小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第41話

生徒会室に入った人は三年生、『先輩』なのだ。その先輩は、俺を見てどこか嬉しそうに、俺を見ている。


「・・・ぉ、お客さん?真鍋さん」


「はい。この生徒が、相談を持ち込んだので、話を聞いていた所なんです」


何かが怪しい、と俺は予感する。何故だろうか。俺を知っている素振りをしていた。俺は『知らない』のだがな。


「あ、引き継ぎの資料、持ってきたから・・・」


「わざわざ、すみません」


「ううん。いいのよ」


俺は、この人には『初めて会った』。なのに、俺を『知っている』かのような・・・俺は気になり


「あ、あの。その人は?」


「生徒会長の曽我部 恵さんよ。唯」


「元、だけどね。平沢さん」


俺の名前まで、『知っている』。元生徒会長だからといって、全校生徒の顔や名前まで覚えているのだろうか?



「やっぱり、軽音楽部の人は、私の事知らないんだ・・・」


「あっ!すみません!・・・でも、私は先輩の事知らないですけど、先輩は私の事を知っているんですか?」


俺は、鎌をかける。さて、『何か』が出てくるのやら。


「え、ええ。学園祭で軽音楽部のステージを見て・・・ほら、平沢さんボーカルしてて格好良かった」


そこで、俺を『知った』・・・この人は、黒か白か、よく分からない・・・


ーーーーーーーー


「はい。お茶をどうぞ」


「ど、どうも」

元生徒会長に和が俺のストーカー問題を相談し、対策を練る。


「このお茶は軽音楽部みたいにいいお茶じゃないけど・・・」


軽音楽部の内部事情も、『知っている』。それを知っていて黙認を?ますます、怪しい。


「それにしてもストーカーなんて・・・由々しき問題ね。真鍋さん。後で風紀委員にこの事を伝えてもらえる?」


「はい。分かりました」


ーーーーーー


出されたお茶を啜り、飲み干して、もう一杯頂く。


「唯。少し遠慮しなさいよ」


「ううん。良いのよ。綺麗に飲み干してくれて、私は嬉しいよ」


そう言って湯飲みを取り、少し離れた机に置いてある急須へと向かう。


「・・・」


「どうしたの?唯。さっきからずっと曽我部先輩を見て」


俺の態度に疑問があるのか、和は問い掛ける。


「私、言ったよね?犯人は、この学校の関係者だって・・・」


「えっ。まさか・・・曽我部先輩を疑っているの?」


俺は、こくりと頷く。


「・・・だって、疑問が幾つかあるんだもん・・・」


「疑問って?」


和は意味が分からず、首を傾げる。


「まず、私の事を知っていた」


「えっ。それは、唯達のバンドを聞いたからって、言ってたじゃない」


「だとしてもだよ、何で生徒会室に来た時に私を見て驚いた顔をしていたよ」


「え?曽我部先輩が?」


「うん。一瞬だけど確かに見た。それに、軽音楽部でティータイムしているのを知っていたし、和ちゃん。教えた?」


「い、いいえ。教えてないわ」


「という事で、尋問します!」


ーーーーーー


「お茶、持ってきたよ」


先輩は、お茶を持ってきたが、そんな事より俺は


「あの先輩。なんで私達が部活でティータイムしているのを知っているのですか?」


「え!?あ、あの、その、真鍋さんに教えて貰ったから・・・」


「私は言った覚えは、ありませんが。」


先輩は、それを聞きあたふたする。ああ、こいつはーー


「あ、あの、えっと、ほらっ。軽音楽部って、いろいろと有名だから」


完全に怪しい。俺は、さらなる質問をする。


「あの。元旦に、近所の神社に行ってましたよね?」


「えっ!?何でそれを・・・ぁ」


ボロが出るわ出るわ。嘘も、放り込む。


「律ちゃん・・・私達の部長でね?私をずっと見ている先輩を見かけた、と話してくれました」


それを聞き、さらにあたふたする。完全にこいつが犯人だな。


「あ、あの、わ、わ、私っ。用事があるからっ!」


そそくさと生徒会室を出ようとしたのだが、制服の懐から『何か』が出てきた。俺は、拾い上げ


「あ、あの!落とし物・・・」


俺は、先輩が落とした物に、ふ、と目を通した。何かが書いてあるようだが、これは目の錯覚だろうなと思うような内容が書いてあった。それはー


「・・・平沢唯ファンクラブ会長・・・曽我部 恵・・・」



ばっ!


俺が読み上げた物を先輩は、ものすごい速さで奪う。残像見えたぞ。


「ろ、廊下に落ちていたのー!」

「でも、先輩の名前が・・・ぁ、もしかして、ストーカーの犯人って先輩じゃ・・・」


俺がそう言うと、先輩は泣き崩れた。


「悪気は無かったのー!」


「「ええ!?」」


ーーーーーー


動機は何故だ、と聞く。


「私、後少しで卒業でしょ?それでね、平沢さんに会えなくなるかなって思うと・・・いてもたってもいられなくって・・・」


先輩は俺に会えなくなる事が寂しいのだろうか?俯いている先輩に近づく。


「先輩・・・私のファンでいる事は、いいんですよ。だから、顔を上げてください。」


「平沢さん・・・優しい子ね」


和は、そんな俺達を見て微笑み、先輩は、


「あ、あの。握手を・・・」


「へ?いいですよ」


握手を求め、『ガシッ』と握手する。ちょっと痛いのだが。


「ぁ、幸せ〜・・・」


先輩は、自分の世界にトリップした。やれやれ。


「あ、そうだ。秋山さんにも、たくさんのファンがいるみたいよ。ファンクラブが出来る程では、ないけど」


あ、そうですか。はいはい。


ーーーーーーーー



「へ〜・・・生徒会長が犯人だったと・・・」


「『元』生徒会長だよ。律ちゃん」


放課後、俺のストーカー問題を全員に話す。律は、何かを閃いたようだが、


「・・・このネタで脅せば、部費はアップに・・・」


「やめんか!」


澪の拳骨により、野望は打ち砕かれた。俺も賛成だが、澪の拳骨は痛いので、言えない。


「後ね、私にファンクラブに出来たんだって〜。その会長がその犯人だよ〜」


「「「え!?」」」


みんなは驚き、本当かよ!と声がするので、頷く。


「と、いう事は、生徒会長とファンクラブの会長・・・つまりダブル会長だな!」


律の着眼点はそこかよ、と呆れる。憂は『お姉ちゃんにファン!』と、目をキラキラさせながら俺を見る。シスコンだな。


「私はね、そんな先輩にやりたい事があるんだよ!」


「「「やりたい事?」」」


同時に言葉を発する。以心伝心だな。それよりも、


「演奏をやりたいんだ!だから、みんな協力して!」


「お、おい唯。問題起こされているのに・・・なんでまた・・・」

そう思われて当然だ。だがな、俺は


「ファンサービスです!」


胸を高らかにし、みんなに言い張る。憂、紬は


「ぅわ〜♪私もやる♪」


「唯ちゃん!私も手伝うわ!」


目をキラキラさせ、参加意志。
律、澪、梓も参加意志を示した。澪は


「どこで演奏するんだ?音楽室か?」

と、聞いてくる。あの先輩をサプライズで講堂で演奏をする、という事でいいだろうかと提案。だが、どうやって先輩を呼ぶのか、と聞かれたので、


「和ちゃんに頼んでみるよ。何とか、してみせるよ」


ーーーーーー


俺は和に俺が連絡したら、曽我部を講堂に呼んでくれ、と申したのだが


「どうして?何か用なら今、呼ぶけど・・・」


「お願い和ちゃん!何も聞かずに・・・後でお礼するから!」


「・・・分かったわ。講堂に呼べばいいのね」


和を説得させた。後は機材を持ち込むだけだ。


ーーーーーー


悪戦苦闘しながらも、機材を講堂に持ち込み、舞台に立つ準備をする。和との連絡もしたし、後は本場だ。


「・・・!来たよ!全員持ち場に!」


見張りをしていた律の声により、『ひしっ』と緊張感がある空気になった。幕を上げて、和、曽我部先輩の姿を見て、俺達は


「曽我部先輩!御卒業!」

「「「おめでとうございます!」」」


和、曽我部先輩はびっくりした表情で俺達を見ている。


「私達、先輩の為に歌います!聞いてください!『ふわふわタイム』!」

〜〜〜〜〜♪♪♪♪

ーーーー

演奏が終わり、先輩は頬を朱に染め、惚けている。


「あ、せ、先輩!演奏終わりましたよ!」


和は、先輩の肩を揺らし『はっ』と、意識を取り戻し


「む、無断で講堂を使用するなんて、どういうことですかー!」


怒られた。みんなは、オロオロしているのを見て、先輩は


「・・・というのは、建前で」


「建前かよ!」


律のツッコミ。先輩に対してタメ口はダメじゃないのか?


「くすっ。ありがとう。卒業前にいい思い出が出来たわ♪」


先輩は俺の近くに来て、ペンとサイン色紙を、俺に押し付け


「さ、サインください!めぐみへ、ゆいたんよりって書いて!」


「聡明な先輩のイメージが・・・」

和は、先輩のダメな所を発見し、先輩像が崩れ落ちた・・・


そして、春が来るーーーー

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