小説『聖女ドラゴンヴァルキリー』
作者:BALU−R(スクエニVS俺)

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第六話
勇気の黄色い聖女

「じゃあね、香矢!また明日!!」
「ういうい。」
香矢は学校帰りにそう言って友達と別れた。
(あれからもう、1ヶ月か…)
いつもと違い青い服を着たドラゴンヴァルキリー。
志穂に追いつくとそこにはそんな彼女だけが雨の中、立ち尽くしていた。
「私のお母さんみたいな人だったんです。」
志穂はそう言って新たな犠牲者の方を見た。
香矢もコーチも何も言葉をかけられなかった。
やがて、どこかへ飛んで行ってしまった。
その場所から逃げ出すかのように。
バイトに行くたびに志穂の姿がないのに落胆する1ヶ月であった。
「大丈夫、ここがあの子の家なんだから。ねっ?」
コーチはバイトに行くたびにそう言う。
(あの時、何か言うべきだったんだ…)
自分ではドラゴンヴァルキリーの支えになっているつもりだった。
だが、彼女の悲しみは結局彼女にしか分からなかった、ということだ。
(それでも…)
強く思った。
(また会いたいよ。)
「会ったことあるの!?」
ぼーっしてるところに大きな声が聞こえてきて、反射的に振り向く。
4〜5人の子供が1人の女の子を囲んで何かを言い合っている。
「…ないけど」
囲まれている女の子が口を開いた。
「ほらーそうじゃん!」
「裕子ちゃんはやっぱりうそつきだー。」
(いじめか?)
止めなくちゃと思い香矢は子供の集団に近づく。
「でも、ママがドラゴンヴァルキリーって正義の味方が本当にいるって…」
香矢は足を止めた。
(こんな小さな子が…何だって?)
「嘘だー、TVでもあるまいし。」
「現実にそんなヒーローいるわけないじゃん!」
「知っているよ、そういうのってもうそうへきって言うんでしょ?」
(違う…違う!)
香矢は再び歩みを進めた。
「あーそこの坊ちゃん譲ちゃん。」
香矢に声をかけられ子供たちは一斉に香矢の方を向く。
「何、こいつ。」
「人さらいじゃない?」
ヒソヒソ話しだす、子供たち。
香矢はひるまず言った。
「あーあちきは怪しいもんじゃなくてな。」
「あちきだって!」
「怖〜い」。
香矢は子供が苦手だった事を思い出す。
しかし、続けて言った。
「いや、聞いてちょぶだい。ドラゴンヴァルキリーはだね…」
「お腹空いたね。」
「コンビニにでも行こっか。」
「そうしよそうしよ。」
わーっと走り去って行った。
「くしょう、人の話を聞いてよ…これだから最近の若いもんは…」
香矢がぶつくさ文句を言っていると袖を引っ張られた。
先ほどの女の子だ。
「ねーねー、ドラゴンヴァルキリー知っているの?」
「もちのろん!何を隠そう、あちきはドラゴンヴァルキリーの親友であり戦友であるのだ!!」
女の子はクスクスと笑い言った。
「お姉さん、そんなに強そうに見えないけど?」
「何を言いますか、お嬢様!見よ、この華麗な回し蹴りを!!」
その場で回し蹴りをしようとしたが、軸足の支えがうまくいかずそのまま何回転がって尻もちをついた。
女の子は心配そうに覗き込み言った。
「大丈夫?」
「あたたた…慣れない事するもんじゃないっスね…」
「やっぱり、戦友とかは嘘なんだー。だって、弱すぎるもん。」
相手は冗談交じりで言ったが香矢の心には深く突き刺さった。
「…そう、お姉さんは弱いのだ…こんなんで戦友なんて…そんな資格ないっスね…」
香矢の落ち込みに驚いた女の子は言った。
「なら、これから強くなればいいじゃない?」
「たはは…いじめから助けるつもりが慰められるとは…」
「別に私はいじめられてないよ。ただ、ドラゴンヴァルキリーの話をしていただけ。でも、本当にいるのかな…」
「いるっス!!!」
大声で香矢は言った。
「ドラゴンヴァルキリーの武勇伝、聞きたくないっスか?」
女の子は笑顔で
「うん、聞きたい!」
と答えた。

数時間後、喫茶店「鳥羽兎」の扉を開けて香矢が飛び込んできた。
「あれ、香矢ちゃん?今日はバイトの日じゃないよねっ?」
コーチが不思議そうな眼をして言った。
「店長…いや、コーチ。あちきを鍛えてくれやせんか?」
香矢のその言葉にコーチは目を丸くした。
続けて香矢は言う。
「確かコーチは空手やら剣道やら色々な武道の段持ちっスよね?」
「…昔の話ね。」
「強くなりたいんっスよ!お願いしまっス!!」
「何かあったね?」
香矢は拳を強く握って言った。
「何かあってからでは遅いっスよ!志穂さんが帰ってくるまでに…強くならねば!!」
(そう…今度こそ志穂さんの力になるっスよ!!)
裕子ちゃんに志穂の武勇伝を話しているうちに、自分がいかに傍観していただけなのかを思い知らされた香矢であった。

さらに1か月ほどたったある日の事。
再び公園に来た香矢。
(今日は裕子ちゃんいないのね…糞ガキ軍団しか。)
1か月前に裕子を取り囲んでいた子供達だけが遊んでいた。
(裕子ちゃんの話じゃ別に敵対しているってわけじゃないらしいけど…第一印象がなー。)
ふと遠くを見るとその子供の集団を見つめる黒いコートの人物が。
(怪しい。)
そして子供達の方に向かって早歩きで近づきだした。
(このパターンは…)
コートの人物に気付いた子供達は遊ぶ手を止める。
コートの人物はポケットをまさぐりナイフを取り出した。
(…魔女!?)
子供たちが「ひっ!」と声を出したか出さないうちに香矢は走り出していた。
「はぁぁぁぁ!」
「!何だぁ!?」
香矢はコートの人物のナイフを持つ手を押さえ投げ飛ばした。
もともと運動神経が良かったせいかコーチの教えが良かったのか1ヶ月で大分強くなっていた。
(コーチに感謝!)
コートのフードが取れると…普通の人間の男だった。
香矢は拍子抜けして言った。
「あり、ただの変態さんだったスか?まぁ、いくら強くなったからって魔女をこんなに簡単に倒せるわけないっスか…」
携帯を取り出し警察に連絡しようとしていると
「すごい!」
「かっこいい!!」
「ありがとう!!」
と子供達から歓声があった。
「ぇえとっ、どういたしましてっス」
香矢は照れながら答えた。
「あれ、香矢お姉ちゃん?みんな?どうしたの?」
そこに裕子ちゃんが来て言った。
「裕子ちゃん、このお姉さんが助けてくれたんだよ!」
「裕子ちゃんの言う事、本当だったんだね!」
「この人がドラゴンヴァルキリーだよ!!」
その言葉に香矢は苦笑いして言った。
「違う違うっス!あちきはただのスーパー女子高生で…」
裕子は笑って言った。
「いいんじゃないのお姉ちゃんがドラゴンヴァルキリーで?」
「もう、裕子ちゃんまで…」
悪い気はしなかった。
志穂の格好よさは自分が一番知っていたから。

「ふぅん、良かったじゃないのね?」
コーチは鳥羽兎に報告にきた香矢にコーヒーを出しながらそう言った。
「いやー、照れるっスね…」
「あんたの事じゃないねっ!子供達が無事で良かったって事ね!!」
「あーそっちスか。でも、魔女かと思ってビビリ香矢さんモードでスたよ。」
「そう頻繁に魔女事件なんて起きないねっ!それに志穂がいないんじゃ…」
香矢はチッチッチッと指を振り言った。
「志穂さんは…ドラゴンヴァルキリーはピンチの時には必ず現れてくれるっスよ!」
「そうね。」

「…市で児童襲撃事件です。」
TVのニュースのアナウンサーの声が聞こえてきた。
香矢は嬉しそうに言った。
「おぉ、あちきの武勇伝がTVで語られる時がきたっスね。」
「まぁ、今日だけは調子に乗ってもよしね。」
アナウンサーは続ける。
「本日の夕方、公園で遊んでいた児童が通り魔に襲撃され、3人の児童とその保護者が重傷を負いました。」
(…えっ?)
香矢は聞き間違いかと思ってTVに近寄った。
「怪我をした児童と保護者は近くの病院に運び込まれましたが、全員意識不明との事です。」
香矢はコーチの止める声も聞かずに店を飛び出した。
(この近くの病院って言ったら…)
バイクにエンジンをかける。

病院のロビーには裕子ちゃんと他の子たちがいた。
しかし、3人ほど姿が見えない。
香矢は舌打ちをした。
「やっぱり…あの後何があったっスか?」
「どうして…」
俯いていた裕子ちゃんが言った。
「どうしてドラゴンヴァルキリーは助けにきてくれないの!?」
目を涙に腫らしながら叫んだ。
香矢は驚いて言った。
「裕子ちゃん…!?」
「やっぱりドラゴンヴァルキリーなんていないんだ!お姉ちゃんの嘘つき!!」
そう言って病院を飛び出して行った。
「…何があったんスか。」
香矢の問いかけに他の子たちが代わりに答える。
「あの後、みんなで裕子ちゃんの家で遊んでいたの。そしたら、裕子ちゃんのお母さんの悲鳴が聞こえてきて…TVなんかに出てきそうな化け物が襲ってきて…」
どうやらタイミング悪く魔女事件が直後に起こったようだ。
そしてそれがごっちゃになってTVで報道されたようだ。
(いや、あるいはごっちゃになって通り魔に責任をなすりつけるために直後を狙ったのかも…)
魔女は愉快犯が多い。
そういう事をやりかねない。
「…何か言ってなかったスかその魔女…じゃなくて、その化け物は何か言ってなかったスか?」
「確か…この世に正義の味方はいない、とかそんな事を言っていたような。」
香矢は頭がガンと殴られるような気になった。
(それが狙い?いや、それよりも…)
香矢は続けて聞いた。
「…最近、裕子ちゃんドラゴンヴァルキリーの話をよくしてたっスか?」
「うん、前よりもよく。」
それを魔女が聞いていたら…
「…裕子ちゃんがどこに行ったか分かるっスか?」
「多分パパところじゃないの?」
裕子ちゃんのパパの居所を聞き、香矢は病院を後にした。
(ドラゴンヴァルキリーは…正義の味方はいるよ裕子ちゃん。)

裕子は目を覚ました。
(あれ?アタシ何をしていたんだろう。確かパパの仕事場に向かっていたはず…)
「メがサめたか」
そこは父親の仕事場であった。
何度か連れてこられた事がある。
それよりも声の主が問題だった。
(パパと…)
縛られた自分の父親の横に先ほど自分の母親を襲ったカマキリ魔女がそこにはいた。
「カタホウのオヤがケガをすればもうヒトリのオヤのホウにクるとオモってサキマワリしていたのだ。」
起き上がろうとすると何かに押さえつけされた。
カマキリ魔女を小柄にしたような人間に押さえつけられた。
「あんまりランボウするなよワがコドモよ。キゼツでもされてはイミがない。」
裕子は涙目で言った。
「何これ…一体何の恨みがあって。」
「セイギのミカタだ。」
カマキリ魔女はそう言った。
「このヨにセイギのミカタなどいないコトをおマエタチにワからせるためだ。だからこそ、コロさずにケガだけをオわせた。」
そして、カマを裕子の父親の方に向け。
「トクにおマエだ。セイギのミカタのソンザイをマワりにキョウチョウするおマエにはネンイりにやらないと。セイギのミカタはソンザイしないコトを。」
「やめて!!」
「ウラむならセイギのミカタをウラめ。ソンザイしないセイギのミカタをな。キリキリキリ。」
カマを振りかぶった。
「いやぁー!!」
父親の方に振り下ろされる瞬間にフルートの音色が鳴り響いた。
「ナンだ?」
カマキリ魔女も部下の子カマキリも周囲を見渡す。
「どこだ!」
ドアが蹴破られ入ってきたのは、
「ナニモノだ!!」
「聖女ドラゴンヴァルキリー。あんたの嫌いな正義の味方っスよ!!」
香矢であった。
「キキキ!」
子カマキリ達が襲ってきた。
香矢はフルートを投げ捨て、懐のスタンガンを子カマキリに押し付けた。
「キキキ!?」
次々と倒れていく子カマキリ達。
(志穂さんの言っていた通り…機械製の体は電気に弱いってわけね。)
押さえつけられていた裕子を助ける。
裕子は言った。
「香矢お姉ちゃん…」
「さっ、逃げるっスよ。」
「待って!パパがまだ…」
裕子の父親の方に目を向けるとカマキリ魔女の姿が見えなかった。
「タショウのブジュツのココロエがあるようだが…」
いつの間にか背後にいた。
「!くっ!!」
香矢は慌てて後ずさりスタンガンを当てようとしたが当たらない。
「コドモタチとワタシがイッショだとオモうなよ!!」
かわしながら香矢の体に蹴りを入れた。
「ごふっ!?当たりさえすれば!」
「ムダだ。」
香矢からスタンガンを取り上げ自分の体に押し付けた。
音がビリビリとなっただけで微動だにしなかった。
「イったはずだコドモタチとイッショにするなと。」
「そんなぁ…」
「ナニがセイギのミカタだ。ナニがドラゴンヴァルキリーだ。おマエもタダのジャクシャだ。」
「ちくそー…」
「おマエもカラダをキザまれながらセイギのミカタがいないコトにゼツボウするがいい。」
カマキリ魔女はカマを構えた。
「ちくそぉー!」
再び、フルートの音色が鳴り響いた。
今度は香矢ではない。
香矢もカマキリ魔女も音色の方を向いた。
先ほど香矢が壊した扉の位置に人影があった。
「すみません、香矢さん。お待たせしました。」
そこには志穂が立っていた。
香矢はニヤリと笑い叫んだ。
「よく見てください、裕子ちゃん。あれこそが本物の聖女ドラゴンヴァルキリーっスよ!」
志穂は胸のペンダントを引き千切った。
いつもの変身…だが今回は赤くも青くもなく
剣の柄は黄色く
服は全身黄色のミニスカート
そして巨乳
そんな姿に
なった。
「バカな!ジツザイしていただと!!」
香矢は言った。
「実在しているに決まってるっスよ!さぁ、悪役はお約束通り正義の味方に倒されなさい!!」
志穂は剣を構えた。
空が黒くなってきた。
雷雲がでてきたのだ。
カマキリ魔女は叫んだ。
「キリキリキリ!バカな、シツナイだぞ!?」
志穂が剣を掲げるとカミナリが剣に落ちてきた。
志穂は言った。
「スタンガン効かないんだってね…じゃあ、それ以上の電撃を味わってみる?」
剣先に溜めた電撃をカマキリ魔女にぶつけた。
「キリキリキリ!」
カマキリ魔女は断末魔を上げて倒れた。

「…いつから帰ってきてたっスか?」
裕子たちを解放してから香矢は聞いた。
「1ヶ月ぐらい前からかな…でも、あんな風に消えたから戻りにくくなったのですよ。」
志穂の答えに香矢ははっと笑って言った。
「そんな事…ずっと待ってたんスよ?」
しかし嬉しそうだった。
再び香矢が口を開いた。
「それにさっきの姿…巨乳、ミニスカ、黄色い美女モードは一体?」
「香矢さんの勇気が…あの力を私に与えてくれました。」
香矢は少し照れた。
志穂は力強く言った。
「もう、私は迷わない…!魔女の手からみんなを守ります!!」
「そんな事よりも…」
志穂は香矢のその言葉に不思議そうに耳を傾けた。
「おかえりなさい、志穂さん。」
志穂はニコリと笑って言った。
「ただいま、香矢さん。」

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