第48話
side 中野梓
「ここ次の試験範囲だからよーく覚えておくように」
先生はコツコツと黒板にチョークで叩き、
それを私達一年生は学校にて勉強をしている。先輩達が修学旅行に行き、今頃は新幹線で移動している頃だろうなとぼんやりとしてしまう今日この頃の私は、黒板に記されている文字をせっせっとノートに書き写していた。
先生は時計を見て『よし、終わりだな。じゃ、休み時間な』と言い、ドアに駆け寄り皆は席を外してのんびりと次の授業の準備をする。
ふと憂を見ていたら憂は携帯を見てニコニコしていたので、もしかしたら唯先輩からのメールかな?と思い憂に話しかけると
「あのね、梓ちゃんの事をよろしく、だってさー。」
「くすっ、そうなんだ」
唯先輩は本当にちゃんとしているんだな・・・修学旅行の最中なのに部活の事を気にしている。
「ん?何?何?誰からのメール?」
純が私達に近づいて憂が持っている携帯に興味を持ち、憂は純に見せると
「唯先輩のメールだ!」
突然目を輝かせて、画面をじっと睨む。
そういえば純って唯先輩のファンだったような・・・
ブルブルと私の懐から携帯が震え携帯をチェックすると唯先輩からのメールだ。その内容は・・・
『憂の事は梓ちゃんに任せるね。トンちゃんの餌やりもよろしくね!』
「くすっ、はい、分かりましたっと」
早速、メールを打ち込み送信。
「あっ、またお姉ちゃんからメールだ♪」
今度は憂の携帯が震え、唯先輩から来たことを私達に報告し、憂はじっと画面を睨み『えへへ潤オ』と苦笑いを浮かべていた。
「お姉ちゃんが三年二組の教室に弁当箱忘れちゃったから取りに行ってきて、だって」
「「ええ!唯先輩が!?」」
おっかなびっくりで純と私は驚きの声を隠せないでいた。本当にびっくりだ・・・あのちゃんとした唯先輩が忘れ物だなんて・・・
「もー、しょうがないな潤オ♪お姉ちゃんはっ♪」
憂はいつも以上にニコニコニコニコしていて目が輝かせて、私はそれにたじろぎ、口を開く。
「な、なんでそんなに機嫌がいいの?憂」
「え?だって、お姉ちゃんが私の事を頼りにしているからだよ♪」
憂は当たり前でしょ?といわんばかりの表情で私達はそれを見て思わず
「「はぁ・・・」」
ため息を吐いた。
ーーーーーーー
四時限目が終了し、昼休み。
純が購買部に昼食を買いに行き私達もそれについて行く。
「お?あった!ゴールデンチョコパン!」
純はとびっきりの笑顔で目当てのパンよりも珍しいパンがあるからか、細長いパンを純が私達に見せびらかす。
「え?何それ?」
憂は首を傾げながら純が持っているパンを見て、純は待ってました!といわんばかりの表情で私にそのゴールデンチョコパンの説明をする事に。
「これね、一日三個限定でいつも二年生や三年生が買っちゃって一年生には手が届かない幻のパンだよ!」
「なら記念撮影しようよ潤オ」
憂はそう言って携帯を取り出し、写真を撮ろうとすると
「ん?お姉ちゃんからメールだ。今、京都に着いたで。そんでな?急に律ちゃんが関西弁しか使ったらあかんいうてん、メールも関西弁で送れ言ってんねんでー・・・何これ?」
憂はこてん、と首を傾げながらメールを私に見せて私は
「うーん、そのメールの内容通りなんじゃないの?」
「そっかー」
そんな他愛の無い話をしていく中、純は・・・
「おーい、記念撮影はどうしたー?」
パンをバットのように持ち、一本足打法で固まっていたのを私達は今まで忘れていた
ーーー。
ーーーーーーー
放課後、私達は三年二組に歩を進めていた。そして目の前に三年二組の教室へ入るドアで私達は緊張していた。
「だ、大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫。今、誰も居ないから」
純と憂はドアを開け、目的の唯先輩の弁当箱を見つける為に、目線をあちらこちらに移す。
「えー、と。この辺だよ。お姉ちゃんの席」
窓際に近くて後ろから数えた方が早い席の横の鞄を掛ける為のフックに弁当箱が入っているであろう弁当袋がさげられていた。
「あ、これこれ・・・あ、その前に、よいしょっと!」
弁当袋を持ったまま唯先輩の席に座り、そして『えへへー♪♪』と満面の笑顔。
「本当にお姉ちゃんの事、好きなんだねー。そんなに好きでどうすんの?」
「いや、だって潤オ♪」
さらに『えへへ潤オ♪♪』と照れ笑いを隠せないでいた憂。それを見かねた純は
「明後日まで帰って来ないんだよ?」
「はっ!?そ、そっか!」
「今更、気付いたの!?」
憂は今日も唯先輩が帰ってくるだろうと思っていたらしく、ようやく気付き憂の目からウルウルと雫が溜まっていた。
「ち、ちょ、泣かないでよ?!」
「泣いてないもん!これは・・・心の汗だもん!」
「意味わかんないよ?!」
更に憂は・・・悲しさの余りに
「な、泣いてないもん・・・ぐすっ。あれだもん。カーテンのホコリか何かだもん」
思いっきり泣いているよ・・・
どうしたらいいんですかー!!?
唯先輩!助けてください!
私の心の叫びは唯先輩に届いたのかは定かじゃない。けど、私と純とでお泊まりに行くという約束により上機嫌になり、憂は楽しそうに私達と一緒に歩を進め、三年二組の後にしたーーー。