小説『「悔いなき人生を」』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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「悔いなき人生を」?

 席に案内されると既に息子と息子の婚約者が待っていた。
 孝之は俺達に気づいたのか席を立って会釈をした。
 それと同時に婚約者も、やや緊張気味であるが深々と頭を下げた。
 互いに会釈をして席に着くと孝之が改めて紹介してくれた。
 「陽子さん、父と妹の香織です」
 「初めまして久留米陽子と申します。もっと早くご挨拶したかったのですが、遅くなり申し訳ありません」
 「いいえ、遠い所をお出で下さいまして、孝之の父、洋輔と申します」
 「私、妹の香織です。とてもお綺麗なお方で、兄には勿体無いくらいです」
 香織は思ったまま言ったつもりだったが、俺は相手の容姿を初対面で語るのに抵抗があった。
 「おいおい香織、いきなりそんな言い方失礼だろう。まっ宜しく頼みますよ」
 「だって本当のことだもの。本当に綺麗なんだから」

 俺と娘のやりとりで少しは硬さも取れて来たのか、陽子の表情が柔らかくなった。
 孝之はこれから先の、結婚式の日取りまで予定について語った。
 本来は結納してから結婚なたのだが、最近はこの結納を省くことも多くなったようだ。
 そして仲人を立てないのも最近の結婚式だ。最近の若い者は結納や仲人って何に? と聞く。
 それと披露宴には、親戚も身近な者に限られ友人が大半を埋める式が多くなったのも時代の流れだろうか。
 俺の時は祖父祖母、叔父叔母は勿論、殆ど会った事もない親戚まで式に入れたものだ。
 最近は簡素で親兄弟だけというものもある。親でハッとなった。

 親=両親である。だが母が居ない。死別なら仕方ないが、これを息子は彼女にどう説明しているのであろうか。
 この場所に孝之の母が居ない事になんの違和感を抱いていないようだから、既に事情は話してあると思われ
るが。
 孝之の話では来年の春、三月頃を予定していると云う。
 そうなると遅くとも正月明けに、相手の両親へ挨拶に出向かなくてはならないのだが。
 「お父さん、なにを心配しているの? ははぁお母さんの事でしょう」
 香織に心の中を覘かれたな気分だった。
 「な! なにをつまらないことを……」
 「心配しないで、私が連絡してみるから」
 「お前知っているのか?」
 「だって娘だもの。私にだけは教えてくれてるもの」
 予想してないことだった。しかし今は香織を頼るしかない。離婚しても親として子供への、最後の務めである。
 先のことは分からないが、せめて息子が晴れて結婚するのだ。祝ってやるのが親だろう。

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