小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

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俺は再び意識がはっきりして周りのざわついた感じや聞き覚えのある親の焦りまくった声を聞きとれた。

意識が回復したことに気づきとりあえず目を開けた。するとそこには親と姉と白衣を着た謎の人物達が、

俺を囲んで無表情で突っ立っていた。怖すぎる。てか、この独特なモヤモヤとした生ぬるい空気と、なにか嗅

いでるだけで車酔いみたいに吐き気がしてきそうな匂い。


その事実によりここは病院だということを初めて理解した。さらに考えてみると俺は猛ダッシュで思いっきり

こけて気絶した。そして、先生を呼びに行ってくれた奴のおかげで無事この病院に搬送され、今に至っている

というわけだろう。


そんな当たり前なこと無言でひたすら推理していると、一人の白衣を着た謎の人物、ではなく俺の命を救って

くださった命の恩人であるお医者さんが、俺の家族に淡々と答えた。


「貴方のお子さんは頭を強打してかなり危ない状況でしたが、処置が早かったので大事には至りませんでした。頭には5針入れさせていただきました。あと特に大きな異常がなければ一週間後には退院できるでしょう。」

「そうですか。ほんとにこの馬鹿息子がご迷惑をおかけしました」


母さんは俺のまだ少しずきずきと痛む頭を無理やりグイッと押しこんでお辞儀をさせられた。本当にあの時は

こんな怪我をして弱った息子のことを雑に扱う人なんか、親ではないっ!と本気で思ったものだ。


そして、その入院していたときには、いつものとは違う何というか言葉に表せないなにかが俺の頭をよぎった

りした。しかも一人でいるときはまったくそういうことはなく、誰かが俺の近くにいる時のみそのようなモヤ

モヤした状態になっていた。


このときはまだこれがどういう意味を指しているのかまったく想像はついていなかった。(今現在も全てが理解できたわけではないが)


その二日後退院してから学校に行って、先生に言われ教卓の前に立ってクラスのみんなに退院したことを報告

すると、よくゲームで対戦プレイをしたりする友達が「おめでとー!」とか「よかったな!」とかいうお祝い

の言葉をかけてくれた。そんな感じで俺が来たことにクラス中がざわざわしていた。そして俺はふと入院する

前にけんかしていた奴が目に入った。当然アイツはひじを立てて俯いて不満げな顔をしている。そしてさらに

ある言葉の羅列が頭をよぎった。


「なんで楓退院したんだよ?けっ、おもしろくない!」


そのけんかした奴に似た声が俺の頭をよぎったのである。がその言葉がよぎる時にアイツを見ていたが俯いた

ままで声は発していなかったはずだ。てか、口すら動いてない。


この事実は明らかにおかしいと俺は思った。だって普通発ってもいない言葉が聞こえてくるはずがないのだか
ら。

俺は幽霊じゃないかとか?とか幻聴が聞こえてるんじゃないだろうか?などいろいろなこと考えてしまい、怖

くなり眠ることができなくなった。寝付いてもその時はいつも悪夢を見ていた。

無言で世界中の人々が俺を拒絶する言葉を掛けてくる夢を。それに対しお父さんは明らかにおかしいと思っ

て、精神科の病院に連れて行ってくれた。頭を強打したことを踏まえて検査してくれと頼んだものの俺の頭、

体にはまったく異常はないと断言されてしまった。俺はなにがどうなっているんだと本気で悩んだ。


俺はそんな状況でも一応学校に行っていた。友達と笑いながら過ごしている時間は嫌なことを忘れさせてくれ

る大切なものだったから。


そして授業と授業の間の五分間の休憩時間に俺はダラっと机に張り付いていると、ふと前の席で昨日のテレビ

の話しをしている女子二人組みの会話が耳に入ってきた。


「昨日の……に出てた〜クンかっこよかったよねっ!!ほんとものすっごくしびれたわぁ!」

「そ、そうね!うちもそう思うよ……」


一見本当に一般的な女子の会話にしか聞こえない。だが俺はこのあとに信じられないことがおきたのだ。


「正直その〜クんとかしらないんだよな……適当に乗っとけばいいよね」


これはさっきのあとから話に乗っかった女の子の声である。この脳によぎる感覚は俺とけんかしてた奴と同じ

ようなずきずきとする感じだった。そしてボクは女の子の言ってることとは違うことが聞こえたことに対し

て、あることをひらめいたのである。


もしかしたら俺はその人の心の声を、本音の声を聞いてるのではないだろうか?

俺は今までに不思議だった出来事に対してこの仮定を当てはめてみると見事にいままでのモヤモヤとした矛盾

は解消された。


そして、その夜は寝つきもよく悪夢どころか、プールをはねていたら空を飛べたとかいう突拍子な夢を見た。

さらにこの事実を知った次の日には、より明確に心の声が頭をよぎるようになった。



俺にはそれから高校一年生になる今までずっとこの心の声を聞くことができた。だからこそ俺は女性に対して

自分で作った殻にこもってしまった。いわゆる女性不信といった感じである。


理由は簡単である。俺は顔がいいわけでもなく、とくに面白いわけどもない。さらにスポーツや勉強は人並み

にはできてもそこまで突飛して優れているわけだ決してない。さらに女性と話すときはあがってしまい、うま

く話せないうえにほとんど会話が成立しなかった。


そのため、女性に対する弱さを克服しようと俺は積極的に話してみたがやはりうまくはいかず、女性は表面上

で作り笑いをしていても俺の頭によぎる声は「こいつうざいし、めんどい」とか「私ぜんぜんその気じゃない

のよね。こいつ一人であがっててなんか見てらんないわ」とかマイナスな言葉ばかりで暖かい感情は一切伝わ

ってこなかった。


俺はそれの繰り返しに女性に対する自信をなくした。そして俺は中学二年生から完全に殻に閉じこもった。俺

は女性に嫌われることが怖かった。


そして女性に嫌がられ悪い噂が広がりさらに他人からの風当たりが厳しくなりそうで怖かったん

だ。だから俺は女性から、いや自分の弱さから逃げ、拒絶し、目を向けないようにしていた。



そんな女性不信男、雨那楓(あまなかえで)がつづる奇跡の変化ものがたりである……


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