小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

5+三送会と題した祭事


『ピンポーンっ!』


俺んちの聞きなれたチャイムが騒々しく響き渡る。俺はこの前の『自然教室』で夜更かしをして以来、生活リ

ズムが少しずつ崩れてきており、遅刻ギリギリにならないと、目覚めることができなかった。


「おじゃましまぁーすっ!楓クンいますかぁ?」

「あら、雪乃ちゃんねおはよう。カエちゃんなら今寝てるわ」

「あ、そうですか……ってだれッ!?もしかして、翠の次の新たなライバルッ!?とゆうかまず体格差でリードされてるぅ……」

「ふふっ。私は雪乃ちゃんのライバルなんかじゃないわよ?むしろ、味方として雪乃ちゃんを全面バックアップするわ♪」

「そうですか……とゆうか本当に貴女は誰なんです?妙に楓クンに、馴れ馴れしいじゃありませんか……」

「それはカエちゃんが教えてくれるはずよ?」

「……はぁ」


帰郷女、雨那茜は俺の部屋にノックもなしに押しかけてきた。無理やり俺の布団を引っ剥がしてきた。さす

が、元祖弟殺し……。行動ひとつにまったく躊躇いがない。

そして、俺はささっと準備してトーストパンを口にくわえて雪乃のところに向かった。


「わりぃ寝坊した……。おはようっ!」

「うん、おはよう……」

「……」

「……」

「なぁ雪……」

「ねぇ楓クン?」

「ひぃい!なぜそんなッ!?怖すぎるぅ!」


雪乃は俺の言葉を思いっきり遮って、まさに般若の如く、あまりにも怖い顔で俺に尋ねてきた。

俺はとりあえず、恐る恐る返答してみる。


「な、な、なんだ……?」

「あの……」

「あの?」

「あの、謎の大人なフェロモンぷんぷんの女性は一体誰なのよおおおおお!楓クンのこと『カエちゃん』って言ってるしさっ!」

「それって今日玄関に出た人?もしかして、姉ちゃんのことか?」

「へ?」

「今日玄関出たのは、雨那茜(あまなあかね)。俺の姉だよ。何故か昨日、アメリカから帰ってきてたん
だ。」

「そうなの?ホントに?」

「ああ。ホントだ」

「そっか!ならよかったぁ!へへへっ!んじゃいつも通りに手を繋いで学校へGO!」


と言って雪乃はまた、いつものように、俺の手を握ってきた。さっきはなにを勘違いしていたのだろうか?

俺は頭に疑問符を浮かべながら、いつも通りに、一方通行に手をつながれて、学校に向かった。



今日は、毎年恒例、自然教室の次の一大イベント『三送会』の計画を行った。


『三送会』とは、文字通りに卒業する三年生を、送る会である。下級生は三年生のため、出し物で三年生をも
てなすものである。

そして、三年生は下級生の出し物に対して、代償として『Tp(サンクスポイントの略)』を支払う。下級生

はTpをもらった量によって、学校から様々なものを交換してもらえる。

そのため、宗学では三送会は『第二の正宗祭(正宗祭は宗学の学園祭の名前である)』と呼ばれており、生徒

はこの上なく必死に、アイディアを出して、思考を凝らしてこの三送会に取り組む。


俺らのクラスでは話し合いの結果、三送会で『キグルミ喫茶店』をやることになった。

この『キグルミ喫茶店』とは1−bのクラス委員が用意したキグルミを着て、俺らが喫茶店の店員になって三

年生にくつろいでもらう。というコンセプトで企画された、出し物である。


配員は、料理クラブのような料理が得意なやつは厨房へ。それ以外のやつはお客さんの注文を聞いたり、料理

をもって行ったりする、接客となる。そして、三送会実行委員会のやつが、三年生からもらったTpを集計す

る。(どうやら不正がないようにするためらしい)



その『キグルミ喫茶店』計画は順調に進んでいき、あっという間に三送会当日となった。


三送会当日となり、教室はガラっと雰囲気を変えていた。俺らの机は班活動のときのように重ねて、黄色いチ

ェックのテーブルナプキンを敷き、その上にはおしゃれな花瓶と、料理のかかれたメニューがおいてある。


そんないつもとは違う、教室にがやがやしながらも、クラス全員が集合したので、クラス委員からキグルミが

配られていった。

俺のところに来たのは……確かポケモンのポッチャマとか言うやつだ。


悠太は、自分のキグルミを「どうだっ!かっけーだろぉ?」と言って、俺に見せびらかしに来た。

悠太のキグルミは……これまたポケモンの……ピカチュウだ。


悠太の攻撃。悠太はものすごい勢いで俺に向けて『十万ボルト』を放出してきたッ!

……効果は抜群のようだ!ぴゅこん。俺は倒れた。


俺はクラス委員の行き過ぎた悪ノリに、鼻でフッと呆れ笑いしながら、この『キグルミ喫茶店』の接客をがんばった。

しかも、この喫茶店は意外と人気だった。三年生の話を聞き耳すると「ここの店員のキグルミかわいくぇ?」

などと言っている。よく見てみると、ここにいる三年生はほとんどが女性だった。


そして何にも問題がなく時間が過ぎていく。……はずだったのに、独りの三年生……確か葛城大輔だっけな?

から驚きの心の声が聞こえてきた。頭をつんつんとよぎった。


『ちっ無駄にこの店繁盛してやがる。けっ気にくわねぇ。この店つぶしちまおうかっ!』

-15-
Copyright ©藍堂イト All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える