小説『「悔いなき人生を」』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 離婚はしたが俺には親としての務めと云うか責任がある。成人したとはいえ結婚するまで見守らなくては
ならない。そして孫が生まれたら……いやいそれはまだ考えずにおこう。
 それ以外に問題は沢山ある。大輔は高校2年生だが俺が野球好きだったせいか野球部に入っている。
 素質もかなりのものらしい。1年生からレギュラーらしく、学校も大会では上位の方で二度ばかり甲子園に
出場した事がある有力校なのだ。大輔は甲子園を夢見て頑張っている。
 今は年に数回しか会ってないが、進学をどうするか相談に乗ってやらなければならない。
 そして一番の問題は、腹違いの子供達と対面出来るかという事だ。
 難しい問題だが腹違いであっても兄弟である。俺としては互いに兄弟と逢って欲しいと願っている。

 しかし毎日が退屈であった。だからつい妙な事を考えてしまう。
 子供は勿論だが、今は自分をどうするか、どうしてこれからの人生を歩んで行くのか決めなければならない。
 毎日、家でブラブラしていては息が詰まりそうにもなる。引っ越して近所には知り合いもいない。
 いつかはまた働こうとは思っているが、この不景気にどんな仕事があると云うのだ。
 まさかガードマンや守衛なんて俺には勤まらない。出来るとしたら事務系くらいだろう。

 だが、一応重役として働いていた変なプライドが邪魔して上手く働けるかも自信がないのも確かだ。
 やはり暫く一人旅に出ようとは思っている。多少の蓄えもあるし7〜8年は遊べるだろう。
 その後は年金暮らしとなるかも知れないが、とにかく今は孤独に耐えられないのだ。
 本当にこのままなら、その内にボケ老人になりそうで怖いのだ。

 仕事をして居る時はどれだけ充実していた事か、まったく仕事がないと、ただの初老の男でしかないのか?
 友達? 考えてみれば殆どいない。なんてことだ! 一番大事なことじゃなかったのか。
 そんな俺だもの、妻に愛想つかされて当然か。ともかく自分がこれからどうするか決めなければならない。
 俺は翌日から旅行会社に行きパンフレットを揃え、それを元にインターネットで調べてみた。
 行き当たりバッタリだが、一応の資料を揃えた。
 数日後、俺は旅の準備を始めた。時期は初秋、まだ紅葉には早いが北海道か東北の山なら、そろそろ
紅葉が見れるかもしれない。ただそれも海になるか街になるか行ってみないと分からない。
 大家には暫く留守にするかも知れないと三ヶ月分の家賃を先払いし、洋酒を二本ばかり持って「留守中頼
みます」と言ったら上機嫌で「気をつけていってらっしゃい」と云われた。
どうやら大家だけは上手くやって行けそうな気がする。
 翌日の朝、東京駅の東北新幹線のホームに俺は立っていた。


つづく

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