小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第98話
(※100話突破記念の話は今回の98話と次の99話と100話でお送りしますので今回は前編となります。)

律の家で聡君と遊び、我が家へと帰り夕食や風呂も済ませ俺の部屋のベッドにダイブして、今日の出来事を思い出していたのだ。
そう、聡君の事である。聡君は俺とゲームという趣味が合うし、何せ男の気持ちも分からなくも無いから、おのずと聡君と仲良くなれるのだ。
はぁ・・・あの時と一緒だ・・・あの、恥ずかしい黒歴史と・・・

side 平沢 唯 中学一年
俺は小学校を卒業し、近くの中学校へと入学しそこで入学生代表という立場で全校生徒の前で中学ではどう過ごすとかを淡々と述べ、そのおかげなのか俺の身の回りにはたくさんの女生徒が集まりまるで俺がヒーローみたいな憧れの眼差しで見つめるが、偶然たまたま俺が入学生代表だっただけでこんなにも人気があるものだろうか?

「すごーい。えっと、平沢唯ちゃんだっけ?唯ちゃんでいいよね?」
「う、うん。いいよ?」
「わ、私もいいかな?」

こんな感じで友達が次々へと増えるわ増えるわ・・・まぁ、友達が多い事はいい事なんだがな・・・。
言い忘れたが、俺が通っている中学校は共学である為当然男子もいる訳だ。小学校も共学だった為、男子がいることには全然驚かないし、驚く必要も無い。

「みんなよろしくね〜」
『よろしく〜』

友達をたくさん作ってしばらく時が過ぎるとやはり、仲が良すぎてドラマを見たかだとかダイエットの話だとか所謂(いわゆる)ガールズトークを話していたが・・・やはり俺にはガールズトークに興味というか、無縁ときた。女なのにだ。
そんなある日の放課後、俺と仲良くなった女子達と会話をする為、本日の会話のテーマはというと・・・

「このスカート可愛い〜」
「ほんとだ〜。あ、このバックも欲しいな〜」

女子向けのファッション雑誌を俺の机に広げ、雑誌に写っているミニスカートやらバックやらを指差してコレが欲しいだのアレが欲しいだのと言ってくるが・・・俺はファッションに興味が無いわけでは無いが、いかんせん女物なのでどう言ったらいいのか分からなくなる。

「あ、そうだ。この前のドラマ見た〜?主演の男の人、カッコよかったよね〜?」
「うんうん♪唯ちゃんは?」

急に話題を変えても状況を打破できる女子に対し、俺にはそんな力は備わっていない。
そしてドラマには興味がほんの少しあるだけで、全部のドラマを見ているわけでは無いので、この女子が何のドラマを示していて、主演の男性の人とはいったい誰なのか全然分からないままである。適当に答えるか知らないで通すしかないわけだ。

「え、えっと・・・私、ドラマ見ない派なんだよね。ごめんね?」
「え?何?その派閥っ。おもしろーい唯ちゃん」
「じゃあ、何見てるの?バラエティ?」
「うん。それと野球とかサッカーとかのスポーツ系かな?ファンは居ないけど、なんか面白いんだよね」
「ええーっ!?ファン居ないのに見ちゃうの?やっぱり唯ちゃん最高だわ〜。あはははっ」

こんな感じで女子と毎日昼休みや放課後を過ごしていていたのだったーーーー。
そんなガールズトークに何にも対抗できず、対策も練れないまま和とも相談したのだが、こればっかりは個人の趣味でどうにもならないと白旗を揚げて、仕方なく自分なりに努力したが・・・やはり骨折り損のくたびれ儲けだった訳だ。

そんなガールズトークに右往左往し、混乱し続ける中、ある日の放課後。仲良くなった二人の女子とで雑談していく中・・・
「俺のターンね。ドロー・・・一枚カードをセットしターンエンド」
ふ、とどっかで見覚えのあるようカードゲームを二人の男子が遊んでいたので、俺は席を外すと友達に伝え、その二人の男子に近づき、カードゲームをそっと見ることにした。

「じゃぁ僕のターン。ドロー、モンスターを攻撃表示で召還。そのモンスターで攻撃だ」
「この時、俺はトラップ発動くず鉄のかかし。1ターンに一度攻撃を無効化する」
「くっ、僕は一枚のカードを伏せ、ターンエンドだ」

男子が遊んでいるこのカードゲームはまさか・・・俺も小さいときずっとやっていたカードゲームだ!
俺は興奮気味で、男子に声をかけ男子は若干驚きながらも『な、なに?』とうろたえていた。

「ね、ねぇ。それって『ユウギオウ』?」
「あっ、知ってるの?平沢さん」
「珍しいね。女子でも知っている人が居たんだ」

やはり『ユウギオウ』だ。『ユウギオウ』とは世界一売れているカードゲームで世界各地で超絶な人気を持っており、少年から大人まで遊べる戦略性を競うカードゲームだ。うわ〜、懐かしいな〜。

「ちょっと見学してていいかな?何も助言しないから」
「うん。って、え?ルール知ってるの?」
「うん。でも、禁止カードとかいっぱい出てきてさ、その全部の種類は知らないよ?」
「なら、平沢さんもやる?ちょうどデッキいっぱい持っているからさ」

なんとあの懐かしい『ユウギオウ』をまたやれる日が来れるとは想像もしていなかった。俺は高校に入ってから俺が所有していたカードを全て近所の子達に分け与えたので一枚も存在していないし、そんな遊びもする時間も無かった。コレは童心に返れる事ができるぞっ♪

「むふふ〜♪」
「え、えっと、とりあえずシングルデュエルをやろうか?って、平沢さん楽しそうだね」

まずはルールを再確認しながらのデュエルだ。俺は、男子にデッキを借りてデッキを見てみると・・・

「おおっ!最近出てるエクシーズモンスター!?わぁ〜♪」
「ず、ずいぶん詳しいね・・・」

『ユウギオウ』はアニメ化されそれも大人気になり、アニメに登場するカードはほとんど全てカードゲームに実現されるという男のロマンをくすぐるので、『ユウギオウ』は人気急上昇なのだ。

「・・・よし、デッキも確認したし、やりますか〜」

「う、うん。じゃ・・・デュエル!」

ーーこの俺の行動により、あの忌々しい出来事のキッカケが起きたとは想像していなかった。ーーー

それから時が過ぎ、一月下旬。なにやら男子がそわそわしているようなしていないような、そんな挙動不審を若干引き気味で見守る最中、和とも軽く雑談し二人の女子の仲良しグループは俺のもとへ駆け寄り、なにやらニコニコしていた。なんなんだ?何か良いことでも起きたのか?

「ねぇねぇ♪誰にあげるか決めた?」

何の事だかさっぱりだ。和は風紀委員で忙しそうだったので和を解放してやり、仲良しグループと雑談を交わす事にした。

「??何のこと??」

「えっ!嫌だなぁもうっ!実は知ってるくせに〜」
「唯ちゃん、二月といえば?ここまで言ったら分かるでしょ?」

二月といえば?なんなんだこいつらは。二月といえば・・・あっ!そういうことか!

「建国記念日で学校が休み。それが嬉しいんだね!違う?」

「「・・・」」

二人の表情は『こいつ、マジか?』という鳩が豆鉄砲をくらった顔をし、二人は見つめ合って身体を震わせていた。うわぁ、こいつらアレなのか?と思っていた俺は恥ずかしかった。何故なら・・・

「ぷっ!あはははははっ!ふあははっ!」
「ゆ、唯ちゃん・・・ぷっ!あはははっ!唯ちゃんのボケがっ!あはははっ!わ、私のツボにぃ、あはははっ!ごほっ!げほっ!あはははっ!」

む、何が面白いかしらんが、大声で笑うものだからみんなの視線を感じてしまう。それはそうだろう。一人はキョトンとしていて二人が大爆笑している混沌(カオス)なグループが存在しているのだから、目立ってもおかしくない。

「ど、どうかしたの?」
「な、なになに?何か面白い事があったの?私にも教えて?」

女子は俺達のもとへ駆け寄り、だんだん集まりこのクラスの女子は和以外の全て俺の近くに集まっていた。それに若干恐怖を感じてしまう。
俺の話を聞いていた一人の女子が、クラスの女子全員に語り、三秒後・・・

『あはははっ!あはははっ!』

教室内は女子の笑い声が包み込み、教室内が揺れそうな音が響き渡る。むむぅ、これでは俺が晒し者ではないか。

「ゆ、唯ちゃん。面白〜い。ふふふっ!」

これで俺が変な女だと学校中に広がなければいいのだがな。ただ、お前らいつまで笑ってんだよ・・・まさか、祝日ではなく・・・そうか、俺は猛烈に勘違いしてしまったようだな。俺はようやく気づき口を開き

「分かった!誰かの誕生日だ!そうでしょう?」
「・・・」
「違うの?」

女子達は開いた口が塞がらない。そして
『あはははっ!あはははっ!』という爆笑をただただ、キョトンと見るしかなかったのだ。

ーーー
俺のボケが学校中に広まり俺よりも学年が上なやつも俺を見にわざわざ俺のクラスに行き、カメラで記念撮影といって勝手に写す輩もいるのだが、それは気にせず本当に何のことなのか説明を聞くことにしたのだ。

「バレンタイン!チョコだよ。なのに唯ちゃんったら・・・ぷっ!思い出したら笑える!ぷぷぷっ!」

思い出し笑いをしても構わないのだが、そのバレンタインとやらは絶対にチョコを誰かにあげないといけないのだろうか?だとしたら、両親と憂と和。他数名の女子にもあげるとしよう。
そんな報告すると・・・

「で?男の子には?最近、男子とカードゲームしてるでしょ?意外と楽しそうに」

男子にチョコレートだと?何故俺があげないといけないのだろうか?好きなやつはいないし、というか男子を好きになっては俺のプライドがズタズタになるんだが・・・かといって女子を好きになるのも社会的にどうだろう?はぁ、俺って不幸だなぁ。

「まぁ、お父さんぐらいかな?異性の人にやるのは」

「わっ!もしかして、ファザコン?!唯ちゃんって・・・色々面白いね〜」

父親を異性?として見れないが、色々と助けてくれるのでそのお礼という訳だ。その他の人達にもそのお礼としてチョコをだな・・・

「じゃ、楽しみにしてるよ〜、唯ちゃん」

「お〜。って何を?」 

ーーーー
時は過ぎバレンタインの日。
俺はチョコを作り、両親や憂に与えて感謝の言葉を聞き、学校にいる数名の女子にチョコをあげるため、やや大きいピンク色の紙袋にチョコの入った小包をたくさん入れ、左手で持ち登校。

ちなみに学校側は代々バレンタイン等のイベントを快く受け入れてくれるので、先生に見つかっても取り上げられることの心配は無いので、堂々と持ってきてもいいのだ。うむ、いい学校だ。

だが、登校中俺程大きめな袋を持っている女子はいなかった。これは俺の推測だが、好きな男子にあげると思うんだが、そういう女子しか見当たらない。俺だけがやたら気合い入れまくって空振りしている気分でなんだか恥ずかしい。

学校へ着き、下駄箱に向かい靴を脱いでシューズに履き替えようとすると・・・

「あっ!」「おっ?!」「あ、あれって?!」

どこからともなく男子の声がして何事かと辺りを見渡したら・・・男子は靴箱あたりをウロチョロしていた。しかも複数人。まぁ、数えるのがめんどくさいので何人もいるということで頼むな。
閑話休題。俺はすました顔で自分のクラスへと足を運び、後ろから『はぁ』とため息を吐く少年達。少年よ、頑張れ。

俺のクラスへ着き、ドアを開け『おぃ〜すぅ』と間の抜けた声を出し、俺の席へ座ろうとしたが・・・女子が一人もいない。どういう事かしらんが、代わりとして男子が大勢いた。

「おっ、おっ、おはよ・・・ひ、平沢サン」
「げ、げ、元気?今日は、あ、あ、暑いネ」
「そ、そ、そ、ソレ。重そうダネ?」

どういう訳か男子はロボットみたいにカタコトで喋り、目とか挙動不審だ。もう何もかも挙動不審だ。まぁ、そんな事より和とかにチョコを渡したいのだが・・・
そんな俺の願いが通じたのか、和が颯爽と登場。やはり、和も鞄以外手ぶらだ。

「あら、唯。おはよう。って、すごい荷物ね。もしかして・・・」

「ふっふっふ〜。察しがいいね〜。はい、チョコ」

俺はピンク色の紙袋をゴソゴソと漁り、チョコを和にあげ、『ありがとう』と和はにっこりと微笑み、『代わりといってはアレだけど受け取って』と和は自分の鞄を漁り、手作りだと分かる小包に入ったチョコチップを受け取った。うぅ、やっぱ優しいな和は〜。
そんな和は風紀委員に全員渡すそうなので、一旦教室を出て、また俺を置いてきぼりにされてしまう。誰でもいいから来いよ!女子!
めっちゃ息苦しい!

俺は挙動不審になりながらも、自分の席に座り鞄とピンク色の紙袋を机の横の引っ掛ける所に掛けておく。というか、コレの名称ってなんだ?
閑話休題。俺は何もする事がなくただただ着席をしていて他の女子を待っているのだが、来る気配が全く来ないのだ。

「・・・・・・」

無言。とにかく無言である。男子はいつまでも、そわそわそわそわ。落ち着かないでいるのだが、もしかして俺がくれるのを待っているのか?
いいや、違うな。あんまり親しくない女子からチョコを貰っても気分的に嬉しいとは限らない。が、実際はそうではない。誰でもいいからチョコが欲しいのだ。少年達は、とにかく義理でもいいから欲しいのだーーー。

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