小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

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「んじゃこれより、私VS楓クンのWiiすぽ大会の開催を宣言しまーすっ!!」

「よし、臨むところだ。」

「なんか暗いなぁ……あーゆーれでぃー?」

「いえーいっ!!」

「やればできるではないか〜。」



俺は今までにないようなものすごいテンションで「いえーいっ!」といったことにかなり顔が火照ってきた。

ほんともういやである。はやく帰りたい……


雪乃は俺の後悔なんてお構いなしに、俺をちらちら見ながら新しい俺のアカウントを作ってくれている。て

か、意外なことに雪乃のアカウントデータには自分の奴と俺の奴以外に作っていなかった。


案外雪乃は奥手な奴なのだろうか?いやそれはありえない。なぜ奥手な奴が俺なんかをうちに入れたりするん
だ?


「よっし!じゃ楓クンは2pで私は1pね。ねね、まずはボーリングやろ?」

「ボーリングか……。よし、サクッと勝ってやる!」


実はうちにもWiiスポが何気に存在しており、俺はほとんどのスポーツが既にプロなのである。こんな得体

の知れない女子高生に負けるほど弱い男ではない!ゲームにおいてだけだが……


俺は秘伝技右曲げショットを放ってかるーくストライクを叩き込んだ。「どーだ?」とからかってみると「お
お!やるではないかぁ〜」

と言って何にも曲がらない真っ直ぐな玉を放った。

が、その玉は見事にストライクをぶっぱなした。「どーだぁ?」と満面の笑みで勝ち誇っている。くそっそん

なことがあるものか!いやマグレに決まっている!俺の右回りショットが破られるはずがない!



こうして俺らは時間の過ぎることを忘れて、真剣勝負を繰り広げていった。そしてひとまず23勝24敗で、

若干のところで負けているときにふと、時計を見てみると時間はもうすでに7時になり、もうすっかり日は沈

みあたりは真っ暗になっていた。

しかも雨が降っておりこれから外に出ると思うと気がめいってしまう。


「もう7時か……もう暗いし俺んちの門限8時なんだよな。てことでそろそろ帰るな……」

「そっか……ま、仕方ないよね。わかった。じゃ途中まで送るよ。」

「ありがとな今日は楽しかった。久しぶりだよ。女子とこんなに楽しい気分で過ごしたのさ……」


これはほんとに誤魔化しきれない。俺は、いや俺たちはつい、周りの人たちの迷惑がかかることを忘れ大笑い

して、素で楽しんでいた。だからこそ雪乃と離れるのがいやだった。なんというかこの楽しい時間が終わると

いうことがたまらなく寂しかった。


だから俺は最後に気になっていたことを聞いてみることにした。


「あのさ、最後に質問。何でほかの人じゃなくて俺みたいな奴とつるんでるんだ?こんなこと俺が聞くのはおかしいけどさ……」


そういうと、雪乃はうつむいてどんよりとした表情になってしまった。聞いてはいけないことだったのかもし

れないけど、俺はこれを聞かなきゃ後悔する気がした。


そして雪乃は顔を上げ、決心したような目をして口をゆっくりと開いた。


「実は私ね……前にいじめられてたんだ。」


「っ!?」俺は驚きのあまりまったく返答が見つからなかった。そして雪乃は返答がなかったのでそのまま続けた。


「で、あまりにもいじめが過激になって家族にまでいじめが進行してきたの……。で、家族のみんなに迷惑を

かけるわけには行かないから、独りでここへきたの。噂でこの宗学はいじめのないやさしい学校って聞いたか

ら。」



確かに宗学では大きないじめみたいなものがあまりない。昔からまるで伝統のように先輩が明るくてやさしい

ムードだったからそれが伝わるようにして俺らの学年でもいじめはほとんどない。まさに伝統的に受け継がれ

ている間接的な校則のようなものである。


「でも、何で雪乃みたいな奴がいじめられなきゃいけないんだよ。……そんなぜってーおかしいだろ!?だっ

て雪乃みたいな明るくて、やさしいやつが何で……」


「あのね前の学校のいじめをする側の人たちのリーダーみたいな人がいてね。そのリーダーがある「一人」の

男の子に対してに十数人でよってたかってぼこぼこにしてたの。それを見つけた私は先生の報告したの。そし

たらね……」


「その不良たちがこんどは雪乃をターゲットに変えていじめになったと。ただ「報告した」だけでッ!!!」

「うん。」


俺はほんとにむかむかして、歯軋りしながらちゃぶ台をガンと叩いた。そして俺がその現状を理解したことが

うれしかったのか、ちょっと微笑んで雪乃は続けた。


「で、正直宗学に転校してからも、またいじめを受けるんじゃないかって不安だったの。でも楓クンみたいな

優しくて面白い人に出会った。それで私ほんとうれしくってつい無理やり引っ張ってたの。そういう人が、チ

ャンスが離れていくのが怖かった。」


雪乃はちょっと目を赤くして鼻水をずるるっとすすっている。俺はそんなぐずついている雪乃の肩をガシッっとつかんだ。


「俺も雪乃ほどではないかもしれないけど、けっこう大きな挫折をして自分で作った心の殻に閉じこもってい

たんだ。ま、今も完全にふっきれたとはいえないけどな。」

「やっぱり。ちょっとそんな気がした。なんか私と少し似てると思った。それも楓クンを選んだ理由のひとつ」

「だからこそ、どんな奴よりも雪乃のこと理解できるはず。そしてどんな奴よりも雪乃の心の傷を癒してい

く。そのかわり俺の殻のきれいな割り方一緒に考えてもらう。どうだ?」


「ふふっ。いいねそれ」



といって雪乃は涙を流しながら微笑む。そして俺の胸に飛び込んできたのだ!!


そのときは本当に気絶するかと思った……。まさに口から心臓が出そうになってしまった。

てか、雪乃が俺に触れたときにみかんみたいなフレッシュな馨しい香りがぶわっっと舞い上がってきた。しか

も雪乃はものすんごくやわらかかった!……ほんと俺はこんなときになにを考えているんだ。てか、今も心臓

バックバクである。


と、俺は自分の不純さとKYを心の中で戒めていると、雪乃は俺の胸の中で、雪乃はこえを上げて泣きじゃくっ

てしまった。もちろん俺のせいではない。俺のせいでないたんじゃないんだしねっ!(なんだろうこのキャラ……)


俺は結局、門限の8時ぎりぎりまで雪乃が泣き止むのを待っていた。

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