小説『聖女ドラゴンヴァルキリー』
作者:BALU−R(スクエニVS俺)

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第七話
優しさの緑の聖女

「さてと、次はどれに乗りますか?」
志穂はそう言った。
志穂と香矢は遊園地に来ていた。
きっかけは「息抜きに遊園地に行きませんっスか?」の香矢の一言からだったのだが…
その誘った本人の目は虚ろだった。
志穂が朝から絶叫系ばかり誘ったりするものだから。
香矢は力なく言った。
「…少し休まないっスか?おばさんはもう疲れてしまいましたよ。」
グテーとベンチに座り込んだ香矢をジーっと見つめた志穂が言った。
「もしかして香矢さんは絶叫系が駄目な人でしたか?」
「でー!?何を根拠に!?」
「これも魔法というべきなのでしょうか…相手の体調が見えてしまうのですよ。香矢さんの体力はそれほど落ちていませんよ?極度の緊張状態にあるようですが。」
「あーあー、ヒーローが敵の正体を見破ったりするっていう…」
志穂はクスリと笑い言った。
「考えてみれば最初にジェットコースターに乗った時から無言になるか「ヒッ」とか声出ていましたものね。」
香矢は顔を赤くして言った。
「いあいあ、あれは普通にキャーとかいうのが恥ずかしくてあちき独自な反応を…」
「キャーとか言う方が楽しそうですけどね?」
「それを言うなら志穂さん!あんたもジェットコースターに乗っているときは無言で無表情だったじゃないでっスか!?本当に楽しんでたんっスか?」
「えぇ、とても。」
「…あんなもんに乗って無表情とかあり得ないっスよ…それも魔法っスか?」
「いえ、地です。」
少し香矢は表情を柔らげて言った。
「誘っといてこういうのもなんですけど、志穂さんが遊園地を楽しむとは意外でしたっスよ。」
「そうですか?私は遊園地とか動物園とか大好きですよ?」
「はー、やっぱり志穂さんも年相応に小五ロリなんっスねー。」
背伸びする香矢に志穂は言った。
「それじゃあ、香矢さんのために絶叫系はこの辺にしといて次は観覧車かメリーゴーランドにでも行きますか?」
「観覧車はバカップルが、メリーゴーランドはパパと娘が乗るもんじゃないっスか?それともあちきと禁断のいちゃつきをしたいとでも?」
「それでは、あれは?」
志穂が指差した方向には「イルカショー」の看板があった。

数分後、二人はイルカショーの会場にいた。
真ん中の水槽…というよりプールにはすでにイルカがスタンバイをして泳いでいた。
志穂はいつもと同じ声で言った。
「ねー可愛いですね、香矢さん!」
「イルカって漢字で書くと海豚って書くっスよ?こんなショーに駆り出されて正に人間の家畜って感じっスね。」
「…香矢さんって雰囲気潰す天才ですね。」
とその時、舞台にインカムを着けたお姉さんが登場した。
「はーい、皆さん今日はイルカーショーを見に来てくれてありがとうございます!イルカショーの前にオットセイの小さなショーをやりますねー!オットセイのみんな、いらっしゃーい!!」
そう言うと舞台の裏からオットセイが5,6匹ほどお腹でツーと滑りながら現れた。
会場から黄色い声が上がる。
滑ってきたオットセイは器用にお姉さんの前に止まった。
「はい、よくできました!!」
会場から拍手が上がる。
その音に反応したのかオットセイも手(ひれ?)を真似して叩く。
香矢が興奮して言う。
「ななな、何っスかあの可愛い生命体は!?萌え〜。」
お姉さんはボールを懐から取り出し言った。
「それじゃあ、投げるからとってね〜。」
とボールをオットセイに向けて投げる。
オットセイは前から順番に鼻先でボールをポンポンと回して行き最後にお姉さんの方に向けてボールを投げ返した。
「はい、拍手お願いしま〜す!」
再び拍手が鳴り、その音に反応して手を叩くオットセイ達。
「それじゃ、終わりです!ありがとうね、オットセイ達!」
お姉さんにそう言われ、オットセイ達は舞台裏に向けて腹で滑りながら帰っていく。
香矢が黄色い声で言った。
「わー滑って行くっスよ!可愛いっスね?」
「本当に…それに頭が良いですね。普通、動物を使ったショーって餌で釣ってやるのにあの子たちは餌をもらわずに芸をしましたよ。」
「おろ、そういえば?つーか、写真撮っておけば良かったっスよ!可愛さに目を奪われて忘れてたっス!!」
悔しそうに香矢が言った。

ショーの後に結局観覧車やメリーゴーランドに乗った後、帰るだけとなったところで香矢が言った。
「あのオットセイ達を見に行かないっスか?」
イルカショーの舞台裏に行ってみるとオットセイ達はいた。
先ほどのお姉さんと他の従業員に体をゴシゴシと洗われて気持ちよさそうにしている。
「うわぉ!オットセイってひげとか生えてるからおっさんみたいなイメージがあったスけど、こうしてみると赤ちゃんみたいに可愛いっスね!!」
香矢が大声を出すのでみんな驚いて注目した。
慌てて志穂が頭を下げて言った。
「ご、ごめんなさい。それとこんにちは。先ほどのショーを見てオットセイが見たくなって来てしまいました。」
手前にいたお姉さんが答えた。
「別に構いませんよ?最も体洗ってるだけですけど。」
「でも、頭の良い子たちですね。先ほどのショーでも見てたのですけど、一度も餌を要求しなかったですよね。」
鼻先で体をつつくオットセイの頭をなでながらお姉さんは答えた。
「そこに気付かれましたか。信頼関係があれば餌がなくても芸をしてくれるんですよ。まあ、その信頼関係を築くためにこうして毎日体を洗ったりとかしているんですよね。」
ホーと感心した香矢が口をはさんだ。
「言葉も通じないのにすごいもんっスね…」
隣にいた他の従業員が言った。
「入鹿先輩はすごいんですよ!オットセイの言葉が分かるみたいに…」
「こら、海!それは言いすぎでしょ!!」
入鹿と呼ばれたお姉さんは照れ臭そうに言った。
オットセイがオウオウと鳴きだした。
入鹿は言った。
「この子たちも疲れてるみたいなので厩舎に戻りますね。ほら、海行くよ!」
「ねっ、言葉が分かるみたいでしょ?」
後輩の海は嬉しそうに言った。

「ほう、それは良い物を見れたね。」
次の日の月曜日、志穂はコーチにオットセイの話をしていた。
「ええ、その後のイルカショーも面白かったですけど…あのオットセイ達の方が印象に残りましたよ。」
「ねっ、しかし遊園地に行って水族館行ったみたいな感想とは…」
「だって香矢さん、ほとんどの乗り物に付き合ってくれないのですもの。」
とそこまで話していると扉が開いて香矢が入ってきた。
「おあよーっス…」
2人はクスクスと笑った。
「あー、2人であちきの陰口叩いてたな〜!それとも褒めちぎっていたのかなぁ?」
「ねっ、まぁ褒めちぎる事はまずないけどさ…」
「昨日の話をしていたんですよ。」
その志穂の言葉に香矢が騒いだ。
「そうそうそ!オットセイズ萌えましたね〜。」
「ねっ、でもそんなに芸ができるならもっと有名になってもよさそうなのに…」
すると香矢がちっちっちっと指を振り言った。
「そこはネット情報屋の香矢さん、来週の日曜日に大きな水族館であのオットセイ達がショーをするという情報をゲットしましたぜ!」
志穂も喜んで言った。
「それは、すごいですね!」
「これでメジャーデビュー間違いなしっスよ!!」
コーチが突っ込んだ。
「ねっ、そういうショーにメジャーとかあるのかよ…」
「いやいや、TVでよく紹介されるぐらいの水族館っスよ!」
「ねっ、お前の基準はTVかよ…」
志穂はふうんと感心をし言った。
「香矢さん、どこでやるのですか?応援に行きたいな…」
「もちのろん!場所のチェックは完璧ですぜ、お譲さん!」
「コーチも行きませんか?」
コーチは少し考えて言った。
「ねっ、来週の日曜日なら行けそうだな。」
香矢は少し怒って言った。
「コーチ、人の恋路を邪魔する奴は馬に掘られて死ねっスよ?」
「ねっ、何が恋路じゃ!しかも微妙に間違ってるし…田合剣、こいつに変な事されそうになったら大声出すのよ?」
志穂は頷いて言った。
「常に警戒しています。」

日曜日、3人は件の水族館に来ていた。
コーチが呟いた。
「すごい人だね…」
香矢も感心して言う。
「みんなオットセイを見にきたっスかね?」
「それはいくらなんでも…あるか。」
珍しく志穂がのってきた。
しかし、3人は入口の看板の前で立ち止まった。
(本日のオットセイショー中止させていただきます。申し訳ありません。)
「せっかく見に来たのにねっ…」
「何かあったんスかね?」
志穂は少し考えて言った。
「…行きましょう。」
コーチはその言葉に疑問を持ち聞いた。
「ねぇ、行くってどこへ?」
「遊園地の方に決まっていますよ!せっかくのチャンスをわざわざ潰すなんて絶対何かありますよ!!」
香矢もうなずき言った。
「そうっスね…行きますか!」
コーチは驚き言った。
「ねぇ、せっかくきたんだから魚とか見てっても…」
「そんなんより、オットセイっスよ!」
「やれやれ若者は移り気が早いねぇ…」
呆れつつも2人についていくコーチだった。

遊園地に着き、イルカショーの裏に行くとそこにはオットセイ達はいた。
しかし、一緒にいるのはオットセイをうまく操っていた入鹿ではなく後輩の海だけであった。
気分は沈んでいるように見えた。
海もオットセイも。
こちらに気付いた海は声をかけてきた。
「あら、あなた達は…」
香矢が言った。
「あらあらうふふじゃないっスよ!どうしたんスか今日は!でかい水族館でショーって聞いてたのに…それに入鹿お姉様はどうしたんっスか!?」
海は俯いて言った。
「そう、心配してきてくれたんだ…」
「だ〜か〜ら〜、理由を聞いてるんスよ!」
「ねっ、香矢ちゃん落ち着きなさい。」
コーチが諌めた。
「ねっ、良かったら話していただけませんか?」
コーチが問うと涙ぐんで海が言った。
「私どうしたら…!!」
海は混乱しながら話し始めたがコーチがうまく聞き出したおかげで理由は分かった。
要約するとこう。
先輩の入鹿が急病で入院してしまった事。
そのため予定していたショーは中止になってしまた事。
相手先はカンカンである事。
来週に今度こそショーをやるからという事で怒りをおさめてもらった事。
入鹿先輩は一カ月は退院できない事。
入鹿の次にオットセイ達と仲の良い自分にショーを仕切る事を押し付けられた事。
話しが終わる頃には海は号泣していた。
香矢は言った。
「…大人が本気で泣いているところなんてドラマ以外で初めて見たっスよ。ドキドキ。」
コーチは慰めて海に言った。
「ねっ、今からでも練習すれば…」
海は叫んだ。
「無理ですよ!入鹿先輩は天才なんですから!!私みたいな凡人に何が出来るっていうんですか!!!」
実際には大泣きでまともに喋れていないのだがそれだと何を話しているのか分からないのと、本人のプライドを守るために読みやすくするフィルターをかけている事をここで断りを入れておく。
「…やってみないと分からないじゃないですか。」
ここでずっと黙っていた志穂が口を開いた。
「はぁ!?やんなくたって分かるわよ!!私は入鹿先輩みたいにこの子達に慕われてないんだから!!」
「そんな事ないですよ…だってみんな心配そうにお姉さんの方を見ていますよ。」
確かにオットセイ達は海の方を注目していた。
海は叫んだ。
「餌が欲しくてこっち見ているだけでしょ!」
「この子達はそんな子じゃないと思いますよ。」
「何言ってるのよ!こいつらの声が聞こえるとか言うの!?」
コーチが二人の間に入って言った。
「ねっ、まぁまぁそんなに熱くならずに。」
「聞きたいですか、この子達の声。」
あくまで志穂は冷静に言った。
「ええ、聞きたいわよ!教えてちょうだい!!」
志穂は右手で胸の十字架を握りしめた。
「田合剣!?」
「ちょ、志穂さん、まさか!?」
驚く二人を無視して十字架を引き千切った。
その途端、志穂の体は光だし
剣の柄の宝石は緑色になり
服は全身緑色のマキシスカート(床までつく長さのスカート)
そして黄色い時以上の巨乳
そんな姿に
なった。
「ひぃっ!?人間なのあなたは!?」
海の反応に少し志穂は顔を暗くしたが言った。
「聞かせてあげます…この子達の声を…」
志穂が静かに目を閉じると両腕の袖口の糸がほつれ出し、やがてその糸は植物の茎のように変化して伸びていった。
香矢が嬉しそうに叫んだ。
「わぉ、触手プレイっスか?」
「ねぇ、黙ってなさい!」
コーチが諌めた。
右手の植物は先端が分かれオットセイ達の方に伸びていき、左手の植物は海の方に伸びていった。
「いや、こないで!!」
海は叫んだがその瞬間、
「ねぇ、恐れるな!田合剣はオットセイの声を聞かせようとしているんだ!!」
コーチが一喝した。
やがて植物の先端が海とオットセイ達の体に触れると海の耳に声が聞こえてきた。
「がんばろう」
「きっと海でもできるよ」
「入鹿お姉さんもそれを望んでいるよ」
「力を貸して」
海の目から涙が消えた。
「こんな事が…」
志穂は植物を元の袖に戻し言った。
「わかってもらえましたか?」
海はまだ放心状態だった。
見かねたコーチが話しだした。
「ねぇ、やる前からあきらめるなよ…そりゃぁ、先人のようにうまくはできないかもしれない。でも、あんたはこいつらに信用されてるじゃないか。少なくともゼロからスタートするわけではない。他の人よりはうまくできるんじゃないか。」
海はもう泣いていなかった。
そして力強く言った。
「私…やってみます。入鹿先輩みたいにうまくはできないだろうけど…」
「ねぇ、入鹿さんみたくできる必要はないんじゃないか?あんたらしくできれば。」

1週間後、海とオットセイ達は舞台に立っていた。入鹿のショーに比べるとギクシャクしていたが…立派なショーを行った。
志穂は嬉しそうに言った。
「よかったですね。」
「ねぇ、本当に…」
コーチの目には涙が浮かんでいた。
香矢はかつての海のように号泣していた。
志穂は心配して声をかけた。
「香矢さん、大丈夫ですか?」
「こんな湿っぽいのあちきらしくないっスね…」
香矢は涙をぬぐった。
「それにしても緑色のドラゴンヴァルキリーは、すごかったっスね!」
コーチが言った。
「ねぇ、動物の声が…」
「じゃなくて乳が!あれこそ爆乳っスよ!!」
志穂は呆れて言った。
「…もう香矢さんの心配はしない事にします。」
オットセイのショーは盛大な拍手で幕を閉じた。

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