小説『聖女ドラゴンヴァルキリー』
作者:BALU−R(スクエニVS俺)

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第四話
地に刺す剣
 
「おはようございやーす」
ある日、香矢が鳥羽兎の扉を開けると、そこには小さなバニーメイドがいた。
「およよ、志穂さん何やってるスか?」
志穂は俯いている。
コーチが代わりに答えた。
「今度から店を手伝わせる事にしたんだよ。子供うさぎ店員…これは受けるよー!」
香矢が言った。
「でも、小学生を働かせたりしたらまずいんじゃないスか?」
「家の手伝いだからいいの!」
「まぁまぁ、こんなに顔を赤くして…ませんね。」
志穂の顔を覗き込んだ香矢が言った。
「もしや内心ノリノリ?」
「違う!」
思わず、志穂は叫んだ。
そして仕事も終わりひと段落したところで
「そうそ、また魔女事件っぽいの見つけましたよ?」
と香矢が口を開いた。
「全くどこから拾ってくるだか…」
感心というより呆れ気味でコーチは言った。
「いやいや、どこにでも転がってますって!デマも多いですけどね…でも、そこは我らが香矢さん、裏をちゃぁんととって本物を見極め…」
「で、どんな事件なのですか?」
志穂が話を止める。
「いや、別にいいんですけど…名付けてアリジゴク村事件!その村に行った人間は帰ってこないという…」
コーチは呆れ気味に言った。
「昔からよくある怪談じゃない。」
「いや、店長これはマジモンですよ!実際に行った人間がみんな行方不明になってるんですから!警察はなにしてるんスかねぇ?職務怠慢ですよ、こんなに証拠が揃ってるのに!」
(警察が動かない…それは魔女関連だから?)
犬魔女は言った。
「ワタシはケイサツジョウソウブのメイレイでシュクセイしていたんだからな!」
警察は魔女事件を黙認しているのかもしれない。
志穂は言った。
「私、そこ調べてきます。」
「あれ、マジっスか?それじゃ、あちきも付き合いましょうか?明日は土曜日で学校も休みですし。バイクならすぐっスよ?」
一人で行きたいところだが…
(うん、巻き込みたくはない。)
「気持ちはありがたいのですけど…」
志穂は断った。

「いや〜、晴れてよかったっスねぇ〜。気持ちいい!」
志穂は香矢の背中にくっついてバイクに乗っていた。
何度も断ったが、結局押し切られてしまったのだ。
(コーチも止めてくれればいいのに…)
実のところは志穂の知らないところで止めてくれていたのだが、無駄だった。
「まぁ、晴れて当然ですね。何しろこの香矢さんは、晴れ女スから!志穂さんは晴れ女?雨女?まぁ例え雨女だとしてもこの香矢さんが晴らしてみせます!なんつって。ちょっと格好良くない?」
香矢は返答を待たずに一人で喋り続ける。
(まぁ、無口な自分にとっては間が持って助かるけど。)
とそこで駐車場に入ってバイクは止まった。
「バイクで行けるのはここまでっスね。後は山を登っていく必要があるので。志穂さんは山登りは得意でっスか?」
「あんまり、経験ないから分かんないです。」
「ふっふっふっ、それでは山登りのエキスパートである、この香矢さんについてきなさい!!」
香矢は張り切っていた。

「ふぇ〜、志穂さん待ってくらさ〜い。」
山を登り始めて香矢はすぐにへばった。
「もう、登り始めて30分もたってないですよ!」
「へへへ、実を言うとあちきは今日は女の子の日でして…」
「さっきまで晴れが気持ちいいとか言っていたくせに…」
「むむむ、あちきの話に突っ込みを入れるという事はもしや志穂さんは大人…?って歩くスピード早めないでくらさいよ〜。疲れるって言葉と意味知ってますか?」
これでも志穂はペースを香矢に合わせて、かなり遅めに歩いていた。
(やっぱり一人でくるべきだった…お父さんの行方のヒントがこの先にあるかもしれないのに…)
「およよ、見えてきましたよ蟻塚村が!」
見ると小さな村が見えてきた。
「30年ぐらい前に廃村になってもう人は住んでいないっスけどね…だから正確には蟻塚村ってのは存在しないっスよ。あぁ、誰もいない静かな場所…って。」
人はいた。
ただし、どう見ても都会から出てきた感じの人間ばかりだった。
「…ガヤガヤしていますね。」
「…してるっスね。」
村に入ると軽そうな青年が近づいてきて言った。
「おや、こんな辺鄙な場所にこんな可愛い子ちゃんが来るなんて…遭難したってわけじゃないよな?」
物怖じしない香矢が答える。
「素敵なお兄さん、単刀直入にブスっと聞きますと、皆さんの目的はアリジゴク村の噂っスか?」
青年はやっぱりなという顔をし、言った。
「まぁ、でなきゃこんな廃村に用はないでしょ。果たして噂通りにこの村にいる人間は神隠しにあうのか!そして何故神隠しにあうのか!その謎を解きたくてこんなに集まってきているってわけ。」
つまり、ここにいる人間はみな面識のない人達ばかり。
香矢は言った。
「まぁ、分かってらっしゃると思いますが、あちきらも同じムジナの穴ってわけで。」
青年は値踏みするようにじっと見つめ言った。
「でも、女の子二人じゃ危ないよ?」
「心配ご無用!このスーパー女子高生・香矢さんは合気道の達人。痴漢なんてなんのその!!」
青年はハハハと笑い
「まぁ、危なくなったら声かけてね?紳士な僕が助けてあげる。」
どうやら見た目は軽そうでもいい人のようだ。

志穂と香矢はとりあえず、空き家に入って休むことにした。
「ふい〜足がパンパンっスよ。」
の割には良く喋る。
志穂は問いかけた。
「ねぇ、香矢さん。どう思います?」
「何の話っス?」
「この村にいると行方不明になるって噂。」
「まぁ、自分らは行方不明になるつもりはないっスけど…こんだけ人が多いと1人や2人、消えてもおかしくないシチュ(シチュエーションの略?)かと。んで、残ったうちらが証人と。」
この村には30人ぐらい人が集まっていた。
(飽きて帰ったりするのがいれば、それが残った人には行方不明者か…)
どうやら、魔女とは関係なさそうだ。
「それよりも、せっかく来たんだし大自然を満喫しましょうや!」

お互いに面識のない集まりだったが人見知りしない香矢と先ほどの青年が中心になってキャンプのような1日になった。
志穂は仕切る香矢を眺めて一人ポツンと…はしなかった。
他の女性陣に話しかけられたり、ちょっかいかけられたりしていた。
誰もが本当の目的を忘れかけるぐらい楽しんだ。
その夜。
空き家は割とあったので、そのうちの一つを志穂と香矢は借りる事になった。
志穂は布団に入りながら考えた。
(魔女って何人ぐらいいるのだろう…)
今まで知る限り3人…いや自分を助けてくれた黒猫も入れれば4人の魔女に会ってきた。
(その前に魔女を増やそうとしているのは一体…)
案外、それを突きつめればお父さんの行方も分かるかもしれない。
それを突きつめるにはやっぱり魔女事件を追いかけるしかなさそうだ…
(結局、こうやって事件を追うしかないのね…)
と、隣で寝てた香矢が志穂の布団をツンツンと突いた。
「何ですか?」
「…しっこ。」
露骨にため息が出た。
「…1人で行ってください。」
「そんな冷たい事!あちきと志穂さんの仲じゃないっスか!」
またため息が出た。
「トイレに付き添ってもらえる仲って…」
「知らないっスか、志穂さん!トイレ以外で失禁すると匂いがすごいって!今夜は寝させませんよ!!」
「…分かりました。付き添います。」
「おぉ、恩にきます!いあいあ、さすがにこんな暗い中を1人で歩くのは恐怖もいいとこっスよ!これでおばけにでも会ったらチビるの間違いなし、これで手間が省けた。」
「…早く行きましょう。これ以上、話が汚くなる前に。」
外に出ると明かりのついた家が何軒か見えた。
香矢が言った。
「みんな、遅くまで起きてるんっスね。まぁ、あちきらが早く寝すぎってだけかも。」
「これだけ明るければ、一人でも歩けたんじゃないですか?」
「!何をおっしゃいますか!?トイレは村の外れにしかないんっスよ!この光もそこまでは悲しいかな届かない!あぁ、何でこの村の家にはトイレが備えてないんスか〜。」
「あの〜、大声でトイレトイレ叫ばないでもらえますか?」
家の中からクスクス声が聞こえる。
「今ほど香矢さんとここに来た事を後悔した時はないですよ。」
「あちきは志穂さんがいてくれて良かったですよ。」
トイレについた。
なるほど、村の外れというより村の外という場所だ。
さっきまでの明かりも談笑する声もここまでは届かない。
「う〜怖っ!トイレに入っている間にいなくなるとか、なしっスよ?」
「しません。」
「はぁ、今時ボットン便所っスよ…というか誰が回収にくるんっスかね?やっぱ廃村になってから放置?」
「知りません。」
「それでは発射オ〜ライ。」
「黙ってしてください!」
「いあいあ、見えない志穂さんに状況を説明しないと。」
志穂は耳をふさいだ。
しばらくして香矢が出てきた。
「ひど、返事が返ってこないと思ったらそんな事してたんですか!こっちはいなくなったんじゃないかとドキマギしてたのに!!」
「手を洗ってください。」
「な〜んか、志穂さんのあちきへの対応が店長みたくなってきたっスね…」
コーチの苦労が目に浮かぶ。

村に戻ると、どの家も光が消えていた。
香矢が言った。
「おんやまぁ、消灯の時間っスかね?」
志穂は何か嫌な感じがして言った。
「いくらトイレが遠かったからってまだ10分もたっていませんよね?」
香矢も何かただならぬ空気を感じ取って言った。
「…ちょっと寝る前に挨拶しますか?」
志穂はうなずく。
とりあえず、最初に話しかけてきた青年がいる空き家へ言って香矢が声をかけた。
「お兄さぁ〜ん。エロDVD持ってきました〜。開けてくださぁい。」
返事はない。
志穂が戸を開ける。
「志穂さん、男の部屋をいきなり開けたらまずいっスよ!」
中は真っ暗で誰もいなかった。
「おろ、お兄さん達もトイレ?」
「…香矢さん、他の家も調べてみましょう。」
どの家も無人だった。
「集団連れソン?もしくは夜逃げ?」
「トイレはあそこにしかないですし、一本道だから途中で会うはずでしょ。それに帰ったとしたら荷物を置いていくのは変。」
香矢は青くなって言った。
「誰かが行方不明になるんじゃなくて全員失踪ってオチっスか…」
「もしくは全員で私たちを騙しているとかね。」
「それだ!ドッキリっスよ、ドッキリ!!」
香矢は家を飛び出し叫んだ。
「みなさぁ〜ん!ドッキリバレてますよ!!大失敗ですよ!!もういいっしょ!?出てきてくださ〜い。」
誰もいない村に香矢の声が響いた。
少しの間の後、「キチキチキチ」という声が返ってきた。
「おぉっ、誰か出てきた?」
空き家から出てきたのは人間の服を着た巨大なアリだった。
「キチキチキチ!」
「でぇ!?話が通じなそうな人が出てきた!?」
志穂が香矢の前に立つ。
「どうやらこいつが犯人みたいですね。」
「志穂さん、何やってるんっスか!?三十六計逃げましょうよ!!」
志穂は胸の十字架をブチンともぎ取り戦う姿に変身した。
「キチキチキチ!?」
香矢も驚いて叫んだ。
「キチキチ…じゃなくってぎょぇ!?志穂さん!?」
「香矢さんの言葉を借りるなら…話して分かる相手じゃないわね!!」
志穂は剣を構える。
「志穂さんが…燃えている…」
剣先から放たれた炎がアリ人間を包み込む。
一瞬にして灰になった。
ふぅ、と志穂は息をつく。
香矢の方を見て言った。
「黙っていてごめんなさい…とりあえず、バイクのところまで送るから先に帰ってください。この姿なら空も飛べるので…」
香矢はプルプル震えていた。
「か…」
「か?」
「格好イイ!何スか、志穂さん魔女っ子ってやつっスか!?さっきの炎は魔法っスか!?近くにいたのに全然熱くなかったのにあの化け物は燃えちゃうし。」
「…私もその化け物なのよ。」
「どこが!その神々しくもカッコ可愛い姿で、さっきのブキミ生物と一緒とかギャグでしょ、ギャグ!」
志穂はため息をつきながらも内心安心した。
自分の異形の姿を恐れられると思ったからだ。
香矢は言った。
「あれ、先に帰ってって志穂さんは帰らないんっスか?」
「急に話題を戻さないで…この村にいた人達を探しにいってきます。死体もなく姿が見えないってことはまだ生きていてどこかに閉じ込められているだけだと思うの。」
「あちきも協力します!」
「…駄目です。魔女がいたって事は危険ですよ?」
「また出てきても志穂さんがいれば怖いものなし!それにあちきの姿を見られてます。バイクで帰る途中に襲われたらまずいっしょ?」
(それもそうか…)
結局、変身しても志穂は押し切られてしまうのだった。
「と・こ・ろ・で。お願いがあるんっスけど。」
香矢はにじり寄ってきた。
「何ですか?」
「その尻尾、触っても良いっスか?」
手を伸ばしてきた瞬間に志穂は元の姿に戻った。

「でも、探すあてあるんっスか?」
「シー」
志穂は口に手を当て香矢を黙らせた。
草むらに隠れてしばらくするとまたアリ人間が現れた。
「また出てきたっス…」
ヒソヒソ声で2人は喋る。
「やっぱりね…さっきのアリが喋らなかったからもしやと思ったけど…」
「イミフなんスけど。」
「魔女なら知能が高いから喋れないわけないし、さっきのは弱すぎたからね。多分、親玉に操られた部下ってとこね。」
「なるほどっス。アリの親玉だから女王アリっスかね?」
アリ人間はしばらくキョロキョロした後に動き出した。
「ついて行きますよ!」
「2名様、巣穴にご案内〜ってとこっスね。」

アリ人間はほら穴に入っていった。
「ここが巣みたいですね。」
「アリなら自分たちで巣を掘って欲しかったっス…」
中は真っ暗だった。
しかし、志穂の眼は改造されているので真っ暗でも昼間のようによく見えた。
「離れないでくださいね。」
「離れろ!と言われても離れないっス。志穂さん、良い匂いするっスね。」
「…やっぱり離れてください。」
「言ったはずっス。離れろ!と言われても離れないと。」
ふいに志穂が天井を見上げる。
そこには繭のようなものに包まれた人達が吊るされていた。
村に来ていた人達だ。
「…ひどい。」
「えぇ!?何がっスか?」
見えない香矢が騒ぐ。
とその時、真っ暗だった洞窟が明るくなった。
遅れて天井をみた香矢が驚く。
「キチキチキチ、よくキたな。」
奥からアリ魔女が出てきて言った。
「やっぱり女王がいたのね!」
志穂はそう叫ぶと胸の十字架をブチンと千切って変身する。
「きたきた、きましたよ〜!」
香矢が感嘆の声を上げる。
「おびきダされたともシらずに…」
「何ですって!?」
「カてるとミキったからここにヨんだとイっているんだよ。」
アリ魔女が手を上げると、奥から…いや後ろからも大量のアリ人間が出てきた。
香矢が叫ぶ。
「ひっ!子だくさんっスね!!」
「キチキチキチ。サキホドのタタカいでおマエのホノオはアリをイッピキをホノオでツツみコんだ。イチドにフクスウのアイテをコウゲキデキナいとミた。」
「そっ、そうなんスか!?」
広範囲に炎を出す事も可能だ。
この囲んだアリ全部を焼き尽くすことだってできる。
(でも、)
炎の範囲が広ければ広いほど調整が難しくなる。
香矢の周りとさらわれた人達のいるところだけを避けて炎を出すとなると…難しかった。
「キチキチキチ!やれ。」
アリ人間達が近づいてくる。
香矢がギュっと抱きついてきて言った。
「ななな、何か手!手はないんっスか!MAP兵器的な便利な技は〜。」
「何ですか、それ。」
「ゲームやらないんっスか!例えば地震とか起こして敵を一掃したりとか!!」
(地震…?)
志穂は閃いた。
「香矢さん、ちょっと肩車してくれませんか?」
「ふぇ?あちきを踏み台に!?」
「逆です、私が下。絶対に降りないでくださいね。」
香矢をかつぐと志穂は剣を地面に突き刺した。
「キチキチキチ!?」
「人質が天井に吊るされていたのが幸いしたわね。」
炎を放出すると地面は赤くなっていき、徐々に炎がせり上がってきた。
次々に燃えていくアリ人間達。
一番遠くにいたアリ魔女は逃げようとしたが間に合わず、炎に包まれる。
「うわぁ、いやな上官っスね…」
「さらわれた人達の報いを受けなさい。」
「キチキチキチ!クソぉ、せっかくネットでツったニンゲンドモをツカってヘイをフやしていたのに…ワタシのユメがモえていくぅ…」
アリ魔女は兵士たちと共に消し炭になった。
その途端、吊るされていた人達は解放された。
「助かった!」
「こんなとこ早く出よう!!」
と叫びながら逃げ去って行った。
「あっ、お礼ぐらい言っていくっスよ!ついでに謝礼とか。」
志穂から降りながらブチブチと香矢は言った。
肩を鳴らしながら香矢は言った。
「とりあえず、これにて一件落着っスね!あちきらも帰りますか!!」
いつのまにか元の姿に戻った志穂はうつむいて黙ったままだ。
「どうしたんスか?」
「あの魔女、死に際にさらった人間を兵にしていたって言っていた…つまり、あのアリ人間はあの魔女のせいで姿をかえられた人間だったんだ…」
「そりゃあ、元はそうかもしれないっスけど…」
「あの魔女を倒した後にみんなを縛っていた繭も消えました…もしかしたら魔女だけを倒せばアリになった人達も救えたかもしれない…」
「…」
「フフフ。それを言ったら魔女だって元は人間だよね。結局、私がやっている事もあいつらと同じ人殺しだよね…」
「…あちきは志穂さんの詳しい事情も知らないし、頭悪いから志穂さんの悩みは分からないけど…」
「…」
「これだけは言えるっス。」
「…何ですか?」
「もう、この村で行方不明になる人はいない。」

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