小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

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1+転校生の到来


俺、雨那楓はいつもどおりに地味な白と黒だけの履きなれたぼろスニーカー(中1から足のサイズが変わって

ないため靴は変えてない)をはいて、朝練があるわけでもないのに時間に余裕を持って遅刻一時間前に家を出

て行った。


天気は冬のわりに道路に一切雪がなく、しかも空は清々しく晴れ渡って気持ちのよい快適な天気だった。そん

な快晴の青空の下、俺は独りで行きなれた登校通路を歩いていた。周りには友達ときゃはきゃは大声で笑いな

がら登校する奴らもいれば、カップルの二人組みが腕を組み合っていちゃいちゃしながら登校してる奴らもい

た。まったく毎回思うのだが本当に呆れ笑いしか出ない。だってそんな朝っぱらから背伸びして人のペースに

がんばって合わせて、大声ではしゃぐ必要ないだろ、普通?ただ疲れるだけである。



ということで何か言い訳にしか聞えないが、俺は無理することなく自分のペースで落ち着いて登校している。


おっとこれに対して同情とか言う感情は抱かないでくれよ。俺はなんだかんだ言って、この状態にけっこう満

足してるんだ。

独りで歩いていば、他の人に聞かれたらまずい独り言とか呟きって誰にだってあるだろ?それを思いっきり

(もちろん小さな声で)呟くことができる。それによって日々の面倒くさい勉強とかのモヤモヤしたスストレ

スを解消することだってできてしまう。今みたいな『ストレス社会』にとってかなり重要で必須な時間のすご

し方をしているのだ。



俺はこの毎日恒例の呟きとして「シュークリームをたらふく食べたいっ!」を何度も何度もぶつぶつくりかえ

し呟きながら歩いていると、いつの間にか俺の通っている宗学の前に到着した。


宗学とは俺の通ってる『私立宗命学園』の通称のことである。宗学は名前通りに私立校なわりに学費が安く、

近隣高の中でもっとも俺の家に近い(徒歩十分でついてしまうのだ!)という不純な理由でこの宗学に入学す

ることを決めた。しかもとてつもない伝説級のおバカさんでなければ入試を受けるだけでほぼ受かったも同然

という高校なためほかの人にちょっと劣るくらいの勉強量で簡単に入学することができた。さらに工業団地の

ど真ん中に宗学はあるために、工業団地に転勤の両親のせいで無理やりこっちに越させられた奴らが休み明け

に転校生として毎回何人か宗学に来る。


俺はその転校生に俺と同じような志(志というほど立派な考えではないが)をもった、殻にこもった奴が来る

のを期待しているものの未だにそういう奴は一人も現れない。


その宗学の一年生として俺は自分のクラスである1−bに向かった。ちなみにクラスはa,b,c,d,e,f,g,の7ク

ラスあるが、クラス配属は成績や能力はまったく関係なく、先生によってアトランダムに決められる。それ故

に俺はクラスについてはまったく関心はないし、べつに1−bに対してとくに不満はない。



そしてその1−bの教室に入ってみると、早すぎるがために誰もいなかった。ま、いつものことだから別にど

うでもよいのだが……。そして冬休み明けということで、先生により席替えがされていた。俺はたとえ席が替

わろうとも別に今まで通りにポケーっとす語巣だけなので、みんなが言うほど席替えは別に楽しみでもなかっ

た。てか、みんながなぜ席替えになると興奮するのかがまったく理解できない。

俺は黒板に張ってあった座席表を見て自分の新しい席の場所である。一番後ろの窓側の角の席に向かった。俺

はその席向かいながら「寝れるし、人とあまり接してない席だ。」と誰もいない教室で本日二度目の呟きをし

た。だがひとつだけその席の立地条件に疑問が浮かんだ。俺のクラス1−bは総員37人のクラスだ。だから

俺のような一番後ろの窓側の席は隣のいない一人だけの席(正確に言うと5人班で日直は三人でやる席)な筈

なのに、俺の隣には席がもうひとつあった。改めて黒板の座席表を見に行くと俺の隣の席に『雪乃咲夢』と書

いてあった。どうやら隣は転校生らしい。


「ゆきのさく……む?なんだこりゃ?性別すらわかんね……」


口に出して読んでみたものの、よけいに読み方がわかんなくなり混乱したのでやめた。しかも俺系の男子だと

かと期待したものの名前の周りに女子を示す赤いマーカーで塗られていたため、その期待は一気に崩れ去り転

校生が誰だろうとどうでもよくなった。


転校生に嘆息しながら、いつも通り机の中に入れていた愛読書「死んだらとりあえず鳥になりたい」という本

を取り出し読み込みはじめる。ひとつ言うが本は題名とか挿絵で決めるものじゃない。今題名を見て笑った奴

は一回どっかの本屋で売ってる、題名が変で挿絵のまったくない本を買ってみろ!ほんとに案外面白い観点で

書かれてることが多くてなかなか普通の本読んでるより面白いだぞ!


と、誰に訴えかけたのかわからない心の叫びを呟きながら本を読んでいると、宗学指定内履き独特の廊下を歩

いたときのカツカツッという音が聞こえてきた。が、時計を見てみたもののまだいつも人が来る30分前には

なっていなかった。

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