小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第100話
(※100話突破記念オリジナルストーリー後編です。途中から本編を開始しますのでご注意を)

二度目のトラウマを抱えそうになるバレンタインを過ごし、時はさらに流れるーー。

side 平沢 唯 中学三年
俺が中学三年生になって間もない話の事だ。
ずっと三年間和と同じクラスになれた事に興奮し、嬉しがる俺にそれを快く受け入れてくれる和に対し、これまで起きた悪い出来事を若干緩和できたのだ。うーむ、親友というものはいいものだなぁ。

友人の有り難さに五臓六腑染み渡り、今なら何でも出来そうな気がしてたまらない。が、出来ない事は出来ないので、俺がやれる範囲までという意味で何でも出来るということだ。

そんなある日の事、いつものように学校へと行き靴箱から俺のシューズを取り出そうとしていたら、ぱらっと一枚の紙が出てきた。
何だろうとその落ちた紙を拾ったら宛先は平沢唯さんへと書いてあり、送り主であろう名前は手紙のどこにも無かった。
とりあえず、ポッケに突っ込み誰にも入ってこられないよう、御手洗いに直行し個室に入って鍵を閉め、手紙を開く。
ちなみにこの手紙に何が記されているのか分からないので周囲に気をつけないといけないのだ。分かっているとは思うが決してラブレターを期待している訳では無いぞ。

ペラっと手紙を開き、中を覗くと・・・

『平沢唯さんへ
今日の放課後、三年一組の教室に残ってください。
大切なお話があります。』

・・・・・・ナンダコレ?俺の頭の中はそれだけしか浮かばなかった。これがラブレターというもの・・・いやいや決めつけるのは早すぎだな。ひょっとしたら深刻な悩みがあるのかもしれない。俺はそっと手紙をしまい、放課後まで学業に励んだのだーー。

そして放課後をのほほんと過ごし、クラス全員は教室を出て俺も出る振りをして、そっと教室に戻り、外の元気いっぱいにはしゃぐ運動部を見るのに、外側の窓に行きぽけーと呆けていると・・・

「ま、まっ、待たせた?」

ある一人の男子だ。あー、こいつは一年の時『ユウギオウ』をやらせてくれたやつだ。だが、一体何の用だろうか・・・やはり、相談事だろうか? 

「いいや〜。で?何の用かな?」

「そ、そのっ・・・あ、あのっ!」

男子は言葉を選んでいるが、なかなか言葉が出てこないのか落ち着かずに目が泳ぎ、顔には大量の汗がでていた。こ、こいつ・・・マジで告白するつもりなんだろうか?いや!相談事に決まっている!
俺も若干思考回路がショートするが、持ち味の気合いで踏ん張る。が、まだ男子は言葉を選べきれずに悩んでいた。はぁ、背を押してやろう。それが告白だとしてもだ。

「ゆっくりでいいから、私に話して。出来る事なら力を貸すからさ。ね?」

「うっ、うん!あ、あの・・・平沢さんって好きな人っている?」

こいついきなりド真ん中のストレートをぶち込んできやがった!まぁその答えに答えれるがな。

「家族。後、友達多数ね」

「そ、そういう意味じゃなくって・・・好きな男子だよ!あ、言っちゃったっ!」

そう、俺がこいつの背を押した理由はこいつに自信を持たせる為だ。またこういう告白する時に少しは自信を持たせて成功させる為だ。

「お父さん」

「だーかーらっ!家族は無しっ!もー・・・だから好きな男の子だよ・・・」

俺が背を押した男子はスラスラと言葉を言えるようになった。多分、もう力を貸す必要は無いだろう。もう、本当の事を話す事にしたのだ。

「いないね〜。で?君は?家族無し、友達無しでの好きな女の子は?」

「えっ!!?」

まさか俺に質問がくるとは思わず、慌ててまたも視線があちらこちらに泳ぐ。はぁ、まだ背を押さないといけないのか?

「いないでもいいけどね。じゃ、帰るよ。ご飯作らないと・・・」

「え!!?え!!?」

俺はわざとゆっくり鞄を持ち、ゆっくり教室から出ようとする。もし、こいつが本気ならば引き止めるだろう。本気じゃなかったら・・・言うまでもなく告白は失敗だ。
扉に力を入れ、ガラガラと扉を開き、いつまでも俺を引き止めないので、もうここまでかと俺は一歩、廊下へ足を運んだ瞬間・・・

「平沢さん!好きだぁぁぁ!」

・・・やるじゃないか少年。扉を開けだので告白少年の大声の声は廊下も響いていたのだ。まだ、生徒がいるかもしれないのだ。
告白少年は顔を真っ赤にしてふるふると振るえ俺の答えを待っているかのようだ。
だがな・・・

「ふふっ上出来だよ。今度は本番で頑張りな〜」

「えっ!?ちょっ!ええ!!?」

告白少年はおっかなびっくりの表情で、何がなんだか分からなくなっていたようで、俺が何かを感じ違いしているかもしれないと少年の頭の中に渦巻いているだろう。

「じゃ、そういうことで〜」

「ひ、平沢さーーー」

告白少年が何かを言う前に扉を閉め、俺はそそくさと帰り、これを境に告白少年との出逢いは無くなっていたのであったのだーー。
これが黒歴史。告白されたという恥ずかしくて忌々しい思い出。俺は若干少年の背を押したがこの行動には悔いは無かった。俺は少年を助けたかったにすぎないのだ。

ーーーーーーーーーー

side 平沢 唯 (現在)

「・・・はぁ、なんであんなことを思い出してしまったんだろう・・・」

後悔しても後の祭りであり、仕方が無いものと自己完結し疲れを癒す為にベッドで眠りについたのであったーーー。

翌日の早朝、俺は眼を擦りながらも今日は学校だな〜と呑気にのほほんとしながら憂と共に朝食を食べ、慣れたくもない女物の制服へと着替え、鞄そしてギターを持ち学校へと足を運び、到着したげた箱から昨日の黒歴史を今でも覚えてしまっていたので若干戸惑ったが、それはないだろう。ここは女子高だからだ。

教師達のみんなが希望していた進路に合格した事が嬉しいという励ましのエールを受けながら放課後。
俺達軽音楽部三年生は、ある事の確認の為素早く我等の部室である音楽室へと足を運びつつ、軽音楽部全員分の机に己の席へと着席し、強張った顔をして話を進めることにしたのだが、急にシリアス展開へと誘われた。

「今回の新曲、『天使にふれたよ』は全員ボーカルという事なんだが・・・各自どの辺を歌うかだ・・・」

「そうだよな〜・・・全員一緒に最後まで歌うとかは?」

「阿弥陀(あみだ)クジで決めましょ〜」

「いいね〜二人の意見」

シリアス展開に持ち込むがいかんせん紬はどんな状況でさえのほほんとしていたのだ。誰かこいつの暴走を止められる事は出来る奴はいないものだろうか?かく言う俺も紬に感化されてしまったが・・・いいや、今はそんな状況では無い。

「よしっ!折衷案(せっちゅうあん)として、一人一人が歌う所は阿弥陀で決めてみんなが歌う所はみんなで決めて歌おうではないか!」

「うん。阿弥陀で決めるのは・・・反対かもしれないけど私もそれに賛成かな」

「わ〜♪ちゃんちゃらおかしいわ♪」

「そのフレーズが言いたくてたまらないのを感じるよムギちゃんや」

俺は鞄から『天使にふれたよ』の歌詞を机に置き、白紙の紙を数枚取り出しとりあえずは一人一人が歌う所を阿弥陀で決める事にして、四人の歌う所は決まって後は全て全員で歌う事も決まりこれでボーカルの心配要素は消えてしまったのだが・・・

「・・・なぁ、本当に練習しなくていいのか?まだ学校はあるんだぞ?放課後は無理でも休日とかその辺でさ」

非常にまずい状況だ。練習しなくてもいいという俺の発言だったがみんなはそれが心配だ。練習無しでの本番なんていうものは無理にも程があるというものだな・・・仕方ない、練習だ。練習をしないとこのままじゃいけないな。

「・・・うん!そうだね!ごめんね、無理言っちゃって。そりゃあ練習無いってのは難しいよね。よしやろう!」

「おう!やってやんよ!私、やってやんよ!みんないけるか!?」

「もちろんだ!」

「よしきた〜」

俺達が大いに盛り上がる最中、遅れながら音楽室の扉が開き、憂と梓が現れた。それにより『わー?!』と驚きを隠せない俺以外のあたふた娘。お前ら、隠し事を隠しきれないタイプだろ・・・

「何の話題で盛り上がってますか?先輩」

「な、なななな、何も盛り上げてないよな?な?澪?」

「そ、そうだな。な?ムギ」

「そうよ〜。あ、お菓子あるわよ〜」

が、紬だけはのほほん。切り替え早いなお前。が、茶を人数分用意している紬を見ていると手がブルブル震えているのを俺が目撃。お前内心相当焦ってんな!

「あ、ありがとうございます、ムギさん。あ、お姉ちゃ〜ん、やっほ〜」

憂は俺の姿を発見し、笑顔で手を振る。俺もそんな愛くるしい憂に笑顔で『やっほ〜』と応えてやる事にした。う〜む、やはり家族はいいものだなぁ。神に感謝、だな。
だが、俺は忘れていたのだ。歌詞を机の上に置いていた事を。俺は咄嗟に鞄へと破らないように入れ、阿弥陀が記されている紙は全て折り鶴にしてしまう作戦を決行。ちなみに阿弥陀の内容は俺達の名前と歌う歌詞の先頭文字しか書いていないので万が一見つかって鶴を元の紙へと戻しても憂や梓には謎の暗号文として分からなくしてやったのだ。後、鶴を元に戻すのもめんどうだろう?そこまでして紙の内容を見るなんて無い事だろう。こんな状況でも打破できる俺に拍手喝采を。

「唯先輩?何してるんですか?」

「へ?や、なんとなく折りたくなっただけ。こういうことあるでしょ?」

「あー、私もあるある。授業中に小さい鶴折ったりな〜」

「律、お前はただ集中が足りなかっただけだ」

俺は律と澪の漫談を聞き流しながらも黙々と鶴を折り、全ての阿弥陀クジを記した紙を鶴にしてやり証拠隠滅完了。ちなみに各自どの歌詞を歌うかは全て俺の頭にインプットしておく。携帯でメモしてもいいが、憂に見られたらマズイ。憂は賢いのですぐに見抜いてしまうかもしれないしな。それと後で澪や律、紬にも念の為注意をしておこう。

「はい。お茶とお菓子よ〜」

紬が用意してくれた茶と菓子をみんなで分け与え、美味しい美味しいと異口同音の感想を述べながらゆったりとした放課後を過ごしたのであったーーー。

-101-
Copyright ©かがみいん All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える