一夏しか知らない。でも、僕は心の中で決めている。この学年別トーナメントが終わって落ち着いたら、事情を話すつもりだ。

もしかしたら、もうここにいられなくなるかもしれない。

ここにいられなくなるという事は一夏の傍にいられなくなる。そんな事を考えると、心が張り裂けそうになる。


「ぐす......」


「へ? シャルロット?」


一夏の傍にいられない、と考えて、つい涙ぐんでしまった。そんな僕を見て、一夏がわたわたしてる。


「あ、ごめん。ごめんね。何でもないんだ」


「そうなのか? 何かあるなら何でも言えよ。ほら、前にも言ったろ? お前は俺が守ってやるって」


心臓の鼓動が早くなるのを感じる。照れ笑いを浮かべながらも僕を守ってくれると約束する一夏。

今日の管制室での織斑先生とのやり取りでも僕を”大事な存在”と言ってくれた。あの言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。まぁ、篠ノ之さんやオルコットさんに凰さん”も”って事だったけど。

でも、想い人に大事な存在と言われるのは嬉しい。だから愛おしくなる。

一夏が欲しい。

一夏の全てが欲しい。


「じゃあ......あのね、一夏......。お願いがあるんだけど......」


「おう! 何でも言えよ」


「い、一夏に、その......、だ、だ、抱い......」


うぅぅぅーーー、うまく言葉が紡げない。前は勢いに乗じて迫る事ができたけど......やっぱり恥ずかしい。


「どうした?」


「ううん、何でもない......何でもないよ......ははは......」


僕のバカァァァーーー!

抱いてほしいのに、勇気が出ない。


「何かお願いがあったんじゃないのか? 何かあるなら遠慮なく言っていいぞ?」


「ほ、本当に? 本当に、本当?」


「あ、あぁ......」


でも、いざ言葉にするのは恥ずかしい。そもそも女の子から「抱いてほしい」というのは、はしたない女の子と思われてしまいそうな気もする。

でも、もしかしたら今後、離れ離れになるかもしれない。

一夏に触れる事ができなくなるかもしれない。

なら、せめて一夏のものでもいいから、何か欲しい。

そんな事を考えてた僕はおかしかったのかもしれない。つい言ってしまった。


「あのね、一夏。僕、一夏のシャツが欲しい......」


「へ? 俺のシャツ?」


「............うん」


「何でまた、そんなものを?」


「あの、ね。うっかり寝間着とか全部、洗濯しちゃって......ダメかな?」


「いや、構わないが......替えもいくつかあるしな。一着でいいのか?」


そういって、クローゼットからシャツを取り出す一夏。


「じゃあ、二着で!」


今、着る用と替え用で二着だ。


「分かった。ほら」


クローゼットからシャツを取り出し、僕に手渡してくれた。受け取る際にそのシャツから一夏の匂いがする。


「ありがとう、一夏。えへへ」


「まぁ、そんなものでよければ。じゃあ、そろそろ着替えて寝るか」


僕と一夏はまだ制服を着たままだ。だから寝る為には着替える必要がある。


「じゃあ、俺、外に出てるな」


「え? どうして?」


「いや、だって俺がいたら着替えられないだろ? 仮にも男と女なんだし」


「気にしなくていいよ。一夏に悪いし......その......僕は気にしないから......。それに、男同士なのに着替え中に部屋の外に出たりしたら、変に思われちゃうでしょ?」


「それは確かに......。なら、洗面所で―――」


「だから、そんなに気にしなくてもいいってば。ほら、普通にしてて。一夏も着替えないといけないでしょ? ね」


着替えるのに出て行こうとする一夏を何とか説き伏せるのに成功。女の子って意識してもらうのは嬉しいけど、やっぱり一夏に抱いてほしいとは思う。

ただ、女の僕から言うのは、どうしても恥ずかしいので襲えるような状況を作り、一夏から迫ってもらう。名付けて、ロストバージン大作戦。まぁ、そのまんまな気もするけど、そこは気にしないで。


「じゃあ、俺も着替える事にするよ」


「うん!」


一夏が制服を脱いで半裸になる。その姿をじーっと見てしまう。やっぱり一夏は日々トレーニングをしてるだけあって、引き締まった体をしてる......ついつい、涎が......。


「どうした?」


「へ? な、な、な、何でもないよ」


「俺の勘違いだったら悪いんだが、もしかして、こっちを見てないか?」


ドキッ! 一夏の言葉に僕の心臓は跳ね上がるかのように、心音を大きくしていく。

どきどきどきどき......。


「そ、そんな事はないよ!?」


「そ、そうか」


一夏に変な女と思われないように全力で否定する。

そんなやり取りをしながら、僕も制服を脱いで、今は下着だけしか身に着けてない。高鳴る胸を抑え、一夏のシャツを手に取る。確か、日本では裸の上にシャツを羽織った方がいいんだよね?

取り合えず、僕は寝る時はブラはいつも外してるので、今日もブラを外し、シャツを羽織る。

やっぱり男の子だ。羽織ったシャツのサイズが大きいせいか、ぶかぶかだ。ボタンは真ん中のボタンだけでもいいかな。その方が一夏もドキドキしてくれるかもしれないし。

さて、問題は下の方だ。脱いだ方がいいのだろうか? シャツが大きいせいで、動かなければ隠れるけど......。


「おーい、着替えは終わったか?」


「ひゃい!? う、うん。終わったよ......」


下はさすがに脱げなかった。でも、する事になったら、脱いじゃえばいいんだから問題ないよね。

くるっと後ろを振り向くと、寝間着に着替えた一夏がいた。


「シャル、ロッ、ト......」


今の僕の姿は下着は下だけで、一夏のシャツを羽織り、真ん中のボタンだけを留めてるような状態だ。


「どうしたの? 一夏」


「い、いやっ、何でもない、何でもないぞ」


激しく狼狽する一夏の声に、僕は嬉しさが込み上げてくる。だって、一夏が僕に女を感じてくれてるから。


「本当に?」


ずいっと一夏に迫る。


「見えちゃう! 見えちゃうから!」


見える? ふと、下を見れば、大きく開いた胸元。


「一夏のえっち」


まぁ、一夏が見たいって言えば、見せるつもりだけど......。やっぱり男の方から迫ってほしいと思うのは女の性だ。


「仕方ないだろ! あーもう、ボタンは全て留めなさい!」


そう言って、シャツのボタンを全て留めていく一夏。


「えーーー」


「えーーー、じゃない!」


一夏は襲うどころか、僕のシャツのボタンを全て留めてしまった。

むすっと頬を膨らませる僕を尻目に「ほら寝るぞ」と一夏はさっさとベッドに潜り込んでしまった。

今日の作戦はどうやら失敗らしい。でも、いいんだ。同室だから、まだチャンスはあるはず。そう思いながら僕もベッドに潜り込む。


「おやすみ、一夏......」


一夏の匂いのするシャツに身を包まれ、悶絶しながら、僕は長い長い夜を過ごしたのだった。

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