小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第99話
※(100話突破記念オリジナルストーリー中編です。)

とある中学校の教室にてそわそわそわそわしている大勢の男子。
まるで、それを無視し着席している一人の女子。
傍から見たらそれはそれはおかしな事だろうが、当事者である俺はかなりしんどい。
何だか知らんが、チョコをあげないといけない気がしてたまらなく、チョコをあげないと俺がヒドいやつだと思われてしまうのでは?
とまるで、やつらの手のひらで踊らされてしまっていた。

「・・・はぁ」
『!!?』

少し声を出しただけでかなり動揺する男子達。ていうか、敏感すぎるだろうが・・・仕方ないなぁ・・・
俺は紙袋を漁り、後何人分渡せるか確認している。俺はこういう非常事態を考慮してとりあえず俺のクラス全員分を用意していたのだ。余ったら余ったらで自分で処理できるしな。ちなみに他のクラス共の分は申し訳ないが用意してない。

「・・・やっぱりだ」
『!!?』

俺はクラス全員分のチョコを用意した事を再確認し、安心のあまり声が出てしまった。その声により、大きく反応している男子達。俺の言い方では、まるで用意していたのにチョコが無いと思われているだろう。そんな考えはこの場全員の男子達が思ってしまっていることを俺は知らない。

とある男子が良いとこを見せようとしたのか、俺のもとへズンズンと近づき顔を火照らせて俺に話しかけた。

「あっ、あっ、あの!チョコまだある!?だ、誰に渡すの?ひ、平沢サン」
「・・・秘密」
「だ、だよね・・・」

あっけない返答だが、少年よお前はそれでいいのか?が、俺も悪いな。とりあえず全員には渡すのに何だか根性がいる。何故なら俺が男子全員に心を許していると勘違いされては困るのだ。でも、チョコが勿体無い。ええい!何とかなれ!

俺はピンク色の紙袋を持ち、大勢の男子へと近づく。が、男子達は顔を真っ赤にして隣同士でコソコソと話しているが、多分内容はあのチョコは自分のものだろうだとか色々と話している事に違いは無いと思うが・・・
とりあえず、紙袋を机の上に置き一旦深呼吸。

「あー・・・このクラスの男子全員いる?」

『!!?い、いる!』

全員は息を揃えて頭を上下にブンブンと肯定の意を示す。本当に全員いるのか知らないが、嘘は言わないと思うな。多分だけど。

「えー・・・今からチョコ配るから、とりあえず出席番号順に並んで」

『え!!?うそ!!?』

俺が今から全員にチョコを渡すという宣言に耳を疑う男子達。まぁ、それはそうだろう同情されてチョコを貰うなんてイマイチ納得出来ないだろう。やはり、やめるべきだったか?

「え?いらないな『『いる!!』』・・・即答だね」

俺の声を遮って男子達は一言一句間違えずに揃えて言う。お前ら以心伝心だな。
とりあえず、名簿を教卓の中を取り出して出席番号順で男子を呼び、一人一人にチョコを渡し、全員に行き渡り・・・

「えーと、全員『『やったぁーー!!!!』』貰ったね・・・やれやれ」

俺は軽い足取りで自分の席へ着席し、のほほんとしたかったんだが、チョコを貰えた男子達は大興奮で俺の周りに集まり『ありがとう!平沢さん!』というカタコトではない、ちゃんとした言葉で感謝を示したのであった。

が、このクラスの女子全員が一気に教室に現れ、全員ニヤニヤしていた。当然、和も来ていたが、その顔も笑みを刻んでいた。まさかこいつ・・・

「唯の事だから、全員に渡すと思っていたけど・・・まさか本当に渡すなんてね。ふふっ」

「・・・それでみんなで楽しげに様子を見ていたと・・・そういうこと?」

「そうよ」

即答じゃねぇか!和ぁ!助けてもいいだろうが!ちくしょう・・・女子めぇ〜!!あ、俺も女子ですけど?!
俺は思考回路がショートし、もう考え事をするのをやめた・・・
「でも、後で何か奢るわ。何がいい?」

「・・・明日へ羽ばたく為の翼・・・」

「な、何それ?よく分からないわ」
こうして阿鼻叫喚の地獄絵図のバレンタインは終わった。だが、これもある事のキッカケに過ぎなかった・・・あの忌々しい出来事がな・・・

side 平沢 唯 中学二年
恥ずかし目にあったバレンタインに若干トラウマを抱えつつ、時は体育祭が近づいている日。

この日も体育祭の行進練習をし、さらに応援合戦というクラス全員で観客に踊りを見せなければいけないという恥ずかしい行事の練習を行わなればならないのだ。

太陽が俺達の体力を奪うかのようにどんどん暑くしやがり、全員汗だらだらだ。
そんな中、俺はクラス全員が体育座りで座っている前で応援合戦の踊りを教えなければなかったのだ・・・そう、俺は・・・

「このクラスの体育委員代表の平沢唯です。よろしく」

俺は部活に入ってなくて暇を持て余した所を教師が見つけ出し、半ば無理やり入れたのだ。ううむ、これはパワハラというやつではないのだろうか?

「かわいー!唯ちゃーん」
「頑張れー!平沢ぁー」
「終わったら頭なでなでしてあげようかー?」
「わ、私もーっ!」 

俺のクラスは若干腹立つやつが数名いるが、それは放っておく。てか、頭撫でようとするなよ・・・
とりあえず、踊りの手順が書いてあるプリントをクラス全員に渡し、足りないやつがいるのか聞いてみたがあちらこちらの方向で『唯ちゃんが欲しいでーす』だとか『膝に座らせていーい?』だとか訳の分からない御託を聞き流し、俺達のクラスで踊る曲をラジカセのスイッチを入れ・・・

頭に叩き込んだ踊りをみんなの目の前で踊る。これほど恥ずかしい事はないだろう。

〜♪〜♪
「最後に女子はウインク。こ、こんな感じでーす」

「キャー!かわいー!」
「わはははっ!平沢、まじカッコいいぞー!」
「凄いよーっ!平沢さーん」

あちらこちらに甘い声と野太い声が飛んで来てものすごく辱めにあってしまった・・・もう焼くなり煮るなり好きにしろー!

ーーー
その日の昼休みと放課後。
俺の踊りが大絶賛だ。特にウインクの所を何度もやっては女子は盛り上がり、男子もちょいちょい俺をいじってくるようになったのだ。本当に勘弁してくれ・・・

そんなこんなで数日後、体育祭の練習の後、また応援合戦の踊りの練習をするのだが・・・

「え、えーと・・・こう?だったっけ?」
「うん・・・多分。後、こう?だったっけ?」

後半の踊りだけは完璧だったのだが、前半の踊りが全く覚えていない状況にあったのだ。多分、俺を後半部分のみの踊りを見すぎてそこしか覚えていないだろう。本当に大丈夫なのか?このクラスは・・・

「もう一回練習だぁ!私をずっと見て踊ってね!目を背ける事なくね!そしたら、覚えられるかもしれない!」
「・・・」
「どしたの?」

マズい事を言ってしまったか?みんなは無言だ。いや、頑張ろうと言ったから別に気にする事は無い筈。

「キャー!さっきの告白!?唯ちゃんだいたーん!キャー!」
「わ、私で良ければ・・・唯ちゃん」
「ま、マジで告白!?あの平沢さんが?・・・やった・・・」

何を誤解しているのか知らんが、女子共は甘い声を出して頬に朱を染めている。でもな、一体何で告白だとか言うんだ?俺はよく分からず首を傾げてしまう。
俺の横で和がいたので説明を求めてみるが、和は若干困りながらどう伝えたら良いのか分からないのかオロオロしていた。うぅむ、珍しい和の表情だな。

「あ、あのね。さっき、唯が私をずっと見てって言ったから・・・その、唯は無意識に言ったかもしれないけど、その言葉は異性として見て欲しいていう捉え方もあるの・・・だから・・・」

な、なるほど。和の言いたい事は分かる。しかし、何と言って伝える事が出来るのだろうか?うーむ、日本語は難しいなぁー。
日本語の難しさを改めて実感し、汗だらだら流しながら踊っていったのだ。

ーーーー

体育祭まであと数日後で天気は曇り空。
曇り空な為か、ほんの少し涼しい風がそよそよと吹いてくる為、ジャージを着ている女子もいた。ほぼ全員体操服の男子に比べ、女子がジャージを着ている女子がいる為か、ほとんど女子はジャージを取りに行くのだが、俺は取りに行くのがめんどくさくて体操服のまま練習を行っていた。

だが、この行動を後悔するハメになってしまった。
天気は急悪化し、何の予兆も見せず豪雨が降り出した。雲が黒色になり、若干雷も鳴るので怖くなり、教師の指示に従い校舎の雨宿り地点にて雨宿りをしている最中、一人の女子が俺に指差し『服っ!服っ!』と服に何らかの異常を発見し、俺は自分の体操服を見てみると・・・

「・・・ロマンだね〜」

いやいやボケている暇は無い。この場には男子がいるが、ほとんどの男子は俺から目を背けていたのだ。つまりだ。
俺の体操服が雨によって、透けて中が見えたという事だ。ちくしょう、うらやましいじゃないか。や、こっちが被害者か。
「とりあえず、タオルで拭こうっ!こっちこっち!」

という黒歴史が一つ。そして、もう一つ黒歴史が・・・あるのだ。

時は過ぎ、またまたバレンタイン。
今回も緊急事態に備えクラス全員分を用意し、家族や和にも与える事に成功したのだが、今回もやたらと気にしている者が大勢いる訳だ。

去年使ったピンク色の紙袋に去年とほぼ同じ数のチョコを入れたのだ。が、一年の時とクラスの組み合わせは違ったので、一年次に一緒にいた女子以外のクラスには申し訳ないが用意していない。少年よ・・・俺を恨むなよ。

学校に着き、玄関に入り靴箱からシューズを出そうとしたら、案の定いる訳だ。大人数の男子が・・・やだなぁー、もぅ。

「あっ!」「んっ!?」「ややっ!?」

どうやら一年から二年生が集まっているようだな。でも、俺のクラスのやつは居ないと即座に理解し、シューズに履き替え俺のクラスへと歩を進めたーー。悪く思うなよ少年。

そして、俺のクラスの教室へ入り、一年から同じクラスのやつは俺が持っている紙袋に気が付き、はしゃいでいた。やっぱチョコやるのはよそうかなと思ってしまうのは俺だけだろうか?
去年と同じで何も知らん振りして机の横に鞄と紙袋を提げ、ぽけーとしてしまい、傍から見ればほぼ寝ている顔でのほほんとしているのに間違いはなかった。

そんな俺の異変に気づいたのか、一人の勇気のある男子がすたすたと俺へと近づき、顔を火照らせて話しかけたのだ。

「あ、あ、あの。平沢サン?そ、それ今年も・・・だよね?」
「・・・??何が??」
「や、何がじゃなくて・・・そ、それだよ」

男子は俺の横にある紙袋を指差し、何かを求めるように俺と目を合わせるが、いかんせん男子は挙動不審で目線があちらこちらに泳いでしまっていた。む、やっぱ甘やかしすぎたかね・・・

「うーん・・・また女子も居ないしなぁ」

去年も同じで女子の姿は見えない。またどこかで面白がって見ている事だろう。それに和も・・・まぁ、いいけどね。

「・・・・・・・」

長い沈黙。こいつら今回もタダで貰えると思っているのだろうか?だとしたら、虫のいい話だ。はぁ・・・

「・・・何か面白い事ないのかなぁ?あれば全員に・・・ぁっ!」

『えっ!!?』

思わず心の声が出てしまった俺は、しまったと後悔してしまった。この言い方では俺を楽しめたらチョコを貰える事だと彼らの脳にインプットされている事だろう。でも、彼らには力がある。それは・・・

「・・・風が騒がしいな・・・」

中二病である。思春期によく発病する病魔である。男子達はアドリブで訳の分からない事をほざきやがる。

「・・・でもな、この風、冷たいんだ」

「おい。どうやらこの街に良くない物が運んで来ちまっている」

即興のアドリブとは言えない完璧?な演技をするのだが、何故全員遠い目をしているんだ?そして、教室内は無風だぞ。風なんて吹いてないぞ。

「・・・あっ!やべーっ!昨日出た宿題忘れたーっ!誰か見せてーっ!」

「あっ!俺もだ!」「僕もだよ!」

いきなり現実の世界の話をしたものだから、中二病の世界の話は強制終了。これにより俺は・・・

「ぷっ、あはははっ!あはははっ!合格〜!あはははっ。ついでに宿題も教えてあげる〜!あはははっ」

『よっしゃー!!!!』

男子達は大きくガッツポーズ。チョコを貰える事もあるのだか、宿題の分も俺の気まぐれにより見てやると約束してしまった分も含めてのガッツポーズだったのだ。
約束通り?に男子全員にチョコを渡し、宿題を忘れた者に宿題を教える途中、女子達がニヤけて颯爽と同時。が、俺が男子達に宿題を教えているのを目撃し、ますますニヤける女子達。

「あれれ〜?唯ちゃん、どういうことなの〜?」

「・・・こういう事だよ・・・ご覧の通りだよ・・・」
「あっ!私もしてなーい。私も教えて〜っ!」

こうして阿鼻叫喚の地獄絵図のバレンタインパート2は終了したーー。

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