小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第101話

『天使にふれたよ』の練習を近所の公園あたりで練習したり、律の家でやったり、律の家に行ったついでに聡君とも遊んで上げたりし練習を重ねに重ね、とある練習の日の事。

「〜♪♪なぁ、思い出のヒトカケラに
 名前をつけるならこうしよう
 『絆』という僕らの宝物〜♪♪」

俺達軽音楽部のメンバーがギターやベース、キーボード、即席ドラムを演奏しながら俺のパートを歌っている最中の事であった。
がちゃ、という音と共に茶を人数分盆に乗せた聡君がぽかん、として俺の顔をじっと見つめていたのだ。そんな聡君の様子に俺はどこか変だったんだろうか?音程なのか?と自問自答を繰り返していく中、聡君の表情はだんだん輝いてまるで自分が欲しかった物が目の前に現れた少年の如く、少年の目は輝いていた。
「す、すごいっ!歌もすごく上手なんだっ!さすがだね唯お姉さん!」

「そ、そかな?」

「そうだよ!」
聡君よ・・・俺を過大評価してはいないか?バンド始めてまだ3年ぐらいだぞ?俺は絶対音感という才能があるから少しだけ成長しやすいのであって、後は典型的な努力型な俺だぞ?暇を見つけては適当にコードを引いている俺だぞ?まぁ、それもあるかもしれないけどな。
「お〜、今日も唯にうっとりか〜?聡〜」

「ち、ち、ちがうよっ!たまたまだよっ」

「ふふっ、唯お姉さんか。唯にすごく懐いてるな」

「うふふ♪私もムギお姉さんって呼ばれたいわ〜」

「も、もうっ!お茶ここに置くから!じゃ!」
聡君は盆を俺達の前にある机に置き、恥ずかしそうにその場を走り去った。はぁ、にしても聡君をいじめて楽しんでいるんじゃないのか?まぁ、こいつらはただ楽しんでいるだけで悪意など微塵もないけどな。
「はぁ・・・あまりいじめないで欲しいよ。不良にならせたくないんでしょ?律ちゃん」

「まぁまぁ。またあの話みたいに感動させればいいじゃん」

『あの話??』
俺と律と聡君しか知りえない感動話の例えをなぜここで言うのだ?こいつ。澪と紬は首を傾げ、律の話に興味津々の顔をしていて、練習よりも話のほうが気になるらしい。しかし、澪はともかく紬にゲームの話なんて分かるのだろうか?絶対に知らなさそうだ。
「えーと、あれって実際にあった話なのか?唯」

「うん。そうだね」

「えっ、体験談?それは誰が体験したんだ?」
澪は話に食いついてくる。はぁ、今は練習だろうが・・・まぁ休憩としていいだろうと俺の優しい心遣いで澪に、ある少年の体験談の話だよと伝え、律が代表して俺の忌々しい過去を話したがっていた。はぁ、いるよな実際に聞いた話を自分も誰かに話したがる奴って。俺は許せるけど。
「ーーーー実はなーーーー」

ーーーーーーーーーーーーーー
律は俺から聞いた話をまるで自分が考えたかのように威張りながらも話していくと・・・
「お、おお・・・私はゲームなんてよく分からないけど、なんかいい話っぽいな」

「そうね。唯ちゃんは聡君に何かを伝えたくてそんな話をしたんじゃない?そうでしょ?唯ちゃん」
確かに紬の言う通り、聡君に分かりやすいようにゲームの話を持ってきたから他の人達共通に話せる話題では無い。
そんな思い出話を語って数分もの時間が経ったので練習を再開したい俺は口を開く。
「そうなんだよねー。あ、そろそろ練習しようよ」

「そうだな・・・よし、もう一踏ん張りするか」
俺達は時間を見つけては練習を日々行っていたのであったーーー。

ーーーーーーーーーーーー
時は流れ、卒業式前日の俺達にとっては最後の登校日。
卒業式も登校するから最後じゃなくね?とツッコミを入れたい方はそれは人の心を持っていない人だ。
閑話休題。
俺と憂はギターと鞄を持ち、夢と希望が溢れる我らの高校である桜が丘高校へと向かい、えっちらおっちらと歩を進めていき、学校の玄関先へと着いて憂とも別れ自分のクラスである三年二組の教室へと向かい、澪や紬や律や和やその他クラスメイトに出会いのんびりとした声で『おはよ〜』とあいさつを交わす。

「おはよー、平沢さん。そういえば、軽音楽部のみんなで海外でライブやったんだって?すごいね」
「私も秋山さんから聞いたけどさ・・・私も聞いてみたかったな〜」
クラスメイトの話題は俺達の演奏を聞いてみたいという事だった。が、もう文化祭も無いし、そんな機会は・・・あっ、そういえば明日まで高校生なんだから部室も使える!
その事に気づいた俺は、クラスメイト達にある提案を促すことにした。

「今日さ、部室においでよ。ちょっと早いけど私達が卒業祝いで演奏するからさ。いいでしょ?みんな」
俺の提案はクラスメイト含め軽音楽部全員に話す。そしたら・・・
「おお!いいね!やろう!」
「私もやる!」
「私も〜♪」
軽音楽部は賛成の意を。クラスメイトの反応はというと・・・

「でもさ、音楽室って狭いからさ・・・この教室でやってみれば?」
「そうそう。さわ子先生に言ってさ、許可もらいなよ」
俺達の演奏を教室でやってしまえという案を出した。確かに、我らが部室である音楽室ではクラス全員入らないスペースだったのだ。

「そうだね。とりあえず、山中先生に言ってみるね」
ーーーーーーーーーーーーーー
俺が代表して山中先生に教室でライブをしていいのかという許可を得る為、職員室へと足を運び、教師専用のデスクの席に座っている山中先生を発見。

「あ、先生。いきなりですみませんが、教室でライブやってもいいですか?」
「へ?!ホントに急ね。でも・・・」
山中先生は他の教師達の目線を気にしながらキョロキョロと見渡す。ううむ、ダメだろうか?

「ダメよ!他の生徒達に迷惑をかけると思うから!」
山中先生は自分の机に散乱していた白紙の紙を手に取り、ボールペンで何かを書いていた。ま、まさかとは思うが・・・が、まだ諦めたくないのでまだ許可を取らせることに専念する。

「許可を」
「ダメったらダメ!」
山中先生は発言と共に何かを書きなぐった白紙を俺に見せた。その書いてある内容は『やってしまえ』だ。教師がこんな事しても良いのだろうか?許可はもらったからいいけどな。

「はぁ、了解しました」
「もうこんな事しないでよね」
俺はがっかりとしたフリをしながら職員室から退出。が、山中先生から許可がもらえた事が嬉しいのか俺の足取りは軽い。その軽い足取りで三年二組の教室の扉を開き、先生から許可をもらった事を全員に報告すると。

「よし、早速やろう!机とかのセッティングは私達に任せて、軽音楽部のみんなは楽器とか用意してて」
「みんなで協力しよー!」
クラスメイト達はおおはしゃぎ。そんなクラスメイトの案に賛同し、俺達は二年の教室へとダッシュし、憂や梓を発見する為に憂達のクラスへ移動。

「おーい、憂〜、梓ちゃ〜ん」
俺は憂と梓を呼び、今日は三年二組の教室にてライブをするという事を報告したが、憂や梓は三年生のクラスに入るのはちょっと遠慮しているそうなのだが、俺は『みんなの思い出作り』というクラスメイト達に演奏を聞かせたいという熱心を伝えたら憂と梓は賛同。
軽音楽部である俺達は自分の楽器や演奏に必要なアンプだとかをとる為、音楽室に取りにいっては三年二組の教室内へえっちらおっちらと運んでいく。

「お、重い〜」
「うふふ〜♪そんな時は火事場の馬鹿力よ〜」
「そ、そんなの命の危険とか感じた時にしか出ないだろ・・・ムギ」
「ちなみに火事場の馬鹿力をずっと継続させたら、脳に負担かかるし骨も筋肉も異常がおこるから注意してね」
「「マジで?!!」」
俺はさらっと怖い事を言って澪や律を怖がらせる。ちなみにどんな異常が出るのかは近所の病院に聞いてみよう。もしくはネットとかでな。
閑話休題。

俺達は楽器のセッティングをクラスメイト達が並ばせた机上に置き、俺達自身も机に乗りながらチューニング等を施しながらも音の調子を確かめるように音を出す。
〜♪♪
む、半音の半音ずれてるな。もうちょっとバランスよくチューニングを・・・
〜♪♪
よし。多分、音程は大丈夫だ。

「よし、いくか。曲は『ふわふわタイム』、『U&I』な」
律は今からやる曲を俺達に伝え、スティックを高らかにあげて俺達が準備をした事を確認し
「ワンツースリーフォー!」
〜〜〜♪♪♪

ーーーーーーーーーーー
side 【職員室】
〜〜〜♪♪♪

「うん?」
どこからか演奏の音が聞こえてくるのを不審に思う一人の教師。
この教師は以前平沢唯に大阪の大学を紹介した坊主頭で腹が出ている進路指導の先生。その体型では普通生徒達に恐れられている。が、この先生はというと・・・
「あー!何か音しよるよー!誰ねー!?」

何故か田舎っぽい喋り方をしているので生徒達に好かれていたが、進路の相談事や真剣な話では普通に標準語だった先生。
そんな進路指導の先生は近くに居た山中先生に事情を聞いてみたが、山中先生は冷や汗をダラダラと流し、目線をキョロキョロさせるという挙動不審な態度をとる。そんな山中先生は咄嗟に口を開き

「え、えっと・・・多分アレじゃないですか?水道管とかの工事みたいな・・・多分、その音でしょう」
「うん?どゆこと?何か楽器の音聞こえるばい?工事の人が楽器弾きながらしとるなんぞ見た事も聞いた事もなかよ?」
「うっ!!」

ぐうの音も出ない山中先生。進路指導の先生は『上から聞こえてくるけん、上ば見てくる』と言い放し、職員室を出ようとするが・・・
「や、やめてくださいっ!た、多分、陽気な人達ですからっ」
「じゃあ、そんな陽気な人ば見る。初めてみるけん、興味がなか事はなか」
進路指導の先生はその大きな体型から山中先生を押し、職員室から出て行ったのであったーー。

ーーーーーーーー
side 平沢 唯
〜〜〜♪♪♪ジャーン
『ふわふわタイム』を演奏して一曲目終了。すると、クラスメイト達は俺達に拍手喝采を送る。
ワァァァ、パチパチ。俺達は二曲目に移ろうとすると・・・

「や、やばいっ、進路指導の先生だ!お、怒られるかもっ」
「で、でも・・・あの先生ならノリがいいかもしれないよ?」
クラスメイトはこれから進路指導の先生が来るという情報を掴みそれを恐れ戦いていた。う、う〜む、かなり怖いな〜それ・・・。

「は、早くやろう。あの先生、見た目怖そうだからっ」
「へ?!止めるんじゃなくて続けるんですか?」
律は急ぎめで演奏をするぞという事を伝えたのだが、梓は止めるのでは無く続ける事に驚きを隠せないでいた。

「よし、いくぞっ!」
律はスティックを鳴らし、それに乗じて各々楽器を弾いていき、その音は一つの音楽となり美しい音色を出していく。
〜〜♪♪♪
キミがいないと何もできない
キミの笑顔が見たいだけだよ
もしキミが帰ってきたら
私はとびっきりの笑顔になるよ
   
(演奏途中で進路指導の先生が来たのだが、俺達の演奏を止めずただただ演奏を眺めていたので、どうやら続けてもいい事が分かったので、俺達は演奏し続ける。)
 
キミがいないと私は一人になるよ
キミの声が聞きたいだけだよ
キミが傍にいるだけで幸せになるんだ

キミは私の為に頑張ってくれるね
キミはイヤな顔せず頑張っているんだ
いつまでもいたいよキミの傍に

キミがいないと道に迷うよ
キミはどこにいるの?どこにいけばいいの?
もしキミが輝き続ければ迷わず
キミの傍に行けるんだよ

そんなキミに伝えないとね『ありがとう』を

キミに届くかな?今は自信ないよ
でもどうか聴いて想いを唄に込めたから

たくさんの『ありがとう』を
唄に乗せてキミに届けたい
この想いはずっとずっと忘れられない

想いよ キミに届け

〜〜♪♪ジャー・・・ン・・・

俺達の演奏は終了。すると、クラスメイト達は盛大な拍手を俺達に送り俺達は机から降りて、進路指導と顔を合わせるが・・・両者とも何も言えなかった。

「・・・あっ、ダメでしょうがー、おぉん?はよ片づけんかい!」
進路指導の先生の一喝に俺達はというと・・・
『はいぃ、すみません!!』
アタフタしながらも楽器だとか机の片づけだとかをせっせと汗を流しながら済ませていたのであったーー。


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