小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

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「楓クンっあーん!」

「お、おい!恥ずかしいから!やめれぇ〜」

「照れないでよぉ。こうしたほうがおいしいんだから!」


俺らは学校から数十キロのところにある、キャンプ場に行くために宗学の所有物のバスにのっていた(宗学は

お金持ちなのだ!私立だから当たり前なんだけどな……)

バスの席配分はクラスの席と同じなため、案の定隣は雪乃になってしまう。しかも意外と距離があり移動に結

構時間がかかるため、昼食はバスの中でとることになった。

雪乃は俺のタイムスケジュールの説明を聞きながら目を光らせていた。(なんかきゅぴーんッて音が聞こえた

気がした……)


雪乃はそのため前述のとおり、無理やりの俺の口をあけて、昼食のために用意しておいた例の景品の揚げパン

を突っ込んできた。(しかも面白がってやってきた、悠太など男子軍団のきょうりょくにより抵抗むなしく口

いっぱいに揚げパンを突っ込まれゲロりそうに……)


その後も「トランプしよぉ〜〜〜〜」といわれ、トランプ以外にもさまざまなゲームをさせられた。雪乃は何

気にそういうゲーム系のものに対してめっぽう強くて俺は連戦連敗した。おまけに車酔うやすいの俺はエチケ

ット袋を3枚ほど消費。(もう揚げパンは全部吐き出してしまったんではないだろうか?)


雪乃は遊びまくって疲れたのか到着までの一時間ぐっすり眠ってしまった。まったくおまえは幼稚園児かっ?

そして一時間はあっという間に時間は過ぎていきキャンプ場に到着した。


到着したのにまだ寝ていたため俺、は雪乃を起こそうとふと顔をのぞいて見た。雪乃は「すーすー」と寝息を

たてながら、ぐっすり眠っている。


……やばいな。……くっ。ち、ちがう俺はべ、別に寝顔がかわいいなんて思ってないんだからなっ!ただ、癒

されただけだっ!って言い訳になっとらんな……。


俺は動揺しながらも、雪乃をゆっくり起こしてキャンプ場に向かった。


キャンプ場は周りには雪をかぶってきれいに輝く樹氷。澄んでいて一切排気ガスがないおいしい空気(車酔い

も回復)。しっかり整っていてついダッシュしたくなるような芝生。パンフレットでは想像できないような広

さ、雄大さのあるキャンプ場内。


雪乃はそれに興奮したようにおかしなことを言い始めた。


「楓クンと同じ夜を過ごせるなんて……。幸せ……」


雪乃は両手を祈るように組んで、空を見てぽけーっと妄想にふけっている。なんかぽわわーんって効果音が聞

こえてきた。というか頭をよぎった。そして俺らは指定された場所にテントを建てに行こうとした。が、翠が

いなかった。きょろきょろ辺りを見回してみると、それぞれが個性たっぷりな女子高生集団の中に、翠の姿が

あった。その様子を見た悠太があきれたようにささや
いた。


「ありゃさすがの俺でも、かき回して翠をひっぱり出すのはむりだな。どうするよ?」

「うーん。これ以上待ってても時間の無駄そうだ。」

「じゃあさ。計画したときみたいに3人で協力してがんばろうよっ!ねっ?」


俺は先生のいる物資支給所から、テントの道具を持ってきて三人で設置した。

そしてテントの中で話し合った結果、四人で協力する『7つの課題』は無理だと判断したため、課題は四人そ

ろってから取り組むことになった。もちろん今は三人しかそろってないから今日のうちは課題には取り組めない。


ということで、適当に3人でテントの中で楽しく笑いながらだべっていると、いつの間にか夕食の時間になっ

た。ということで俺らは一日目の夕食にセレクトした『カレー』を作ることに。


基本的にこの班での俺の立場は『全国パシられる人の英雄(ヒーロー)』なため、物資支給所からカレーの道

具(材料)を取ってきた。そしてとりあえず、「料理は任せんしゃい!」といっていた雪乃に渡した。そして

雪乃はここぞとばかりに俺らに命令してきた。


「じゃあ……楓クンたち料理できなそうだし、私メインでカレー作るねっ!てことでささっとたまねぎのみじん切りよろしくぅ!!」

「ありありさぁー!」

「了解しました。咲夢お嬢様の仰せのとおりに」


と言って雪乃はもうひとつの献立であるサラダの野菜を洗い出した。てことで俺らは料理がだめでも何とかで

きる、たまねぎみじん切りを始めた。と、たまねぎを爽快なザクッザクッといい音を立てて切り刻んでいる

と、ふと何故か哀や鬱の感情がドット流れ込んできた。悠太はたまねぎを切っていて目がしみて、その衝動で

いままで溜め込んださまざまな感情が抑えきれなくなっていた。


「うっ……なんで愛ちゃん俺がいやになったんだ……俺のなにが。……ぐすっぐすっ」

「悠太泣くなっ!人間は完璧な生き物じゃないっ!そんなこと言ったら俺だって……。……ぐすっぐすっ」

「俺のデートの時につい、愛ちゃんの腰に手を回す癖のなにがいけなかったんだ……。ぐすっぐすっ」

「悠太おまえは悪くない。悪いのは……おまえじゃんかよッ!自業自得だし!」


俺はまるでコントのようにボケツッコミをしてしまった。くったまねぎめッ!なんて威力、そして魔力だ!

と、そんなあほ過ぎるやり取りを見た雪乃は「もうなになにぐずってるの〜〜!ぜんぜん進んでないじゃない

ッ!」と言って残りのたまねぎを取り上げ、目を真っ赤にしながら手際よくみじん切りにしてなべに入れた。


「楓クンたちむしろ足手まとい!そこで座ってて〜」

「え、でも協力しないと……」

「悠太クンは協力じゃなくて、邪魔よ!そこに座ってるのが協力!いい?」

「そこまでいわなくても……」

「往生際悪いぞ悠太。さ、さっきのスピードのつづきやろうぜ?」


俺らは雪乃に協力するために、俺らは静かにスピードを始めた。協力なのに何もしていないという矛盾がある

ようにも思えるが、これが協力なのだッ!


そして、悠太と白熱した戦いを繰り広げていると雪乃は「できたよ〜〜!ささ、あったかいうちにどーぞ!」

といって俺らの分のカレーも持ってきてくれた。支給されたものだけで作ったにしてはかなり本格的だった。

においがすでにうまい。


そして、俺らは席について手を合わせた。が、あることに気づいた。


翠がいなかった。そしてそれに気づいた雪乃は急いでもうひとつの皿にカレーを盛りつけた。そのとき、テン

トのドアがピラリと開き、ナイスタイミングに翠がやってきた。

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