小説『「悔いなき人生を」』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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  「悔いなき人生を」?

 仕事では何度か利用した東北新幹線だが今はまったく気分が違う。
 気負うこともなければ楽しい気分とも違う。
 旅に出て今後の人生に置いて夢か希望が見えてくれれば良いと思っている。
 気がつけばもう仙台に到着した。だが失敗したと思った。
 急ぐ旅でもないのにこれでは情緒なんて楽しめやしない。
 駅弁を買おうにも降りる暇もない。諦めていた処へワゴンを引いて売り子が入って来た。
 仙台で仕入れたのだろか、仙台の駅弁があった。その中から伊達幕という弁当とお茶を買った。
 本来なら名物の牛タンだろうが、歴史が好きな俺は伊達政宗にちなんだ伊達幕にしたのだ。

 やがて列車は八戸に入って俺は外を眺めた。漁業と工業の町である。そして別れた妻の故郷だ。
 あれは30歳の時だった。あれほど緊張したのは後にも先にも一度だけだ。
 つまり結婚の承諾をして貰う為に訪れたのだ。昔ながらの家なのか築50年以上は経っていると思われた。
 柱も太く東京では見られない屋敷という部類に入る。門も武家屋敷を思わせるような家だ。
 『どこの馬の骨とも分からん奴に嫁にはやれん』なんて言われるんじゃないか? とゾッとしたのものだ。

 確かに町外れで波の音が聞こえる浜辺あり、田舎ではあるが父は市会議員だという。
 「は……初めまして浅井洋輔と申します。縁ありまして早苗さんと3年交際して参りました。近い将来に
結婚を考えております。どうぞ二人の交際を認めていただけないでしょうか」
 確かそのような事を言った覚えがある。だが心配を他所に以外な言葉が返ってきた。
 「早苗からも貴方の事は伺っております。しかし近い将来の言うのは駄目だ。するなら早い方がいい」
 早苗が必死に説得した結果だろうか。そんな訳で半年先には慌しく結婚式を挙げたものだ。
 あれから30数年、今はその義父も他界し俺の両親も亡くなっている。時の流れとは早いものだ。

 この八戸に来たのは4度くらいしかない。
 最初の日と長男が生まれた時と娘が生まれた時、そして最後は義父の葬儀の時だけだ。
 妻と別れた今は行けるはずもないが、この町は魚が旨かった事は覚えている。
 当時はイカが日本一獲れた港町でもある。最初行った翌日に妻が小高い丘の上に案内してくれた。
 その眼下には海一面に漁り火が見えた。
 みんなイカ漁の舟だという。都会では決して見られない幻想的な光景だった。
 つい此処(八戸)の風景を見ると妻との思い出が蘇ってくる。

 俺の青春は妻とデートした日々と新婚の頃が全てだ。 
 後はまさに戦場の戦士ごとく仕事、仕事に明け暮れたものだ。
 俺が出世して金を稼げれば家族は裕福に暮らせる。それが最大の目標だったはずだ。
 確かに自分で云うのもなんだが、人並み以上に給料を貰い人並み以上な暮らしも出来た。
 勿論、自分自身にも恩恵はあった。同期で入社した連中よりも俺は早く重役になり満足感を得た。
 だが少なくても妻は出世や金よりも一家団欒を求めたのだろうか。俺の自己満足に過ぎないのか?

 妻は何度か愚痴を言って泣いて居たこともる。
 だが俺は裕福になる事が幸せであり、それが何故悪いと愚痴に耳を傾けようともしなかった。
 それがやがては妻の孤独を誘い、互いの幸福感が違うと覚ったのだろう。
 幸福の価値観はそれぞれ違うのは分かる、いややはり一番悪いのは妻の悩み受け入れなかった俺だ。
 まだ旅に出たばかりだが、一人になって少しその答えが解けて来たような気がする。

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